「取引先からCO2排出量の報告と削減を求められた。でも、何から手をつければいいのか分からない」。いま多くの中小企業の担当者が、この場面に立っています。安心してください。GHG(温室効果ガス)削減の打ち手は、実は5つの系統に整理でき、着手する順番も費用対効果もほぼ決まっています。
この記事では、中小企業の実務目線で、①測る→②省エネ→③電気を替える→④燃料を替える→⑤残りを埋める、という順序に沿って、それぞれの具体的な方法・費用感・使いどころを解説します。非化石証書のような「知っているだけで対応が一気に楽になる道具」の使い方も含めて、今日から動ける形でまとめました。
※単価・制度は時点により変わります。本記事は公表情報(2026年8月時点)に基づく解説です。
この記事の目次
- 1結論|GHG削減の打ち手は5系統に整理できる
- 2ステップ0|まず測る。排出量が分からないと始まらない
- Scope1・2・3の超入門
- 中小企業の簡易算定|請求書と係数があれば今日できる
- 排出係数はどれを使う?
- 3打ち手①省エネ|「減らす」はコスト削減と両立する
- 4打ち手②電気を替える|最速でScope2をゼロに近づける
- 再エネメニューと非化石証書|1kWhあたり0.4円から
- 自家消費太陽光とPPA|「買う量を減らす」と「価値を長期確保」
- 5業種別の勘どころ|うちはどこから?
- 6打ち手③燃料・車両を替える|Scope1の削減
- 7打ち手④残りを埋める|クレジット・オフセットの正しい順序
- 8費用対効果で比べる|「円/t-CO2」という物差し
- 9取引先・制度への報告に落とし込む
- 取引先からの質問への答え方
- 中小企業版SBTという選択肢
- 温対法・省エネ法など制度との関係
- 10今月からの実務ステップ5つ
- 11まとめ|順番を間違えなければ、難しくない
- 12よくある質問(FAQ)
結論|GHG削減の打ち手は5系統に整理できる
まず全体地図です。企業のGHG削減の打ち手は、次の5系統に分けると迷いません。番号は着手の推奨順です。
ポイントは順番です。測らずに打ち手を選ぶと外れます。省エネより先にクレジットを買うと割高になり、削減努力なしのオフセットは取引先からの評価も得られません。以下、系統ごとに具体化していきます。
ステップ0|まず測る。排出量が分からないと始まらない
Scope1・2・3の超入門
排出量は3つの区分で数えるのが世界共通ルール(GHGプロトコル)です。Scope1=自社で燃やした分(ボイラーの都市ガス、社用車のガソリンなど)、Scope2=買った電気の分、Scope3=それ以外のサプライチェーン全体(仕入れた原材料、物流、出張など)。
中小企業がまず問われるのは、ほとんどの場合Scope1と2だけです。取引先の大企業は自社のScope3を計算するためにあなたの会社のScope1・2を知りたい、という構図だからです。詳しい区分はScope2の解説とScope3の解説をご覧ください。
中小企業の簡易算定|請求書と係数があれば今日できる
Scope1・2の算定は、実は表計算で足ります。基本の式はこれだけです。
排出量(t-CO2)= 活動量(電気kWh・燃料量)× 排出係数
電気は電力会社の請求書のkWhに、契約している電力会社・メニューごとの排出係数(環境省・経産省が毎年公表)を掛けます。都市ガスやガソリンも、使用量に公表係数を掛けるだけです。12か月分の請求書を並べれば、初年度の排出量は1〜2日で出せます。greenoteでは無料のExcelテンプレートも配布していますので、まずは手を動かしてみてください。算定の詳しい手順は排出量算定の解説記事にまとめています。
排出係数はどれを使う?
