SBT(Science Based Targets)とは|認定基準・取得のメリットと進め方を解説

サステナビリティ開示

「取引先からSBTの取得を要請されたが、何を求められているのか、自社に取得できるのかが分からない」。脱炭素やサステナビリティの現場では、こうした戸惑いの声が増えてきました。

SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定が求める水準と整合する、科学的根拠にもとづいた温室効果ガスの削減目標です。企業が掲げる削減目標が、世界の気温上昇を1.5℃に抑える水準に合っているかを、国際的なイニシアチブが認定します。

本記事では、SBTの定義、通常版・中小企業版・ネットゼロという種類、認定の要件、取得のメリット、進め方とステップ、そしてつまずきやすいポイントまでを順に解説します。実務の判断に使える形へ整理しました。お役に立てれば幸いです。

SBT(Science Based Targets)の仕組み

科学的根拠にもとづく削減目標を国際的に認定する

STEP 1

企業が削減目標を設定

5〜15年先の温室効果ガス削減目標を掲げる

STEP 2

1.5℃水準と整合を審査

パリ協定が求める水準に合っているかを確認

STEP 3

SBTiが認定

国際イニシアチブが科学的な目標として認定

企業の削減目標がパリ協定の1.5℃水準に整合しているかを、国際的なイニシアチブ(SBTi)が客観的に認定する仕組みです。

目次

SBTとは|パリ協定と整合する科学的根拠に基づく削減目標

SBTとは、パリ協定の目標と整合する形で、企業が科学的根拠にもとづいて定める温室効果ガスの削減目標を指します。第三者が「お墨付き」を与える認定の仕組みです。まずは定義と全体像を押さえましょう。

SBTの定義と「1.5℃水準」

SBTの核心は、削減目標が「科学が求める水準」に裏打ちされている点にあります。多くの企業が中長期の削減目標を掲げていますが、その水準がパリ協定の求めるものと整合しているかは、外からは分かりにくいものでした。SBTは、ここに客観的な基準を持ち込みます。

基準となるのが、世界の気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えるという水準です。解説動画『SBTとは?中小企業のSBT取得方法について解説』でも、企業が設定する5〜15年先の削減目標がパリ協定の求める水準と整合しているかを認定するのがSBTだと説明されていました。脱炭素という長期の方向性は、関連記事のカーボンニュートラルとは|意味・脱炭素との違いと2050年目標・企業の取り組みもあわせてご覧ください。

SBTiとは(CDP・WWF・WRI・国連グローバル・コンパクト)

SBTを認定しているのが、SBTi(Science Based Targets initiative)という国際的なイニシアチブです。SBTiは、環境情報開示を扱うCDP、世界自然保護基金(WWF)、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトという4つの団体が共同で運営しています。

いずれも、気候変動の分野で国際的に認知された組織です。複数の権威ある団体が共同で運営している点こそ、SBTの信頼性の土台です。だからこそ、認定を受けた目標は対外的に通用する「科学的な目標」として受け止められるのです。

対象となる排出量(Scope1・2・3)

SBTが対象とするのは、温室効果ガスの排出量です。排出量は、Scope1(自社の直接排出)、Scope2(購入した電力・熱由来の間接排出)、Scope3(サプライチェーン全体の排出)の3つに分けて捉えます。

とりわけ重要なのが、自社の外で生じるScope3です。原材料の調達先や製品の使用段階など、バリューチェーン全体の排出が含まれます。Scope3の算定実務は、関連記事のスコープ3排出量の算定方法|15カテゴリの分類と実務の進め方で詳しく扱いました。SBTでは、この広い範囲をどう捉えるかが論点になってきます。

SBTの種類|通常版・中小企業版・ネットゼロ

SBTには、企業の規模や目的に応じていくつかの種類があります。大企業向けの通常版、中小企業向けの簡易な中小企業版、そして長期のネットゼロ基準です。それぞれの違いを整理しましょう。

通常版SBT(5〜15年の中期目標)

通常版SBTは、主に大企業が取得するものです。基準年から5〜15年先までの中期目標を設定し、Scope1・2・3を対象に、SBTiが定める多くの要件を満たす必要があります。求められる水準は高く、その分だけ取り組みの本気度を示せます。

審査は厳格で、目標の妥当性が一つひとつ確認されます。要件を満たすには相応の体制が要りますが、認定を得られれば対外的な評価につながるはずです。本格的に脱炭素経営へ踏み込む企業向けの枠組みと言えるでしょう。

中小企業版SBT(従業員500名未満・簡易ルート)

