オフィスビルを借りて使う、あるいは保有する設備を他社に貸す——。こうしたリース(賃貸借)に伴う排出を計上するのが、Scope3のカテゴリ8「上流リース資産」とカテゴリ13「下流リース資産」です。この2つは、資産を借りる側か貸す側かという違いだけで、考え方が共通するため、本記事ではまとめて扱う。ただし、リース資産にはScope1・2との線引きという独特の難しさがあり、多くの企業が「関連なし」と判断するカテゴリでもある。本記事では、その考え方と算定を、環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォームやGHGプロトコルの一次情報をもとに、実務目線で解説します。
≡この記事の目次
- 1Scope3カテゴリ8・13(リース資産)とは
- ►リースに伴う排出
- ►カテゴリ8(借りる側)とカテゴリ13(貸す側)の区別
- 2Scope1・2との線引き――算定バウンダリーで決まる
- ►連結の考え方(支配力基準)で線引き
- ►「関連なし」と判断されることが多い理由
- 3カテゴリ8(上流リース資産)の算定
- ►借りて使う資産でScope1・2に入らない分
- ►主な算定方法
- 4カテゴリ13(下流リース資産)の算定
- ►保有して他社に貸す資産
- ►主な算定方法
- 5計算の考え方とデータ
- ►資産別法(実績)と平均データ法
- ►データはどこから取るのか
- 6CDP回答・開示での実務ポイント
- ►関連性の判断と算定方法の記載
- ►実務で多い方法と現実的な進め方
- 7カテゴリ8・13の算定をどう進めるか
- 8出典・参考(一次情報)
Scope3カテゴリ8・13(リース資産)とは
まず、カテゴリ8と13が何を対象とするのかを整理します。「資産を借りる・貸す」という共通点から入りましょう。
リースに伴う排出
カテゴリ8とカテゴリ13は、いずれもリース資産に伴う排出を対象にします。企業は、建物や車両、機械設備などを、自社で保有するだけでなく、他社から借りたり、他社に貸したりする。その借りた・貸した資産を使う際にも、電力や燃料が消費され、CO2が出る。このリースを通じた排出を、サプライチェーンの一部として計上するわけです。
Scope3とはの15カテゴリのうち、この2つは「リース」という切り口で共通しています。だから、まとめて理解するのが効率的です。ただし後述するように、リース資産は自社の直接排出(Scope1・2)との関係が論点になり、必ずしもすべての企業が算定するわけではない点に、独特の性格があります。
カテゴリ8(借りる側)とカテゴリ13(貸す側)の区別
2つの違いは、自社が借りる側か、貸す側かです。カテゴリ8は「上流リース資産」——自社が他社から借りて使っている資産(賃借している建物・車両・設備など)が対象になる。オフィスや店舗を借りている、社用車をリースしている、といったケースです。一方、カテゴリ13は「下流リース資産」——自社が保有し、他社に貸し出している資産が対象です。
ざっくり言えば、カテゴリ8は「借りて使う側」、カテゴリ13は「保有して貸す側」、と整理すると分かりやすいでしょう。不動産会社やリース会社のように資産を貸す事業なら、カテゴリ13が関わりやすい。どちらも、次に見るとおりScope1・2に含まれない分が対象になる点は共通しています。
Scope1・2との線引き――算定バウンダリーで決まる
リース資産で最初に押さえたいのが、Scope1・2との関係です。ここでカテゴリ8・13に入るかどうかが決まります。
算定バウンダリーで、どこに入るかが決まる
直接排出(Scope1)・エネルギー起源の間接排出(Scope2)に計上。
Scope1・2に入らないリース資産の排出をここで計上。
カテゴリ8=借りて使う分/カテゴリ13=保有して貸す分
境界の引き方(支配力基準など)で決まる。すでにScope1・2に入っていれば関連なしとすることも。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
連結の考え方(支配力基準)で線引き
リース資産の排出を、Scope1・2に含めるのか、Scope3のカテゴリ8・13に含めるのか——。この線引きは、企業が採る算定バウンダリー(組織境界の設定方法)によって決まります。組織境界の引き方には、支配力基準(操業に関する支配力=オペレーショナル・コントロールなど)や出資比率基準がある。
