脱炭素とは|カーボンニュートラルとの違い・日本の目標と企業の進め方をわかりやすく解説

2026.08.29
気候変動

「脱炭素、という言葉はよく聞くけれど、カーボンニュートラルと何が違うのか」「自社は何から手をつければいいのか」。サステナビリティの担当になったばかりの方から、最も多くいただく質問です。

脱炭素とは、CO2などの温室効果ガスの排出を減らし、最終的に実質ゼロを目指す取り組み全体を指す言葉です。この記事では、まず紛らわしい用語を整理したうえで、日本の目標、企業が動くべき理由、そして何から始めればよいかの順序までを、実務目線でまとめます。

※制度・数値は時点により変わります。本記事は公表情報(2026年8月時点)に基づく解説です。

この記事の目次

脱炭素とは|まず言葉を整理する

脱炭素の話が分かりにくい原因の多くは、似た言葉が並んでいることにあります。ここを最初に整理しておくと、以降の議論がすっきり通ります。

脱炭素・カーボンニュートラル・ネットゼロの違い

言葉意味性質
脱炭素化石燃料に依存した社会・事業から抜け出していくこと方向・行為を指す広い言葉
カーボンニュートラル排出量と吸収・除去量が均衡し、差し引きゼロになった状態到達した状態を指す
ネットゼロ同じく正味ゼロ。CO2以外の温室効果ガスも含めて使われることが多い状態(国際的な文脈で多用)
気候中立温室効果ガスだけでなく、気候への影響全体を打ち消すという考え方より広い概念

使い分けの目安はシンプルです。「脱炭素を進める」(方向)/「カーボンニュートラルを達成する」(状態)。日常業務では厳密に区別されないことも多いですが、目標を書くときは状態を表す言葉を使うほうが誤解が生まれません。それぞれの詳しい定義はカーボンニュートラルとはネットゼロとはで解説しています。

「脱炭素」が指す範囲

企業の脱炭素は、自社の工場やオフィスだけの話ではありません。国際的な算定ルール(GHGプロトコル)では、排出を3つに分けて数えます。Scope1=自社で燃やした分(ボイラー、社用車)、Scope2=購入した電気などの分、Scope3=原材料の調達から製品の使用・廃棄までのサプライチェーン全体です。

多くの企業では、Scope3が全体の8〜9割を占めることも珍しくありません。つまり「自社の努力だけでは完結しない」のが脱炭素の構造的な難しさです。区分の詳細はScope2Scope3の解説をご覧ください。

なぜ今、脱炭素なのか|企業を動かす3つの圧力

「環境のために」という理念だけで動く企業は多くありません。実務の現場で脱炭素が避けられない課題になっているのは、次の3つの具体的な圧力があるからです。

① 制度|目標が数字で決まっている

日本の削減目標は、努力目標ではなく国際的な約束として数字で提出されています(後述)。これを実現するための制度も次々に動いており、一定規模以上の事業者には温対法による排出量の報告義務、省エネ法によるエネルギー管理と定期報告の義務があります。

さらに、2028年度からは化石燃料賦課金(GX賦課金)が導入され、2033年度には発電事業者向けの排出枠の有償化も予定されています。CO2を出すことに価格がつく方向は、法律で決まっているということです。仕組みはカーボンプライシングで解説しています。

② 取引先|Scope3を通じて中小企業にも届く

大企業が自社のScope3を計算するには、取引先の排出量データが必要です。そのため「あなたの会社のCO2排出量を教えてください」「削減目標はありますか」という調査票が、サプライチェーンを通じて中小企業にも届くようになりました。

ここが重要な変化です。脱炭素はもはや上場企業だけの話ではなく、取引を続けるための条件になりつつあります。対応の実務は中小企業のサステナビリティ経営にまとめました。

③ コスト|待つほど高くなる構造

3つ目は、意外に見落とされがちなコストの話です。電気代には再エネ賦課金(2026年度は1kWhあたり4.18円)や容量拠出金、託送料金といった制度的な費用が積み上がり、そこに2028年度からのGX賦課金が加わります。

