Scope2(スコープ2)は、購入した電気などを使うことに伴う間接排出です。自社では燃料を燃やしていないのに排出量に数えられるのは、その電気をつくる発電所がCO2を出しているから。多くのオフィス・工場ではScope1より大きく、そして削減の打ち手が最も豊富な領域でもあります。
この記事では、Scope2とは何か、算定の2つの基準(ロケーション基準とマーケット基準)の違い、証書やPPAなど削減に使える手段、日本のSHK制度との関係、そして改定で議論されている「時間と場所」の論点まで、実務の順番で解説します。
※本記事は2026年8月時点の公表情報にもとづく解説です。GHGプロトコルのScope2ルールは改定の検討が進んでおり、将来変わる可能性があります。
この記事の目次
- 1Scope2とは|「買った電気」の排出量
- Scope1・Scope3との違い
- 対象は電気だけではない(熱・蒸気・冷熱)
- 22つの算定基準|ロケーション基準とマーケット基準
- ロケーション基準|地域の平均で計算する
- マーケット基準|契約で選んだ電気を反映する
- なぜ両方の報告が求められるのか
- 4排出係数の実務|どの数字を掛けるのか
- ロケーション基準で使う係数
- マーケット基準で使う係数の優先順位
- SHK制度の「基礎」と「調整後」
- 5算定の実務4ステップ
- 3マーケット基準で使える手段と品質基準
- 4日本の実務|SHK制度・RE100との関係
- 5Scope2を減らす5つの打ち手
- 8日本の証書3種の使い分け
- 9ケース別ロードマップ
- 10よくある誤解と間違いやすいポイント
- 11開示でどう書くか|CDP・有報・統合報告書
- 12世界のScope2実務|証書制度と24/7
- 13コストの考え方|証書・メニュー・PPAの比べ方
- 14Scope2用語ミニ辞典
- 6改定の動向|時間と場所が問われる時代へ
- 7まとめ
- 8よくある質問(FAQ)
- Scope2とは|「買った電気」の排出量
- 2つの算定基準|ロケーション基準とマーケット基準
- マーケット基準で使える手段と品質基準
- 排出係数の実務|どの数字を掛けるのか
- 算定の実務4ステップ|データ収集から報告まで
- 日本の実務|SHK制度・RE100との関係
- Scope2を減らす5つの打ち手
- 日本の証書3種の使い分け|非化石・グリーン電力・J-クレジット
- ケース別ロードマップ|オフィス企業と製造業
- よくある誤解と間違いやすいポイント
- 開示でどう書くか|CDP・有報・統合報告書
- 世界のScope2実務|証書制度の違いと24/7の先進事例
- コストの考え方|証書・メニュー・PPAの比べ方
- 改定の動向|時間と場所が問われる時代へ
- Scope2用語ミニ辞典
- まとめ
- 出典・参考資料(一次情報)
- よくある質問(FAQ)
Scope2とは|「買った電気」の排出量
GHGプロトコルは、企業の温室効果ガス排出を3つの区分(スコープ)に分けています。Scope2はそのうち、他社から購入した電気・熱・蒸気・冷熱を自社で使用することに伴う間接排出を指します。排出そのものは発電所で起きていますが、その電気を使う企業側の排出量として計上します。
Scope1・Scope3との違い
境界線の覚え方はシンプルです。燃やしたのが自社ならScope1、買った電気ならScope2、それ以外の取引先・製品側はScope3。同じ1kWhの電気でも、自家発電(Scope1)から購入電力(Scope2)に切り替えると区分が移る、という関係にあります。
対象は電気だけではない(熱・蒸気・冷熱)
Scope2というと電気の話と思われがちですが、正確には購入した熱・蒸気・冷熱も対象です。地域熱供給を受けているオフィスビルや、隣接工場から蒸気を買っている製造拠点では、電気以外のScope2が発生します。算定漏れが起きやすいポイントなので、契約形態の棚卸しから始めるのが実務の第一歩です。
2つの算定基準|ロケーション基準とマーケット基準
GHGプロトコルの「Scope2ガイダンス」(2015年)は、Scope2の計算方法を2本立てにしました。この2つの違いを押さえることが、Scope2実務の核心です。
ロケーション基準|地域の平均で計算する
