SSBJ基準とは|適用スケジュール・開示項目・ISSBとの違いを実務者向けに解説

2026.06.02
CSRD・ISSB

「SSBJ基準という言葉は聞くものの、いつから・どの企業が・何を開示するのか整理しきれていない」。ESGやIRの現場では、そうした声をよく耳にします。

SSBJ基準とは、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が定めた日本版のサステナビリティ開示基準を指します。2025年3月に最初の基準が公表され、上場企業が有価証券報告書でサステナビリティ情報を開示するための土台になりました。国際基準であるISSBのIFRS S1・S2をベースにしている点が、その特徴です。

本記事では、SSBJ基準の全体像とISSB基準との関係を整理します。あわせて時価総額別の適用スケジュール、開示が求められる項目、ESG・IR担当者が今から着手すべき実務ステップまでを順に解説します。変化の速いテーマですが、実務の判断に使える形へまとめました。お役に立てれば幸いです。

SSBJ基準の全体像
国際基準 ISSB(IFRS S1・S2)をベースに、日本の制度へ整合
SSBJ基準(日本版サステナビリティ開示基準)
共通ルール

適用基準

サステナビリティ開示をどう適用するかの全体ルールを定める。

S1相当

一般開示基準

サステナビリティ全般のリスクと機会を開示対象とする。

S2相当

気候関連開示基準

気候変動の開示とGHG排出量(Scope1〜3)を扱う。

目次

SSBJ基準とは|日本のサステナビリティ開示基準の基礎

SSBJ基準とは、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が策定した、サステナビリティ情報の開示ルールです。2025年3月に「適用基準」と2つのテーマ別基準が公表され、上場企業の制度開示を支える基盤として整いました。まずは策定主体と全体像を押さえましょう。

SSBJの正式名称と設立の経緯

SSBJとは、英語の「Sustainability Standards Board of Japan」の頭文字をとった呼称です。日本語ではサステナビリティ基準委員会と訳します。会計基準の設定を担う公益財団法人財務会計基準機構(FASF)のもとに、2022年7月に設立された組織です。

設立の狙いは、国際的なサステナビリティ開示基準づくりに日本が主体的に関わる点にありました。後述するISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が世界共通の基準を整えるなか、日本の制度や実務に整合した基準を国内で開発する役割を担います。会計の世界で企業会計基準委員会(ASBJ)が果たす機能の、サステナビリティ版と捉えると分かりやすいでしょう。

2025年3月に公表された3つの基準

SSBJは2025年3月に、3つの基準を最終確定して公表しました。EY Japanの速報解説でも、この公表が日本のサステナビリティ開示にとって大きな節目だと評価されました。内訳は次のとおりです。

ひとつ目が「適用基準」で、サステナビリティ開示基準をどのように適用するかという全体ルールを定めます。ふたつ目がテーマ別基準第1号の「一般開示基準」で、サステナビリティ全般の開示要求を扱います。三つ目がテーマ別基準第2号の「気候関連開示基準」で、気候変動に特化した開示を定める内容です。この3点セットが、SSBJ基準の骨格を形づくります。

SSBJが2025年3月に公表した3つの基準
SSBJが公表した3基準と対応するIFRS基準・概要の一覧
基準対応するIFRS基準概要
適用基準—(共通ルール)サステナビリティ開示の全体的な適用ルール
テーマ別基準第1号
一般開示基準
IFRS S1 相当サステナビリティ全般のリスクと機会の開示
テーマ別基準第2号
気候関連開示基準
IFRS S2 相当気候変動に関する開示とGHG排出量(Scope1〜3)

SSBJ基準が開発された目的

SSBJ基準の目的は、投資家が企業のサステナビリティ情報を比較・評価できるよう、開示の質と国際的な整合性を高めることにあります。これまで日本企業のサステナビリティ情報は、統合報告書やサステナビリティ報告書など任意の媒体で開示されてきました。

任意開示には自由度がある一方で、企業ごとに様式や粒度がばらつくという課題が残っていました。投資家からは「企業間で比較しづらい」という指摘が続いていたのです。SSBJ基準は、こうした情報をひとつの物差しで整理し、有価証券報告書という制度開示の枠組みに乗せる役割を担います。財務情報と同じ土俵で、サステナビリティ情報を語れるようにする試みと言えるでしょう。

