CCS(CO2回収・貯留)とは|CCUS・CDRとの違いと日本のCCS事業法をわかりやすく解説

2026.06.20
気候変動

脱炭素の議論でよく登場する「CCS」。工場や発電所から出るCO2を回収し、地中深くに閉じ込めて大気への排出を防ぐ技術です。再生可能エネルギーや省エネだけでは減らしきれない排出に対応する「現実解」として、世界でも日本でも実装が始まりつつある技術です。

本記事では、CCSの基本的な仕組みから、回収・輸送・貯留の3つのプロセス、よく混同されるCCUS・CDR(炭素除去)との違い、世界の現状、そして2024年に成立した日本のCCS事業法までを、できるだけわかりやすく整理します。

目次

CCS(CO2回収・貯留)とは

CCSは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「CO2の回収・貯留」と訳されます。発電所や製鉄所、化学プラントなどから排出されるCO2を分離・回収し、地下深くの安定した地層に貯留することで、大気中へのCO2排出を抑える技術です。

CCSの基本的な仕組み

仕組みの核心はシンプルです。まず排ガスなどからCO2だけを取り出し、次にそれを貯留地点まで運び、最後に地下800m以深の地層へ圧入して閉じ込めます。圧入されたCO2は、上を不透水層(キャップロック)で覆われた地層にとどまり、長期にわたって安定的に保持される、と考えられているのです。

ポイントは、CCSが「排出を減らす」技術であって、必ずしも「大気中のCO2を減らす」技術ではない点です。すでに大気へ出てしまったCO2を回収するわけではなく、これから出ていくはずだったCO2を発生源で食い止める。この違いこそが、後述するCDR(炭素除去)との線引きにつながるのです。

なぜいまCCSが注目されるのか

注目の背景にあるのが、「削減が難しい排出(hard-to-abate)」の存在です。鉄鋼、セメント、化学といった産業は、製造プロセスそのものからCO2が出るため、電化や燃料転換だけではゼロにしにくい分野です。こうした排出にCCSは有効な手段になり得ます。

加えて、2050年カーボンニュートラルという長期目標が各国で共有され、あらゆる選択肢を総動員する必要が生じたのです。IPCCやIEAのシナリオでも、ネットゼロ達成の経路にCCSは組み込まれています。再エネ拡大と並ぶ「もう一つの柱」として、現実的な脱炭素の手段に位置づけられているのです。

CCSの3つのプロセス(回収・輸送・貯留)

CCSは大きく「回収」「輸送」「貯留」の3段階で構成されます。それぞれに複数の技術・方式があり、プロジェクトの条件に応じて選ばれます。

CCSの3つのプロセス

回収 → 輸送 → 貯留

1

回収

発電所や工場の排ガスからCO2を分離・回収。化学吸収法などを用いる。

2

輸送

パイプラインや専用船で、CO2を貯留地点まで運ぶ。

3

貯留

地下800m以深の帯水層や枯渇油ガス田に圧入し、キャップロックで閉じ込める。

発生源から出るCO2を回収し、地中深くに安定的に閉じ込めるのがCCSの基本です。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

①分離・回収(CO2を取り出す)

最初の工程が、排ガスなどからCO2を分離・回収する段階です。代表的な方式には、アミン溶液などでCO2を吸収する「化学吸収法」、圧力差を利用する「物理吸収法」、膜でふるい分ける「膜分離法」などが代表的です。

現在もっとも実績が豊富なのは化学吸収法でしょう。燃焼後の排ガスからCO2を回収する「燃焼後回収」に広く使われている方式です。一方、燃焼前にCO2を取り除く「燃焼前回収」や、純酸素で燃焼させてCO2を濃縮する「酸素燃焼」など、効率を高める方式の開発も進行中です。回収はCCS全体のコストの大きな部分を占めるため、ここが技術革新の主戦場となっています。

②輸送(パイプラインや船で運ぶ)

回収したCO2は、貯留地点まで運ばなければなりません。陸上で距離が比較的近い場合はパイプライン輸送が一般的です。大量のCO2を連続的に送れる点が利点です。

一方、海外や離れた海域の貯留地点へ運ぶ場合には、液化したCO2を専用船で運ぶ「船舶輸送」が選択肢になります。島国で適地が偏在しがちな日本では、船舶輸送への関心が高い傾向です。輸送方式の選択は、発生源と貯留地点の距離・地理的条件によって変わってきます。

