「カーボンクレジットという言葉はよく聞くが、どう生まれ、どう使うものなのかが今ひとつ分からない」。脱炭素やIRの現場では、こうした声が増えてきました。
カーボンクレジットとは、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を数値化し、売買できるようにした証明書です。森林保全や再エネ導入などで生じた削減・吸収量を「クレジット」として認証し、取引します。購入した企業は、その分を自社の排出削減に充てられます。
本記事では、カーボンクレジットの仕組み、コンプライアンス市場とボランタリー市場の違い、日本のJ-クレジット制度、種類と創出方法、企業の活用方法、そして注意点までを順に解説します。実務の判断に使える形へ整理しました。お役に立てれば幸いです。
カーボンクレジットの仕組み
削減・吸収量を数値化して売買できる証明書
A社:CO2を削減・吸収
森林保全・再エネ・省エネ等で削減/吸収を実現
第三者がクレジット化
削減・吸収量を認証し「クレジット」を発行
B社:購入してオフセット
クレジットを買い自社の排出を相殺
削減が得意な担い手と、オフセットを必要とする企業を結びつける仕組みです。あくまで自社削減を補う補完的な手段です。
≡目次
- 1カーボンクレジットとは|CO2の削減・吸収量を売買できる証明書
- ►カーボンクレジットの定義(削減・吸収量の価値化)
- ►基本の仕組み|創出・認証・取引・相殺
- ►カーボン・オフセットとの関係
- 22つの市場|コンプライアンス市場とボランタリー市場
- ►コンプライアンス市場(規制・義務/GX-ETS)
- ►ボランタリー市場(自主的な取引)
- ►主な国際認証|Verra・Gold Standard
- 3J-クレジット制度とは|日本のクレジット制度
- ►J-クレジット制度の概要(国が認証)
- ►創出者と購入者|誰がどう関わるか
- ►取引の場と価格水準(東証カーボン・クレジット市場)
- 4カーボンクレジットの種類と創出方法
- ►主な種類|J-クレジット・JCM・ボランタリークレジット
- ►創出方法|省エネ・再エネ・森林・農業
- ►クレジットの品質と「追加性」
- 5企業の活用方法と購入の流れ
- ►活用シーン|オフセット・報告・GX-ETS・PR
- ►購入・調達の進め方
- ►Scope3やSBTとの関係
- 6カーボンクレジットの課題と注意点
- ►グリーンウォッシュと品質への懸念
- ►自社の削減が優先(あくまで補完的)
- ►価格変動と将来の需給
- 7まとめ|カーボンクレジットは「自社削減を補完する」手段
- 8よくある質問(FAQ)
カーボンクレジットとは|CO2の削減・吸収量を売買できる証明書
カーボンクレジットとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの削減量・吸収量を「価値」として認証し、取引できるようにしたものです。環境への貢献を、お金に換えられる仕組みと言えます。まずは定義と基本の流れを押さえましょう。
カーボンクレジットの定義(削減・吸収量の価値化)
カーボンクレジットの核心は、CO2の削減・吸収という見えにくい成果を、数値化して権利にする点にあります。解説動画『カーボンクレジット制度とは?』でも、企業や自治体が実施したCO2削減を「価値として権利化」し、売却できるようにしたものだと説明されていました。
たとえば、森林を適切に管理すればCO2が吸収されます。その吸収量に価値をつけ、取引できる形にしたものがクレジットです。環境に優しい活動が、そのまま経済的な価値になる。ここがカーボンクレジットの面白さであり、要点でもあるのです。
基本の仕組み|創出・認証・取引・相殺
クレジットは、おおむね4つの段階を経て使われます。まず削減・吸収の取り組みでクレジットを「創出」し、第三者の「認証」を受けます。次に市場で「取引」され、購入した企業が自社の排出を「相殺」する、という流れです。
解説動画『カーボンクレジットとは?』では、ある企業が森林保全で年間10万トンの削減を達成して10万クレジットを得て、削減目標に届かない別の企業がそれを購入し、自社の排出を10万トン削減したと見なせる、という例が示されていました。削減した側と、足りない側をつなぐ仕組みなのです。
カーボン・オフセットとの関係
カーボンクレジットと密接に関わるのが、カーボン・オフセットです。カーボン・オフセットとは、自社で削減しきれない排出を、他の場所の削減・吸収分で埋め合わせる考え方を指します。この埋め合わせに使われるのが、カーボンクレジットです。
脱炭素の全体像におけるオフセットの位置づけは、関連記事のカーボンニュートラルとは|意味・脱炭素との違いと2050年目標・企業の取り組みでも整理しました。クレジットは、オフセットを実現するための「通貨」のような存在です。
2つの市場|コンプライアンス市場とボランタリー市場
