エアコン、冷蔵庫、給湯器のエコキュート——。実はこれらに、共通するひとつの技術。それが、少ない電気でまわりの熱を集めて使うヒートポンプです。暮らしの省エネと脱炭素を支える、縁の下の力持ちといえます。
本記事では、ヒートポンプとは何かを、できるだけかみ砕いて解説します。「熱を運ぶ」というユニークな発想、冷媒で熱をくみ上げる仕組み、効率を表すCOPという指標、脱炭素での役割、そして課題までを順に見ていきましょう。電気を熱や運輸へ橋渡しするセクターカップリングとはの主役の一つでもあり、あわせて読むと位置づけが見えてきます。
≡この記事の目次
ヒートポンプとは
まず、ヒートポンプをひとことで整理します。「少ない電気で、まわりの熱を集めて使う装置」という発想から入りましょう。
ヒートポンプをひとことで言うと
ヒートポンプとは、空気や地中などにある熱を集めて、必要な場所へ移して使う装置です。「ヒート(熱)」を「ポンプ(くみ上げる)」という名前のとおり、薄く広がった熱をかき集め、ぎゅっと濃くして利用します。
ポイントは、ストーブのように燃料を燃やして熱をつくるのではない、という点です。すでにある熱を、電気の力で移動させて使います。だからこそ、わずかな電気で大きな熱を得られる。この「集めて運ぶ」という発想が、ヒートポンプの効率の高さを生んでいるわけです。
「熱をつくる」のではなく「熱を運ぶ」
ふつう、熱を得る方法といえば「燃やす」ことを思い浮かべます。ガスや灯油を燃やせば、その分の熱が生まれます。これは、燃料の持つエネルギー以上の熱は得られません。
ヒートポンプの発想は、まったく別。熱を新たに生み出すのではなく、すでにある熱を移動させるのです。冬の寒い空気にも、わずかながら熱は含まれています。その熱をかき集めて室内へ運べば、暖房になります。「つくる」から「運ぶ」へ——。この発想の転換こそ、ヒートポンプの本質だといえるでしょう。
仕組み――冷媒で熱をくみ上げる
ヒートポンプの心臓部にあるのが、冷媒という物質を循環させて熱を移動させる「冷凍サイクル」です。
冷媒が熱を運ぶ4ステップ
外の熱を集め、濃くして室内へ
蒸発
外の空気などから熱を吸収し、冷媒が気体になる。
圧縮
圧縮機で冷媒を押し縮め、高温・高圧にする。
凝縮
室内側で熱を放出し、暖房や給湯に使う。
膨張
膨張弁で圧力を下げ、冷媒を低温に戻す。
この4ステップを電気の力でくり返し、外の薄い熱を使える濃い熱へ変えます。
出典:資源エネルギー庁・NEDOの公開情報をもとにgreenote作成
冷凍サイクルの4ステップ
冷凍サイクルは、冷媒という、熱を運ぶのが得意な物質を循環させて成り立ちます。流れは、大きく4つのステップに分かれます。
まず「蒸発」で、外の空気などから熱を吸収し、冷媒が気体になります。次に「圧縮」で、圧縮機(コンプレッサー)が冷媒を押し縮め、高温・高圧の状態へ。続く「凝縮」では、室内側でその熱を放出し、暖房や給湯に使います。最後に「膨張」で冷媒の圧力を下げ、再び低温に戻す。この4ステップをぐるぐるくり返すことで、外の薄い熱を、使える濃い熱へと変えていくわけです。
エアコンも冷蔵庫も同じ原理
この冷凍サイクルは、身のまわりのさまざまな機器で活躍する技術。代表がエアコンです。冷房は室内の熱を外へ運び、暖房は外の熱を室内へ運ぶ。運ぶ向きを変えているだけで、原理は同じ。
給湯器のエコキュートは、空気の熱を集めてお湯を沸かすヒートポンプです。さらに、冷蔵庫も庫内の熱を外へ運ぶことで中を冷やしており、これもヒートポンプの仲間。私たちは知らないうちに、毎日この技術の恩恵を受けているのです。
なぜ高効率なのか――COPという指標
ヒートポンプの最大の強みは、その高い効率にあります。それを表すのが、COP(成績係数)という指標です。
同じ電気で、得られる熱がちがう
電気ヒーターとヒートポンプの効率
電気ヒーター
COP 約1
電気をそのまま熱に変えるだけ。電気1で熱は1。
ヒートポンプ
