GRIスタンダードとは|3層構造・準拠と参照の違い・ISSBとの使い分けをわかりやすく解説

2026.08.28
ESG開示

統合報告書やサステナビリティレポートの巻末で「GRIスタンダード対照表」を見たことはないでしょうか。GRIスタンダードは、世界で最も広く使われてきたサステナビリティ報告の基準です。ISSBやSSBJといった投資家向けの開示基準が整備されるいま、「GRIはもう不要なのか、それとも併用するのか」という問いに直面している担当者も多いはずです。

この記事では、GRIスタンダードとは何か、3層構造と2つの準拠レベル、ISSB・SSBJ・CSRDとの関係、そしてレポート作成の実務手順を整理します。

※本記事は2026年8月時点の公表情報にもとづく解説です。基準の改訂・追加は続いているため、最新・確定の内容はGRI公式サイトをご確認ください。

この記事の目次

GRIスタンダードとは|世界で最も使われる報告基準

GRI(Global Reporting Initiative)とは

GRIは1997年に設立された国際的な非営利組織で、本部はオランダ・アムステルダムにあります。企業のサステナビリティ報告の枠組みを四半世紀にわたって整備してきた、この分野の「老舗」です。現在のGRIスタンダードは2016年に登場し、2021年の大改訂を経た共通スタンダードが2023年1月から適用されています。日本語を含む多言語の公式翻訳が無償で公開されており、誰でも利用できます。

「インパクト」を報告する基準という個性

GRIの最大の個性は、報告の目的にあります。ISSBのような投資家向け基準が「サステナビリティが企業の財務に与える影響」を扱うのに対し、GRIは「企業が経済・環境・人々に与える影響(インパクト)」を報告します。読み手も投資家に限らず、従業員・地域社会・NGO・取引先といったマルチステークホルダーを想定しています。

この2つの視点はどちらが正しいという関係ではなく、ダブルマテリアリティの両輪です。EUのCSRD/ESRSがダブルマテリアリティを採用したことで、インパクト側の報告を支えるGRIの役割はむしろ明確になりました。

3層構造|共通・セクター・項目別スタンダード

GRIスタンダードは3つの層で構成されています。

① 共通スタンダード(GRI 1・2・3)
全企業が使う土台。GRI 1=基礎(原則と使い方)、GRI 2=組織の一般開示、GRI 3=マテリアルな項目の特定プロセス
② セクター・スタンダード
業種ごとに「この業種なら通常これがマテリアル」を示す基準。石油・ガス、石炭、農業・水産、鉱業などが公表済みで、順次拡充されています。
③ 項目別スタンダード
テーマ別の開示要求。経済(200番台)・環境(300番台)・社会(400番台)に分かれ、排出・水・労働安全衛生・ダイバーシティなどを個別にカバー。

使い方の流れは「共通スタンダードで土台を作り、セクター・スタンダードで業種の論点を確認し、マテリアルと判断した項目について項目別スタンダードで開示する」という順番です。全部を開示するのではなく、マテリアリティで絞る設計になっている点が実務上の要です。

2つの準拠レベル|in accordance と with reference

GRIスタンダードの使い方には2つのレベルがあります。

  • in accordance with GRI Standards(準拠):GRI 1が定める9つの要求事項をすべて満たす本格的な使い方。マテリアルな項目の特定(GRI 3)、GRI 2の一般開示、内容索引(Content Index)の公表などが必要です。
  • with reference to GRI Standards(参照):一部のスタンダードだけを参照して報告する軽い使い方。準拠の要件を満たせない段階の企業でも、どの基準を参照したかを明示すれば使えます。

いきなり「準拠」を目指す必要はありません。参照から始めて数年かけて準拠に引き上げるのは一般的な進め方です。ただしどちらの場合も、GRIへの利用通知と、レポート内での明確な記載が求められます。

項目別スタンダードの中身|代表的な開示項目

項目別スタンダードは、経済(200番台)・環境(300番台)・社会(400番台)のテーマごとに開示要求を定めています。よく使われる代表例を挙げます。

  • GRI 205(腐敗防止):腐敗リスクの評価、研修、確認された事例。ガバナンス系の定番です。
  • GRI 302(エネルギー)/GRI 305(大気への排出):エネルギー消費とGHG排出。GRI 305はScope1・2・3の区分がGHGプロトコルと整合しており、算定済みの数字をそのまま使えます。
  • GRI 303(水)/GRI 306(廃棄物):取水・排水、廃棄物の発生と処理。製造業で重要度が高い項目です。
  • GRI 401(雇用)/GRI 403(労働安全衛生)/GRI 404(研修・教育):人的資本系の中核。休業災害度数率や研修時間などの定量指標を含みます。
  • GRI 405(ダイバーシティと機会均等):取締役会・従業員の属性別構成。日本の女性管理職比率などの開示と接続します。
  • GRI 414(サプライヤーの社会評価):取引先の人権・労働の評価。人権デューデリジェンスの開示側の受け皿です。