カーボンクレジットが取引される市場は、大きく2種類に分かれます。規制にもとづくコンプライアンス市場と、自主的なボランタリー市場です。それぞれの違いを見ていきましょう。
コンプライアンス市場(規制・義務/GX-ETS)
第一が、コンプライアンス市場です。政府や国際機関が、法律や制度にもとづいて運営する市場を指します。規制への対応という、義務的な性格が強いのが特徴です。
日本では、2026年4月に本格稼働した排出量取引制度「GX-ETS」が、これに当たります。制度の詳細は、関連記事の排出量取引制度(GX-ETS)とは|2026年度の本格稼働と企業への影響で解説しました。対象企業は、排出枠の過不足をこの市場で調整するわけです。
ボランタリー市場(自主的な取引)
第二が、ボランタリー市場です。NPOや民間組織が運営し、企業や個人が自主的にクレジットを売買する市場を指します。規制ではなく、自社のカーボンオフセットやブランディングのために使われる場面が目立ちます。
私たちgreenote編集部の取材でも、製品やイベントの排出をオフセットする目的で、ボランタリー市場のクレジットを調達する企業が増えてきました。義務ではない分、どのクレジットを選ぶかに各社の姿勢が表れるのです。
主な国際認証|Verra・Gold Standard
ボランタリー市場では、信頼できる認証を受けているかが鍵を握ります。代表的な国際認証が、VerraとGold Standardです。解説動画『カーボンクレジットとは?』によれば、Verraは世界最大の認証機関で、森林保全や農業、廃棄物管理など幅広いプロジェクトを認証しています。
Gold Standardは、排出削減プロジェクトが地域に悪影響を与えていないか、SDGsへの貢献につながっているかを重視する点が特徴です。第三者による認証を受けていないクレジットは、信頼性に欠け、グリーンウォッシュと批判されるリスクすらあります。認証は、クレジットの品質を支える土台なのです。
2つの市場|コンプライアンスとボランタリー
運営主体・性格・日本の代表例で整理
| 市場 | 運営主体 | 性格 | 日本の代表例 |
|---|---|---|---|
| コンプライアンス 市場 | 政府・国際機関 | 規制・義務 | GX-ETS(2026年4月本格稼働) |
| ボランタリー 市場 | NPO・民間組織 | 自主的 | J-クレジット |
ボランタリー市場では、Verra・Gold Standard などの第三者認証を受けたクレジットの信頼性が重視されます。
J-クレジット制度とは|日本のクレジット制度
日本独自のカーボンクレジット制度が、J-クレジット制度です。国が削減・吸収量を認証し、創出者と購入者の間で取引されます。制度の概要と取引の実態を整理しましょう。
J-クレジット制度の概要(国が認証)
J-クレジットの「J」は、ジャパンを意味します。省エネ設備の導入や再生可能エネルギー、森林管理などによるCO2の削減・吸収量を、国が認証してクレジット化する制度です。国が認証する点こそ、信頼性の裏づけです。
解説動画『カーボンクレジット制度とは?』でも、CO2削減のために森林を管理したり省エネ設備を入れたりする取り組みを、国が売買できる仕組みとして整えてくれる制度だと紹介されていました。公的な制度である点が、J-クレジットの安心感を生みます。
創出者と購入者|誰がどう関わるか
J-クレジットには、創出する側と購入する側がいます。創出者は、削減・吸収の取り組みを行う中小企業や自治体、森林所有者などです。認証されたクレジットを売却し、取り組みの費用を回収できます。
一方の購入者は、主に大企業などです。自社のカーボンオフセットや各種報告のためにクレジットを買います。削減が得意な担い手と、オフセットを必要とする企業を結びつける。J-クレジットは、こうした橋渡しの役割を果たすのです。
取引の場と価格水準(東証カーボン・クレジット市場)
J-クレジットは、相対取引のほか、東京証券取引所の「カーボン・クレジット市場」でも取引されています。取引の場が整い、価格の透明性が高まってきました。価格の目安も知っておきたいところです。
解説動画『カーボンクレジットの基礎』によれば、2024年度のJ-クレジットのプロジェクト登録は約1,260件で、取引価格は1トン(tCO2)あたり、おおむね1,500〜5,000円程度で推移しているとされます。種類や創出方法によって、価格には幅が出ます。
J-クレジット制度の流れ
日本独自の制度|国が削減・吸収量を認証
中小企業・自治体・森林所有者など
省エネ・再エネ・森林管理でCO2を削減/吸収
J-クレジットとして認証
削減・吸収量を国が認証しクレジット化
企業など
カーボンオフセットや各種報告に活用
取引は相対取引のほか、東京証券取引所の「カーボン・クレジット市場」でも行われています。
カーボンクレジットの種類と創出方法