SSBJ基準とISSB基準(IFRS S1・S2)の関係|何がどう対応するか

SSBJ基準は、国際基準であるISSBのIFRS S1・S2を土台に開発された日本版の基準です。基本的な構造や考え方を共有しつつ、日本の制度に合わせた調整を施した基準です。両者の対応関係を理解すれば、SSBJ基準の位置づけを正しくつかめます。

ISSBとIFRS S1・S2とは

ISSBとは、国際会計基準を担うIFRS財団が設立した、サステナビリティ開示基準の国際的な設定主体です。2021年のCOP26で設立が発表され、世界共通のサステナビリティ開示基準づくりを進めてきました。

そのISSBが2023年6月に公表したのが、IFRS S1とIFRS S2です。IFRS S1はサステナビリティ全般の開示を定める基準で、企業のリスクと機会を幅広く扱います。IFRS S2は気候関連に特化した基準で、温室効果ガス(GHG)排出量などの開示を求めます。この2つが、世界のサステナビリティ開示の共通言語として位置づけられました。

SSBJ基準とIFRS S1・S2の対応関係

SSBJ基準は、IFRS S1・S2の内容を基本的に取り込んだ構成です。テーマ別基準第1号「一般開示基準」がIFRS S1に、テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」がIFRS S2に、それぞれ対応する関係です。

この対応により、SSBJ基準に沿った開示は国際基準とも整合しやすい構造です。海外投資家への説明や、グローバルな比較可能性という観点でも利点があります。IFRS S1・S2の原文と関連資料は、IFRS財団の公式サイトで確認できます。

ISSB(国際基準)とSSBJ(日本版)の対応関係

ISSB(IFRS財団)

IFRS S1
サステナビリティ全般
IFRS S2
気候関連

SSBJ(日本版)

一般開示基準
S1に対応
気候関連開示基準
S2に対応
同じ構造・考え方を共有しつつ、日本の制度に合わせた経過措置・選択肢を追加

日本固有の取り扱い(経過措置・選択肢)

SSBJ基準には、日本企業が円滑に適用できるよう、いくつかの経過措置や選択肢が設けられました。国際基準をそのまま導入するのではなく、実務の負担に配慮した調整が加わっている点も特徴と言えます。

たとえば、適用初年度には気候関連以外のサステナビリティ情報の開示を一部猶予する措置や、Scope3排出量の開示に関する段階的な取り扱いが議論されてきました。こうした配慮は、企業が準備期間を確保しながら開示の質を高めていくための仕組みです。具体的な経過措置の内容は、SSBJの公表資料で最終的に確認することをおすすめします。基準の正文は、SSBJの公式サイトで参照できます。

SSBJ基準の適用スケジュール|いつ・どの企業から始まるか

SSBJ基準の適用は、東証プライム上場企業を対象に、時価総額の大きい企業から段階的に始まる方向で議論が進む段階です。時価総額3兆円以上の企業については、2027年3月期からの適用が視野に入ります。実務担当者が最も気にするポイントを、ここで整理しましょう。

時価総額による段階適用(3兆円→1兆円→5000億円)

金融庁の制度整備では、プライム上場企業を時価総額で区分し、大きい企業から順に適用する案が示されました。日本電機工業会(JEMA)が2026年3月に開催したセミナーでも、この段階適用の考え方が解説されています。

同セミナーの整理によると、時価総額3兆円以上の企業は2027年3月期からSSBJ基準に基づく開示が始まる見込みです。続いて時価総額1兆円以上、さらに5000億円以上へと、対象が段階的に広がる流れが見込まれます。規模の大きい企業から先行させることで、実務の混乱を抑えながら開示を定着させる狙いがうかがえます。

SSBJ基準の段階適用スケジュール(目安)
時価総額別のSSBJ基準の適用開始時期の目安
対象(東証プライム上場企業)適用開始の目安
時価総額 3兆円以上2027年3月期から
時価総額 1兆円以上2028年3月期から(見込み)
時価総額 5000億円以上検討中(時期未確定)
プライム全企業今後の検討
:金融庁の制度整備に基づく案。最終的な適用範囲・時期は今後の政令・内閣府令により確定します。