一方、従業員500名未満の中小企業には、中小企業版SBTという簡易なルートが用意されています。取得プロセスが簡略化され、取得コストも約1,000ドルと安く抑えられている点が特徴です。Scope1・2の削減目標の設定が中心になります。

解説動画『中小企業版SBTとは?』によれば、大企業が自社のカーボンニュートラルを達成するには、Scope3にあたる取引先の協力が欠かせません。そのため、サプライヤーである中小企業にSBT取得を要請する動きが広がっているのです。なお、2024年1月より中小企業版SBTの対象となる企業の定義が変更された点には注意が要ります。

ネットゼロ基準(長期目標)

中期目標に加えて、より長期を見据えた「ネットゼロ基準」も整備されています。これは、2050年ごろまでにバリューチェーン全体の排出を実質ゼロにする、長期の目標を認定する枠組みです。

中期のSBTが「これからの5〜15年」を区切るのに対し、ネットゼロ基準は「最終的なゴール」を定めます。短期と長期の両面から、脱炭素への道筋を描けるわけです。自社の段階に応じて、どの枠組みから着手するかを考えたいところです。

SBTの3つの種類

対象・範囲・特徴で選ぶ

通常版SBT・中小企業版SBT・ネットゼロ基準の比較
種類主な対象対象範囲特徴
通常版SBT大企業Scope1・2・3要件が多く水準が高い(5〜15年の中期目標)
中小企業版
SBT
従業員500名未満Scope1・2が中心簡易ルート・取得コスト約1,000ドル
ネットゼロ
基準
長期目標を持つ企業バリューチェーン全体2050年ごろに実質ゼロを目指す

自社の規模や段階に応じて選びます。中小企業はサプライチェーンの要請を受け、中小企業版から着手する例が増えています。

SBT認定の主な要件

SBTの認定を受けるには、SBTiが定める要件を満たさなければなりません。要件は多岐にわたりますが、核となるのが1.5℃水準への整合と、Scope3の扱いです。主な要件を整理しましょう。

1.5℃水準への整合(2022年7月以降は必須)

かつてSBTには、「2℃を十分に下回る水準」と「1.5℃水準」という選択肢がありました。しかしSBTiは、認定基準を1.5℃水準に引き上げる方針を打ち出しました。2022年7月15日以降に申請する企業は、1.5℃水準に目標を合わせることが求められます

より高い目標が求められるようになった、ということです。それだけ企業には、強く積極的な削減への取り組みが求められます。気候変動への対応が急がれる中で、基準そのものが厳しくなってきた流れと言えるでしょう。

Scope3が合計の40%以上なら目標設定が必要

Scope3の扱いも、重要な要件です。SBTiの要件では、Scope3排出がScope1・2・3合計の40%以上を占める場合、Scope3の削減目標が必須です。多くの企業では排出の大半がScope3に集中するため、ここが避けて通れません。

さらに、設定するScope3目標は、各カテゴリの排出量の3分の2以上をカバーすることが条件です。算定の前提として、Scope3を正確に把握できているかが問われます。算定を支える道具は、関連記事のCO2排出量算定ツールとは|選び方・種類と導入のポイントも参考になるはずです。

GHGプロトコルに沿った算定とグループ単位の設定

排出量の算定は、国際的な基準であるGHGプロトコルに沿って進めます。GHGプロトコルとは、温室効果ガスの算定・報告の方法を定めた国際標準のことです。算定の土台がそろっていないと、目標の妥当性も判断できません。

また、目標は子会社単位ではなく、親会社やグループ全体で設定することが望ましいとされます。連結決算の対象と同じ範囲で捉える、という考え方です。算定の範囲をどう定めるかが、申請の出発点になってきます。

SBT認定の主な要件

押さえておきたい3つのポイント

POINT 1

1.5℃水準への整合

2022年7月15日以降の申請は、目標を1.5℃水準に合わせることが必須です。

POINT 2

Scope3の40%ルール

Scope3が合計の40%以上なら目標が必須。各カテゴリの3分の2以上をカバーします。

POINT 3

GHGプロトコル準拠

国際基準に沿って算定し、親会社・グループ単位で目標を設定します。

要件は多岐にわたりますが、核となるのは「1.5℃水準」と「Scope3の扱い」です。算定の土台づくりが出発点になります。

SBTを取得するメリット

SBTの取得には、対外的な信頼から実務上の効果まで、複数のメリットがあるのです。投資家や取引先からの評価が高まる点が代表的です。主なメリットを見ていきましょう。

投資家・ステークホルダーからの信頼

最大のメリットは、国際的に権威ある認定だからこそ、自社の取り組み姿勢を対外的に示せる点にあるのです。SBTの取得は、「自社も脱炭素に本気で向かっている」という明確な意思表示になります。