ロケーション基準(location-based)は、その地域の電力系統の平均的な排出係数を使う方法です。「どの電力会社と契約しているか」は関係なく、同じ地域で同じ量の電気を使えば、どの企業でも同じ排出量になります。地域の物理的な実態を映す指標です。
マーケット基準|契約で選んだ電気を反映する
マーケット基準(market-based)は、企業が選んだ契約——再エネメニュー、証書、PPA——を反映して計算する方法です。再エネ由来の電気を選べば、その分のScope2をゼロとして計上できます。企業の「調達の努力」が数字に表れるのはこちらの基準です。
なぜ両方の報告が求められるのか
GHGプロトコルは、両方の基準で算定・報告するデュアルレポーティングを求めています。マーケット基準だけだと「証書を買って数字を消しただけ」に見え、ロケーション基準だけだと調達努力が評価されない——両方を並べることで、実態と努力の両面が見えるという設計です。CDP回答や統合報告書でも両方の記載が一般的になっています。
マーケット基準で使える手段と品質基準
マーケット基準で使える契約手段(コントラクチュアル・インストゥルメント)には、満たすべき品質基準(Scope 2 Quality Criteria)があります。主な手段は次のとおりです。
- 再エネ電力メニュー:小売電気事業者の再エネプラン。手間が最小で、最初の一歩に向きます。
- 証書:非化石証書・グリーン電力証書・J-クレジット。買い方と使い分けはこちらで詳しく解説しています。
- コーポレートPPA:発電事業者との長期契約。フィジカル/バーチャルの違いと設計は専用記事をどうぞ。追加性(新しい再エネを増やす効果)を主張しやすい手段です。
- 自家消費型太陽光:自社の屋根で発電して使う分は購入電力が減るためScope2の削減になります(自家発電の燃焼はScope1)。
品質基準の要点は、属性の二重主張がないこと(同じ環境価値を2社が使わない)、発行とマッチングの期間が近いこと、市場の境界内で調達することなどです。「安い証書をどこかから買えばよい」ではなく、ルールに沿った調達かどうかが問われます。
排出係数の実務|どの数字を掛けるのか
Scope2の計算式はシンプルで、「電力使用量(kWh)× 排出係数(kg-CO2/kWh)」です。難しいのは掛け算ではなく、「どの排出係数を使うか」の選択です。ここを整理しておくと、算定の迷いがほぼなくなります。
ロケーション基準で使う係数
ロケーション基準では、地域の系統平均の係数を使います。日本の実務では、環境省・経産省が毎年公表する電気事業者別排出係数の一覧にある「全国平均係数」や、系統平均に相当する係数を用いるのが一般的です。CDPなどの国際開示ではIEAの国別係数が使われることもあります。どの係数を選んだかを算定方針として記録し、毎年同じ考え方で続けることが大切です。
マーケット基準で使う係数の優先順位
マーケット基準には、GHGプロトコルが定める係数の優先順位(ヒエラルキー)があります。上から順に、使えるものを使います。
- ①証書・PPAなどの契約手段:非化石証書やPPAでカバーした電力量は、その属性(再エネならゼロ)で計上します。
- ②電力会社のメニュー別係数:再エネメニューなど、契約メニューごとに公表された係数。
- ③電力会社の残差係数(レジデュアルミックス):証書等で主張済みの分を除いた「残りの電気」の係数。
- ④系統平均係数:上のどれも使えない場合の最後の手段。
日本の実務でよく話題になるのが③です。欧州にはレジデュアルミックスの公表制度がありますが、日本では整備が途上のため、実務上は電力会社別の調整後排出係数などで代替されることが多いのが実情です。厳密には「他社が証書で主張した分が二重に含まれないか」という論点が残るため、開示では使用した係数の種類を明記しておくのが安全です。
SHK制度の「基礎」と「調整後」
温対法のSHK制度では、電気事業者ごとに基礎排出係数と調整後排出係数が毎年公表されます。基礎はその事業者の実排出ベース、調整後は非化石証書などの環境価値を反映した係数です。ざっくり言えば、基礎排出係数はロケーション基準に近い発想、調整後排出係数はマーケット基準に近い発想です(厳密には制度目的が異なるため一致はしません)。有価証券報告書やCDPでGHGプロトコル基準の数字を出し、SHK報告では調整後係数を使う——という並走が日本企業の標準形になっています。
算定の実務4ステップ|データ収集から報告まで