算定で最初につまずくのが係数選びです。電気の係数は3種類を押さえれば足ります。(1)メニュー別係数——契約している電力会社・料金メニューごとの公表値。自社の実態に最も近く、原則これを使います。(2)電力会社別の調整後係数——証書等を反映した会社全体の値。メニュー別がない場合の次善です。(3)全国平均の代替値——契約先の係数が見つからないときの最後の手段(おおむね0.4kg-CO2/kWh台)。
実務のコツは、どの係数を使ったかをメモに残すことです。取引先から算定根拠を聞かれたとき、「環境省公表の◯年度メニュー別係数」と即答できるかどうかで信頼度が変わります。燃料の係数(都市ガス・LPG・ガソリン等)は環境省の算定・報告マニュアルに一覧があり、毎年ほぼ変わりません。
打ち手①省エネ|「減らす」はコスト削減と両立する
算定ができたら、最初の打ち手は省エネです。理由はシンプルで、5系統の中で唯一、やればやるほどお金が浮くからです。LED化、空調の更新・設定見直し、コンプレッサーのエア漏れ対策、高圧契約ならデマンド(最大需要)のピークカット——定番の打ち手は投資回収年数が読みやすく、削減量も確実です。
「うちはもうやり尽くした」という会社も、照明・空調・生産設備の更新時期に高効率機を選ぶだけで、次の10年の排出量が変わります。省エネ法の定期報告対象でない規模の会社でも、同法のベンチマークや支援策は参考になります。電気代の先行きを踏まえた「買う量を減らす」戦略は電気代は今後どうなる?でも解説したとおり、制度コストが積み上がるこれからこそ効く打ち手です。
打ち手②電気を替える|最速でScope2をゼロに近づける
多くの中小企業(オフィス・店舗・軽工業)では、排出量の過半が「買った電気」=Scope2です。つまり電気を再エネにできれば、排出量は一気に半分以下になります。そして電気は、燃料や設備と違って今日から替えられる打ち手です。
再エネメニューと非化石証書|1kWhあたり0.4円から
最も手軽なのは、電力会社の実質再エネメニューへの切替か、いまの契約のまま非化石証書を足す方法です。非化石証書はFIT電源由来なら市場価格で1kWhあたり0.4円前後(2026年時点の直近オークション)。年間10万kWh使う事業所なら、年4万円程度の追加費用で電気の排出係数を実質ゼロにでき、取引先へ「再エネ100%で操業」と報告できる計算です。
「そんなに安くていいのか」と思われるかもしれませんが、これは国の制度(非化石価値取引市場)に基づく正当な方法で、温対法の報告やCDP・RE100でも認められています。証書の種類と買い方は再エネ証書の買い方、制度の全体像は環境価値とはで詳しく解説しています。量が少ない場合は、証書付きメニューを持つ小売電気事業者経由が現実的です。
| 手段 | 手軽さ | 費用感 | 追加性の主張 | 向いている会社 |
|---|---|---|---|---|
| 実質再エネメニュー | ◎ 契約切替のみ | 小(数%の上乗せ程度) | △ | まず始めたいすべての会社 |
| 非化石証書 | ○ 契約そのまま | 小(0.4円/kWh前後〜) | △ | 契約を変えたくない会社・複数拠点 |
| 自家消費太陽光 | △ 設置工事あり | 投資(回収可能) | ◎ | 屋根・敷地に余裕がある会社 |
| PPA(オンサイト・バーチャル) | △ 長期契約 | 中(価格は長期固定) | ◎ | 調達量が大きい・長期目標がある会社 |
自家消費太陽光とPPA|「買う量を減らす」と「価値を長期確保」
屋根や敷地に余裕があるなら、自家消費型太陽光は本命の打ち手です。発電した電気には燃料費調整も再エネ賦課金もかからず、電気代削減とCO2削減が同時に進みます。初期費用ゼロで設置するオンサイトPPAという選択肢もあります。
さらに調達量が大きい企業や、追加性(新しい再エネを増やした証明)を重視する企業には、バーチャルPPAのような長期契約型の手段もあります。自社の規模に合わせて、証書→太陽光→PPAと段階的にステップアップしていくのが定石です。
業種別の勘どころ|うちはどこから?