ポイントは、すでに社内にあるデータの多くがGRIの器に収まることです。GHG算定・労務統計・研修記録・調達アンケートなど、既存の管理データとGRI番号の対応表を作ると、開示作業は一気に見通しが良くなります。

セクター・スタンダードの使い方

セクター・スタンダードは「その業種であれば通常マテリアルと考えられる項目」をあらかじめ提示する基準です。石油・ガス(GRI 11)、石炭(GRI 12)、農業・養殖・漁業(GRI 13)、鉱業(GRI 14)などが公表済みで、対象業種を順次広げる計画とされています。

該当する業種の企業が「in accordance(準拠)」で報告する場合、自社のセクター・スタンダードを適用し、そこに挙がった項目を検討したうえで、開示しない項目には理由を示すことが求められます。「業界の論点を無視した都合のよいマテリアリティ」を防ぐ仕掛けであり、逆に言えば、セクター・スタンダードを読めば投資家やNGOが自社業種のどこを見るかが分かります。該当業種でなくても、近い業種のものを読む価値があります。

内容索引(Content Index)の作り方

GRI報告の「顔」が内容索引です。作成の実務は次のとおりです。

  • ①使用宣言(Statement of use):「当社は20XX年X月〜X月の期間についてGRIスタンダードに準拠(または参照)して報告した」という定型の宣言文を記載します。
  • ②GRI 1の明記:使用したGRI 1(基礎)のバージョンを記します。
  • ③項目ごとの対応表:開示項目番号・項目名・掲載場所(ページ・URL)を一覧にします。読み手はこの表から目的の情報へ飛びます。
  • ④省略(Omission)の扱い:準拠報告で開示できない項目には、認められた理由(該当なし/法的禁止/機密制約/情報が得られない)と説明を付します。「黙って落とす」ことはできません。

索引はPDFの巻末だけでなく、Webページとして公開する企業も増えています。ESG評価機関はこの索引を起点に情報を収集するため、索引の品質がそのまま評価の効率に響くと考えて丁寧に作る価値があります。

ISSB・SSBJ・CSRDとの関係|使い分けの地図

開示基準が乱立して見える時代ですが、役割で整理すると地図はシンプルです。

  • ISSB/SSBJ:投資家向け。サステナビリティが企業価値に与える影響(財務マテリアリティ)。日本では有価証券報告書での開示につながります。
  • GRI:マルチステークホルダー向け。企業が社会・環境に与えるインパクト(インパクト・マテリアリティ)。統合報告書・サステナビリティレポートの土台。
  • CSRD/ESRS:両方を求めるダブルマテリアリティ。ESRSはGRIとの相互運用性を意識して設計されており、対応表(インターオペラビリティ・インデックス)も公表されています。

IFRS財団(ISSBの母体)とGRIは協力合意を結んでおり、「投資家向けはISSB系・インパクトはGRI」という二本柱で相互補完する方向が国際的な共通理解になりつつあります。つまり「SSBJが始まるからGRIをやめる」ではなく、読み手の違いで使い分けるのが実務の答えです。全体像は開示基準の全体像の記事で整理しています。

実務の進め方|マテリアリティから内容索引まで

GRIスタンダードでレポートを作る実務は、おおむね次の5ステップです。

  • ①マテリアルな項目の特定(GRI 3):自社の活動・取引関係がもたらすインパクトを洗い出し、重要度で優先づけします。マテリアリティ特定の方法はこの工程の中心です。
  • ②一般開示の整備(GRI 2):組織概要・ガバナンス・方針・ステークホルダーエンゲージメントなど、会社の基本情報を揃えます。
  • ③項目別スタンダードの選定:①でマテリアルとした項目に対応する200〜400番台の基準を選び、要求データを収集します。GHG排出はGHGプロトコルの算定結果をそのまま活かせます。
  • ④内容索引(Content Index)の作成:どの開示項目がレポートのどこにあるかの対照表。GRI報告の「顔」であり、読み手が最初に見る部分です。
  • ⑤外部レビュー・保証の検討:信頼性を高めるなら第三者保証の取得を検討します。統合報告書に組み込む場合は、財務情報との整合も確認します。