カーボンクレジットには、J-クレジットのほかにもいくつかの種類があります。また、クレジットはさまざまな取り組みから創出されます。主な種類と創出方法を整理しましょう。
主な種類|J-クレジット・JCM・ボランタリークレジット
クレジットの種類は、運営主体によって分かれます。国内ではJ-クレジットが中心です。これに加え、日本が途上国と協力して削減を実現するJCM(二国間クレジット制度)もあります。
さらに、VerraやGold Standardが認証する海外のボランタリークレジットも、国際的に流通しています。どの種類を選ぶかは、活用の目的によって変わってきます。報告先が求める基準に合っているかを確認することが大切です。
創出方法|省エネ・再エネ・森林・農業
クレジットは、多様な取り組みから創出されます。代表的なのが、省エネ設備の導入、太陽光など再生可能エネルギーの活用、そして森林の適切な管理による吸収です。再エネ調達の手法は、関連記事の再生可能エネルギー調達とPPAとは|調達手法の種類と企業の選び方も参考になります。
近年は、農業分野での創出も広がってきました。たとえば、バイオ炭を農地に施用する手法などです。自社の事業や保有資産に合った創出方法を選ぶことが、現実的な第一歩です。
クレジットの品質と「追加性」
クレジットを語るうえで欠かせないのが、「品質」と「追加性」です。追加性とは、そのクレジットがなければ実現しなかった削減か、という考え方を指します。放っておいても起きる削減では、追加的な価値とは認められません。
品質の低いクレジットに頼れば、実際には地球全体の排出が減らない恐れもあります。だからこそ、認証の有無や創出方法を見極める目が欠かせません。安いだけで選ぶと、かえって信頼を損なう結果になりかねません。
カーボンクレジットの主な創出方法
削減・吸収の取り組みからクレジットが生まれる
省エネ
設備更新などでエネルギー消費を削減
再エネ
太陽光・風力など再生可能エネルギーの導入
森林
適切な管理・植林でCO2を吸収
農業
バイオ炭の施用など農地での取り組み
自社の事業や保有資産に合った方法を選びます。「追加性」(その取り組みがなければ実現しなかった削減か)が品質の鍵です。
企業の活用方法と購入の流れ
企業はカーボンクレジットを、カーボンオフセットや各種報告、PRなどに活用できます。購入の流れもあわせて、実務的な使い方を整理しましょう。
活用シーン|オフセット・報告・GX-ETS・PR
活用の場面は、実に多彩です。最も基本的なのが、削減しきれない排出を埋め合わせるカーボンオフセットです。加えて、SBTやCDPといった枠組みへの報告、GX-ETSでの調整、製品やイベントのカーボンオフセットによるPRなどにも使われます。
目標設定との関係では、関連記事のSBT(Science Based Targets)とは|認定基準・取得のメリットと進め方もあわせてご覧ください。用途によって、求められるクレジットの種類や品質は変わってきます。
購入・調達の進め方
購入の方法は、大きく分けて3通りです。仲介する事業者を通じて買う方法、東証のカーボン・クレジット市場で取引する方法、創出者から直接調達する方法です。自社の規模や目的に応じて、適した経路を選びます。筆者が見るかぎり、まず少量を調達して社内の理解を広げてから本格化する企業が多いものです。
大切なのは、目的に合った種類・認証のクレジットを選ぶことです。報告に使うなら、報告に使うなら、報告先が認める基準を満たすか、必ず確認したいところです。価格だけでなく、信頼性と用途への適合を見て選ぶ姿勢が欠かせません。
Scope3やSBTとの関係
クレジットの活用は、排出量の算定とも関わります。まず自社の排出量を正確に把握していなければ、どれだけオフセットすべきかも分かりません。サプライチェーン全体の排出は、関連記事のスコープ3排出量の算定方法|15カテゴリの分類と実務の進め方で詳しく扱いました。
SBTなどの枠組みでは、クレジットによる相殺の扱いに一定のルールがあります。自社の削減を優先し、残った分にクレジットを充てる、という順序が基本です。算定と削減の土台があってこそ、クレジットが活きてきます。
カーボンクレジットの課題と注意点
カーボンクレジットは「毒にも薬にもなる」とも言われます。便利な一方で、使い方を誤ると逆効果にもなりかねません。主な注意点を押さえておきましょう。
グリーンウォッシュと品質への懸念
第一の注意点が、グリーンウォッシュです。品質や追加性の不十分なクレジットで「カーボンニュートラル達成」とうたえば、見せかけの取り組みと批判されかねません。安価なクレジットの大量購入で帳尻を合わせるやり方は、特に警戒される対象です。
回避の基本は、信頼できる認証のクレジットを選び、自社の削減実績とあわせて誠実に開示することです。情報開示の考え方は、関連記事のESG情報開示とは|基礎・開示の枠組みと企業が押さえるポイントで整理しました。
自社の削減が優先(あくまで補完的)