COP おおむね3〜5
まわりの熱も集めて、電気1で熱は3〜5。
同じ熱を、より少ない電気でまかなえるのがヒートポンプの強みです。
出典:資源エネルギー庁・NEDOの公開情報をもとにgreenote作成(COPは条件で変動)
COP(成績係数)とは
COP(成績係数)とは、投入した電気エネルギーに対して、何倍の熱を取り出せるかを示す数値です。たとえばCOPが4なら、電気1の力で、4の熱を得られることを意味します。
家庭用のエアコンやヒートポンプ給湯機では、このCOPがおおむね3〜5程度とされています。投入した電気の3倍から5倍もの熱を生み出せるわけです。種明かしをすれば、足りない分はまわりの空気などから「ただ」で集めた熱。だからこそ、エネルギーをかさ増ししたように見える高効率が実現します。なお、COPは外気温などの条件によって変わる点には注意が必要です。
電気ヒーターとの決定的な違い
同じ電気で熱を得る機器に、電気ヒーターがあります。こちらは電気をそのまま熱に変えるしくみで、COPはおよそ1。投入した電気と、得られる熱がほぼ同じです。
両者を比べると、差は歴然です。同じ部屋を暖めるのに、ヒートポンプなら電気ヒーターの3分の1から5分の1程度の電気で足りる計算になります。電気代の節約はもちろん、使う電気が少なければ、その分CO2も減らせます。「熱を運ぶ」という発想が、いかに効率的かがよくわかります。
脱炭素での役割
ヒートポンプは、暮らしと産業の「熱」を脱炭素する切り札として、世界じゅうから注目される存在。
燃やす熱から、運ぶ熱へ
ヒートポンプ+再エネで熱を脱炭素
これまで
ガス・灯油・重油を燃やして熱をつくる。CO2を排出する。
これから
ヒートポンプで電気から熱を運ぶ。電気を再エネにすればCO2を大きく減らせる。
主な用途
高効率なヒートポンプ+再エネで、これまで難しかった熱の脱炭素を進めます。
出典:資源エネルギー庁・IEAの公開情報をもとにgreenote作成
化石燃料の熱を、電気に置き換える
これまで、暖房や給湯の多くは、都市ガス・灯油・重油などを燃やしてまかなわれてきました。この「燃やす熱」が、社会のCO2排出の大きな割合を占めています。家庭でも産業でも、熱の脱炭素は避けて通れない課題なのです。
ここでヒートポンプが効いてきます。燃焼による熱を、電気で動くヒートポンプの熱に置き換える。しかも高効率なので、使うエネルギーそのものを減らせます。国際エネルギー機関(IEA)なども、建物部門の脱炭素の鍵としてヒートポンプを位置づけ、各国が普及を後押ししているところです。
再エネと組み合わせる意味
ヒートポンプの真価は、再エネと組み合わさったときに発揮されます。動かす電気が再生可能エネルギー由来になれば、熱の脱炭素はほぼ完成に近づきます。電気を熱に変えるこの流れは、セクターカップリングとはでいうPower-to-Heatそのものです。
さらに、お湯や熱をためておく蓄熱と組み合わせると、新たな価値が生まれます。電気が安い時間や再エネが余る時間に熱をつくってためれば、需要を賢く動かせます。これは、デマンドレスポンス(DR)とはやダイナミックプライシングとはとも相性のよい、需要側の柔軟性の提供にほかなりません。
課題と広げる工夫
大きな可能性を持つ一方で、ヒートポンプにも課題があります。普及を後押しする工夫とあわせて見ていきます。
寒冷地・コスト・冷媒という課題
第一の課題が、寒冷地での効率です。外気温が下がると、空気から集められる熱が減り、COPは低下しがちです。ただし近年は、寒冷地向けに設計された機種が広がり、氷点下でも実用的に暖房できるものが増えてきました。
第二に、初期コストの問題があります。本体や設置の費用は、従来の燃焼式の機器より高くなりがちです。第三が、冷媒の問題。一部の冷媒は、漏れると強い温室効果を持つため、より地球温暖化係数(GWP)の低い冷媒への移行が進められています。効率は高くても、これらの壁を越える工夫が欠かせません。
