中小企業のサステナビリティ経営とは|求められる理由と脱炭素・ESG対応の始め方を解説

2026.07.12
環境情報

「サステナビリティやESGは、大企業が取り組むもの」。かつては、そう考えられていました。しかし、その常識はいま、大きく変わりつつあります。取引先からCO2排出量の提出を求められたり、金融機関から脱炭素の方針を尋ねられたり。中小企業のサステナビリティ経営は、もはや他人事ではなくなってきました。本記事では、なぜいま中小企業にサステナビリティ経営が求められるのか、そして何から始めればよいのかを、環境省や経済産業省の情報をもとに、実務目線で整理します。

この記事の目次

中小企業のサステナビリティ経営とは(おさらい)

まず、中小企業にとってのサステナビリティ経営がどのような取り組みで、なぜ「自社には関係ない」では済まなくなっているのかを整理しましょう。

もう、大企業だけの話ではない

これまでの認識サステナビリティは大企業のもの
いまの現実サプライチェーンを通じて中小企業にも要請が届く

中小企業は日本の温室効果ガス排出量の約2割を占めるとされる。

出典:環境省の情報をもとにgreenote作成

脱炭素やESGを経営に取り入れること

中小企業のサステナビリティ経営とは、脱炭素(CO2削減)やESG(環境・社会・ガバナンス)の視点を、自社の経営に取り入れて進める取り組みを指します。難しく身構える必要はありません。使うエネルギーを減らす、廃棄物を見直す、働きやすい職場をつくる。こうした活動の延長線上にあるものです。

大企業のように専門部署を置いたり、分厚い報告書をつくったりする話とは限りません。むしろ中小企業では、日々の事業の効率化や、取引先との信頼づくりと一体で進めるのが現実的です。ESGの基礎そのものは、関連記事のESG情報開示とはもあわせてご覧ください。

中小企業も「無関係」ではいられない

かつて、サステナビリティは大企業のテーマだと見なされてきました。しかし、その構図はすでに変わっています。中小企業は、日本全体の温室効果ガス排出量の約2割を占めるとされ、2050年のカーボンニュートラルを実現するうえで欠かせない存在です。

そして何より、後述するように、取引先を通じて対応を求められる場面が急速に増えてきました。「自社は小さいから関係ない」という理屈が、通用しなくなりつつあるのです。脱炭素の全体像は、関連記事のカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。

なぜいま中小企業に求められるのか

背景にあるのは、法規制よりもむしろ「取引を通じた要請」です。3つの流れから見ていきましょう。

要請は、取引を通じて降りてくる

大企業サプライチェーン全体の排出(Scope3)の開示・削減を迫られる
取引先である中小企業へCO2排出量の把握や削減を求める
金融機関融資判断で評価
取引先選定の条件に
求職者企業選びの基準に

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

取引先(大企業)のScope3から降りてくる要請

最も大きな流れが、サプライチェーンを通じた要請です。大企業は、自社の直接排出だけでなく、原材料の調達から製品の使用まで、サプライチェーン全体の排出量(Scope3)の開示と削減を求められるようになりました。

そして、そのScope3の多くは、取引先である中小企業の活動から生まれます。だからこそ大企業は、取引先にCO2排出量の把握や削減を求め始めています。品質や価格だけでなく、CO2の見える化ができているかが、取引の条件に加わりつつあるのです。Scope3の考え方は、関連記事のScope3とはもあわせてご覧ください。

資金調達・受注・採用への波及

要請は、取引先だけにとどまりません。金融機関は、融資や投資の判断において、企業の脱炭素への姿勢を評価に加えるようになってきました。脱炭素に取り組む企業ほど、資金を調達しやすくなる流れが生まれています。

さらに、影響は人材にも及びます。就職先を選ぶ際に、企業の環境や社会への姿勢を重視する人が増えてきました。サステナビリティへの取り組みは、優秀な人材を惹きつけ、つなぎとめる力にもなります。取引・資金・人材という経営の要所に、静かに、しかし確実に波及しているのです。

取り組むメリット

サステナビリティ経営は、コストや義務であるだけではありません。中小企業にとっての実利を整理しましょう。

義務ではなく、成長の機会

コスト削減省エネで光熱費などを抑える
受注機会脱炭素を求める大企業から選ばれる
資金調達金融機関からの評価が高まる
人材採用と定着に効く

取り組みの多くが、そのまま経営の効率化につながる。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

第一のメリットは、コスト削減です。省エネルギーは、CO2を減らすと同時に、光熱費や燃料費の削減に直結します。取り組みの多くが、そのまま経営の効率化につながるのです。