有価証券報告書での開示と金融庁の制度整備

SSBJ基準に沿った開示は、有価証券報告書のなかで行うことが想定されます。これまで任意の報告書で開示されてきたサステナビリティ情報が、法定開示書類に組み込まれる点が大きな変化です。

開示を制度として位置づけるのは、基準を作るSSBJではなく、ルールを定める金融庁の役割です。金融庁は金融審議会のもとで、開示の範囲や保証のあり方を検討してきた経緯があります。有価証券報告書での開示が求められれば、記載内容には一定の正確性が要求されます。財務情報と並ぶ重みを持つ情報として、社内の作成体制を整える必要が出てきます。

スケジュールはまだ「案」である点への注意

ここで強調しておきたいのは、現時点の適用スケジュールはあくまで「案」の段階だという点です。前述のJEMAセミナーでも、下位の時価総額区分については「まだ正式には決まっていない」という説明でした。

筆者がESG開示の支援現場で感じるのは、「義務化の時期」を確定情報として捉えてしまう誤解の多さです。金融庁の制度整備は公開草案を経て進む途中であり、最終的な適用範囲や時期は今後の政令・内閣府令で固まります。最新の決定は金融庁やSSBJの公表をそのつど確認し、自社の区分がいつ対象になるのかを見極める姿勢が欠かせません。

SSBJ基準で開示が求められる主な項目|一般開示基準と気候関連開示基準

SSBJ基準では、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標という4つのコア要素に沿って情報を開示します。この枠組みは、気候関連開示で先行したTCFD提言と共通する構造です。一般開示基準と気候関連開示基準の要点を順に見ていきます。

一般開示基準(IFRS S1相当)の要点

一般開示基準は、気候に限らずサステナビリティ全般のリスクと機会を開示対象とします。企業の見通しに影響を与えうるサステナビリティ関連の事項を、幅広く扱う基準です。

ここでの考え方の中心が「重要性(マテリアリティ)」です。マテリアリティとは、投資家の意思決定に影響を与えるほど重要かどうかを判断する基準を指します。自社にとって何が重要なサステナビリティ課題なのかを特定し、その評価の過程も含めて説明することが求められます。すべてを網羅するのではなく、投資家の判断に効く情報を選び取る姿勢が問われる部分です。

気候関連開示基準(IFRS S2相当)とScope1〜3

気候関連開示基準は、気候変動に関するリスクと機会、そして温室効果ガス(GHG)排出量の開示を求めます。なかでも注目されるのが、Scope1からScope3までの排出量の取り扱いです。

GHG排出量の全体像とScope3
サプライチェーン全体の排出を3つのScopeで捉える
サプライチェーン排出量 =
Scope1直接排出
Scope2電力等の間接
Scope3その他の間接
Scope3(上流)

上流

原材料・部品の調達、輸送、出張など、製品をつくるまでに関わる排出。

カテゴリ1〜8(購入した製品・サービス ほか)

自社

Scope1燃料燃焼・社用車などの直接排出。
Scope2購入した電力・熱による間接排出。

Scope3(下流)

下流

販売した製品の使用・廃棄、投資など、販売後に生じる排出。

カテゴリ9〜15(販売した製品の使用 ほか)
Scope3は、上流と下流にわたる「その他の間接排出」で、15のカテゴリに分類されます。多くの企業で、排出量全体のうち最も大きな割合を占めます。
(参考:環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」)

Scope1は自社の直接排出、Scope2は購入した電力などによる間接排出、そしてScope3はサプライチェーン全体にわたる間接排出を指します。とりわけScope3は対象範囲が広く、取引先からのデータ収集が必要になるため、実務負担が大きい領域です。算定の具体的な進め方は、関連記事のスコープ3排出量の算定方法と実務ポイントでも詳しく解説しています。

共通する4つのコア要素(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)

一般開示基準と気候関連開示基準は、いずれもガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標という4つの柱に沿って開示します。EY Japanの基準案解説でも、この4要素がSSBJ基準を理解する出発点になると整理されました。

ガバナンスでは、サステナビリティ課題を監督する体制を示します。戦略では、リスクと機会が事業や財務へ与える影響を語る部分です。リスク管理では、課題を特定・評価・管理するプロセスを説明し、指標と目標では、進捗を測る指標と目標値を開示する構成になっています。この4要素は、すでにTCFDに沿って開示してきた企業にとって、なじみのある枠組みでもあります。

