「自社の工場やオフィスの排出を減らせば、脱炭素は十分」——もしそう考えているなら、見落としがあるかもしれません。多くの企業では、排出量の大部分が、自社の外側、つまりサプライチェーンで生まれているからです。それを測る考え方が、Scope3です。
本記事では、Scope3とは何かを整理したうえで、15のカテゴリ、算定の方法、そして開示制度での位置づけまでを実務目線で解説します。排出量算定の基礎となるGHGプロトコルの全体像は、GHGプロトコルとは|Scope1・2・3と算定の基準もあわせてご覧ください。
≡目次
Scope3とは|サプライチェーン全体の排出量
排出量の議論で、いま最も注目されるのがScope3です。まずは、Scope1・2との違いから押さえましょう。
Scope1・2・3の全体像
排出は3つの区分でとらえる
Scope1
直接排出
工場・社用車など、自社が燃料を燃やして出す排出
Scope2
エネルギー由来
購入した電力・熱・蒸気の使用に伴う間接排出
本記事の主役
Scope3
その他の間接排出
調達・輸送・製品の使用・廃棄などサプライチェーン全体
多くの企業でScope3が排出全体の大部分(業種により7〜9割になることも)を占めます。
出典:GHGプロトコル等をもとにgreenote作成
Scope1・2・3のおさらい
温室効果ガスの排出は、3つのScopeに分けて捉えます。Scope1は、自社が直接出す排出です。工場で燃料を燃やしたり、社用車を走らせたりして生じます。Scope2は、購入した電力や熱の使用に伴う、エネルギー由来の間接排出です。
そしてScope3は、それ以外のすべての間接排出を指します。原材料の調達先、製品を運ぶ物流、顧客による製品の使用、廃棄まで。自社の事業に関わる、サプライチェーン全体の排出がここに含まれます。
なぜScope3が重要なのか
Scope3が注目される理由は、その大きさにあります。多くの企業では、Scope3が排出量全体の大部分を占めます。業種によっては、全体の7割から9割に達することも珍しくありません。
つまり、自社の工場やオフィス(Scope1・2)だけを見ていては、排出の全体像をつかめないのです。脱炭素を本気で進めるなら、サプライチェーン全体を視野に入れるしかありません。Scope3は、脱炭素の「本丸」だといえます。
Scope3の15カテゴリ
Scope3は、活動の種類ごとに15のカテゴリに分かれます。上流8と下流7に整理して見ていきます。
Scope3の15カテゴリ
上流8+下流7=サプライチェーン全体
上流(8カテゴリ)
- 購入した製品・サービス
- 資本財
- 燃料・エネルギー関連活動
- 輸送・配送(上流)
- 事業から出る廃棄物
- 出張
- 雇用者の通勤
- リース資産(上流)
下流(7カテゴリ)
- 輸送・配送(下流)
- 販売した製品の加工
- 販売した製品の使用
- 販売した製品の廃棄
- リース資産(下流)
- フランチャイズ
- 投資
自社で排出の大きいホットスポットから優先的に取り組みます。
出典:GHGプロトコル(Scope3基準)をもとにgreenote作成
上流の8カテゴリ
上流は、自社が「買う・調達する」側の活動です。8つのカテゴリがあります。1.購入した製品・サービス、2.資本財(設備など)、3.燃料・エネルギー関連活動(Scope1・2に含まれないもの)、4.輸送・配送(上流)、5.事業から出る廃棄物、6.出張、7.雇用者の通勤、8.リース資産(上流)です。
このうち、製造業では「購入した製品・サービス」が、排出の大きな部分を占めることが多くなります。原材料や部品を作る段階の排出が、ここに集約されるからです。
下流の7カテゴリ
下流は、自社が製品を「売ったあと」の活動です。7つのカテゴリがあります。9.輸送・配送(下流)、10.販売した製品の加工、11.販売した製品の使用、12.販売した製品の廃棄、13.リース資産(下流)、14.フランチャイズ、15.投資です。
なかでも注目すべきは、11の「販売した製品の使用」です。自動車や家電のように、使用時にエネルギーを消費する製品では、ここが排出の中心になります。金融機関にとっては、15の「投資」(投融資先の排出)が大きな論点です。
自社で重要なカテゴリを見極める
15すべてを、同じ熱量で追う必要はありません。重要なのは、自社にとって排出の大きいカテゴリ、いわゆる「ホットスポット」を見極めることです。
業種によって、重いカテゴリは異なります。製造業なら調達、メーカーなら製品の使用、金融なら投資。まず全体をざっと把握し、影響の大きいところから精度を上げていく。これが、現実的な進め方です。
Scope3の算定方法
Scope3は、どう数値化するのでしょうか。基本の考え方と、データの集め方を整理します。
Scope3 算定の4ステップ
基本は「活動量 × 排出原単位」
1
対象カテゴリの特定
15から自社に関係するものを選ぶ
2
活動量の収集
調達量・輸送量・販売量など
3
排出原単位を掛ける
活動量 × 排出係数
4
集計・分析
ホットスポットを把握
初期は二次データ(業界平均)中心。重要カテゴリから一次データへ精度を高めます。
出典:GHGプロトコル等をもとにgreenote作成
活動量×排出原単位が基本
Scope3の算定は、意外とシンプルな式から始まります。基本は「活動量×排出原単位(排出係数)」です。活動量とは、調達した量や輸送した距離、販売した数といった、事業活動の規模を表す数字を指します。これに、単位あたりの排出量である排出原単位を掛けて、排出量を求めます。
たとえば、ある原材料を100トン調達したなら、その「100トン」が活動量です。これに、その材料1トンあたりの排出原単位を掛ければ、調達に伴う排出量が出ます。考え方そのものは、難しくありません。
一次データと二次データ
