「電力会社、どこにしようかな」。いまでは当たり前のこの選択も、ほんの10年前にはできませんでした。それを可能にしたのが、電力システム改革です。
電力システム改革とは、2015年から2020年にかけて段階的に行われた、日本の電力制度の大改革を指します。長らく地域の電力会社が独占してきた電力事業に、競争を持ち込む。そして、安定供給と料金抑制を両立させる。それが、この改革の大きな狙いです。
本記事では、電力システム改革の意味と背景から、改革前の電力システム、3つの柱(広域化・自由化・分離)、改革で変わったこと、そして残された課題までを、わかりやすく解説します。電力・エネルギーを学ぶ特集の出発点として、お役に立てれば幸いです。
電力システム改革の3つの柱
広域化・自由化・分離を段階的に実施
2015年
広域系統運用の拡大
OCCTO発足。地域を超えた電力融通を可能に
2016年
小売の全面自由化
新電力が参入。需要家が自由に選べる
2020年
発送電分離
法的分離で送配電を分社化。中立性を確保
2013年の改革方針の閣議決定に基づき、段階的に進められました。
≡目次
- 1電力システム改革とは|競争と安定供給を両立させる改革
- ►電力システム改革とは
- ►なぜ行われたのか(東日本大震災と課題)
- ►改革の3つの目的
- 2改革前の電力システム|垂直一貫体制と地域独占
- ►一般電気事業者と地域独占
- ►総括原価方式による料金
- ►改革前に見えてきた課題
- 3電力システム改革の3つの柱
- ►①広域系統運用の拡大(OCCTO・2015年)
- ►②小売の全面自由化(2016年・新電力)
- ►③発送電分離(法的分離・2020年)
- 4改革で何が変わったのか
- ►発電・送配電・小売への分離
- ►電気料金の自由化(総括原価方式の撤廃)
- ►電力市場の創設
- 5改革の意義と今後の課題
- ►改革がもたらした成果
- ►安定供給という新たな課題
- ►脱炭素・再エネとの関係
- 6まとめ|電力システム改革は脱炭素時代の土台
- 7よくある質問(FAQ)
電力システム改革とは|競争と安定供給を両立させる改革
まずは、電力システム改革という言葉の意味と、改革が行われた背景を押さえましょう。ここを理解すると、3つの柱の狙いも見えてきます。
電力システム改革とは
電力システム改革は、発電から小売まで、日本の電力事業の仕組みを根本から見直した制度改革です。解説動画『電力システム改革とは』でも、競争の促進と安定供給の確保を両立させる改革だと整理されています。
それまでの日本では、地域ごとの電力会社が、電力のすべてを担っていました。改革は、そこに新しいプレーヤーや市場の仕組みを導入し、電力をより効率的で柔軟なものへと変えていく試みです。一連の改革は、2013年の閣議決定を起点に、約7年をかけて進められたのです。
なぜ行われたのか(東日本大震災と課題)
改革の直接の引き金となったのは、2011年の東日本大震災でした。原子力発電所の事故や、その後の計画停電によって、それまでの電力システムが抱える課題が一気に表面化したのです。
たとえば、ある地域で電力が足りなくても、別の地域から十分に融通できない。電気料金は規制され、需要家に選択肢がない。こうした硬直性が、震災を機に問題視されます。原発依存からの脱却や、再生可能エネルギーの拡大という新たな要請も、改革を後押しした背景です。
改革の3つの目的
2013年、政府は「電力システムに関する改革方針」を閣議決定し、3つの目的を掲げます。第一に、安定供給の確保。第二に、電気料金の最大限の抑制。そして第三に、需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大です。
これらを実現する手段が、後述する3つの柱になります。競争を促しながらも、電気という生活に不可欠なインフラの安定を守る。その難しい両立こそ、改革に課せられたテーマでした。
改革前の電力システム|垂直一貫体制と地域独占
改革の意義を理解するには、改革前の姿を知る必要があります。10社の電力会社による、地域独占の体制を振り返りましょう。
改革前と改革後の事業形態
垂直一貫・地域独占から、分離と競争へ
垂直一貫体制・地域独占