補助金と省エネ基準による後押し
こうした課題に対し、普及を後押しする仕組みも整えられてきました。日本では、高効率なヒートポンプ機器の導入に対する補助金が用意されることが多く、初期コストの負担を和らげています。
加えて、建物や機器の省エネ基準も、効率の高い機器の採用を促す方向に働きます。技術の進歩で性能が上がり、政策が後押しし、量産でコストが下がる——。この好循環が回り始めれば、ヒートポンプはさらに身近な選択肢になっていくはずです。
課題
寒冷地での効率。外気温が下がるとCOPが低下しがち。
対応・ポイント
寒冷地向け設計の機種が拡大し、氷点下でも実用的に暖房できるものが増加。
課題
初期コスト。本体・設置費が燃焼式より高くなりがち。
対応・ポイント
補助金で初期負担を軽減。省エネ基準が高効率機の採用を促す。
課題
冷媒。一部は漏れると強い温室効果を持つ。
対応・ポイント
GWP(地球温暖化係数)の低い冷媒への移行を進める。
技術の進歩・政策の後押し・量産によるコスト低下の好循環で、さらに身近な選択肢になっていくと見込まれます。
ヒートポンプをどう捉えるか
ヒートポンプは、「熱をつくる」常識を「熱を運ぶ」へと塗り替えた、省エネと脱炭素の主役です。少ない電気で大きな熱を得るその効率の高さは、暮らしの電気代を抑えつつ、社会のCO2を減らす力を持っているといえるでしょう。再エネ電気と組み合わせれば、これまで難しかった「熱の脱炭素」を、現実のものにできます。
大切なのは、ヒートポンプを「ただのエアコンの技術」ではなく、「電気と熱をつなぎ、再エネ時代を支える基盤技術」として捉えることでしょう。電気を熱へ橋渡しするセクターカップリング、需要を動かすDRやダイナミックプライシング、そして高効率なヒートポンプ。これらが組み合わさることで、私たちの熱の使い方は、無理なく脱炭素へ向かいます。電力システム全体の地図は電力システムまるわかりガイドもご覧ください。また、発電・蓄電を含む次世代の脱炭素技術の全体像は次世代エネルギー技術まるわかりガイドもご覧ください。
身近な家電のなかに、脱炭素の最前線がある。ヒートポンプは、そんな当たり前の技術にこそ、大きな可能性が宿ることを教えてくれます。なお本記事は、特定の製品・事業・金融商品への購入や投資を推奨するものではなく、仕組みと役割を中立に整理したものです。
よくある質問(FAQ)
Q. ヒートポンプは、なぜ電気代やCO2を減らせるのですか?
A. 効率がとても高いからです。ヒートポンプは熱を「つくる」のではなく、まわりの空気などから熱を集めて「運ぶ」ため、投入した電気の数倍(COPでおおむね3〜5程度)の熱を取り出せます。電気を直接熱に変える電気ヒーター(COPは約1)に比べ、同じ熱を少ない電気でまかなえます。さらに、その電気が再生可能エネルギー由来であれば、CO2排出も大きく抑えられます。
Q. エアコンやエコキュートも、ヒートポンプなのですか?
A. はい、どちらも代表的なヒートポンプです。エアコンは、室外の熱を室内へ運ぶ(暖房)、または室内の熱を室外へ運ぶ(冷房)ことで温度を調整します。エコキュートは、空気の熱を集めてお湯を沸かすヒートポンプ給湯機です。冷蔵庫も、庫内の熱を外へ運ぶ同じ原理で動いています。身近な家電の多くが、ヒートポンプの技術を使っています。
Q. 寒い地域でもヒートポンプは使えますか?
A. 使えますが、注意点があります。外気温が下がると、空気から集められる熱が減るため、効率(COP)は低下する傾向があります。ただし近年は、寒冷地向けに設計された機種が普及し、氷点下でも実用的に暖房できるものが増えています。地域の気候や用途に合った機種を選ぶことが大切です。本記事は特定の製品を推奨するものではありません。
最終更新日:2026年6月27日
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