たとえば、オペレーショナル・コントロールで境界を引く企業では、自社が操業を支配する資産の排出をScope1・2に含めます。そのうえで、そこに含まれないリース資産が、カテゴリ8・13の対象になる。つまり、リース資産は「まずScope1・2に入るかを確かめ、入らない分をカテゴリ8・13で拾う」という順番で考えるわけです。この関係を理解することが、リース資産の算定の出発点になります。
「関連なし」と判断されることが多い理由
リース資産のもう一つの特徴が、「関連なし」と判断する企業が多いことです。実際、開示データを見ても、カテゴリ8・13を「自社にとって重要でない(関連なし)」として、理由を説明し算定を省くケースが目立ちます。なぜでしょうか。
理由の一つが、リース資産の排出が、すでにScope1・2に含まれているケースです。この場合、カテゴリ8・13で重ねて数えると二重計上になってしまう。もう一つは、そもそもリース資産の排出が小さく、材料性(重要性)が低いケースです。GHGプロトコルは、関連性の低いカテゴリを、理由を明示したうえで除外してよいとしています。大切なのは、含めるにせよ除くにせよ、Scope1・2との関係を整理し、判断の根拠を説明できることです。
カテゴリ8(上流リース資産)の算定
まず、カテゴリ8です。自社が借りて使う資産のうち、Scope1・2に入らない分が対象になります。
カテゴリ8=借りて使う資産
他社から借りて使う資産のうち、自社のScope1・2に入らない分が対象
▶ 自社(借りる側)
主な算定方法は資産別法(実績エネルギー)と平均データ法。まずScope1・2との関係を確認する。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
借りて使う資産でScope1・2に入らない分
カテゴリ8(上流リース資産)の対象は、自社が他社から借りて使っている資産のうち、Scope1・2に含まれない分です。具体的には、賃借しているオフィスや店舗、リースしている社用車、レンタルの機械設備などが挙げられます。これらを使う際の電力や燃料に伴う排出を計上する。
ここで重要なのが、前述のScope1・2との線引きです。たとえば、賃借しているオフィスの電力を、自社がScope2(間接排出)として計上しているなら、それはScope2であって、カテゴリ8ではありません。Scope1・2に入っていない、借りた資産の排出だけが、カテゴリ8の対象になる。だから、まず自社のScope1・2の範囲を確認することが、カテゴリ8算定の前提になります。
主な算定方法
カテゴリ8の主な算定方法は、資産別法と平均データ法です。資産別法は、対象の資産ごとに実際のエネルギー使用量(電力・燃料)を把握し、排出原単位を掛ける方法で、Scope1・2と同じ考え方であり精度が高い。賃貸借契約の相手方(貸主)からエネルギーデータを得られる場合などに使えます。
一方、実際のエネルギー使用量を把握しにくい場合は、平均データ法を使います。資産の種類や規模(たとえば床面積など)に、単位あたりの平均的な排出原単位を掛けて推計する簡便な方法です。まずは、借りている資産のうち規模の大きいものから、可能な方法で算定していくのが現実的になる。
カテゴリ13(下流リース資産)の算定
次に、カテゴリ13です。自社が保有し、他社に貸している資産が対象になります。
カテゴリ13=保有して貸す資産
自社が保有し他社に貸す資産のうち、自社のScope1・2に入らない分が対象
▶ 他社(借主)
不動産会社やリース会社で関わりやすい。算定方法はカテゴリ8と共通。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
保有して他社に貸す資産
カテゴリ13(下流リース資産)の対象は、自社が保有し、他社に貸し出している資産のうち、Scope1・2に含まれない分です。他社に貸しているオフィスビルや店舗、倉庫、貸与している機械設備などが該当する。借主がそれらの資産を使う際のエネルギーに伴う排出を、資産を貸している自社が計上するわけです。
このカテゴリが関わりやすいのは、不動産会社やリース会社のように、資産を保有して他社に貸すことを事業とする企業です。逆に、資産を貸す事業がほとんどない企業では、カテゴリ13が発生せず「関連なし」となることも多い。ここでも、自社のScope1・2に入っていない、貸した資産の排出だけが対象になる点は、カテゴリ8と同じです。
主な算定方法
カテゴリ13の算定方法も、カテゴリ8と共通で、資産別法と平均データ法が中心です。資産別法は、貸している資産ごとの実際のエネルギー使用量に排出原単位を掛ける方法。借主からエネルギーデータの提供を受けられる場合に使えます。平均データ法は、資産の種類や規模(床面積など)から平均的な原単位で推計する方法です。