第二は、受注機会の確保。脱炭素を求める大企業にとって、対応できる取引先は貴重です。CO2の見える化や削減の実績が、選ばれる理由になるでしょう。第三に、金融機関からの評価が高まり、資金調達で有利に働くこともあるでしょう。そして第四が、人材の採用と定着です。サステナビリティに前向きな企業は、働き手にとっても魅力的な存在。義務ではなく機会として捉える。その視点が、取り組みを前向きなものに変えてくれるでしょう。

何から始めるか(進め方のステップ)

難しく考える必要はありません。多くの支援策が示す進め方は、おおむね共通しています。3つのステップで整理します。

まず見える化、から始める

STEP 1見える化電気やガスの使用量からCO2排出量を把握する
STEP 2目標と削減削減目標を立て、省エネ・再エネへ
STEP 3開示取引先や求職者にできる範囲で伝える

最初から完璧を目指さず、身近なデータから着手するのが現実的。

出典:各種支援策をもとにgreenote作成

まず排出量の「見える化」から

最初の一歩は、自社がどれだけCO2を出しているかを把握する見える化(算定)です。何を、どれだけ減らすべきか。それは、現状を測ってはじめて見えてきます。とはいえ、いきなり精緻な算定は要りません。

まずは、電気やガス、燃料の使用量といった、手元にある身近なデータから始めるのが現実的です。国や自治体が提供する算定ツールを使えば、専門知識がなくても大枠をつかめます。排出量を測る道具については、関連記事のCO2排出量算定ツールとはもあわせてご覧ください。

削減目標を立て、省エネ・再エネへ

見える化ができたら、次は削減目標を立てます。「いつまでに、どれだけ減らすか」という目印です。そのうえで、具体的な削減策に取り組みます。

まず効果が大きいのが、省エネルギーです。設備の更新や運用の見直しで、無駄なエネルギーを減らします。さらに、太陽光発電の導入や、再生可能エネルギー由来の電力への切り替えも有力な手段の一つ。再エネ電力の調達方法は、関連記事の再生可能エネルギー調達とPPAとはもあわせてご覧ください。

できる範囲で開示する

取り組みは、社内にとどめず、外へ伝えることにも意味があります。取引先や金融機関、求職者に向けて、できる範囲で開示しましょう。大企業のような詳細な報告書は要りません。

自社のウェブサイトや会社案内で、目標や取り組みを簡潔に示すだけでも十分な第一歩になるのです。大切なのは、背伸びをせず、事実を誠実に伝えることです。取り組みを続けながら、開示の内容も少しずつ充実させていけばよいのです。

中小企業を支える制度・仕組み

一社だけで抱え込む必要はありません。国や制度が、中小企業の取り組みを後押ししています。代表的なものを紹介します。

一社で抱え込まなくていい

中小企業版SBT手続きが簡素な削減目標の認定。2030年度までにScope1・2の削減目標を設定する
パートナーシップ構築宣言取引先との共存共栄を宣言。宣言企業は10万社規模に広がる
国の支援環境省・経産省の脱炭素経営支援。算定ツールや設備投資の補助

取引先や支援機関を頼りながら進めるのが、無理なく続けるコツ。

出典:環境省・経済産業省の情報をもとにgreenote作成

中小企業版SBT

削減目標を立てるとき、頼りになるのが中小企業版SBTです。SBTとは、科学的根拠に基づく削減目標を認定する国際的な枠組みで、その中小企業向けの仕組みが用意されています。

中小企業版では、2030年度までにScope1・2(自社の直接排出と、購入した電力による排出)の削減目標を設定します。大企業版のような詳細な審査を経ずに認定を受けられるため、第一歩を踏み出しやすいのが特長です。「何を目標にすればよいかわからない」という企業にとって、心強い指針となるでしょう。SBTの基礎は、関連記事のSBTとはもあわせてご覧ください。

パートナーシップ構築宣言と国の支援

もう一つ知っておきたいのが、経済産業省が旗を振るパートナーシップ構築宣言です。これは、大企業と取引先が、規模の壁を越えて共存共栄の関係を築くことを宣言する取り組みで、宣言した企業は10万社規模に広がりました。脱炭素の支援も、その一環に位置づけられています。

さらに、環境省と経済産業省は、中小企業向けの脱炭素経営支援を進めています。地域ぐるみで相談できる体制づくりや、算定ツールの提供、脱炭素に向けた設備投資への補助など、その中身は多岐にわたります。取引先や支援機関を頼りながら進める。それが、無理なく続けるための現実的な道すじです。責任ある調達の観点は、関連記事の責任ある調達とはもあわせてご覧ください。

課題と続けるコツ

とはいえ、中小企業ならではの難しさもあります。無理なく続けるための考え方を整理しましょう。

完璧を目指さず、一歩ずつ

よくある課題続けるコツ
人手・専門知識が足りない
支援機関や算定ツールを頼る
コストの負担が心配
省エネなど費用対効果の高いものから
何から手をつけるか迷う
まず見える化の一歩から始める