初めてScope2を算定する場合の手順を、実務の順番で示します。
ステップ1|拠点と契約の棚卸し
まず、電気・熱を「買っている」場所をすべて洗い出します。本社・支店・工場・倉庫・データセンター、そして見落としやすいのが賃借オフィス(テナント)と社宅・寮です。テナントの場合、電気代がビルオーナー経由(共益費込み)だと使用量が見えないことがあります。オーナーに按分データを依頼する、専有面積で按分する、といった推計方法をあらかじめ決めておきます。地域熱供給や購入蒸気があれば、それもリストに加えます。
ステップ2|使用量データの収集
各拠点の電力使用量(kWh)を集めます。ソースは検針票・請求書・電力会社のWeb明細で、高圧契約ならスマートメーターの30分値も取得できます。年度の途中で電力会社を切り替えた拠点は、期間を分けて集計します。データの粒度は将来の武器です。年間合計だけでなく月別・可能なら30分値で保存しておくと、後述する時間帯マッチングの議論にそのまま対応できます。
ステップ3|両基準で計算する
ロケーション基準(系統平均係数)とマーケット基準(契約を反映した係数)の両方で計算します。マーケット基準では、証書やPPAでカバーした電力量を先に差し引き、残りに契約メニューまたは残差の係数を掛けます。計算例を挙げます(係数は説明用の仮の値です)。
・マーケット基準:非化石証書を300万kWh分調達 → (1,000万−300万)× 0.45 = 3,150t-CO2
・両方を並記し、証書の種類・量も注記する(デュアルレポーティング)
ステップ4|記録と開示
使用した係数の出典・年度、証書の種類と量、推計した拠点の方法を算定方針書として残すのが最重要です。翌年の担当者が同じ計算を再現でき、第三者保証を受ける際もこの文書が審査の起点になります。CDP回答では両基準の数字と契約手段の内訳が問われるため、この段階で整理しておくと二度手間になりません。
日本の実務|SHK制度・RE100との関係
日本企業のScope2実務では、GHGプロトコルと並行して温対法のSHK制度(算定・報告・公表制度)が動いています。SHK制度では電力会社ごとの基礎排出係数・調整後排出係数を使い、非化石証書などを反映した「調整後」の数字で報告できます。温対法の仕組みとGHGプロトコルの用語は似て非なる部分があるため、社内で「どちらの制度の数字か」を常に明示するのが混乱を防ぐコツです。
RE100に参加する場合は、再エネ電力の調達手段や証書の品質に独自の要件が加わります。また電気料金の観点では、再エネメニューや証書のコストは電気料金の推移と合わせて中期で見ると判断しやすくなります。
Scope2を減らす5つの打ち手
実務の順番はコストの低い順・確実な順に並べるのが定石です。
- ①省エネ(使用量を減らす):最も確実で、省エネ法の定期報告とも直結します。照明・空調・設備更新から。
- ②再エネメニューへの切替:契約変更だけで始められる第一歩。
- ③証書の購入:不足分を非化石証書等で補う。トラッキング付を選ぶのが基本です。
- ④コーポレートPPA:長期の価格固定と追加性の主張ができる本命。与信・期間・価格の設計が必要です。
- ⑤自家消費型太陽光:屋根・土地があるなら投資回収を試算する価値があります。
日本の証書3種の使い分け|非化石・グリーン電力・J-クレジット
マーケット基準の削減で登場する日本の証書は主に3種類です。それぞれ性格が異なります。
選び方の目安は、量と継続性なら非化石証書、少量・単発ならグリーン電力証書、既にJ-クレジットの調達ルートがあるなら再エネ電力由来のJ-クレジットです。いずれもRE100や各開示制度での適格性は要件が細かいため、詳しくは再エネ証書の買い方で解説しています。
品質基準(Scope 2 Quality Criteria)の中身
GHGプロトコルは、マーケット基準で使う契約手段に共通の品質基準を置いています。実務で効いてくるのは次の点です。
- 属性の一意性:同じ環境価値を複数の主体が主張しない(証書の償却・無効化で担保)。
- 属性の完全な移転:発電の環境属性が証書とセットで需要家に渡ること。
- 期間の近接(ヴィンテージ):発電と使用の期間が近いこと。年度をまたいだ古い証書の充当は避ける方向です。
- 市場の境界:需要と同じ市場で発行された手段を使うこと(日本の消費に海外の証書は不可)。
