「再エネ100%で事業を動かしたい」。そう考える企業が増えています。でも、コンセントから来る電気は、いろいろな電源の電気が混ざったもの。どうやって「これは再エネ由来です」と証明するのか——。その鍵を握るのが、電気のCO2を出さない価値を証書にして売買する、非化石価値取引市場です。本記事では、その仕組みと、RE100などでの使い方を、資源エネルギー庁・JEPXの一次情報をもとに、わかりやすく解説します。
再エネ調達の全体像は再生可能エネルギー調達とPPAとは、企業の再エネ目標はRE100とはもあわせてご覧ください。
≡この記事の目次
- 1非化石価値取引市場とは
- ►非化石価値取引市場をひとことで言うと
- ►なぜ生まれたのか――高度化法の「非化石44%」
- 2電気の「2つの価値」――kWh価値と非化石価値
- ►電気そのもの(kWh価値)と、環境価値(非化石価値)
- ►環境価値を切り離す――それが「非化石証書」
- 33種類の非化石証書
- ►FIT非化石証書と、2つの非FIT非化石証書
- ►「再エネ指定」のあり・なしで何が変わるか
- 42つの市場――再エネ価値取引市場と高度化法義務達成市場
- ►需要家も買える「再エネ価値取引市場」
- ►小売事業者向けの「高度化法義務達成市場」とトラッキング
- 5何に使えるのか――RE100と企業の脱炭素
- ►RE100やCO2削減の報告に使う
- ►実質再エネメニューの裏側でも使われる
- 6他の証書との違いと、これからの課題
- ►グリーン電力証書・J-クレジットとの違い
- ►価格・追加性という課題
- 7非化石価値取引市場をどう捉えるか
- 8出典・参考(一次情報)
非化石価値取引市場とは
まず、非化石価値取引市場をひとことで整理します。「電気のCO2を出さない価値を、証書にして売り買いする市場」という発想から入りましょう。
非化石価値取引市場をひとことで言うと
非化石価値取引市場とは、電気そのもの(kWh)とは別に、「CO2を出さずに発電された」という環境価値を、証書にして売買する市場です。この証書を、非化石証書と呼びます。運営しているのは、卸電力市場でおなじみのJEPX(日本卸電力取引所)。2018年に開設されました。
ポイントは、電気と環境価値を「切り離して」扱えるという点にあります。電気そのものは送電網を流れて混ざってしまいますが、「再エネでつくられた」という価値だけを証書として取り出せば、別々に売り買いできる。この発想が、企業の再エネ調達を大きく広げました。
なぜ生まれたのか――高度化法の「非化石44%」
この市場が生まれた背景には、エネルギー供給構造高度化法(高度化法)があります。この法律は、年間の販売電力量が一定規模以上の小売電気事業者に対し、2030年度に調達する電気の非化石電源の比率を44%以上にするよう求めています。非化石電源とは、再エネや原子力など、CO2を出さない電源のことです。
ところが、小売電気事業者が自社で調達する電源だけで、この比率を満たすのは簡単ではありません。そこで、非化石電源の「価値」を証書として取引できるようにし、足りない分を市場で買って目標を達成できるようにした。これが、非化石価値取引市場の出発点です。当初は小売事業者向けの制度として始まりました。
電気の「2つの価値」――kWh価値と非化石価値
この市場を理解する鍵は、電気が「2つの価値」を持つと考えることです。電気そのものと、その環境価値を分けて見ていきましょう。
電気は、2つの価値に分けられる
kWh価値(電気そのもの)
コンセントから使える電気としての価値。送電網を流れる。
非化石価値(環境価値)
CO2を出さずに発電されたという価値。
電気と環境価値を切り離せるから、別々に取引できる。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
電気そのもの(kWh価値)と、環境価値(非化石価値)
電気には、大きく分けて2つの価値があると考えます。1つは、kWh価値。これは、コンセントから使える「電気そのもの」としての価値です。何キロワットアワー使えるか、という量の価値であり、これは卸電力市場(JEPX)などで取引されます。
もう1つが、非化石価値。これは、その電気が「CO2を出さずに発電された」ことによる、環境としての価値です。同じ1kWhの電気でも、石炭でつくったものと、太陽光でつくったものでは、環境価値が違う。この目に見えない価値を取り出して扱えるようにしたのが、非化石価値取引市場なのです。
