カーボンプライシングとは|炭素税・排出量取引の種類と日本の動向を解説

2026.06.12
気候変動

「CO2を出すと、お金がかかる」。そんな仕組みが、世界中で広がっているのが現状です。排出に価格をつけて削減を促す、その政策の総称がカーボンプライシングです。

カーボンプライシングとは、企業などが排出するCO2に価格をつけ、その負担を通じて排出削減を促す政策手法を指します。これまで「タダ」だったCO2排出にコストを負わせることで、人や企業の行動を変えていく。それが基本的な狙いです。

本記事では、カーボンプライシングの意味と仕組みから、炭素税・排出量取引などの明示的な手法、国境調整や社内炭素価格、日本の成長志向型カーボンプライシング、そして世界の動向とメリット・論点まで、わかりやすく解説します。お役に立てれば幸いです。

カーボンプライシングの分類

CO2に価格をつける、さまざまな手法

明示的カーボンプライシング(CO2に直接価格)

炭素税 排出量取引制度 クレジット取引

暗示的カーボンプライシング(間接的に促す)

エネルギー課税 規制・基準の遵守コスト

関連する手法

国境炭素調整(CBAM) 社内炭素価格(ICP)

一般に「カーボンプライシング」というときは、明示的な手法を指すことが多いです。

この記事の目次

カーボンプライシングとは|CO2に価格をつける仕組み

まずは、カーボンプライシングという言葉の意味と、その背景にある考え方を押さえましょう。ここを理解すると、各手法の狙いも見えてきます。

カーボンプライシングとは

カーボンプライシングは、CO2の排出量に応じて費用負担を求める仕組みの総称です。解説動画『カーボン・プライシングとは』でも、CO2に価格をつけて排出者の行動を変える政策手法だと説明されていました。

炭素税が導入されれば、その分だけ燃料代が上がります。排出量取引が始まれば、排出枠の購入にお金がかかります。こうして排出にコストが生じることで、企業や人は「減らそう」と動くわけです。価格というシグナルを通じて、社会全体の排出削減を後押しする。それがカーボンプライシングの基本的な発想です。

なぜ必要なのか(外部不経済の内部化)

なぜ、わざわざCO2に価格をつけるのでしょうか。鍵となるのが、外部不経済という経済学の考え方です。

CO2の排出は、地球温暖化という形で社会全体に損害を与えます。ところが従来、その損害のコストは、排出した企業や個人ではなく、社会が広く負担してきました。早稲田大学による解説動画でも、こうした市場の外にあるコストを価格に組み込む「内部化」が、カーボンプライシングの本質だと整理されています。タダだから出し放題だった排出に、正当な値段をつける。それが削減への第一歩になります。

外部不経済の「内部化」

タダだった排出に、正当な価格をつける

従来

CO2排出にコストがつかない

温暖化の損害は、排出した企業や人ではなく、社会全体が広く負担していた。

内部化
カーボンプライシング

排出に価格をつける

排出した企業や人がコストを負担。削減のインセンティブが生まれる。

市場の外にあったコストを価格に組み込む。これがカーボンプライシングの本質です。

明示的と暗示的の2タイプ

カーボンプライシングは、大きく2つのタイプに分けられます。一つが明示的カーボンプライシングで、CO2排出量に応じて直接価格を課すものです。炭素税や排出量取引制度が、これにあたります。

もう一つが暗示的カーボンプライシングです。これは、エネルギーへの課税や、規制・基準の遵守にかかるコストなど、間接的に排出削減を促すものを指します。一般に「カーボンプライシング」というときは、前者の明示的な手法を指すことが多いといえるでしょう。脱炭素の全体像は、関連記事のカーボンニュートラルとは|意味・脱炭素との違いと2050年目標・企業の取り組みもあわせてご覧ください。