- 追跡可能性:発電源まで遡れること。トラッキング付き証書が推奨される理由です。
ケース別ロードマップ|オフィス企業と製造業
オフィス中心の企業(年間数百万kWh規模)
Scope1が小さくScope2が排出の大半を占める典型パターンです。現実的な進め方は次のとおりです。
- 1年目:全拠点の使用量を棚卸しし、両基準で算定。本社など大口拠点を再エネメニューに切替。
- 2年目:残る拠点をトラッキング付き非化石証書でカバー。テナント拠点はオーナーとの協議・グリーンリース条項の検討。
- 3年目以降:使用量の多い拠点でオフサイトPPAを検討し、証書依存から長期契約へ移行。
製造業(年間数千万kWh規模・高圧/特別高圧)
電力コストが経営指標に直結するため、脱炭素と電気料金の最適化を同時に設計します。
- 省エネの深掘りが先:コンプレッサー・モーター・空調の更新はScope2削減と電気代削減の両取りで、省エネ法の定期報告にもそのまま効きます。
- 自家消費型太陽光:工場屋根は好適地。自家消費分は購入電力が減るため、マーケット基準・ロケーション基準の両方が下がる数少ない打ち手です。
- コーポレートPPA:大口需要はPPAの交渉力があります。フィジカルかバーチャルか、期間・価格・追加性の設計はPPAの解説をどうぞ。
- 時間帯データの整備:特別高圧・高圧は30分値が取得できるため、後述の時間帯マッチング議論への備えを先行できます。
よくある誤解と間違いやすいポイント
- 「自家発電の電気もScope2」→ 誤り。自社設備で燃料を燃やす発電はScope1です。買った電気だけがScope2。ただし自家消費型太陽光は燃焼がないため、Scope1にもScope2にも排出は計上されません(購入電力の減少としてScope2が下がります)。
- 「社用EVの充電は輸送だからScope1」→ 誤り。EVの充電電力は購入電力なのでScope2です(ガソリン車の燃料はScope1)。
- 「テナントだから算定対象外」→ 原則誤り。賃借オフィスで自社が使う電気は、支配力・財務境界の設定にもよりますが、一般的にはScope2に含めます。按分推計でも構いません。
- 「証書はオフセットと同じ」→ 誤り。証書(EAC)は電気の属性を主張する手段で、Scope2の数字そのものを変えます。カーボン・オフセット(クレジットによる相殺)は排出量の外側で行う行為で、Scope2は減りません。
- 「グループ会社の電気は全部Scope2」→ 要確認。連結の組織境界(出資比率基準か支配力基準か)によって、子会社の排出はScope1・2に、持分法適用会社などはScope3カテゴリ15に入る場合があります。組織境界の考え方を先に固めるのが順序です。
- 「熱・蒸気は少ないから無視」→ 保証で指摘されがち。地域熱供給・購入蒸気は金額が小さくても算定対象です。重要性が低いと判断して除外する場合も、その旨を算定方針書に明記します。
開示でどう書くか|CDP・有報・統合報告書
算定したScope2は、開示先ごとに問われ方が少しずつ違います。
- CDP(気候変動質問書):両基準の数字、マーケット基準の内訳(証書・PPA・メニューの種別と量)、係数の出典が問われます。契約手段の品質基準を満たしているかの説明も評価対象です。
- 有価証券報告書(SSBJ対応):SSBJ基準にもとづくGHG開示ではScope1・2(および重要な場合のScope3)の開示が求められ、Scope2は算定基準の明示が論点になります。有報のサステナ開示の実務と合わせて設計します。
- 統合報告書・サステナレポート:経年推移と削減施策の対応関係を語れると説得力が出ます。「証書購入で減った分」と「省エネ・PPAで減った分」を分けて示すのが、グリーンウォッシュ批判を避ける書き方です。
共通する作法は、①両基準の並記、②契約手段の内訳開示、③係数と方法の明示の3点です。数字が良く見える基準だけを選んで見せる「いいとこ取り」は、グリーンウォッシュと受け取られるリスクがあります。
世界のScope2実務|証書制度の違いと24/7の先進事例
国・地域で違う証書制度(EAC)
マーケット基準で使う証書は総称してEAC(エネルギー属性証書)と呼ばれ、国・地域ごとに制度が分かれています。海外拠点を持つ企業は、拠点ごとにその市場の証書を調達する必要があります(市場の境界の原則)。