環境価値を切り離す――それが「非化石証書」
では、どうやって環境価値を扱うのか。答えが、環境価値を電気から「切り離して」証書にすることです。これが非化石証書です。再エネなどの非化石電源でつくられた電気から、「CO2を出さない」という価値だけを抜き出し、証書という形にして売買できるようにする。
これにより、電気の流れとは別に、環境価値だけを取引できるようになります。たとえば、火力中心の電気を使っている企業が、別途、非化石証書を買えば、その分を「実質的に再エネで賄った」とみなせる。電気の物理的な流れに縛られずに、環境価値をやり取りできる——。この柔軟さが、証書の強みです。
3種類の非化石証書
非化石証書は、由来する電源によって3種類に分かれます。それぞれ、何を証明するのかが異なります。
非化石証書は、由来する電源で3種類
FIT非化石証書
固定価格買取(FIT)の再エネ電源由来。太陽光・風力・小水力・地熱・バイオマスなど。
非FIT非化石証書(再エネ指定あり)
FIT以外の再エネ由来。卒FITや大型水力など。
非FIT非化石証書(再エネ指定なし)
原子力など、再エネではない非化石電源由来。
RE100など再エネ100%の証明には、再エネ由来でトラッキングの付いた証書が必要。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
FIT非化石証書と、2つの非FIT非化石証書
非化石証書は、3種類に分かれます。1つめが、FIT非化石証書。これは、固定価格買取制度(FIT)の対象となる再エネ電源(太陽光・風力・小水力・地熱・バイオマスなど)に由来する証書です。2つめが、非FIT非化石証書(再エネ指定あり)。FIT以外の再エネ、たとえば卒FITや大型水力などに由来します。
そして3つめが、非FIT非化石証書(再エネ指定なし)。これは、原子力など、再エネではない非化石電源に由来する証書です。同じ「CO2を出さない」価値でも、再エネ由来か、原子力なども含むのか——。この違いが、次に説明する「再エネ指定」のあり・なしにつながります。
「再エネ指定」のあり・なしで何が変わるか
3種類を分ける大きなポイントが、「再エネ指定」です。FIT非化石証書と、非FIT(再エネ指定あり)は、いずれも再エネ由来であることが保証されています。一方、非FIT(再エネ指定なし)は、原子力なども含むため、「再エネ」とは言い切れません。
なぜ、この区別が重要なのか。RE100のように「再エネ100%」を掲げる枠組みでは、当然ながら再エネ由来の証書でなければ使えないからです。「CO2を出さない(非化石)」と「再エネである」は、似ているようで違う。自社の目的が再エネ100%なのか、CO2削減なのかで、選ぶべき証書が変わってくるのです。
2つの市場――再エネ価値取引市場と高度化法義務達成市場
非化石価値取引市場は、2021年の再編で2つに分かれました。誰が、何を取引できるのかを整理します。
2021年の再編で、2つの市場に
再エネ価値取引市場
2021年開設・需要家も参加
FIT非化石証書を取引。小売電気事業者だけでなく、需要家(企業など)も直接購入できる。再エネ調達やRE100に活用。
高度化法義務達成市場
主に小売事業者向け
非FIT非化石証書(再エネ指定あり・なし)を取引。小売電気事業者が高度化法の非化石44%の義務達成に使う。
証書にはトラッキング情報を付与でき、いつ・どこで・どの電源で発電されたかを示せる(2024年度から付与の運用)。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
需要家も買える「再エネ価値取引市場」
2021年、非化石価値取引市場は2つの市場に再編されました。1つが、再エネ価値取引市場です。ここでは、FIT非化石証書が取引され、最大の特徴は、小売電気事業者だけでなく、需要家(企業など)も直接購入できる点にあります。
それまで、非化石証書は基本的に小売電気事業者しか扱えませんでした。しかし、企業が自ら再エネ価値を調達したいという声が高まり、需要家にも門戸が開かれた。これにより、企業が直接、再エネの環境価値を買って、RE100などに活用できるようになったのです。再エネ調達の選択肢が、大きく広がりました。
小売事業者向けの「高度化法義務達成市場」とトラッキング