③貯留(地中深くに閉じ込める)

最後の工程が、地下深くへの貯留です。主な貯留先は、塩水で満たされた砂岩層などの「塩水帯水層(深部塩水層)」と、すでに採掘を終えた「枯渇油・ガス田」です。いずれも地下800m以深を目安とし、CO2が超臨界状態(液体に近い高密度の状態)で安定して存在できる環境を選びます。

貯留の安全性を支えるのが、貯留層の上を覆う不透水層(キャップロック)と、継続的なモニタリングです。圧入したCO2が想定どおりにとどまっているかを観測し、長期にわたり管理します。適地の選定とモニタリングこそが、CCSの信頼性を左右する要といえるでしょう。

CCS・CCUS・CDRの違い

CCSの話題では「CCUS」「CDR」という似た言葉が頻繁に登場します。混同しやすいものの、役割は明確に違います。

CCS・CCUS・CDRの違い

どこからCO2を集め、回収後どうするか

CCS

CO2をどこから

発生源(工場・発電所)

回収後

地中に貯留

ねらい

排出を防ぐ

CCUS

CO2をどこから

発生源(工場・発電所)

回収後

利用(合成燃料・化学品・コンクリート等)+貯留

ねらい

排出を防ぎつつ資源として活用

CDR(炭素除去)

CO2をどこから

大気中

回収後

貯留・固定

ねらい

大気中のCO2を直接減らす(ネットマイナス)

DACCS・BECCSは、CDRとCCSが重なる領域です。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

CCUS=回収したCO2を「利用」する

CCUSは「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、CCSに「Utilization(利用)」が加わった概念です。回収したCO2を、合成燃料(e-fuel)やメタノールなどの化学品の原料、コンクリートへの固定、農業用ハウスでの利用などに活かします。

代表的な利用先の一つが「EOR(石油増進回収)」です。油田にCO2を圧入して原油の回収率を高める手法で、CCSの貯留を兼ねる場合もあります。CCUSは、CO2を「やっかいな廃棄物」から「使える資源」へと捉え直す発想だといえます。ただし利用先の市場規模や採算性には課題も多く、貯留(S)が引き続き中心であることに変わりはありません。

CDR(炭素除去)とCCSの違い

CDR(Carbon Dioxide Removal=炭素除去)は、大気中からCO2を取り除く技術の総称です。DAC(直接空気回収)や植林、ブルーカーボンなどが含まれます。CCSとの決定的な違いは、CO2を「どこから」集めるかという点です。

CCSが工場などの発生源からCO2を回収するのに対し、CDRは大気中からCO2を取り除くため、大気中のCO2総量そのものを減らせます。ただし両者は無関係ではありません。DACで回収したCO2を地中貯留する「DACCS」や、バイオマス発電にCCSを組み合わせる「BECCS」は、CDRとCCSの貯留技術が重なる領域です。CCSの貯留インフラは、CDRを支える土台にもなるのです。炭素除去について詳しくは炭素除去(CDR)とはもあわせてご覧ください。

世界のCCSの現状

CCSは長く「コンセプト先行」と見られてきましたが、近年は着実な実装が進行中です。プロジェクト数も貯留能力も拡大基調にあります。

稼働プロジェクトの拡大

Global CCS Instituteの2025年の報告によると、世界で稼働中のCCSプロジェクトは前年の50件から77件へと、1年で約54%増加しました。さらに建設段階にあるプロジェクトも47件あり、開発はむしろ加速しているとのことです(Global CCS Institute)。北米や欧州、中東を中心に、産業集積地での大規模プロジェクトが相次ぐ状況です。

2030年に向けた能力の見通し

国際エネルギー機関(IEA)のCCUSプロジェクトデータベース2025によれば、2025年初頭時点で稼働中のCO2回収・貯留能力は年間50Mt(5,000万トン)を超える水準にあります。今後の計画ベースでは、2030年までに回収能力が年間約430Mt、貯留能力が年間約670Mtに達し得るとされています(IEA)。計画と実績にはなお開きがあるものの、CCSが構想段階から拡大局面へ移りつつあることは確かでしょう。