ESG投資が広がる中で、投資家は企業の気候変動への姿勢を注視する時代です。ESG投資の考え方は、関連記事のESG投資とは|評価基準・手法と企業が押さえるべきポイントで整理しました。科学的な裏づけのある目標は、対話の場で説得力を持つのです。

取引先に選ばれやすくなる(サプライチェーン)

二つ目のメリットが、取引先との関係です。大企業が自社の排出削減を進めるには、サプライチェーン全体での協力が欠かせません。そのため、SBTを取得した企業は、脱炭素に前向きな取引先として選ばれやすい立場に立ちます。

私たちgreenote編集部の取材でも、建設業や製薬業などでサプライヤーにSBT取得を求める動きが目立ってきました。取得は、単なる環境対応にとどまりません。取引を継続・獲得するための条件になりつつある、というのが実情です。

脱炭素経営の推進とコスト削減

三つ目に、社内への効果も見逃せません。SBTという明確な目標を掲げることで、削減への取り組みに社内の足並みがそろってきます。目標が、関係部門を同じ方向へ導く羅針盤になるわけです。

省エネや再エネへの投資は、長期的にはエネルギーコストの削減にもつながります。脱炭素を「コスト」ではなく「投資」として捉え直す契機にもなるでしょう。対外的な評価と、社内の変革を同時に進められる点が、SBTの強みと言えます。

SBT取得の4ステップ

コミットから公表まで

STEP 1

コミット表明

取得の意思をSBTiに表明する

STEP 2

目標を策定

基準を満たす削減目標をつくる

STEP 3

提出・審査

SBTiへ提出し審査を受ける

STEP 4

認定・公表

認定され目標が公表される

中小企業版は簡易な3ステップ:①Scope1・2の排出量を算定 → ②2030年までの削減目標を決定 → ③SBTのWebサイトから申請(手続きは英語)。

SBT取得の進め方とステップ

SBTの取得は、コミットから目標の策定、提出・審査、公表というステップで進みます。中小企業版には、より簡易なルートが用意されています。費用も含めて進め方を示しましょう。

ステップ1〜4:コミットから公表まで

通常版の取得は、おおむね4つのステップで進みます。まずSBTiにコミットメント(取得の意思)を表明し、次に基準を満たす削減目標を策定します。続いてSBTiへ目標を提出し、審査を受けます。認定されれば、目標が公表される流れです。

審査では、目標が要件に沿っているかが確認されます。一度で通らない場合もあり、目標の練り直しが必要になることもあるでしょう。腰を据えて取り組む姿勢が求められます。

中小企業版の簡易な3ステップ

中小企業版は、もっとシンプルです。解説動画『中小企業版SBTとは?』によれば、取得までは3つのステップに分けられます。第一に自社のScope1・2の排出量を算定し、第二に2030年までの削減目標を決め、第三にSBTのウェブサイトから申請する、という流れです。

ただし、申請手続きはすべて英語で行います。一度でも自社の排出量を算定した経験があれば、難しくはありません。算定の経験がない場合は、外部の支援を活用するのも現実的な選択でしょう。

費用と補助金制度

費用は、種類によって差が出ます。中小企業版の取得コストは約1,000ドルとされ、通常版はこれより高めです。加えて、審査や算定にかかる人的なコストも見込んでおきたいところです。

一方で、中小企業を対象に、SBT認定の取得や排出量算定を支援する補助金が用意される場合もあります。年度によって内容は変わるため、活用を検討する際は最新の公募要領で確認することが欠かせません。費用面の負担は、こうした制度で和らげられる余地があります。

SBTでつまずきやすいポイントと対応策

SBTの取得では、いくつか共通のつまずきが見られます。Scope3の算定、英語での申請、そして取得後の継続的な報告です。先回りして知っておくと、無理のない計画につながるはずです。

Scope3の算定という壁

第一の壁が、Scope3の算定です。多くの企業では、排出の大半が自社の外、すなわちサプライチェーン上で生じます。しかし、取引先のデータを集めること自体が容易ではありません。

筆者が見てきた範囲でも、最初の関門はここに集中します。まずは把握しやすい範囲から着手し、主要な取引先と段階的に連携を広げていくのが現実的です。最初から完璧な精度を求めず、改善を重ねていく姿勢が結果につながります。