明示的カーボンプライシングの3つの手法

CO2に直接価格をつけるのが、明示的カーボンプライシングです。炭素税・排出量取引・クレジット取引という3つの代表的な手法を見ていきましょう。

明示的カーボンプライシングの3手法

仕組みと「価格の決まり方」で比べる

手法仕組み価格の決まり方
炭素税CO2排出に応じて課税する政府が決める(税率)
排出量取引制度排出量の上限を定め、企業間で枠を売買市場で決まる
クレジット取引CO2削減を価値として証書化し売買市場で決まる

炭素税は価格を固定し量は市場に委ねる。排出量取引は量を固定し価格を市場に委ねます。

炭素税

炭素税は、CO2の排出量に応じて課税する、最もシンプルな手法です。石炭や石油、天然ガスといった化石燃料に、その炭素含有量に応じて税を課します。排出すればするほど、負担が増える仕組みです。

特徴は、政府が価格(税率)を直接決める点にあります。企業はその価格を前提に、排出を減らすか、コストを払うかを判断します。価格が予測しやすい一方、どれだけ排出が減るかは、市場の反応に委ねられます。

排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード)

排出量取引制度は、社会全体の排出量に上限(キャップ)を設け、その範囲内で企業間に排出枠を割り当てる仕組みです。排出枠が余った企業は、足りない企業に売却できます。これを「キャップ・アンド・トレード」と呼びます。

炭素税とは逆に、こちらは排出の総量を固定し、価格は市場の取引で決まります。確実に総量を抑えられる一方、価格は変動します。日本のGX-ETSもこの仕組みです。詳しくは、関連記事の排出量取引制度(GX-ETS)とは|2026年度の本格稼働と企業への影響で取り上げました。

クレジット取引

クレジット取引は、CO2の削減や吸収の量を「価値」として証書化し、売買する仕組みです。たとえば森林の保全や省エネで生まれた削減量が、クレジットとして取引されます。

排出削減が難しい企業は、こうしたクレジットを購入して、自社の排出を埋め合わせることができます。日本のJ-クレジット制度が代表例です。仕組みや活用法は、関連記事のカーボンクレジットとは|J-クレジット制度・種類と購入・活用方法で詳しく整理しました。

その他の手法|国境調整・社内炭素価格

カーボンプライシングは、税や取引制度だけではありません。国境をまたぐ調整や、企業が自主的に使う社内炭素価格も広がっているのです。

国境炭素調整措置(CBAM)

国境炭素調整措置は、カーボンプライシングを国境をまたいで調整する仕組みです。代表例が、EUのCBAMになります。炭素価格の高い国の企業が、規制の緩い国からの輸入品に対して不利にならないよう、輸入時に炭素コストの差を調整します。

狙いは、後述する「カーボンリーケージ」(生産の海外流出)を防ぐことです。EUと取引のある日本企業にも影響が及ぶため、注目されているのです。詳しくは、関連記事のCBAM(炭素国境調整措置)とは|2026年本格運用と日本企業への影響をご覧ください。

インターナルカーボンプライシング(ICP)

ICP(インターナルカーボンプライシング)は、企業が自社のCO2排出に独自の価格を設定する取り組みです。解説動画『インターナルカーボンプライシングとは?』でも、社内で炭素に値付けし、投資判断に活用する仕組みだと解説されていました。

たとえば、CO2を1トンあたり数千円から1万円超と社内で設定し、設備投資の判断に反映します。ある大手企業は、このICPを段階的に引き上げてきました。将来カーボンプライシングが強化されるリスクに備え、いまから低炭素な選択を促す。そんな攻めのリスク管理の手段です。

暗示的カーボンプライシング

ここまでの手法が、CO2に直接価格をつける「明示的」なものでした。一方、暗示的カーボンプライシングは、間接的に排出削減を促すものを指します。

たとえば、ガソリン税のようなエネルギーへの課税や、省エネ規制の遵守にかかるコストなどです。直接「炭素の価格」とは銘打っていなくても、結果的に排出にコストを生じさせています。広く捉えれば、これらもカーボンプライシングの一種といえるでしょう。