日本企業の実務での位置づけ

日本企業のサステナビリティ報告では、GRIは次のように使われています。

  • 統合報告書・サステナビリティレポートの骨格:多くの企業が統合報告書やWebのESGデータ集をGRI対照表つきで公表しています。長年の実績があるため、経年比較・他社比較がしやすいのが強みです。
  • 有価証券報告書とのすみ分け:有報のサステナ開示(SSBJ対応)は投資家向けの財務マテリアリティに絞られるため、従業員・地域・取引先に向けたインパクト情報の受け皿としてGRIベースの任意報告が残る構図です。同じデータを二重に管理しないよう、開示項目の対応表を社内で一元化するのが実務のコツです。
  • ESG評価・取引先調査への転用:CDPや各種ESG評価、取引先からのサステナ調査票の設問は、GRIの開示項目と重なる部分が多くあります。GRIで整理された情報は、これらへの回答の「親データ」として機能します。

まとめ

  • GRIスタンダードは企業が社会・環境に与えるインパクトを報告する、世界で最も広く使われてきた基準。日本語翻訳が無償公開されている。
  • 構造は共通(GRI 1・2・3)/セクター/項目別の3層。全部書くのではなくマテリアリティで絞る設計。
  • 使い方は準拠(in accordance)と参照(with reference)の2レベル。参照から始めて引き上げるのが現実的。
  • ISSB・SSBJは投資家向け(財務)、GRIはマルチステークホルダー向け(インパクト)。置き換えではなく使い分けで、CSRD/ESRSはその両方を求める。
  • 実務はマテリアリティ特定→一般開示→項目別選定→内容索引→保証検討の5ステップ。

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出典・参考資料(一次情報)

GRI|The GRI Standards(公式)GRI|日本語翻訳版スタンダード

よくある質問(FAQ)

Q. GRIスタンダードとは何ですか?

A. 国際NGOのGRI(Global Reporting Initiative)が策定する、サステナビリティ報告の国際基準です。企業が経済・環境・人々に与えるインパクトを、従業員・地域社会・取引先などマルチステークホルダーに向けて報告するための枠組みで、共通・セクター・項目別の3層のスタンダードで構成されます。日本語の公式翻訳が無償で公開されています。

Q. SSBJ基準が始まったらGRIは不要になりますか?

A. 不要にはなりません。SSBJ(ISSB系)は投資家向けに「サステナビリティが企業の財務に与える影響」を開示する基準で、GRIは「企業が社会・環境に与えるインパクト」を幅広い読み手に報告する基準です。視点と読み手が違うため置き換えの関係になく、国際的にも二本柱で相互補完する方向が共通理解になりつつあります。

Q. GRI対応はどこから始めればよいですか?

A. まず「with reference to(参照)」の軽いレベルから始めるのが現実的です。GRI 3の手順でマテリアルな項目を特定し、対応する項目別スタンダードを選んで開示し、内容索引(Content Index)を作ります。数年かけて要求事項をそろえ、「in accordance with(準拠)」へ引き上げていく進め方が一般的です。

Q. GRIスタンダードの利用に費用はかかりますか?

A. スタンダード自体は公式サイトから無償でダウンロードでき、日本語翻訳版も公開されています。利用にあたってはGRIへの利用通知が求められます。費用が発生するのは、翻訳・研修・外部コンサルティング・第三者保証などを利用する場合です。

Q. 中小企業でもGRIを使えますか?

A. 使えます。企業規模の要件はなく、「with reference to(参照)」であれば一部のスタンダードだけを使った報告も可能です。取引先からサステナ情報の提供を求められる中堅企業が、まず自社データをGRIの枠で整理し、調査票回答の親データとして使う——という入り方が現実的です。

Q. GRIとCDPはどう違いますか?

A. GRIは報告書を作るための「基準」、CDPは質問書に回答して評価を受ける「開示プラットフォーム」です。役割が違うため併用が普通で、CDPの設問はGRIやTCFDなどの枠組みと整合するよう設計されています。GRIベースで整理した情報はCDP回答にも転用できます。

最終更新日:2026年8月27日

この記事の著者

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