- 北米:REC(Renewable Energy Certificate)。州をまたぐ広域の取引制度が発達しています。
- 欧州:GO(Guarantee of Origin/発電源証明)。EU指令にもとづく統一的な制度で、国境をまたいだ取引と残差ミックスの公表が制度化されています。
- アジアなど:I-REC系の国際証書。自国に証書制度がない市場で広く使われています。
- 日本:非化石証書・グリーン電力証書・J-クレジット。前述のとおり3種が併存し、トラッキングの有無が品質の分かれ目です。
グローバル企業のScope2集計では、「国ごとに使える証書が違う」「価格も流動性も桁違い」という現実に直面します。拠点別のkWhと調達手段を一覧化した台帳を作るのが、多国籍のScope2管理の出発点です。
先進企業は「24時間365日」へ
年間合計のマッチングから一歩進んで、毎時の消費をカーボンフリー電源で賄う「24/7カーボンフリー電力(CFE)」を掲げる企業も現れています。GoogleやMicrosoftが代表例で、国連にも賛同枠組み(24/7 CFEコンパクト)があります。時間情報付きの証書(グラニュラー証書)の国際標準づくりはEnergyTagが主導しているとされます。
日本企業がいますぐ24/7を目指す必要はありませんが、GHGプロトコル改定の方向性はこの延長線上にあります。30分値データの保存と、太陽光偏重でない調達ポートフォリオ(風力・水力・蓄電池の組み合わせ)は、いずれ効いてくる布石です。
コストの考え方|証書・メニュー・PPAの比べ方
Scope2削減の手段はコスト構造がまったく異なります。単価の絶対値は市況で動くため、ここでは比較の枠組みを整理します。
実務の定石は、「電気料金の見通し×削減目標の期限」でポートフォリオを組むことです。目先の開示対応は証書で埋めつつ、中期はPPAと自家消費で「構造的にゼロに近づく」設計に移行する——多くの先行企業がこの二段構えを取っています。電気料金の推移と合わせて、5〜10年の時間軸で判断するのがおすすめです。
なお、証書コストは「削減量あたりの単価」に換算すると比較しやすくなります。たとえば証書が1kWhあたり1円なら、排出係数0.45kg-CO2/kWhの地域では1トンのCO2削減に約2,200円という計算です。社内炭素価格(インターナルカーボンプライシング)を導入している企業なら、その水準と突き合わせて投資判断に使えます。
改定の動向|時間と場所が問われる時代へ
いまのマーケット基準は「年間の合計」で帳尻を合わせる仕組みですが、GHGプロトコルの改定では、時間単位のマッチング(アワリーマッチング)と物理的な供給可能性(デリバラビリティ)を求める方向が議論されています。夜間も「再エネ100%」と言えるのか、遠隔地の証書で地元の消費を賄えるのか——という問いです。
第1回パブリックコンサルテーションでは両論点とも反対が優勢でしたが、GHGプロトコルは「パブコメは投票ではない」としており、方向性は維持される可能性があります。詳しくはアワリーマッチングとデリバラビリティの解説をご覧ください。SBTiが時間別データにもとづく報告を先行して求める方向のため、30分値など時間別の電力データ基盤づくりは、ルール確定を待たずに始めて損のない投資になっています。
Scope2用語ミニ辞典
- EAC(エネルギー属性証書):電気の「環境価値」を切り出して取引する証書の総称。REC・GO・非化石証書などが含まれます。
- デュアルレポーティング:ロケーション基準とマーケット基準の両方で報告すること。GHGプロトコルの要求事項。
- レジデュアルミックス(残差係数):証書などで環境価値が主張済みの分を除いた「残りの電気」の排出係数。日本では整備途上。
- ヴィンテージ:証書の対象となる発電の期間。使用期間と近いことが品質基準で求められます。
- 追加性:その調達が「新しい再エネを世の中に増やしたか」という概念。新設電源とのPPAは主張しやすく、既存電源の証書は難しいとされます。
- トラッキング:証書に発電所の情報(場所・電源種・運転開始日)を紐づけること。RE100対応の実質的な必須要件です。
- グラニュラー証書:時間情報(発電された時間帯)付きの証書。24/7 CFEやアワリーマッチングの基盤になります。
- 基礎排出係数/調整後排出係数:SHK制度で電気事業者ごとに公表される2種類の係数。調整後は環境価値の反映後の値です。
まとめ