日本のCCS政策|CCS事業法と先進的CCS事業

日本も2050年カーボンニュートラルに向け、CCSの事業環境づくりを本格化させているところです。法制度と支援事業という両輪で、取り組みは着実です。

日本のCCS政策の全体像

CCS事業法と先進的CCS事業

CCS事業法(2024年5月成立)

「二酸化炭素の貯留事業に関する法律」。試掘・貯留事業の許可制度を創設し、事業規制・保安規制(モニタリング等)を整備。

先進的CCS事業(経産省・JOGMEC)

CO2の分離回収から輸送・貯留までバリューチェーンを一体支援。2024年度に設計作業等9案件を選定。

2030年まで

CO2貯留の開始をめざす

2030年代初頭

年間600〜1,200万トンの貯留に目途

2050年

カーボンニュートラル

出典:経済産業省・JOGMEC公開情報をもとにgreenote作成

CCS事業法(2024年成立)

2024年5月、「二酸化炭素の貯留事業に関する法律」(通称:CCS事業法)が成立しました。これにより、CO2を貯留するための試掘・貯留事業について、国の許可制度が創設され、事業規制や保安規制(モニタリングを含む)が整備されました(経済産業省)。

それまで日本にはCCS事業を直接規律する法律がなく、誰がどのような条件で地下にCO2を貯留できるのかが不明確でした。事業法の成立は、民間企業が長期のCCS事業に投資判断を下すための「土台」を整えた点で大きな前進といえます。

先進的CCS事業と2030年目標

法制度と並行して、支援事業も着実に前進中です。経済産業省とJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)は2023年度から「先進的CCS事業」として、CO2の分離・回収から輸送、貯留までのバリューチェーン全体を一体的に支援してきました。

2024年度には、CCSのコストや地下貯留に係る不確実性の低減をねらい、設計作業等を行う案件として9件が選定されています(JOGMEC)。これらの取り組みを通じ、2030年までのCO2貯留開始、そして2030年代初頭から年間600〜1,200万トンの貯留量確保に目途を付けることが目標とされています(JOGMEC ニュースリリース)。日本のCCSは、いよいよ実証から実装の段階に入りつつあるのです。

CCSの課題と今後の展望

普及への期待が高まる一方、CCSにはまだ越えるべきハードルも残るのが実情です。冷静に課題を見ておきましょう。

コスト・貯留適地・社会受容

第一の課題はコストです。とりわけ回収工程のコストが高く、CCS全体の経済性を左右します。カーボンプライシングの強化や技術革新によるコスト低減が、普及の最大の鍵です。カーボンプライシングの仕組みはカーボンプライシングとはもあわせてご覧ください。

第二に、貯留適地の確保です。安全に大量のCO2を貯留できる地層は限られ、適地の調査・評価には時間とコストがかかるのも事実です。第三に、社会的な受容(地域の理解)も欠かせません。地下貯留への漠然とした不安を解消するには、透明性の高い情報公開とモニタリングの継続が重要になります。

ネットゼロに向けたCCSの役割

CCSは「排出を続けるための免罪符」と批判されることもあります。しかし、省エネや再エネを最大限進めてもなお残る、削減困難な排出は確実に存在します。CCSは、そうした「最後に残る排出」に対応する手段として位置づけるのが現実的でしょう。

重要なのは、CCSを排出削減の努力を緩める口実にせず、あくまで再エネ拡大や省エネと組み合わせて使うことです。日本のGX戦略でも、火力発電の脱炭素化の手段としてCCSや水素・アンモニアが位置づけられました。GX2040ビジョンの全体像はGX2040ビジョンとはで解説しています。

まとめ|CCSは脱炭素の「現実解」の一つ

CCSは、発生源から出るCO2を回収し、地中に貯留して大気への排出を防ぐ技術です。回収・輸送・貯留の3プロセスで成り立ち、回収したCO2を利用すればCCUS、大気中から取り除く技術はCDRと整理できます。

世界では稼働プロジェクトが1年で5割増えるなど実装が進み、日本でも2024年のCCS事業法成立と先進的CCS事業によって、2030年代の本格貯留へ向けた土台が整いつつあります。コストや適地、社会受容といった課題は残るものの、削減が難しい産業の排出に対応する「現実解」として、CCSの役割は今後さらに大きくなっていくでしょう。脱炭素の全体像はカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。

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ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年6月20日

この記事の著者

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