最終更新日:2026年8月4日
石油で栄えた国が、電力では「脱石油・脱ガス」へと大きく舵を切る——それがUAE(アラブ首長国連邦)です。アラブ世界で初めて原子力発電所を動かし、砂漠には世界最安級の巨大太陽光が広がります。産油国だからこそ、次のエネルギーへの投資を惜しまない。その戦略が電力構成にはっきり表れています。
この記事は、世界の電力事情シリーズの国別深掘り編(UAE)です。中東・アフリカの電力事情で見た中東の中核として、UAEの電源構成の推移、バラカ原発、世界最安の太陽光、電力と水の関係、外資、そして日本への示唆までを、数値とともに整理します。国別編のドイツの電力事情・デンマークの電力事情・チリの電力事情・中国の電力事情・南アフリカの電力事情ともあわせてご覧ください。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。
この記事の目次
UAEの電力事情とは|産油国の電力大転換
ガスの国から
意外に思われるかもしれませんが、UAEは電力を石油ではなく、主に天然ガスでつくってきました。石油は貴重な輸出品として海外へ売り、国内の発電にはガスを使う——これが産油国の典型的な構図です。しかしそのガスも、CO2を出す化石燃料です。UAEは、この「ガス一辺倒」からの脱却を、国家戦略として進めています。
3つの特徴
特徴は上図の3つです。産油国でありながら電力の脱炭素を急ぐこと、アラブ世界初のバラカ原発を動かしたこと、そして砂漠の日射を活かした世界最安級の太陽光です。2050年のネットゼロ(ネットゼロ)を湾岸諸国で初めて掲げ、2023年にはCOP28(国連気候変動会議)を開催しました(IEA「Electricity 2026」)。
電源構成の今と昔|ガス一辺倒からの脱却
2010年と近年の比較
UAEの電源構成は、この10数年で大きく動きました。下のグラフは、2010年ごろと近年を並べたものです(概数)。
概数(年により変動)。「その他」は石油・廃棄物発電等を含む。石炭・大規模水力はほぼゼロ。出典:EWEC・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
2010年ごろは、ほぼ100%が天然ガス(グレー)でした。それが近年は7割弱まで下がり、代わりに原子力(紫)が2割規模、太陽光(黄)が1割規模へと立ち上がっています。ガス一色だった電源構成に、原子力と太陽光という二本の柱が加わったのです。
電源別シェアの推移
時系列で見ると、その転換のスピードがよくわかります。まず、脱炭素電源(原子力+太陽光)と化石(ガス)の推移です。
概数(年により変動)。脱炭素電源=原子力+太陽光。出典:EWEC・Ember等をもとにgreenote作成
とくに2020年前後から、バラカ原発の稼働で脱炭素電源が一気に増えました。次に、電源別に推移を重ねてみます。
概数(年により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:EWEC・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
ガスが右肩下がりに減り、原子力と太陽光が入れ替わるように伸びていく様子がわかります。ゼロからわずか数年で電力の2割を原子力がまかなうようになった変化は、世界的にも異例のスピードです(いずれも概数)。
バラカ原発|アラブ世界初の原子力
UAEの脱炭素を象徴するのが、バラカ原子力発電所です。アブダビの西部に建設され、アラブ世界で初めての原子力発電所となりました。4基の大型炉が順次稼働し、いまではUAEの電力の2割規模をまかなう、巨大なクリーン電源です。
原子力は、天候に左右されず24時間安定して発電できる「ベース電源」です。昼しか発電できない太陽光を補い、夜間や無風時の供給を支えます。国際原子力機関(IAEA)の枠組みのもとで進められた点も特徴です。原子力の再稼働を進める日本とは事情が異なりますが、「脱炭素の安定電源」として原子力を位置づける発想は共通します。
世界最安の太陽光|砂漠が生む電力
もうひとつの主役が、太陽光です。UAEの砂漠は日射が非常に強く、太陽光発電にとって理想的な条件がそろっています。アブダビのアル・ダフラや、ドバイのムハンマド・ビン・ラシッド・アル・マクトゥーム・ソーラーパークなど、世界最大級の太陽光発電所が次々に建設されてきました。
特筆すべきは、その安さです。UAEの太陽光は、入札のたびに世界最安級の価格を更新してきました。豊富な日射と広い土地、そして大規模化によるコスト低減が、記録的な低価格を生んでいます。この安い電力は、グリーン水素(水を電気分解してつくる水素)やカーボンリムーバル(炭素除去)の取り組みの土台にもなり、将来の輸出産業として期待されています。
電力と水|冷房・海水淡水化の巨大需要
UAEの電力を語るうえで欠かせないのが、「水」との関係です。UAEは降水が少なく、飲み水の多くを海水淡水化(海の水から塩分を除いて真水にする)でまかなっています。この淡水化には、膨大な電力(や熱)が必要です。さらに、砂漠の猛暑では冷房の需要が極端に大きく、夏の電力消費を押し上げます。
つまりUAEでは、電力・水・冷房が分かちがたく結びついています。電源を脱炭素化するだけでなく、淡水化を省エネな方式へ切り替えたり、冷房の効率を上げたりすることも、同じくらい重要です。電力と水を一体で考える「ウォーター・エネルギー・ネクサス」が、UAEの大きなテーマです。
課題
根強いガス依存。発電の多くをまだ天然ガスに頼っており、CO2排出が大きい。
対応
バラカ原発と大規模太陽光を増やし、ガスを段階的に置き換える。
課題
冷房と海水淡水化の巨大需要。猛暑での冷房と、飲み水をつくる淡水化が電力を大量に消費する。