日本の動向|成長志向型カーボンプライシング

日本でも、カーボンプライシングは新たな段階に入りました。GX推進法に基づく「成長志向型カーボンプライシング」の中身を確認しましょう。

日本のカーボンプライシングの流れ

GX推進法による「成長志向型」へ

2012年
地球温暖化対策税 ― 化石燃料へCO2排出量に応じて課税(炭素税の一種)
2023年
GX推進法 成立 ― 成長志向型カーボンプライシングへ。GX-ETS試行開始(第1フェーズ)
2026年度
GX-ETS 本格稼働 ― 排出量取引制度の第2フェーズ
2028年度
化石燃料賦課金 導入 ― 化石燃料の輸入事業者に炭素量に応じた賦課金

成長志向型カーボンプライシング=GX-ETS+化石燃料賦課金の両輪です。

地球温暖化対策税

日本のカーボンプライシングは、すでに一部が動き出した段階です。その一つが、2012年に導入された地球温暖化対策税です。石油・石炭・天然ガスといった化石燃料に対し、CO2排出量に応じて課税するもので、炭素税の一種と位置づけられます。

ただし、その税率は国際的に見ると低い水準にとどまってきました。本格的なカーボンプライシングへと進めるべきだという議論が、長く続いてきたのです。

GX-ETS(排出量取引制度)

大きな転機となったのが、2023年に成立したGX推進法です。これに基づき、日本は「成長志向型カーボンプライシング」を打ち出しました。その柱の一つが、排出量取引制度であるGX-ETSです。

GX-ETSは、2023年度から試行的に始まり(第1フェーズ)、2026年度から本格的に稼働する予定です(第2フェーズ)。脱炭素を、経済成長の足かせではなく、成長の機会と捉える。その発想が「成長志向型」という名に込められています。GX推進法の全体像は、関連記事のGX推進法とは|カーボンプライシングと企業への影響・対応策で解説しています。

化石燃料賦課金(2028年度から)

もう一つの柱が、化石燃料賦課金です。これは、化石燃料を輸入する事業者に対し、輸入する燃料の炭素量に応じた賦課金を求める制度になります。2028年度からの導入が予定されています。

石炭・天然ガス・石油などの輸入段階で炭素コストを上乗せすることで、社会全体に脱炭素を促す狙いです。GX-ETSと化石燃料賦課金。この2つが、日本の成長志向型カーボンプライシングの両輪となります。

世界の動向とメリット・論点

カーボンプライシングは、世界で導入が進む政策です。その動向と、得られるメリット、そして避けて通れない論点を整理しましょう。

カーボンプライシングのメリットと論点

脱炭素を後押しする一方、課題もある

メリット

  • 排出削減のインセンティブが生まれる
  • 企業の脱炭素投資を促す
  • 税収を脱炭素分野へ再投資できる

論点

  • 企業や家計の負担増
  • 国際競争力への影響
  • カーボンリーケージ(生産の海外流出)

負担に配慮しつつ、成長と両立する制度設計が各国で模索されています。

世界の導入状況(EU-ETSなど)

カーボンプライシングは、いまや世界の多くの国・地域で導入されています。先行したのが、2005年に始まったEUの排出量取引制度、EU-ETSです。世界最大級の炭素市場として、各国の制度の手本となってきました。

このほか、北欧諸国の炭素税や、各国・各地域の取引制度など、その形はさまざまです。世界銀行などの集計によれば、カーボンプライシングを導入する制度の数は、年々増え続けているのです。脱炭素に向けた世界共通の潮流といえるでしょう。

カーボンプライシングのメリット

カーボンプライシングのメリットは、まず排出削減のインセンティブが働く点にあります。排出にコストがかかれば、企業は自ずと削減や省エネ、脱炭素技術への投資を進めます。

加えて、炭素税や排出枠の売却から得られた収入を、再生可能エネルギーの普及など、脱炭素分野へ再投資できる利点もあります。市場メカニズムを通じて、社会全体を効率的に脱炭素へ導く。それがカーボンプライシングの強みです。

論点と企業に求められる備え

一方で、論点も小さくありません。企業や家計の負担増、そして国際競争力への影響です。とくに懸念されるのが、規制の緩い国へ生産が移る「カーボンリーケージ」です。これでは、世界全体の排出は減りません。