つまり「何もしない」ことのコストが年々上がっていく構造です。逆に言えば、省エネや自家消費太陽光のような打ち手は、CO2削減と電気代削減の両方に効きます。電気代の見通しと調達の考え方は電気代は今後どうなる?で整理しています。

日本の目標|2035年度60%・2040年度73%削減

2050年カーボンニュートラル宣言からの流れ

日本の脱炭素政策の起点は、2020年10月の2050年カーボンニュートラル宣言です。その後、2030年度に2013年度比46%削減という中期目標が示され、グリーン成長戦略やGX推進法といった実行の枠組みが整えられてきました。

新しいNDCと関連する計画

そして2025年2月18日、日本は新たなNDC(国が決定する貢献)を国連へ提出しました。内容は、2013年度比で2035年度に60%削減、2040年度に73%削減、そして2050年ネットゼロという道筋です。

年度削減目標(2013年度比)位置づけ
2030年度46%削減従来の中期目標
2035年度60%削減2025年2月提出の新NDC
2040年度73%削減同上
2050年ネットゼロ(実質ゼロ)長期目標

これらを実現する計画として、地球温暖化対策計画の改定、GX2040ビジョン(2025年2月閣議決定)、第7次エネルギー基本計画が同時期に整えられました。目標・エネルギー計画・投資戦略が一体で動いているのが現在の局面です。

世界の脱炭素|パリ協定と主要国の動き

パリ協定が土台にある

各国の削減目標の根拠になっているのが、2015年に採択されたパリ協定です。世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2℃を十分下回る水準に抑え、1.5℃以内に努力するという長期目標を掲げ、各国が自主的に目標(NDC)を出して5年ごとに見直す仕組みを採りました。日本の2035年度60%削減も、この枠組みで提出されたものです。詳しくはパリ協定とCOPをご覧ください。

主要国の目標と揺らぎ

EUは2050年の気候中立を法律に書き込み、2030年に1990年比55%削減という中間目標を掲げています。CBAM(国境炭素調整措置)CSRDのように、域外の企業にも影響する制度を次々に導入している点が特徴です。

中国は2030年までに排出量をピークアウトさせ、2060年のカーボンニュートラルを目標としています。同時に世界最大の再エネ導入国でもあり、太陽光パネルや電池のサプライチェーンでも中心的な位置にあります。

一方で米国は、政権交代によって連邦レベルの政策が大きく揺れる状況が続いています。2022年のインフレ削減法(IRA)で大規模な脱炭素投資が動き出しましたが、2025年の税制見直しで関連減税が大幅に縮小されるなど、方向が一定しません(IRAの解説)。「世界が一直線に脱炭素へ進む」わけではないことは、事業計画を立てるうえで押さえておきたい現実です。

企業側の国際枠組み

国の目標とは別に、企業が自主的に参加する枠組みも整っています。科学的根拠に基づく削減目標を認定するSBT、使用電力の100%再エネ化を目指すRE100、取り組みを投資家向けに開示・評価するCDPなどです。

これらは義務ではありませんが、取引先や投資家から「参加しているか」を問われる場面が増えています。自社の規模と目的に合うものを選ぶ、という考え方で十分です。

企業の脱炭素は何から始めるか|4つの順序

ここが最も知りたい部分だと思います。打ち手はたくさんありますが、順序を守るだけで費用対効果の高い順に進むようになっています。

① 測る
電気・燃料の請求書から排出量を算定。内訳が分かれば打ち手が決まる。
② 減らす
省エネ。使う量そのものを削る。コスト削減と両立する唯一の打ち手。
③ 替える
電気を再エネへ。証書・再エネメニュー・太陽光。最速で効く。
④ 埋める
削減しきれない分をクレジットで相殺。最後の仕上げ。
脱炭素の4順序。①②③を尽くしてから④に進むのが原則。出典:greenote作成

逆の順序で進めると失敗します。測らずに打ち手を選ぶと外れ、省エネより先にクレジットを買うと割高になります。また、削減努力をせずにオフセットだけで「カーボンニュートラル」と称すると、グリーンウォッシュと受け取られるリスクもあります。