SSBJ基準に共通する4つのコア要素
一般開示基準・気候関連開示基準に共通(TCFDと同じ枠組み)
1

ガバナンス

サステナビリティ課題を監督する体制を示す。

2

戦略

リスクと機会が事業・財務へ与える影響を語る。

3

リスク管理

課題を特定・評価・管理するプロセスを説明する。

4

指標と目標

進捗を測る指標と目標値を開示する。

SSBJ基準とTCFD・有価証券報告書との関係|既存開示からの接続

SSBJ基準は、TCFD提言や有価証券報告書のサステナビリティ情報欄といった既存の開示の延長線上にあります。ゼロから取り組むのではなく、これまでの蓄積をどう接続するかが実務のカギです。多くの企業様が、すでに着手済みの開示を土台にできます。

TCFD提言との連続性

SSBJの気候関連開示基準は、TCFD提言と高い連続性を持ちます。TCFDとは、気候関連財務情報開示タスクフォースの略で、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4要素で気候情報を開示する枠組みです。

この4要素は、そのままSSBJ基準のコア要素に引き継がれました。すでにTCFDに沿って気候情報を開示してきた企業は、その経験を活かしながらSSBJ基準へ移行できます。気候変動が経営に与える影響の捉え方は、関連記事の気候変動リスクが企業経営に与える影響と対応策でも整理しています。なお、TCFDは2023年に役割をISSBへ引き継いでおり、国際的な開示の流れはISSB・SSBJへと収れんしつつあります。

有価証券報告書のサステナビリティ情報欄との関係

日本ではすでに、2023年3月期から有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が設けられました。多くの上場企業が、この欄でガバナンスや戦略、人的資本などの情報を開示してきた経緯があります。

SSBJ基準は、この記載をさらに体系化し、比較可能な形へ整える役割を担います。すでに記載欄への開示を経験している企業にとって、SSBJ基準は「これまでの開示を基準に沿って磨き上げる」取り組みと位置づけられます。まったく新しい義務というより、既存開示の高度化と捉えると着手しやすくなるでしょう。

任意のサステナビリティ報告書・統合報告書との使い分け

SSBJ基準が有価証券報告書での開示を担う一方で、統合報告書やサステナビリティ報告書といった任意開示の媒体も引き続き重要です。両者は役割が異なり、補い合う関係にあります。

有価証券報告書は、投資家に向けた制度開示として正確性と比較可能性を重視します。これに対し統合報告書は、企業の価値創造ストーリーを自由度高く伝える媒体です。統合報告書の作り方は、関連記事の統合報告書の作り方と投資家に伝わる開示のポイントで解説しています。SSBJ基準への対応を機に、両者の役割を整理し直す企業も増えてきました。

企業が今から着手すべきSSBJ対応の実務ステップ

SSBJ対応は、ギャップ分析・データ整備・体制構築・保証への備えという4ステップで進めるのが現実的です。「義務化はまだ先」と考えて着手が遅れると、データ収集や社内調整が間に合いません。適用初年度から逆算した進め方を、ここで整理しましょう。

①ギャップ分析(現状開示とSSBJ要求の差分把握)

最初に取り組みたいのが、現状の開示とSSBJ基準が求める内容との差分を洗い出す「ギャップ分析」です。自社が今どこまで開示できていて、何が不足しているのかを可視化する作業です。

たとえば、有価証券報告書のサステナビリティ情報欄での既存開示を出発点に、SSBJ基準の4要素ごとに充足状況を確かめます。ガバナンスは記載できているが、指標と目標が手薄、といった具合に課題が浮かび上がります。この差分こそ、その後の準備計画の土台です。まず現在地を知ることが、最初の一歩になります。

②Scope3を含むGHG排出量データの整備

次に着手すべきは、GHG排出量データの整備です。とりわけScope3はサプライチェーン全体に及ぶため、データ収集に時間がかかります。早めに取りかかるほど、開示初年度の負担を平準化できます。

Scope1・2は自社のエネルギー使用から算定できますが、Scope3は取引先からの情報提供が前提になる項目も含まれます。算定の体制づくりや、サプライヤーへの依頼の進め方を、計画的に整える必要が出てきます。データの精度は段階的に高めていく前提で、まず測れる範囲から着手する姿勢が現実的でしょう。