対応
機器の省エネ化、太陽光の活用、原発の排熱・逆浸透膜など効率の高い淡水化へ。
課題
昼夜の需給差。太陽光は昼しか発電できず、夜間の供給をどう賄うかが課題。
対応
大規模な蓄電池と、24時間動く原子力をベース電源に組み合わせる。
外資の参入状況|Masdarと開かれた再エネ
開かれた再エネ市場
UAEの再エネ市場は、外資に広く開かれています。大型の太陽光プロジェクトは国際的な競争入札で調達され、世界の開発事業者や投資家が参加してきました。国営の再エネ企業マスダール(Masdar)は、UAE国内にとどまらず、世界各国の再エネ事業に投資するグローバルプレーヤーでもあります。
参入機会
- 世界最安級の太陽光・大型プロジェクト
- Masdar等との連携で中東・世界へ展開
- グリーン水素・アンモニアの輸出ハブ構想
留意点
- 猛暑・砂塵による保守(O&M)の負担
- 国有企業主導の市場構造・許認可
- 地政学・地域情勢のリスク
制度や開放度は年により変わります。最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
日本企業の動き
日本の商社・電力会社・メーカーも、UAEの発電事業や、バラカ原発、将来のグリーン水素・アンモニアのプロジェクトに関わってきました。中東の脱炭素は、エネルギー安全保障と新産業の両面で日本にとって重要です。RE100やコーポレートPPAを進めるグローバル企業にとっても、UAEの安い再エネは注目材料です。各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。
日本との比較|違いと示唆
UAEと日本を、電力の面で並べてみましょう。資源の背景は違っても、脱炭素の道具立てには共通点があります。
| 観点 | UAE | 日本 |
|---|---|---|
| 主力電源 | 天然ガス(原子力・太陽光へ転換中) | 火力中心(多様な電源) |
| 原子力 | 新設(バラカ/アラブ初) | 再稼働を進める方針 |
| 太陽光 | 砂漠で世界最安級 | 適地が限られる |
| 特殊な需要 | 冷房・海水淡水化が巨大 | 冷暖房・産業用 |
| 目標 | 2050ネットゼロ(湾岸初)・COP28開催国 | 2050カーボンニュートラル |
最大の違いは、太陽光の適地(UAE=砂漠で世界最安/日本=限られる)と、特殊な需要(UAE=冷房・海水淡水化)です。一方で、「原子力と再エネを組み合わせて脱炭素を進める」という発想は、日本にも通じます。潤沢な資金で大胆に投資するUAEの動きは、脱炭素の技術やコストがどこまで下がるかを占う先行指標としても参考になります。
まとめ|石油の国が描く脱炭素
UAEは、石油で得た富を、次のエネルギーへと大胆に投資しています。ガス一辺倒だった電力に、アラブ世界初の原子力と、世界最安級の太陽光という二本の柱を加え、短期間で電源構成を塗り替えてきました。
冷房と海水淡水化という特有の巨大需要を抱えながら、産油国が脱炭素の先頭に立とうとする姿は、エネルギー転換の新しいモデルです。中東全体の文脈は中東・アフリカの電力事情、国別編のドイツの電力事情・デンマークの電力事情・チリの電力事情・中国の電力事情・南アフリカの電力事情ともあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. UAEの電力の特徴は何ですか?
産油国でありながら、電力の脱炭素を急いでいることです。電力は主に天然ガスでつくってきましたが、アラブ世界初のバラカ原発と、砂漠の世界最安級の太陽光を加え、短期間で電源構成を大きく変えています。
Q. UAEは何で発電しているのですか?
近年は天然ガスが7割弱で最大ですが、原子力が2割規模、太陽光が1割規模へと拡大しています。石油は主に輸出向けで、発電にはあまり使われません(いずれも概数・年により変動)。
Q. バラカ原発とは何ですか?
アブダビ西部にあるUAEの原子力発電所で、アラブ世界で初めての原発です。4基の大型炉が稼働し、UAEの電力の2割規模をまかなう、天候に左右されないベース電源として機能しています。
Q. なぜUAEの太陽光は安いのですか?
砂漠の非常に強い日射と広い土地、そして大規模化によるコスト低減が理由です。入札のたびに世界最安級の価格を更新し、その安い電力がグリーン水素などの土台にもなっています。
Q. UAEで電力と水はどう関係しますか?
UAEは降水が少なく、飲み水の多くを海水淡水化でまかないます。淡水化には膨大な電力が必要で、猛暑の冷房需要も大きいため、電力・水・冷房が分かちがたく結びついています(ウォーター・エネルギー・ネクサス)。
Q. UAEの電力の課題は何ですか?
根強い天然ガス依存、冷房と海水淡水化による巨大な需要、太陽光の昼夜の需給差などです。原子力と大規模太陽光の拡大、蓄電池、省エネな淡水化などで対応を進めています。
Q. UAEと日本の電力の違いは何ですか?
太陽光の適地(UAEは砂漠で世界最安、日本は限られる)と、冷房・海水淡水化という特殊な需要が異なります。一方で、原子力と再エネを組み合わせて脱炭素を進める発想は共通します。
Q. UAEから日本が学べることは何ですか?
原子力と再エネを組み合わせた脱炭素の進め方や、潤沢な資金による大胆な投資が参考になります。安い再エネを新産業(グリーン水素など)につなげる戦略も示唆的です。
出典・参考資料(一次情報)
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
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最終更新日:2026年8月14日