それぞれの具体的な方法・費用感・使いどころはGHG削減の方法(中小企業は何から?)で、電気の替え方は環境価値とは再エネ証書の買い方で詳しく解説しています。

部門で見る脱炭素|どこから減るのか

日本全体で見ると、排出の多くはエネルギー起源のCO2です。そのため脱炭素の主戦場は、大きく次の3方向に整理できます。

■ 電源の脱炭素(つくる側)
発電時のCO2を減らす方向です。再生可能エネルギーの拡大、原子力の活用、火力の水素・アンモニア転換やCCUSなどが含まれます。電気を使う企業から見れば、自社が何もしなくても電気の排出係数が下がっていく部分です。

■ 需要側の効率化と電化(つかう側)
省エネで使用量を減らし、燃焼で熱をつくっていた工程をヒートポンプなどで電気に置き換える方向です。電源が脱炭素化するほど、電化の効果も大きくなります。企業が自分で動かせる範囲が最も広いのがこの領域です。

■ 減らしきれない分への対応
鉄鋼・セメント・化学のように、製造プロセス自体からCO2が出る産業(hard-to-abate)では、水素還元製鉄やCCUS、そしてカーボンクレジット炭素除去が必要になります。

脱炭素を支える主な技術

脱炭素の議論には多くの技術名が出てきます。役割ごとに整理すると、全体像がつかみやすくなります。

役割主な技術位置づけ
電気をつくる太陽光・風力・水力・地熱、原子力すでに主力。企業は調達で参加できる
電気を使いこなす蓄電池、デマンドレスポンス、ヒートポンプ変動する再エネを支える。導入しやすい
燃料を替える水素、アンモニア、合成燃料、バイオ燃料電化が難しい高温の熱や輸送向け。コストが課題
出たCO2を扱うCCS・CCUS、DAC(直接空気回収)減らしきれない分の受け皿。実装は途上

実務で大切なのは、自社が「使う側」として参加できるのはどれかを見極めることです。多くの企業にとって現実的なのは上2段(電気の調達と使い方)で、水素やCCSは主に供給側・重厚長大産業の課題です。個別の技術はグリーン水素CCS・CCUSデマンドレスポンスで解説しています。

コストと投資回収|脱炭素は損か得か

「脱炭素はコストがかかる」と言われますが、打ち手ごとに事情はまったく違います。1トンのCO2を減らすのにいくらかかるかで並べると、判断しやすくなります。

打ち手コストの性質
省エネ(LED・空調・デマンド管理)電気代削減で回収でき、実質マイナスになることも
非化石証書での再エネ化安価(FIT証書は1kWhあたり0.4円前後)
自家消費太陽光初期投資は必要だが、長期では電気代削減で回収可能
設備の電化・燃料転換更新タイミングに乗せれば実質負担は小さくなる
カーボンクレジット証書より桁違いに高い(再エネ電力由来で1t数千円台)

つまり「脱炭素=出費」ではなく、順序次第で得にも損にもなるということです。最初の2つはコスト削減と同時に進み、最後の1つは高い。この差を知っているかどうかで、同じ削減率でも支出は大きく変わります。

担当者の最初の3か月|具体的な進め方

「脱炭素の担当になった」という方向けに、最初の3か月でやることを時間軸で示します。完璧を目指さず、順に進めるのがコツです。

1か月目
現状を数字にする
直近12か月の電気・ガス・燃料の請求書を集め、使用量を月別に集計します。排出係数を掛けてScope1・2を算定すれば、それが自社の出発点です。
2か月目
打ち手を洗い出して並べる
内訳を見て主戦場を決めます。電気が過半なら省エネと再エネ化から。設備更新の予定表を確認し、「次の更新で何を選ぶか」も同時に押さえます。
3か月目
1枚にまとめて社内で共有する
排出量の現状、打ち手の候補と概算費用、優先順位を1枚にまとめます。経営層の判断材料になり、取引先からの調査票にもそのまま使えます。