一般電気事業者(地域の電力会社10社)が、発電・送配電・小売をすべて1社で担う。
発電・送配電・小売に分離
送配電は中立化。新電力など多様な事業者が参入し、競争が生まれる。
送配電網を中立化し、新電力も平等に利用できる土台が整いました。
一般電気事業者と地域独占
改革前、電力事業の中心にいたのが「一般電気事業者」です。東京電力や関西電力など、地域ごとの電力会社10社がこれにあたります。各社は、発電・送配電・小売のすべてを一手に担う「垂直一貫体制」をとっていました。
そして、それぞれが担当エリアで電力を独占的に供給する。これを地域独占といいます。安定供給の責任を一社が負う、わかりやすい仕組みではありました。しかし、競争がないため、料金やサービスの改善が進みにくい、という弱点も抱えていたのです。
総括原価方式による料金
改革前の電気料金は、「総括原価方式」で決められていました。これは、電力を安定供給するために必要な費用に、適正な利潤を上乗せして料金を算定する仕組みを指します。
この方式のもとでは、料金の値上げに国(経済産業大臣)の認可が必要です。安定供給に必要なコストを確実に回収できる一方、事業者にコスト削減の動機が働きにくい、という指摘も少なくありません。需要家には、料金プランを選ぶ自由もなかったのです。
改革前に見えてきた課題
こうした体制は、長く日本の電力を支えてきました。しかし時代とともに、その限界も見えてきます。地域を超えた電力融通の難しさ、料金の硬直性、需要家の選択肢の乏しさ。
そして決定的だったのが、東日本大震災です。一極集中的で硬直的なシステムが、危機に弱いと露呈した出来事でした。より柔軟で、競争のある電力システムへ。改革への機運は、こうして高まっていったのです。
電力システム改革の3つの柱
改革は、3つの柱に沿って段階的に進みます。広域化・自由化・分離という、それぞれの中身を見ていきましょう。
電力システム改革のあゆみ
震災を契機に、約9年かけて段階的に
3つの柱で、競争と安定供給の両立を目指す制度へ転換しました。
①広域系統運用の拡大(OCCTO・2015年)
第1の柱が、広域系統運用の拡大です。2015年4月、その担い手として「電力広域的運営推進機関」、略称OCCTO(オクト)が発足しました。地域を超えて、全国大での電力需給を調整する組織になります。
従来、電力は地域ごとの10社の管轄で運用され、エリアを超えた融通のルールは十分ではありません。OCCTOの設立により、ある地域で電力が逼迫しても、別の地域から融通しやすくなります。地域の壁を低くする、最初の一歩でした。
②小売の全面自由化(2016年・新電力)
第2の柱が、小売の全面自由化です。2016年4月、家庭や商店向けの低圧電力を含め、すべての需要家が電力会社を選べるようになりました。これにより、新電力と呼ばれる新規参入の事業者からも、電気を買えるようになったのです。
実は、自由化は2000年から段階的に始まっています。まず大規模な工場やビル向けの電力が、次に中規模が自由化され、最後に家庭向けが解放されて「全面」自由化に至った形です。私たちが電力会社を選べるようになったのは、この改革のおかげといえるでしょう。
③発送電分離(法的分離・2020年)
第3の柱が、発送電分離です。2020年4月、「法的分離」という方式で、大手電力会社の送配電部門が別会社として分社化されました。発電・小売と、送配電を切り離したわけです。
なぜ分離が必要なのでしょうか。送配電網は、誰もが使う公共的なインフラです。それを発電・小売部門と同じ会社が持っていると、新電力が不利に扱われる懸念があります。分離によって送配電の中立性を高め、新電力も平等に送配電網を使える、公正な競争の土台が整いました。
改革で何が変わったのか
3つの柱を経て、電力事業の姿は大きく様変わりします。事業形態・料金・市場の3つの観点から、変化を整理しましょう。
発電・送配電・小売への分離
最も大きな変化が、事業形態です。改革前、電力会社は発電・送配電・小売を垂直一貫で担う「一般電気事業者」でした。改革後は、この区分がなくなり、発電事業者・送配電事業者・小売電気事業者へと役割が分けられます。