第二の、そして最も重要な注意点が、優先順位です。解説動画『カーボンクレジットとは?』でも、自社の排出削減に取り組まずクレジット頼みになってはいけない、あくまで補完的なものと認識すべきだと強調されていました。
クレジットありきの経営は、短期的には数字を整えられても、本質的な脱炭素にはつながりません。まず自社で減らし、どうしても残る分をクレジットで補う。この順序を守ることが、健全な活用の前提です。
価格変動と将来の需給
第三の注意点が、価格と需給です。クレジットの価格は、種類や品質、市場の動向によって動きます。GX-ETSの本格稼働で需要が高まる一方、各社の削減が進めば、いずれ需要は落ち着くとの見方もあるのです。
長期の調達計画では、価格変動のリスクも織り込んでおきたいところです。クレジットを「いつ・どれだけ・どの種類で」確保するか。中長期の視点で考えることが、安定した活用につながるはずです。
カーボンクレジットの課題と注意点
「毒にも薬にもなる」ツール。健全に使う3視点
| 注意点 | リスク | 対応策 |
|---|---|---|
| グリーン ウォッシュ | 低品質クレジットで見せかけの達成 | 信頼できる認証を選び、自社実績とあわせ開示 |
| 自社削減の 先送り | クレジット頼みの経営 | 自社削減を優先し、クレジットは補完に |
| 価格変動・ 需給 | 価格が動き調達が不安定 | 中長期で計画的に確保する |
最も大切なのは順序です。まず自社で減らし、どうしても残る分をクレジットで補う、という姿勢が健全な活用の前提です。
まとめ|カーボンクレジットは「自社削減を補完する」手段
カーボンクレジットとは、CO2の削減・吸収量を数値化し、売買できるようにした証明書でした。規制にもとづくコンプライアンス市場(GX-ETS)と、自主的なボランタリー市場があり、日本独自のJ-クレジット制度では国が認証します。
種類はJ-クレジット・JCM・ボランタリークレジットなど多様で、省エネや森林管理といった取り組みから創出されます。企業はオフセットや報告に活用できますが、グリーンウォッシュや品質には注意が要ります。何より大切なのは、自社の削減を優先し、クレジットはあくまで補完として使うという順序です。
まずは自社の排出量を把握し、削減を進めたうえで、補完手段としてのクレジット活用を検討してみてはいかがでしょうか。greenoteでは、ESG・脱炭素に関する実務情報を今後もお届けしていきます。
よくある質問(FAQ)
Q. カーボンクレジットとは何ですか? A. カーボンクレジットとは、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を数値化し、売買できるようにした証明書です。森林保全や再生可能エネルギー、省エネなどの取り組みで生じた削減・吸収量をクレジットとして認証し、取引します。購入した企業は、その分を自社の排出削減(カーボンオフセット)に充てることができます。
Q. J-クレジットとは何ですか? A. J-クレジットは、日本独自のカーボンクレジット制度です。省エネ設備の導入や再生可能エネルギー、森林管理などによるCO2の削減・吸収量を、国が認証してクレジット化します。創出した中小企業・自治体・森林所有者などが売却し、購入した企業がカーボンオフセットや各種報告に活用します。
Q. コンプライアンス市場とボランタリー市場の違いは? A. コンプライアンス市場は、政府や国際機関が法令にもとづいて運営する市場で、規制対応など義務的な性格が強いものです。日本では2026年4月に本格稼働したGX-ETSが該当します。一方ボランタリー市場は、企業や個人が自主的にクレジットを売買する市場で、日本ではJ-クレジットが代表例です。
Q. カーボンクレジットはどのように活用できますか? A. 削減しきれない自社の排出を相殺するカーボンオフセットのほか、SBTやCDPなどへの報告、GX-ETSでの調整、CSRやブランディングなどに活用できます。購入は、仲介事業者や取引所、創出者からの直接購入などを通じて行います。用途に合った種類・認証のクレジットを選ぶことが大切です。
Q. カーボンクレジットの価格はどのくらいですか? A. クレジットの種類や創出方法によって価格は幅があります。日本のJ-クレジットの場合、2024年度の取引価格は1トン(tCO2)あたり、おおむね1,500〜5,000円程度で推移しているとされます。海外のボランタリークレジットは、プロジェクトの種類や品質によってさらに価格差が大きくなります。
Q. カーボンクレジットの注意点は何ですか? A. 最大の注意点は、自社の排出削減に取り組まずクレジット頼みになってしまうことです。クレジットはあくまで補完的な手段であり、削減努力を中心に据える必要があります。また、品質や追加性が不十分なクレジットに頼ると、グリーンウォッシュと批判されるリスクもあります。信頼できる認証のクレジットを選ぶことが重要です。