この3か月を終えれば、「何も分からない」状態から「自社の数字と選択肢が言える」状態に変わります。そこから先は年単位で回していく仕事です。

よくある5つの誤解

誤解①「大企業だけの話」
取引先のScope3算定を通じて、調査票は中小企業にも届きます。排出量を答えられるかどうかが取引の条件になりはじめています。

誤解②「コストがかかるだけ」
省エネは電気代削減と同時に進みます。制度的な費用が上がる局面では、「使う量を減らす」打ち手の価値は年々高まります。

誤解③「クレジットを買えば済む」
SBTなど主要な枠組みでは、オフセットは削減の代わりとして認められません。順序が逆だと、費用も評価も損をします。

誤解④「再エネにすれば終わり」
電気(Scope2)が再エネになっても、燃料(Scope1)とサプライチェーン(Scope3)は残ります。さらに、証書の使い方にはRE100の15年ルールやGHGプロトコル改定など、要件の厳格化も進んでいます。

誤解⑤「製造業じゃないから排出は少ない」
オフィスや店舗中心の会社では、排出の過半が「買った電気」です。逆に言えば、電気を替えるだけで削減率が一気に上がるということでもあります。

まとめ|脱炭素は「方向」、進め方は決まっている

脱炭素とは、化石燃料に依存した事業から抜け出していく取り組みの総称です。到達した状態を指すカーボンニュートラルやネットゼロと、言葉として区別しておくと目標が書きやすくなります。

日本は2025年2月に新しいNDCを提出し、2035年度60%・2040年度73%削減(2013年度比)、2050年ネットゼロという道筋を示しました。制度・取引先・コストという3つの圧力は今後強まる方向で、「待つコスト」が上がっていくのが現在の構造です。

やることの順序は決まっています。測る → 減らす → 替える → 埋める。まずは12か月分の電気・燃料の請求書を並べるところから始めましょう。そこから先の具体的な打ち手はGHG削減の方法にまとめています。

実務支援

実務のご相談を承っています

greenoteでは、ESG・サステナビリティをわかりやすく発信しています。脱炭素の進め方のご相談もお気軽にどうぞ。

お問い合わせはこちら

手を動かす段階なら、無料のExcelテンプレートもあります → 実務テンプレート

出典・参考資料(一次情報)

リンク先は2026年8月時点で確認した各機関の公開情報です。最新は各公式情報をご確認ください。

目標・計画環境省「日本のNDC(国が決定する貢献)」(2025年2月18日提出)環境省(地球温暖化対策計画)資源エネルギー庁(エネルギー基本計画・GX)

算定・制度環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」環境省「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」

よくある質問(FAQ)

Q. 脱炭素とカーボンニュートラルの違いは何ですか?

A. 脱炭素は「化石燃料への依存から抜け出していく」という方向や行為を指す広い言葉で、カーボンニュートラルは「排出量と吸収・除去量が均衡して差し引きゼロになった状態」を指します。目標を文章で書くときは、状態を表すカーボンニュートラルやネットゼロを使うほうが誤解が生まれません。

Q. 日本の削減目標はいくらですか?

A. 2025年2月18日に国連へ提出した新しいNDCで、2013年度比で2035年度に60%削減、2040年度に73%削減、2050年にネットゼロという道筋が示されました。従来の2030年度46%削減の先を埋める目標です。

Q. 中小企業も脱炭素に取り組む必要がありますか?

A. 法律上の報告義務は一定規模以上の事業者に限られますが、取引先の大企業がサプライチェーン全体の排出(Scope3)を算定するため、排出量や削減目標を問う調査票が届くケースが増えています。加えて電気代の制度的な上昇が続くため、省エネはコスト対策としても有効です。

Q. 何から始めればよいですか?

A. 順序は「測る→減らす→替える→埋める」です。まず12か月分の電気・燃料の請求書から排出量を算定し、内訳を確認します。多くの企業では電気(Scope2)が過半を占めるため、省エネと電気の再エネ化が最初の主戦場になります。

Q. 脱炭素にはコストがかかりますか?

A. 打ち手によって大きく異なります。省エネは電気代削減で回収でき実質マイナスになることもあり、非化石証書も1kWhあたり0.4円前後と安価です。一方でカーボンクレジットは桁違いに高くなります。順序を守ることが、そのまま費用を抑えることにつながります。

🌱 次に読むなら。
具体的な打ち手 → GHG削減の方法/電気の替え方 → 環境価値とは/コストの見通し → 電気代は今後どうなる?

最終更新日:2026年8月29日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

関連記事

目次