貸す側にとっては、借主のエネルギー使用量というデータをどう入手するかが課題になります。契約や日常のやり取りのなかで、借主から実績データを得られれば資産別法が使える。得にくい場合は、床面積などから推計する平均データ法で押さえる。取引の大きい資産から精度を高めるという進め方は、カテゴリ8と同じです。
計算の考え方とデータ
カテゴリ8・13に共通する計算の基本と、データの入手先を整理します。
実績で測るか、規模から推計するか
資産別法(精度が高い)
リース資産ごとの実際のエネルギー使用量に排出原単位を掛ける。Scope1・2と同じ考え方。
平均データ法(簡便)
資産の種類や規模(床面積など)に平均的な排出原単位を掛けて推計する。
データの入手先
実際のエネルギー使用量は賃貸借の相手方(貸主または借主)から。得にくい場合は床面積などと環境省の排出原単位データベースで推計。
実データがあれば資産別法、なければ平均データ法。使った前提を記録する。
出典:環境省・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
資産別法(実績)と平均データ法
カテゴリ8・13の計算は、根っこが同じです。柱になるのが、資産別法と平均データ法の2つ。資産別法は、リース資産ごとの実際のエネルギー使用量に排出原単位を掛ける方法で、Scope1・2と同じ考え方であり、精度が高い。実際の電力・燃料データが得られる場合に使います。
平均データ法は、資産の種類や規模(床面積など)に、単位あたりの平均的な排出原単位を掛けて推計する簡便な方法です。実データが得にくいときに使う。CDPに開示された算定方法を見ても、カテゴリ8・13では、資産別法と平均データ法が中心になっています。まずは実データを求め、なければ規模から推計する——この使い分けが基本です。
データはどこから取るのか
リース資産で難しいのが、エネルギー使用量というデータの入手です。資産を借りている(カテゴリ8)なら貸主から、貸している(カテゴリ13)なら借主から、実際のエネルギー使用量の提供を受けられないかを、まず確認します。賃貸借の相手方との関係のなかで、データを得られれば資産別法が使える。
得にくい場合は、床面積などの規模と、公的な排出原単位から推計します。日本では、環境省がグリーン・バリューチェーンプラットフォームで公開する排出原単位データベースなどを用いる。方法論はGHGプロトコルのScope 3 Standardに沿って進めます。どの方法で、どんな前提を置いたかを記録することが、ここでも欠かせません。
CDP回答・開示での実務ポイント
算定結果を、CDPなどでどう開示するか。カテゴリ8・13の押さえどころを整理します。
カテゴリ8・13の開示で押さえること
Scope1・2との関係を整理する
リース資産がScope1・2に含まれているかを確認し、関連ありか関連なしかを判断してその理由を説明する
算定方法を選ぶ
資産別法・平均データ法などから、使った方法を選択する
活動量と前提を記載する
エネルギー使用量や床面積などの活動量と、使った排出原単位の出典・版、置いた前提を記す
関連なしと判断する場合も、理由を説明できることが信頼性につながる。
出典:CDP・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
関連性の判断と算定方法の記載
カテゴリ8・13をCDPとはなどで開示する際、まず問われるのが関連性の判断です。リース資産がScope1・2に含まれているかを確認し、関連ありか関連なしかを判断する。関連なしとしたなら、その理由(Scope1・2に含まれる、材料性が低いなど)を説明します。関連ありなら、評価ステータス・排出量・算定方法(資産別法・平均データ法など)を記す。
活動量(エネルギー使用量や床面積)と、使った排出原単位の出典・版、置いた前提も記載します。リース資産は、Scope1・2との切り分けや推計の前提が入るため、どんな考え方で判断・算定したかを説明できるようにしておくと、開示の信頼性が高まる。
実務で多い方法と現実的な進め方
CDPに開示された状況を見ると、カテゴリ8・13は「関連なし」として理由を説明する企業が最も多いカテゴリです。リース資産がScope1・2に含まれる、あるいは材料性が低い、といった理由が中心になる。算定している企業では、資産別法と平均データ法が使われています。