- Scope2は購入した電気・熱・蒸気・冷熱の使用に伴う間接排出。多くの企業でScope1より大きく、削減手段が最も豊富。
- 算定はロケーション基準(地域平均)とマーケット基準(契約反映)の2本立てで、両方の報告(デュアルレポーティング)が求められる。
- マーケット基準で使えるのは再エネメニュー・証書・PPA・自家消費。品質基準(二重主張の禁止など)を満たすことが前提。
- 日本ではSHK制度(調整後排出係数)と用語が交錯するため、どの制度の数字かを常に明示する。
- 改定では時間(アワリーマッチング)と場所(デリバラビリティ)が論点。時間別データの整備は先回りの価値がある。
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→ 環境価値とは|非化石証書・グリーン電力証書・Jクレジットの違いと買い方
→ GHG削減の方法|中小企業は何から?打ち手の優先順位・費用対効果と非化石証書の使い方
出典・参考資料(一次情報)
※環境省・資源エネルギー庁のページは自動取得が制限される場合があります。ブラウザでご覧ください。
GHG Protocol|Scope 2 Guidance/ 環境省|温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度(SHK)/ 資源エネルギー庁|非化石価値取引について
よくある質問(FAQ)
Q. Scope2とは何ですか?Scope1との違いは?
A. Scope2は、他社から購入した電気・熱・蒸気・冷熱を自社で使用することに伴う間接排出です。自社が燃料を直接燃やして出す排出はScope1で、たとえば自家発電の燃焼はScope1、電力会社から買った電気はScope2に区分されます。多くのオフィスや工場ではScope2がScope1より大きくなります。
Q. ロケーション基準とマーケット基準はどちらで報告すべきですか?
A. GHGプロトコルは両方で算定・報告するデュアルレポーティングを求めています。ロケーション基準は地域の平均排出係数で物理的な実態を表し、マーケット基準は再エネメニュー・証書・PPAといった契約の選択を反映します。CDP回答や統合報告書でも両方を記載するのが一般的です。
Q. 証書を買えばScope2はゼロにできますか?
A. マーケット基準では、品質基準を満たす証書等で購入電力量をカバーすればScope2をゼロとして計上できます。ただし同じ環境価値の二重主張がないこと、期間や市場の境界が適切であることなどの条件があります。また、GHGプロトコルの改定では時間単位のマッチングや供給可能性を求める方向が議論されており、将来は「いつ・どこで発電された電気か」まで問われる可能性があります。
Q. テナントビルに入居していて電気使用量が分かりません。どう算定しますか?
A. ビルオーナーや管理会社に自社専有部の使用量データ(または按分値)を依頼するのが第一です。取得できない場合は、専有面積比や在席人数比で建物全体から按分する推計が認められています。推計方法を算定方針書に明記し、毎年同じ方法で継続することが重要です。省エネやグリーン電力の導入をオーナーと協働する「グリーンリース」の枠組みも広がりつつあります。
Q. SHK制度の報告値とGHGプロトコルの数字が合いません。問題ですか?
A. 多くの場合、問題ではなく仕様の違いです。SHK制度は電気事業者別の基礎・調整後排出係数を使う国内制度で、GHGプロトコルはロケーション/マーケットの2基準で組織境界も自社で設定します。対象範囲(連結の考え方)・係数・証書の扱いが異なるため、数字は一致しないのが普通です。開示では「どの制度・どの基準の数字か」を必ず明記し、社内でも制度別に数字を管理してください。
Q. 証書はいつ・どれくらい買えばよいですか?
A. 対象年度の電力使用量が確定してから、その年度分の発電に対応する証書(ヴィンテージが近いもの)を必要量だけ調達するのが基本です。非化石証書はオークションの開催時期が決まっているため、年間の調達カレンダーを電力担当と共有しておくと買い逃しを防げます。将来分をまとめ買いするより、毎年の使用実績に合わせて調達するほうが品質基準にも沿います。
最終更新日:2026年8月27日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。