最終更新日:2026年8月4日
「自社の温室効果ガス排出量を、国に報告しなければならないと聞いたが、根拠となる法律は何だろう」——ESGやサステナビリティの実務では、こうした疑問を持つ場面が少なくありません。その中心にあるのが温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)と、これに基づくSHK制度(温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度)です。
本記事では、温対法とはどのような法律か、2021年の改正で何が変わったのか、そしてSHK制度で「誰が・何を・どこに」報告する義務を負うのかを、実務の視点から整理します。Scope3や温室効果ガス(GHG)の算定を進めるうえでも、土台となる制度です。
※制度の内容・数値は時点により変わります。本記事は環境省・経済産業省の公表情報(2026年時点)に基づく解説です。最新の要件は各公式情報をご確認ください。
≡この記事の目次
温対法とは|日本の地球温暖化対策の基本法
温対法とは、正式名称を「地球温暖化対策の推進に関する法律」といい、1998年(平成10年)に制定された、日本の地球温暖化対策の基本的な枠組みを定める法律です。所管は環境省と経済産業省で、京都議定書の採択を受けて生まれた、国内対策の中核的な法律とされています。
温対法は、国・地方公共団体・事業者・国民それぞれの責務を定めるとともに、政府全体の対策方針である「地球温暖化対策計画」の策定や、後述する温室効果ガス排出量の報告制度などを規定しています。カーボンニュートラルに向けた政策の「背骨」にあたる法律と位置づけられます。
2021年改正のポイント|2050年カーボンニュートラルの法定化
温対法は複数回改正されてきましたが、近年で特に大きかったのが2021年の改正(2022年4月施行)です。主なポイントは次の3つとされています。
- 2050年カーボンニュートラルを基本理念に明記:「2050年までの脱炭素社会の実現」を法律上の基本理念として位置づけ、政策の継続性と予見可能性を高めました。
- 地域の脱炭素化の促進:市町村が再エネの導入を進める区域を定める「地域脱炭素化促進事業」の仕組みを導入し、地域主導の脱炭素を後押しします。
- 企業の排出量報告のデジタル化・オープンデータ化:SHK制度の報告を電子システム化し、報告された情報を原則デジタルデータで公開する方向へと見直されました。
また、温対法に基づく「地球温暖化対策計画」は2025年に改定され、温室効果ガスを2035年度に2013年度比で60%、2040年度に73%削減し、2050年のネットゼロにつなげる目標が示されています。
SHK制度とは|温室効果ガス排出量の算定・報告・公表
温対法のなかで企業実務に最も直接関わるのがSHK制度です。SHKは「算定(Santei)・報告(Houkoku)・公表(Kohyo)」の頭文字で、温室効果ガスを一定量以上排出する事業者に、自らの排出量を算定して国に報告することを義務づける制度です。2006年4月に開始されました。
自社の排出量を計算
事業所管大臣を通じ国へ
国が集計しEEGSで公開
算定の基本式と報告・公表の流れ
排出量は「活動量 × 排出係数」で算定します。活動量は燃料や電気の使用量など事業活動の規模を表す量、排出係数はその活動量あたりの排出量です。電気であれば「使用電力量 × 電力会社ごとの排出係数」で求めます。算定した排出量は、事業所管大臣を通じて国に報告します。
報告データの公表とオープンデータ化
報告されたデータは環境省・経済産業省が集計し、事業所ごと・業種ごとの排出状況として公表されます。2021年の改正以降は、開示請求の手続きを経なくても、Webサイト上(EEGS)で誰でも閲覧・ダウンロードできる「オープンデータ」化が進められています。
誰が報告義務を負うのか|特定排出者
すべての事業者が報告義務を負うわけではありません。SHK制度では、排出量が一定以上の事業者を「特定排出者」と呼び、報告を義務づけています。おおまかな区分は次のとおりです。
| 区分 | 主な対象の目安 |
|---|---|
| 特定事業所排出者 (エネルギー起源CO2) | 全事業所の合計エネルギー使用量が原油換算で年1,500kL以上の事業者。省エネ法の「特定事業者」等と共通の基準。 |
| その他ガスの排出者 (非エネCO2・CH4等) | ガスの種類ごとにCO2換算で年3,000t以上を排出し、かつ事業者全体で常時使用する従業員が21人以上の事業者。 |
| 特定輸送排出者 | 省エネ法上の特定貨物・旅客輸送事業者、特定航空・荷主など、一定規模以上の輸送に関わる事業者。 |
対象となる温室効果ガスは、エネルギー起源のCO2のほか、非エネルギー起源のCO2、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3)です。CO2はエネルギー起源と非エネルギー起源に分けて算定します。
2024年度からの算定方法見直しと電子報告(EEGS)
SHK制度は、脱炭素の実態を反映するかたちで見直しが続いています。2024年度報告(2023年度実績の報告)からは、算定対象や算定方法が大きく見直されました。主な変更点は次のとおりです。
- 企業努力の「見える化」:再生可能エネルギー電力の調達や、J-クレジットなどのカーボンクレジットの調達といった取り組みを、報告に反映できる仕組みが整えられました。