それぞれの事業者には、固有の義務と役割が課されます。発電事業者はOCCTOへの加入や発電計画の提出を求められ、送配電事業者は中立的な系統運用を担います。多様なプレーヤーが、それぞれの役割で電力供給に関わる。そんな構造へと転換したのです。
電気料金の自由化(総括原価方式の撤廃)
料金の仕組みも変わります。改革によって、総括原価方式による規制は撤廃されます。託送料金や再生可能エネルギー発電促進賦課金など、法令で定まる項目を除けば、各社が自由に料金を設定できます。
事業者は、独自の料金プランやサービスで、需要家を獲得しようと競い合う。需要家は、自分のライフスタイルに合ったプランを選べます。ただし、急激な変化から消費者を守るため、規制料金の経過措置は当面続いています。
電力市場の創設
そして、改革を象徴するのが電力市場の創設です。電力を商品として売買する市場が整えられ、発電事業者と小売事業者は、市場を通じて電力を取引できるようになりました。
代表的なのが、卸電力市場(JEPX)です。さらに、将来の供給力を確保する容量市場や、需給を調整する需給調整市場など、目的の異なる複数の市場が整備されてきました。これらの電力市場については、この特集の別の記事で詳しく解説していきます。再エネ電力の調達手段は、関連記事の再生可能エネルギー調達とPPAとは|調達手法の種類と企業の選び方もあわせてご覧ください。
改革の意義と今後の課題
電力システム改革は、何をもたらし、どんな課題を残したのでしょうか。成果と、これからの論点を確認しましょう。
改革で変わった4つのこと
事業・料金・市場・中立性
新電力の参入
多様な事業者が参入し、電力市場に競争が生まれた
電気料金の自由化
総括原価方式の規制を撤廃。各社が自由に料金設定
電力市場の創設
卸電力市場(JEPX)など、電力を取引する市場が誕生
送配電の中立化
発送電分離で、新電力も平等に送配電網を利用できる
垂直一貫・地域独占から、多様なプレーヤーが競う構造へ転換しました。
改革がもたらした成果
電力システム改革は、いくつもの成果を生んでいます。まず、新電力の参入により、電力市場に競争が生まれたことです。需要家は電力会社を選べるようになり、多様な料金プランが出そろう時代です。
さらに、異業種からの参入や、新技術を使った新しいサービスも可能になります。再生可能エネルギーを扱う事業者が市場に参加する、その土台も整っていきます。電力という固い世界に、変化と多様性をもたらしたといえるでしょう。
安定供給という新たな課題
一方で、新たな課題も生まれています。最大のものが、電力の安定供給です。競争のなかで、発電所への投資が十分に行われるか。誰が、将来の供給力に責任を持つのか。垂直一貫体制の時代には一社が担っていた責任が、分散したことで見えにくくなったのも事実でしょう。
その課題は、まもなく現実のものとなります。2021年や2022年以降、LNGなど燃料価格の高騰を背景に、卸電力価格が急騰します。安い市場調達に頼っていた新電力の撤退や倒産が相次ぎ、契約先を失う「電力難民」と呼ばれる事態も生じたのです。
こうした事態を受け、制度面の対応も急速に進みます。将来の供給力を事前に確保する「容量市場」は、2024年度から実際の受渡が始まった段階です。新規の脱炭素電源への投資を促す「長期脱炭素電源オークション」も創設されました。さらに2025年には、経済産業省が改革の検証結果をまとめ、新電力にも供給力を確保する責任を求めるなど、制度の見直しを進める方針です。自由化と安定供給をどう両立させるか。これは、改革後も続く最大のテーマです。
脱炭素・再エネとの関係
電力システム改革は、脱炭素の動きとも深く結びついています。再生可能エネルギーは、天候によって発電量が変わるため、電力の需給調整がより難しくなります。そこで重要になるのが、需要側からも調整力を提供する仕組みでしょう。
蓄電池やEVといった需要側の機器を束ねて制御するVPPやデマンドレスポンスは、改革で整った市場の上に成り立つ取り組みです。脱炭素を進めるほど、柔軟な電力システムの価値は高まります。カーボンニュートラルの全体像は、関連記事のカーボンニュートラルとは|意味・脱炭素との違いと2050年目標・企業の取り組みもあわせてご覧ください。
まとめ|電力システム改革は脱炭素時代の土台