英語での申請手続き

第二のハードルが、英語での申請です。SBTiは国際的なイニシアチブのため、提出書類もやり取りも英語で進みます。専門用語も多く、慣れていないと負担に感じられるかもしれません。

社内に対応できる人材がいない場合は、専門のコンサルタントや支援機関の力を借りる手もあります。無理に自社だけで抱え込まず、外部の知見を上手に使うことが、円滑な取得への近道です。

目標達成と継続的な進捗報告

第三に、取得はゴールではなく出発点だという点も押さえておきたいところです。SBTは、認定を受けたあとも、目標に向けた進捗を継続的に開示することが求められます。掲げた目標を達成できなければ、かえって信頼を損ないかねません。

そのため、実現可能でありながら意欲的な目標を、慎重に設計することが大切です。情報開示の進め方は、関連記事のESG情報開示とは|基礎・開示の枠組みと企業が押さえるポイントもあわせて参考になります。取得後の運用まで見据えた計画が、SBTを活きたものにします。

SBTでつまずきやすい3点と対応策

先回りして知っておきたいポイント

SBT取得で陥りやすい課題とその対応策
つまずき課題対応策
Scope3の算定取引先データの収集が難しい把握しやすい範囲から段階的に広げる
英語での申請専門用語が多く負担が大きい支援機関・コンサルの活用
継続的な報告未達はかえって信頼を損なう実現可能で意欲的な目標を設計

取得はゴールでなく出発点です。取得後の進捗報告まで見据えた計画が、SBTを活きたものにします。

まとめ|SBTは脱炭素経営の「信頼される目標」になる

SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定と整合する、科学的根拠にもとづいた温室効果ガスの削減目標でした。CDPやWWFなどが共同運営するSBTiが認定し、2022年7月以降の申請では1.5℃水準への整合が必須となっています。

通常版・中小企業版・ネットゼロという種類があり、自社の規模や段階に応じて選べます。Scope3が合計の40%以上なら目標設定が必要になるなど、要件はScope3の把握が鍵を握ります。取得には投資家や取引先からの信頼という対外的なメリットがあり、サプライチェーンを通じて中小企業にも取得の波が広がってきました。

まずは自社の排出量を把握し、どの種類のSBTが合うかを見極める一歩から始めてみてはいかがでしょうか。greenoteでは、ESG・脱炭素に関する実務情報を今後もお届けしていきます。

よくある質問(FAQ)

Q. SBT(Science Based Targets)とは何ですか? A. SBTとは、パリ協定が求める水準と整合する、科学的根拠にもとづいた温室効果ガスの削減目標です。企業が設定する5〜15年先の中期目標が、世界の気温上昇を1.5℃に抑える水準に合っているかを、国際的なイニシアチブSBTiが認定します。CDP・WWF・WRI・国連グローバル・コンパクトが共同で運営しています。

Q. SBTと中小企業版SBTは何が違いますか? A. 通常版SBTは大企業向けで、Scope1・2・3を対象に多くの要件を満たす必要があります。一方、従業員500名未満の中小企業向けには、取得プロセスを簡略化した中小企業版SBTがあり、Scope1・2の削減目標設定が中心で、取得コストも約1,000ドルと安く設定されています。

Q. SBTの認定にはどんな要件がありますか? A. 最も重要なのが、目標が1.5℃水準に整合していることです。2022年7月15日以降の申請では、1.5℃水準が必須となりました。また、Scope3排出量がScope1・2・3合計の40%以上を占める場合は、Scope3の削減目標も求められます。算定はGHGプロトコルに沿って行います。

Q. SBTを取得するメリットは何ですか? A. 国際的に権威ある認定であるため、投資家やステークホルダーに自社の脱炭素への取り組み姿勢を示せます。サプライチェーン全体で脱炭素が求められる中、取引先から選ばれやすくなる効果も期待できます。あわせて、削減目標を起点としたエネルギーコストの削減にもつながります。

Q. SBTはどうやって取得するのですか? A. 通常版は、コミットメントの表明、目標の策定、SBTiへの提出・審査、公表という流れで進みます。中小企業版は、Scope1・2の排出量を算定し、2030年までの削減目標を決め、SBTのウェブサイトから申請する、という簡易な3ステップです。申請手続きは英語で行います。

Q. SBTの取得に補助金は使えますか? A. 中小企業を対象に、SBT認定の取得や排出量算定を支援する補助金制度が用意される場合があります。環境省や関連機関が公募するものが中心で、年度により内容が変わります。活用を検討する際は、最新の公募要領で対象や金額、申請期間を確認することが大切です。

この記事の著者

greenote編集部

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