排出の構造は業種でパターンが決まっています。自社に近い型から、最初の一手を選んでください。
| 業種の型 | 排出の重心 | 最初の一手 |
|---|---|---|
| オフィス・IT・サービス | ほぼ電気(Scope2) | 再エネメニュー・証書で即「実質ゼロ」化。費用も小さい |
| 小売・飲食(多店舗) | 電気(空調・冷蔵)中心 | 店舗一括の契約見直し+証書。冷蔵・空調の省エネ更新 |
| 製造業(加熱工程あり) | 電気+燃料(Scope1が厚い) | 電気は証書・太陽光、熱はボイラー更新時の電化・燃転を計画 |
| 運輸・物流 | 軽油など車両燃料(Scope1) | エコドライブ・配車効率化から。車両更新でHV・EVを段階導入 |
共通するのは、電気が絡む業種ほど「安く・速く」削減できるということです。逆に運輸のようにScope1が重い業種は時間がかかるため、早めに更新計画へ織り込む必要があります。自社の型が分かれば、取引先への説明でも「業種特性を踏まえた計画」として筋が通ります。
打ち手③燃料・車両を替える|Scope1の削減
電気の次はScope1、つまり自社で燃やしている分です。代表的な打ち手は3つ。(1)熱の電化——ガス・重油ボイラーや燃焼式空調をヒートポンプに置き換える。投入した電気の数倍の熱を得られるため、ランニングコストでも有利になるケースが多くあります。(2)車両の転換——社用車の更新時にHV・EVを選ぶ。(3)燃料の切替——重油から都市ガス・バイオマス由来燃料への転換。
ここは設備投資を伴うため、①省エネ・②電気より後回しで構いません。ただし設備の更新タイミングは10年に一度しか来ないので、「次の更新で何を選ぶか」だけは今から決めておく——これがScope1対策の実務です。電化の意義は電化の解説記事もご覧ください。
打ち手④残りを埋める|クレジット・オフセットの正しい順序
①〜③を尽くしても残る排出は、カーボンクレジット(J-クレジットなど)の購入で埋め合わせる(オフセットする)ことができます。ただし、ここには明確な作法があります。「まず削減、それでも残る分をオフセット」という順序です。
削減努力をせずにクレジットだけで「カーボンニュートラル」を名乗ると、グリーンウォッシュと批判されるリスクがあり、取引先の評価基準(SBTなど)でもオフセットは削減の代わりとは認められません。またJ-クレジットの相場は1t-CO2あたり数千円と、後述のとおり証書より桁違いに高コストです。クレジットは「最後の仕上げ」であって「最初の一手」ではない——これだけ覚えておけば失敗しません。使い方の詳細はカーボンオフセットの解説記事をご覧ください。
費用対効果で比べる|「円/t-CO2」という物差し
打ち手を横並びで比べるときの物差しが、「1トンのCO2を減らすのにいくらかかるか(円/t-CO2)」です。概算で並べると、優先順位が一目で分かります。
| 打ち手 | 削減コストの目安(円/t-CO2) | 備考 |
|---|---|---|
| 省エネ(LED・空調・デマンド) | マイナス〜低コスト | 電気代削減で投資回収できる場合、実質タダより安い |
| FIT非化石証書 | およそ1,000円前後 | 0.4円/kWh・排出係数0.00043t-CO2/kWh前後で換算した概算 |
| 自家消費太陽光 | 低コスト(長期でマイナスも) | 電気代削減とセット。初期投資と屋根条件次第 |
| J-クレジット(再エネ電力由来) | 5,000〜6,000円前後 | 2026年時点の相場。上昇傾向 |
| 燃料転換・電化 | 案件による(中位) | 設備更新のタイミングに乗せると実質コストが下がる |
※いずれも概算・一般論です。実際のコストは使用実態・契約・設備条件で大きく変わります。
この表が示す実務上の答えは明快です。省エネと証書が圧倒的に安く、クレジットはその数倍かかる。だからこそ「①省エネ→②電気(証書・太陽光)→③燃料→④クレジット」の順序が、そのまま費用対効果の順序になっているのです。
取引先・制度への報告に落とし込む
取引先からの質問への答え方
大企業からの調査票は形式こそ様々ですが、聞かれることはほぼ共通です。(1)Scope1・2の排出量(実績値)、(2)削減目標の有無、(3)再エネの利用状況、(4)今後の計画。この記事の⓪〜④を実行していれば、すべて具体的に答えられます。
回答のコツは、完璧を装わないことです。「算定を始めた」「まず電気を実質再エネ化した」「設備更新時に電化を計画している」——順序立てて取り組んでいることが伝われば、現時点の排出量が大きくても評価されます。逆に、根拠のない「対応済み」はグリーンウォッシュとして最も嫌われます。
中小企業版SBTという選択肢