難しいのは、データの精度です。活動量や排出原単位には、2種類のデータがあります。一次データは、サプライヤーから直接得る実測に近いデータです。二次データは、業界平均などをまとめた、排出原単位のデータベースです。
最初から一次データをそろえるのは、簡単ではありません。そこで、初期は二次データを中心に全体像をつかみ、排出の大きい重要なカテゴリから一次データへ切り替えて精度を高めていく。この段階的なアプローチが、実務では一般的です。
サプライヤーエンゲージメント
上流のScope3を正確に把握するには、サプライヤーの協力が欠かせません。取引先がどれだけ排出しているかは、その取引先に聞くのが最も確かだからです。この取り組みを、サプライヤーエンゲージメントと呼びます。
具体的には、サプライヤーに排出量データの提供を求めたり、算定を支援したり、ともに削減目標を設定したりします。一社だけでは完結しない。Scope3は、サプライチェーン全体の協働があってはじめて、正確に測れるのです。責任ある調達の観点は、責任ある調達(サプライチェーン)とはもあわせてご覧ください。
開示での位置づけ(SSBJ・CDPなど)
Scope3は、いまや任意の取り組みではありません。開示制度のなかに組み込まれつつあります。
SSBJ・ISSBでScope3開示へ
大きな転機が、開示基準です。日本のSSBJ基準、そしてその基礎である国際基準のISSB(IFRS S2)は、温室効果ガス排出量として、Scope1・2に加えてScope3の開示を求めています。
有価証券報告書でのサステナビリティ開示は、時価総額の大きいプライム上場企業から段階的に義務化される方針です。Scope3の開示も、その一部になります。任意の取り組みから、制度的な開示へ。Scope3の位置づけは、大きく変わりました。SSBJ基準の詳細は、SSBJ基準とは|ISSBとの関係と適用スケジュールもあわせてご覧ください。
投資家やCDPからの要請
制度だけではありません。投資家やCDPといった枠組みも、Scope3の開示を求めています。CDPは、企業の環境情報を集めて評価する国際的なプロジェクトで、多くの機関投資家が参照します。
投資家がScope3を重視するのは、それが企業の本当の気候リスクを映すからです。サプライチェーンに大きな排出を抱える企業は、規制や市場の変化に弱いかもしれません。Scope3の開示は、そうしたリスクを見極める手がかりになります。
算定の壁と現実的な進め方
とはいえ、Scope3の算定には、無視できない壁があるのも事実です。サプライチェーンは広く、データ収集には手間がかかります。すべてを完璧に、いきなり把握するのは現実的ではありません。
だからこそ、各社は現実的な範囲から始めています。まずは概算で全体像をつかみ、重要なカテゴリから精度を上げる。開示も、完璧を待つのではなく、できる範囲から始めて改善していく。この姿勢が、結果的に前進を生みます。
算定から削減へ|企業の実務
算定はゴールではなく、出発点です。削減につなげる実務のポイントを整理します。
まず算定し、ホットスポットを特定する
削減の第一歩は、算定です。どこで、どれだけ排出しているかがわからなければ、手の打ちようがありません。Scope3を算定すれば、排出の大きいホットスポットが見えてきます。
そこが、削減の出発点です。限られた資源を、効果の大きいところに集中させる。算定は、そのための地図づくりだといえます。
サプライチェーン全体での協働
Scope3の削減は、自社だけでは完結しません。排出の多くが、取引先で生まれているからです。だからこそ、サプライチェーン全体での協働が要になります。
サプライヤーと削減目標を共有し、低炭素な調達に切り替え、ともに改善を進める。こうした協働が、Scope3の削減を動かします。脱炭素の全体像は脱炭素・カーボンニュートラルとは?完全ガイドもあわせてご覧ください。
段階的に精度を高める
最後に、完璧主義にならないことです。Scope3は、最初から精緻に測れるものではありません。二次データの概算から始め、年を追って一次データを増やし、精度を高めていく。その積み重ねが大切です。
開示する数値は、年々良くなっていけばよいのです。大事なのは、始めること。そして、続けること。Scope3への取り組みは、長い道のりを一歩ずつ進む営みだといえます。
まとめ|Scope3は脱炭素の本丸
Scope3は、企業の脱炭素を左右する重要な領域です。最後に、要点を振り返りましょう。
- Scope3とは、サプライチェーン全体の間接排出。上流8・下流7の合計15カテゴリで構成される
- 多くの企業で、Scope3が排出全体の大部分を占める。脱炭素の本丸といえる
- 算定の基本は活動量×排出原単位。一次データと二次データを使い分け、重要なカテゴリから精度を高める
- SSBJ基準・ISSBやCDP・投資家がScope3開示を求める。算定の壁を越え、削減につなげることが課題
自社の外側に広がる排出に、どう向き合うか。Scope3は、その問いそのものです。完璧を待つのではなく、まず測り、ホットスポットから手を打ち、サプライチェーン全体で協働する。その一歩一歩が、企業の脱炭素を本物にしていきます。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
参考(出典):GHGプロトコル(Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard)、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)、CDPほか
無料ダウンロード:実務で使えるテンプレート
「Scope3 簡易算定テンプレート」を無料で配布しています。15カテゴリを一覧で整理し、活動量×原単位で排出量を自動計算できます。
出典・参考(一次情報)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年6月21日