もう1つが、高度化法義務達成市場です。こちらでは、非FIT非化石証書(再エネ指定あり・なし)が取引され、主に小売電気事業者が、高度化法の「非化石44%」の義務を達成するために使います。市場を分けることで、目的に応じた取引ができるようになっています。
さらに重要なのが、トラッキングです。非化石証書には、その電気がいつ・どこで・どの電源で発電されたかを示す情報を付けられます。2024年度からは、対象となる非化石価値にトラッキング情報が付与される運用となりました。これにより、「この再エネは、◯◯県の太陽光発電由来」といった証明ができ、RE100やCDP、SBTといった国際的な枠組みでの報告に使えるのです。
何に使えるのか――RE100と企業の脱炭素
非化石証書は、企業の脱炭素の取り組みで、具体的にどう役立つのでしょうか。主な使い道を見ていきます。
非化石証書は、こう使う
RE100の達成
再エネ由来でトラッキング付きの証書を使い、事業の電力を再エネ100%にしたと示せる。
CO2排出量の削減
使う電気の環境価値を高め、温室効果ガスの排出量を抑えられる。CDPやSBTの報告にも。
実質再エネメニュー
電力会社が証書とセットで売る再エネ電気のプランの裏側でも使われている。
電気と環境価値を切り離せるから、物理的な再エネ調達が難しくても脱炭素を進められる。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
RE100やCO2削減の報告に使う
非化石証書の代表的な使い道が、RE100の達成です。RE100は、事業で使う電力を100%再エネにすることを目指す国際的な枠組み。物理的に再エネ電気を調達しきれなくても、再エネ由来でトラッキング付きの非化石証書を使えば、その分を再エネとみなせます。
また、企業のCO2排出量(温室効果ガス)の削減にも役立ちます。使う電気の環境価値を高めることで、排出量の計算を抑えられ、CDPやSBTといった国際的な情報開示・目標設定の枠組みでの報告に活用できる。物理的な再エネ調達が難しい企業でも、証書を通じて脱炭素の取り組みを前に進められるのです。
実質再エネメニューの裏側でも使われる
意外と知られていませんが、私たちが契約できる「実質再エネ」の電気プランの裏側でも、非化石証書は使われています。電力会社が、通常の電気に非化石証書を組み合わせることで、「実質的に再エネ100%」として販売しているケースが多いのです。
つまり、企業が個別に証書を買わなくても、証書付きの電気プランを選ぶことで、再エネ価値を手に入れられる。非化石証書は、こうしてさまざまな形で、私たちの再エネ利用を支えているわけです。再エネ調達の手法全体は再生可能エネルギー調達とPPAとはもあわせてご覧ください。
他の証書との違いと、これからの課題
環境価値の証書は、非化石証書だけではありません。似た仕組みとの違いと、残る課題を整理します。
3つの環境価値証書、何が違う
非化石証書
対象は再エネと原子力などの非化石電源。FITの再エネ由来は需要家も再エネ価値取引市場で購入できる。国の制度にもとづく。
グリーン電力証書
対象は再エネ由来の電力のみ。民間の仕組みとして発行される。
J-クレジット
省エネや森林吸収なども含む。CO2削減量が対象で、一般企業も購入や転売ができる。
対象とする価値や、誰が売買できるかが異なる。目的に合わせて選ぶ。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
グリーン電力証書・J-クレジットとの違い
環境価値の証書には、非化石証書のほかにも、グリーン電力証書やJ-クレジット(カーボンクレジット)があります。混同しやすいので、違いを押さえておきましょう。グリーン電力証書は、再エネ由来の電力のみが対象で、民間の仕組みとして発行されます。非化石証書が原子力なども含むのとは、対象が異なる。
J-クレジットは、再エネだけでなく、省エネや森林によるCO2吸収なども対象とし、CO2の削減量を取引します。一般企業も購入・転売できるのが特徴です。一方、非化石証書のうち高度化法義務達成市場は主に電力会社向けで、企業は再エネ価値取引市場を通じてFIT非化石証書を買う。対象とする価値や、誰が売買できるかが、それぞれ違うのです。目的に合わせて、適した証書を選ぶことが大切です。
価格・追加性という課題