現実的な進め方は、まず自社のリース資産を洗い出し、Scope1・2との関係を整理することです。そのうえで、Scope1・2に入らない分について、材料性を見極める。大きいものは資産別法や平均データ法で算定し、小さいものや該当がなければ理由を説明して除外する。リース資産は、無理に細かく積み上げるより、関連性の判断とその説明に力点を置くのが実務的です。
カテゴリ8・13の算定をどう進めるか
Scope3カテゴリ8(上流リース資産)とカテゴリ13(下流リース資産)は、資産を借りて使う側(8)と、保有して貸す側(13)という違いで、どちらもリースに伴う排出を計上します。最大のポイントは、Scope1・2との線引きです。算定バウンダリー(組織境界)の引き方によって、リース資産がScope1・2に入るかカテゴリ8・13に入るかが決まり、すでにScope1・2に含まれる場合は「関連なし」とすることも多い。計算は、実績で測る資産別法か、規模から推計する平均データ法が中心です。
大切なのは、まず自社のリース資産とScope1・2の関係を整理し、含めるにせよ除くにせよ判断の根拠を説明できるようにすること。関連ありなら、実データがあれば資産別法、なければ平均データ法で押さえていく。Scope3の全体像はScope3とは、Scope1・2を含む算定の枠組みはGHGプロトコルもあわせてご覧ください。ESGの全体像はESG完全ガイドもどうぞ。
借りる資産、貸す資産に宿るCO2。カテゴリ8・13の算定は、Scope1・2との境界を見つめ直し、自社の排出の全体像を整える作業でもある。なお本記事は、環境省・GHGプロトコルなどの公開情報をもとに算定の考え方を整理したものであり、特定のツールや製品を推奨するものではありません。係数や制度は変わりうるため、算定時は最新の一次情報をご確認ください。
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カテゴリ別の算定を、手を動かして進めたい方へ。15カテゴリを一覧で整理し、「活動量 × 排出原単位」で排出量を自動計算できる入力シートを無料で配布しています(会員登録不要)。この記事で解説した算定手順を、そのままシートに落とし込めます。
よくある質問(FAQ)
Q. Scope3カテゴリ8とカテゴリ13は何が違いますか?
A. どちらもリース資産に伴う排出ですが、自社が借りる側か貸す側かが違います。カテゴリ8(上流リース資産)は、自社が他社から借りて使っている資産(賃借している建物・車両・設備など)が対象です。カテゴリ13(下流リース資産)は、自社が保有し、他社に貸し出している資産が対象です。つまり、カテゴリ8は『借りて使う側』、カテゴリ13は『保有して貸す側』、と整理すると分かりやすいでしょう。いずれも、Scope1・2に含まれない分が対象になります。
Q. リース資産はどうやって計算しますか?
A. 主な方法は資産別法と平均データ法です。資産別法は、対象のリース資産ごとの実際のエネルギー使用量(電力・燃料)に排出原単位を掛ける方法で、Scope1・2と同じ考え方です。平均データ法は、資産の種類や規模(床面積など)に平均的な排出原単位を掛けて推計する簡便な方法です。実際のエネルギー使用量が分かるなら資産別法、把握が難しければ床面積などから推計する平均データ法、と使い分けるのが実務的です。
Q. リース資産は『関連なし』としてよいのですか?
A. 自社の算定バウンダリー(組織境界の設定)によっては、リース資産の排出がすでにScope1・2に含まれていることがあります。その場合、カテゴリ8・13を重ねて数えると二重計上になるため、『関連なし(重要でない)』と判断し、理由を説明して算定を省くことも認められています。大切なのは、含めるにせよ除くにせよ、Scope1・2との関係を整理し、その判断の根拠を説明できることです。本記事は特定のツールや製品を推奨するものではありません。
出典・参考(一次情報)
- 環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(サプライチェーン排出量の算定・排出原単位データベース)」
- 環境省「サプライチェーン排出量の算定方法」
- GHG Protocol「Corporate Value Chain (Scope 3) Standard」
最終更新日:2026年7月4日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。