取引先への説明力を一段上げたい場合は、SBT(科学的根拠に基づく削減目標)の中小企業版という選択肢があります。通常版より簡素な手続きで、Scope1・2の削減目標を国際イニシアティブに認定してもらえる仕組みで、日本の中小企業の取得も増えています。「認定された目標を持っている」ことは、調査票への回答でも営業でも強い材料になります。制度全体は中小企業のサステナビリティ経営もあわせてご覧ください。
温対法・省エネ法など制度との関係
一定規模を超えると、国への報告義務も関わってきます。温対法(SHK制度)はエネルギー起源CO2換算で年3,000t以上等の事業者が対象、省エネ法は年間エネルギー使用量が原油換算1,500kL以上の事業者が対象です。多くの中小企業は当面対象外ですが、成長して閾値を超えた瞬間に慌てないよう、算定の仕組みだけは同じ流儀(使用量×公表係数)で作っておくのが得策です。取引先への任意報告と国への法定報告を同じ台帳から出せる形にしておけば、二度手間になりません。
今月からの実務ステップ5つ
電気・ガス・ガソリンの使用量×排出係数。無料テンプレートで1〜2日あれば完了します。
電気が過半ならScope2対策(証書・太陽光)から。燃料が多いなら設備更新計画から。
照明LED化・空調の設定と更新・(高圧なら)デマンドのピーク。電気代削減と同時に進みます。
電力会社の再エネメニューと証書付きプランの相見積もり。電気代の見直しと一度にやるのが効率的です。
排出量・打ち手・目標を1枚に。調査票が来てから慌てず、来る前に出せる会社になる。
まとめ|順番を間違えなければ、難しくない
GHG削減は、⓪測る→①省エネ→②電気を替える→③燃料を替える→④残りをクレジットで埋める、の順に進めれば、費用対効果の高い順に自然と並びます。特に中小企業では、排出の過半を占める「電気」を証書(1kWhあたり0.4円前後)や太陽光で替えるだけで、削減率が一気に跳ね上がります。
そして忘れてはいけないのは、この取り組みが電気代対策と同じ作業だということです。相見積もり・省エネ・太陽光は、コスト削減とGHG削減の両方に効きます。取引先からの調査票が来る前に、まず12か月分の請求書を並べるところから始めましょう。
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出典・参考資料(一次情報)
リンク先は2026年8月時点で確認した各機関の公開情報です。最新は各公式情報をご確認ください。
算定・制度: 環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」(算定方法・排出原単位)/ 環境省「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度(SHK制度)」/ 日本卸電力取引所(JEPX)「非化石価値取引 市場情報」
目標・イニシアティブ: SBTi(Science Based Targets initiative)/ J-クレジット制度事務局
よくある質問(FAQ)
Q. GHG削減は何から始めればよいですか?
A. まず12か月分の電気・燃料の請求書から排出量(Scope1・2)を算定することです。内訳が分かれば打ち手は決まります。多くの中小企業では電気(Scope2)が過半を占めるため、省エネと電気の再エネ化(証書・太陽光)が最初の主戦場になります。
Q. お金をかけずにできる削減方法はありますか?
A. あります。省エネ(照明・空調・デマンド管理)は電気代削減で投資回収できるため、実質コストがマイナスになることも珍しくありません。また非化石証書は1kWhあたり0.4円前後と安価で、年間10万kWhの事業所なら年4万円程度で電気を実質再エネ化できます。
Q. カーボンクレジットを買えば削減したことになりますか?
A. 順序が重要です。クレジットによるオフセットは「削減努力をしても残る分」の埋め合わせと位置づけられており、SBTなど主要な枠組みでは削減の代わりとは認められません。省エネや電気の切替を先に行い、クレジットは最後の仕上げに使うのが正しい使い方です。
Q. 取引先からScope1・2の報告を求められました。何を出せばよいですか?
A. 求められるのは通常、年間の排出量実績(t-CO2)・削減目標の有無・再エネ利用状況・今後の計画の4点です。排出量は使用量×排出係数の簡易算定で十分通用します。完璧である必要はなく、順序立てて取り組んでいることを示すのが最も評価されます。
Q. 非化石証書とJ-クレジットはどちらを買うべきですか?
A. 目的で使い分けます。買った電気(Scope2)の削減なら非化石証書が圧倒的に安価です(CO2換算でおよそ1,000円前後/t、J-クレジットは5,000円以上)。一方、ガスや車両などScope1のオフセットには電気の証書は使えず、J-クレジットの出番になります。
最終更新日:2026年8月29日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。