だからこそ、税収を脱炭素投資に還元したり、CBAMで国境を調整したりと、成長と両立させる制度設計が各国で模索されてきました。企業に求められるのは、将来の炭素コストを見据えた備えです。前述のICPの活用も、その一つといえるでしょう。

まとめ|カーボンプライシングは脱炭素の経済的な後押し

カーボンプライシングとは、CO2の排出に価格をつけ、その負担を通じて排出削減を促す政策手法でした。これまで価格のなかったCO2排出という外部不経済を、市場に内部化する考え方が根底にあります。明示的な手法には、炭素税・排出量取引制度・クレジット取引があり、ほかに国境炭素調整(CBAM)や社内炭素価格(ICP)も広がっているのが実情です。

日本では、2012年の地球温暖化対策税に続き、GX推進法に基づく成長志向型カーボンプライシングとして、GX-ETS(2026年度本格稼働)と化石燃料賦課金(2028年度導入)が進められてきました。世界でもEU-ETSをはじめ導入が拡大する一方、負担やカーボンリーケージといった論点もあり、成長と両立する設計が模索されている段階です。

カーボンプライシングは、脱炭素を市場の力で後押しする、重要な仕組みです。今後、炭素のコストは確実に企業経営に影響していきます。まずは自社がどれだけCO2を排出し、将来どれだけのコストになりうるかを把握することから、備えを始めてみてはいかがでしょうか。ESG・脱炭素の全体像はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。greenoteでは、脱炭素やサステナビリティの実務情報を、これからもお届けしていきます。

よくある質問(FAQ)

Q. カーボンプライシングとは何ですか? A. カーボンプライシングとは、企業などが排出するCO2に価格をつけ、その負担を通じて排出削減を促す政策手法です。これまで価格のつかなかったCO2排出という「外部不経済」にコストを負わせ、市場に内部化することで、排出を減らすインセンティブを生み出します。炭素税や排出量取引制度が代表例です。

Q. 明示的カーボンプライシングと暗示的カーボンプライシングの違いは何ですか? A. 明示的カーボンプライシングは、CO2排出量に応じて直接価格を課す手法で、炭素税・排出量取引制度・クレジット取引が含まれます。一方、暗示的カーボンプライシングは、エネルギーへの課税や、規制・基準の遵守にかかるコストなど、間接的に排出削減を促すものを指します。

Q. 炭素税と排出量取引制度の違いは何ですか? A. 炭素税は、CO2排出量に応じて政府が「価格(税率)」を定める方式で、削減量は市場に委ねられます。排出量取引制度は、排出量の「総量(上限)」を定め、企業間で排出枠を売買させる方式で、価格は市場で決まります。価格を固定するか、量を固定するかという点に、両者の本質的な違いがあります。

Q. 日本のカーボンプライシングはどうなっていますか? A. 日本では、2012年から地球温暖化対策税が導入されています。さらに2023年のGX推進法に基づき、「成長志向型カーボンプライシング」として、排出量取引制度(GX-ETS)と化石燃料賦課金の導入が進められています。GX-ETSは2026年度から本格稼働し、化石燃料賦課金は2028年度から始まる予定です。

Q. インターナルカーボンプライシング(ICP)とは何ですか? A. ICP(社内炭素価格)とは、企業が自社のCO2排出に独自の価格を設定し、設備投資などの意思決定に反映させる仕組みです。たとえばCO2を1トンあたり数千〜1万円超と社内で値付けし、低炭素な選択を後押しします。将来のカーボンプライシング強化に備えるリスク管理の手段としても活用されています。

Q. カーボンプライシングの課題は何ですか? A. 主な論点は、企業や家計の負担増、国際競争力への影響、そして規制の緩い国へ生産が移る「カーボンリーケージ」の懸念です。これらに配慮しつつ、税収を脱炭素投資に還元するなど、成長と両立させる設計が各国で模索されています。企業には、将来の炭素コストを見据えた備えが求められます。

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出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

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ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年6月20日

この記事の著者

greenote編集部

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