非化石証書には、課題もあります。1つが、価格です。証書の価格は市場で変動し、需要が高まれば上がる。コストとして無視できず、価格の動向は、企業の調達判断に影響します。最低価格も、制度の見直しのなかで調整されてきました。
もう1つが、追加性をめぐる議論です。証書を買うことが、新しい再エネの増加に本当につながっているのか、という論点です。すでにある再エネの価値を売買するだけでは、再エネそのものは増えない、という指摘もある。環境価値の取引を、いかに実際の再エネ拡大につなげるか。非化石価値取引市場は、こうした課題と向き合いながら、制度の改善が続けられています。
非化石価値取引市場をどう捉えるか
非化石価値取引市場は、電気そのもの(kWh)とは別に、CO2を出さない環境価値を証書にして売買する市場です。高度化法の「非化石44%」を背景に2018年に生まれ、2021年に再エネ価値取引市場と高度化法義務達成市場の2つに再編されました。FIT・非FITという3種類の証書があり、トラッキングによって、RE100やCO2削減の報告に活用できます。
大切なのは、非化石証書を「脱炭素の免罪符」と捉えるのではなく、「電気と環境価値を切り離すことで、再エネの価値を社会に行き渡らせるための仕組み」として理解することでしょう。物理的に再エネを調達しきれない企業でも、脱炭素に踏み出せる。一方で、追加性のように、「本当に再エネを増やすことにつながっているか」を問い続ける視点も欠かせません。再エネ調達やRE100とあわせて理解すると、企業の脱炭素戦略の全体像が見えてきます。ESGの全体像はESG完全ガイドもご覧ください。
電気と環境価値を切り離す。そのシンプルな発想が、再エネの価値を広く届ける土台になっています。非化石価値取引市場は、企業の脱炭素を支える、見えにくいけれど重要なインフラなのです。なお本記事は制度を中立に整理したものであり、最新の内容は資源エネルギー庁やJEPXの公表資料でご確認ください。
あわせて読みたい:証書はどこで・どうやって買う?手順と使い分け → 再エネ証書の買い方|非化石証書・グリーン電力証書・J-クレジットの取得手順
よくある質問(FAQ)
Q. 非化石価値取引市場とは何ですか?
A. 電気そのもの(kWh)とは別に、「化石燃料を使わずに発電された=CO2を出さない」という環境価値(非化石価値)を、証書(非化石証書)にして売り買いする市場です。日本卸電力取引所(JEPX)が2018年に開設しました。電気と環境価値を切り離して取引できるようにすることで、小売電気事業者の非化石比率の目標達成や、企業の再エネ調達・脱炭素の取り組みを後押しします。
Q. 非化石証書にはどんな種類がありますか?
A. 3種類あります。①FIT非化石証書(固定価格買取=FITの再エネ由来。太陽光・風力・小水力・地熱・バイオマスなど)、②非FIT非化石証書(再エネ指定あり。卒FITや大型水力などFIT以外の再エネ由来)、③非FIT非化石証書(再エネ指定なし。原子力など再エネ以外の非化石電源由来)です。RE100など『再エネ100%』の証明には、再エネ由来でトラッキング情報の付いた証書が必要になります。
Q. 非化石証書は、グリーン電力証書やJ-クレジットと何が違うのですか?
A. いずれも環境価値を取引する証書ですが、対象や売買できる人が異なります。グリーン電力証書は再エネ由来の電力が対象ですが、非化石証書は原子力など再エネ以外の非化石電源も含みます。またJ-クレジットは一般企業も購入・転売できますが、非化石証書のうち高度化法義務達成市場は主に電力会社向けで、企業は再エネ価値取引市場を通じてFIT非化石証書を購入します。本記事は仕組みを中立に整理したものです。
→ 環境価値とは|非化石証書・グリーン電力証書・Jクレジットの違いと買い方
→ GHG削減の方法|中小企業は何から?打ち手の優先順位・費用対効果と非化石証書の使い方
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出典・参考(一次情報)
- 日本卸電力取引所(JEPX)「非化石価値取引 取引概要」
- 日本卸電力取引所(JEPX)「非化石価値取引 市場情報」
- 日本卸電力取引所(JEPX)「非化石価値取引システム利用ガイド(PDF)」
- 資源エネルギー庁「電力・ガス(電力の小売自由化・制度)」
最終更新日:2026年6月28日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。