- 電子報告システムEEGSの活用:「省エネ法・温対法・フロン法 電子報告システム(EEGS)」を通じて、オンラインで報告できるようになりました。省エネ法の定期報告などとあわせて一元的に扱えます。
- 今後の拡充:廃棄物の焼却に伴う熱利用や、森林の炭素蓄積の変化などについても、算定方法の見直しや報告項目の追加が予定されているとされます。
関連制度との関係|省エネ法・GX・Scope3
温対法・SHK制度は、他の脱炭素・開示制度と密接に関わっています。全体像を押さえておくと、実務での位置づけが理解しやすくなります。
- 省エネ法:SHK制度のエネルギー起源CO2の対象基準(原油換算1,500kL)は省エネ法と共通で、報告もEEGSで一体的に行えます。
- GX推進法・カーボンプライシング:GX推進法やカーボンプライシングが排出に「コスト」を意識させるのに対し、温対法・SHKは排出量の「見える化」を担う関係にあります。
- GHG・Scope算定:SHK制度は主に自社の直接・間接排出(Scope1・2に相当)を扱います。サプライチェーン全体を対象とするScope3の算定や、CO2算定ツールとあわせて理解すると実務に役立ちます。
企業にとっての実務ポイント
- まず自社が特定排出者に該当するか確認:全事業所の合計エネルギー使用量が原油換算1,500kLに近い、または超える場合は、報告義務の対象になっていないかを確認します。
- データ整備を早めに:報告には燃料・電気の使用量などの正確な集計が欠かせません。拠点ごとのエネルギーデータの見える化を進めておくと、報告負担を抑えられます。
- 再エネ・クレジットの記録を残す:再エネ電力証書やクレジットの調達は報告に反映できる場合があります。契約や証書の情報を整理しておきます。
- 任意開示にも活用:SHKの算定結果は、統合報告書やCDP回答など任意の情報開示の基礎データにもなります(情報開示ガイド)。
自社が特定排出者か確認
全事業所の合計エネルギー使用量が原油換算1,500kLに近い/超える場合、報告義務の対象か確認する。
データ整備を早めに
燃料・電気の使用量を拠点ごとに見える化しておくと、報告負担を抑えられる。
再エネ・クレジットの記録を残す
再エネ電力証書やクレジットは報告に反映できる場合がある。契約・証書の情報を整理。
任意開示にも活用
SHKの算定結果は、統合報告書やCDP回答など任意開示の基礎データにもなる。
あわせて読みたい:エネルギー管理・定期報告を義務づける制度の全体像 → 省エネ法とは|対象事業者・定期報告と2023年改正をわかりやすく解説
あわせて読みたい:環境対応を「仕組み」にする国際規格 → ISO14001とは|取得の流れ・費用とエコアクション21との違い
まとめ|まずは自社が特定排出者かを確認する
温対法は、1998年に制定された日本の温暖化対策の基本法で、2021年改正で2050年カーボンニュートラルを基本理念に明記しました。そのなかのSHK制度は、一定規模以上の事業者に温室効果ガス排出量の算定・報告・公表を義務づける制度です。2024年度からは再エネやクレジットの取り組みを反映できるよう算定方法が見直され、EEGSによる電子報告も進んでいます。まずは自社が特定排出者に該当するかを確認し、エネルギーデータの整備を進めることが、脱炭素経営の実務の第一歩になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 温対法とSHK制度はどう違うのですか?
温対法は日本の地球温暖化対策の基本的な枠組みを定める法律の名称で、SHK制度はその温対法に基づく個別の仕組みの一つです。SHK制度は「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」を指し、一定規模以上の事業者に排出量の報告を義務づけています。
Q. どんな企業がSHK制度の報告義務の対象になりますか?
代表的なのは、全事業所の合計エネルギー使用量が原油換算で年1,500kL以上の「特定事業所排出者」です。このほか、メタンなどのガスをCO2換算で年3,000t以上排出し従業員が21人以上の事業者や、一定規模以上の輸送に関わる事業者も対象になります。
Q. 2021年の温対法改正で何が変わったのですか?
主に3点です。①2050年カーボンニュートラルを基本理念に明記、②市町村が再エネ導入区域を定める「地域脱炭素化促進事業」の導入、③企業の排出量報告のデジタル化・オープンデータ化です。これにより、報告された排出量データを誰でも閲覧しやすくなりました。
→ 脱炭素とは|カーボンニュートラルとの違い・日本の目標と企業の進め方をわかりやすく解説
出典・参考(一次情報)
- 環境省「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」
- 環境省「SHK制度 公表結果(EEGS)」
- 環境省「地球温暖化対策推進法と地球温暖化対策計画」
- e-Gov法令検索「地球温暖化対策の推進に関する法律」
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
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サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月6日