電力システム改革とは、2015年から2020年にかけて行われた、日本の電力制度の大改革でした。2011年の東日本大震災を契機に、安定供給・料金抑制・選択肢拡大を目指し、①広域系統運用の拡大(OCCTO)、②小売の全面自由化、③発送電分離という3つの柱で進められたのです。
その結果、垂直一貫・地域独占だった電力事業は、発電・送配電・小売へと分離されます。電気料金は自由化され、卸電力市場をはじめとする電力市場も誕生します。新電力の参入で競争が生まれた一方、電力の安定供給や電源投資の確保という新たな課題も浮かび上がっています。
そして電力システム改革は、再生可能エネルギーの拡大と、それを支える柔軟な電力システムの土台でもあります。脱炭素時代の電力を理解する、その第一歩がこの改革です。続く特集記事では、電力系統の仕組みや、卸電力市場・需給調整市場といった各市場、VPPやV2Gといった新しい取り組みを、順に掘り下げていきます。ESG・脱炭素の全体像はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。greenoteでは、脱炭素やエネルギーの実務情報を、これからもお届けしていきます。
よくある質問(FAQ)
Q. 電力システム改革とは何ですか? A. 電力システム改革とは、2015年から2020年にかけて段階的に行われた、日本の電力制度の大改革です。2011年の東日本大震災を契機に明らかになった課題を受け、①広域系統運用の拡大、②小売の全面自由化、③発送電分離という3つの柱で進められました。競争を促して電気料金を抑えつつ、安定供給を確保することを目指しています。
Q. 電力システム改革の3つの柱とは何ですか? A. ①広域系統運用の拡大(2015年に電力広域的運営推進機関OCCTOが発足し、地域を超えた電力融通を可能に)、②小売および発電の全面自由化(2016年に家庭向けを含む小売が自由化され、新電力から電気を買えるように)、③法的分離による発送電分離(2020年に送配電部門を分社化し中立性を確保)、の3つです。
Q. 小売電気の全面自由化はいつですか? A. 2016年4月です。それ以前、家庭や商店向けの低圧電力は地域の電力会社10社のみが販売していました。2016年の全面自由化により、すべての需要家が電力会社や料金メニューを自由に選べるようになり、新電力と呼ばれる新規参入事業者からも電気を購入できます。なお自由化自体は2000年から大規模需要家を対象に段階的に始まっていたものです。
Q. 発送電分離とは何ですか? A. 発送電分離とは、電力会社の発電部門と送配電部門を切り離すことです。日本では2020年4月に「法的分離」が行われ、送配電部門が別会社として分社化されました。これにより、新電力も大手電力会社と平等に送配電網を利用できるようになり、公正な競争の土台が整います。送配電網は引き続き、地域ごとの送配電会社が中立的に運用しています。
Q. 電力システム改革で電気料金は自由化されたのですか? A. はい。改革前は総括原価方式という仕組みで料金が規制され、値上げには国の認可が必要でした。改革後はこの規制が撤廃され、託送料金や再エネ賦課金など一部を除き、各社が自由に料金を設定できます。ただし消費者保護のため、規制料金の経過措置が当面残されています。
Q. 新電力の撤退や倒産が相次いでいるのはなぜですか? A. 多くの新電力は、自前の発電所を持たず、卸電力市場などから安く電力を調達して販売するモデルでした。ところが2021年や2022年以降、LNGなど燃料価格の高騰で卸電力価格が急騰し、このモデルが立ち行かなくなったのです。これを受け、容量市場(2024年度に受渡開始)や長期脱炭素電源オークションの整備が進み、2025年の改革検証では、新電力にも供給力を確保する責任を求める方向が示されています。
Q. 電力システム改革は脱炭素とどう関係しますか? A. 電力システム改革は、再生可能エネルギーの導入拡大と密接に関わります。多様な事業者の参入を可能にし、再エネ電力の取引や、需要側の調整力(VPP・デマンドレスポンス)といった新しいビジネスの土台を整えました。脱炭素を進めるうえで、その基盤となる制度改革といえます。