完璧を目指すより、続けることが何より大切。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

中小企業がぶつかりやすい壁は、主に3つです。第一に、人手や専門知識の不足があります。専任の担当を置く余裕がない企業も少なくありません。第二に、設備投資などのコスト負担への不安です。そして第三が、「何から手をつければよいかわからない」という戸惑いになります。

これらの壁は、工夫で乗り越えられます。人手や知識の不足は、地域の支援機関や算定ツールを頼れば補えます。コストは、まず省エネのように費用対効果の高いものから始めれば、投資を抑えられます。そして着手の迷いには、「まず見える化の一歩から」と割り切ることです。完璧を目指すより、続けることが何より大切になります。小さな一歩の積み重ねが、やがて確かな力に変わっていきます。

まとめ|サステナビリティ経営は中小企業の「成長戦略」

中小企業のサステナビリティ経営は、負担ではなく、これからの時代を生き抜くための備えです。最後に、要点を振り返りましょう。

  • 中小企業のサステナビリティ経営とは、脱炭素やESGの視点を経営に取り入れること。日本のGHG排出の約2割を中小企業が占める
  • 求められる最大の理由は、取引先(大企業)のScope3から降りてくる要請。資金調達・受注・採用にも波及する
  • メリットは、コスト削減・受注機会・資金調達・人材の4つ。義務ではなく成長の機会
  • 進め方は、見える化→削減目標と省エネ・再エネ→開示の順。身近なデータから始める
  • 中小企業版SBTやパートナーシップ構築宣言、国の支援を活用できる。一社で抱え込まない

サステナビリティ経営は、いまや大企業だけのものではありません。取引先や社会からの期待に応えることは、中小企業にとって新たな受注や信頼、そして人材を呼び込む力になります。完璧でなくてよいのです。まず自社の足元を見える化し、できることから一歩を踏み出す。その積み重ねが、変化の時代を生き抜く成長戦略になっていきます。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

よくある質問(FAQ)

Q. 中小企業のサステナビリティ経営とは何ですか?

A. 脱炭素(CO2削減)やESG(環境・社会・ガバナンス)の視点を、中小企業が自社の経営に取り入れて進める取り組みです。大企業だけのものと思われがちですが、中小企業は日本全体の温室効果ガス排出量の約2割を占めるとされ、サプライチェーンを通じて取り組みが求められる場面が増えています。省エネによるコスト削減や、取引先からの受注、人材採用にもつながる、実利のある経営テーマです。

Q. なぜ中小企業にもサステナビリティ経営が求められるのですか?

A. 最大の理由は、法規制よりも「取引を通じた要請」です。大企業は自社のサプライチェーン全体の排出量(Scope3)の開示・削減を求められており、その一環として、取引先である中小企業にもCO2排出量の把握や削減を求めるようになっています。加えて、金融機関の融資判断や、取引先の選定、求職者の企業選びにも影響が及び始めており、対応しないことがリスクになりつつあります。

Q. 中小企業がサステナビリティ経営に取り組むメリットは何ですか?

A. 主に4つあります。省エネルギーによる光熱費などの「コスト削減」、脱炭素を求める大企業から選ばれることによる「受注機会の確保」、金融機関からの評価や資金調達での「有利さ」、そしてサステナビリティに関心の高い人材の「採用・定着」です。義務やコストとしてではなく、成長の機会として捉える企業が増えています。

Q. 中小企業は何から始めればよいですか?

A. 多くの支援策が示す進め方は共通しています。第一に、自社のCO2排出量を把握する「見える化(算定)」から始めます。次に、削減目標を立て、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入といった具体策に取り組みます。そして、取り組みの内容を取引先や求職者に向けてできる範囲で開示します。最初から完璧を目指さず、電気やガスの使用量など身近なデータからの着手が現実的です。

Q. 中小企業版SBTとは何ですか?

A. SBTi(科学的根拠に基づく目標を認定する国際的な枠組み)が、中小企業向けに提供する削減目標の認定制度です。通常のSBTより手続きが簡素で、2030年度までにScope1・2(自社の直接排出と購入電力による排出)の削減目標を設定します。大企業版のように詳細な審査を経ずに認定を受けられるため、中小企業が第一歩を踏み出しやすい仕組みになっています。

Q. 中小企業を支える国の制度にはどんなものがありますか?

A. 経済産業省の「パートナーシップ構築宣言」は、大企業と取引先が共存共栄の関係を築くための宣言で、宣言企業は10万社規模に広がり、脱炭素支援もその一環に位置づけられています。また、環境省・経済産業省は中小企業向けの脱炭素経営支援を進め、地域ぐるみの支援体制づくり、算定ツールの提供、設備投資への補助などに取り組んでいます。一社で抱え込まず、こうした支援を活用することが現実的です。

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

最終更新日:2026年7月12日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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