③ガバナンス・社内連携体制の構築

SSBJ対応は、サステナビリティ部門だけで完結する取り組みではありません。経営層の監督体制と、財務・IR・各事業部門をまたぐ連携体制が欠かせません。有価証券報告書での開示となれば、財務報告と同じ水準の正確性が求められるためです。

サステナビリティ委員会のような監督の仕組みを整え、取締役会への報告ルートを明確にする取り組みが欠かせません。あわせて、情報を集約する社内の役割分担を決めておくと、開示作業が円滑に進みます。私たちgreenote編集部の取材実感としても、部門横断の体制づくりに早く着手した企業ほど、開示の質を安定させている印象があります。

④第三者保証(アシュアランス)への備え

将来的には、開示したサステナビリティ情報に対する第三者保証(アシュアランス)の導入が見込まれます。保証とは、開示情報の信頼性を第三者が確認する仕組みを指す言葉です。財務諸表の監査に近い役割を、サステナビリティ情報にも広げる動きです。

金融庁の制度整備では、保証を段階的に導入する方向で検討が進む段階です。保証に備えるには、データの算定根拠や収集プロセスを文書として残しておくことが欠かせません。後から経緯を説明できる状態を保っておけば、保証対応もスムーズに進みます。

SSBJ対応の実務4ステップ(適用初年度から逆算)
1

ギャップ分析

現状の開示とSSBJ要求の差分を、4要素ごとに可視化する。

2

GHGデータ整備

Scope1〜3の排出量データを整備。Scope3は早期着手が要。

3

体制構築

経営層の監督と、財務・IR・各部門をまたぐ連携体制を整える。

4

第三者保証への備え

算定根拠・収集プロセスを文書化し、保証導入に備える。

SSBJ対応でつまずきやすいポイントと対応策

SSBJ対応では、データ収集・スケジュール誤認・保証範囲の誤解という3つの落とし穴に注意が必要です。先行して準備を進める企業が直面しやすい課題を、事前に押さえておくと手戻りを防げます。

データ収集と部門連携でつまずくケース

最も多いつまずきが、データ収集と部門連携の難しさです。サステナビリティ情報は、複数の部門に分散して存在することが少なくありません。集約の仕組みがないまま開示時期を迎えると、現場が混乱します。

特にScope3のように取引先を巻き込むデータは、依頼から回収まで時間を要します。誰が・いつまでに・どの形式で集めるのかを決めておかないと、開示直前に負荷が集中してしまいます。年間スケジュールに落とし込み、平常業務のなかでデータを蓄積する運用への切り替えが対応策です。

適用スケジュールの誤認による準備遅れ

「自社はまだ対象ではない」という誤認も、準備の遅れを招きます。前述のとおり、適用スケジュールは時価総額の区分ごとに異なり、下位区分は時期が確定していません。

ここで起きやすいのが、確定前の時期を確定情報として扱う、あるいは逆に「決まっていないから動かなくてよい」と判断してしまうケースです。スケジュールが流動的だからこそ、対象になる前提で準備を進めておくほうが安全です。金融庁やSSBJの公表を定期的に確認し、自社の区分を見極める運用が欠かせません。

保証(アシュアランス)の範囲を誤解するリスク

第三者保証をめぐっては、保証の範囲を誤解するリスクが見落とされがちです。公認会計士による解説でも、開示情報の一部のみを対象とする「部分保証」の範囲を取り違える点が、実務上の大きなリスクになると警鐘が鳴らされました。

保証は当初から開示情報の全体に及ぶとは限らず、段階的に範囲が広がる想定です。どの情報がどこまで保証の対象なのかを正確に把握しないと、社内外への説明で齟齬が生じます。保証の範囲と水準を早い段階で確認し、対象となる情報の根拠を整えておくことが、誤解を避ける近道です。

SSBJ対応でつまずきやすい3点と対応策
SSBJ対応でつまずきやすいポイントと対応策の対照表
つまずきやすいポイント対応策
データ収集・部門連携の難しさ年間スケジュールに落とし込み、平常業務でデータを蓄積する運用へ。
適用スケジュールの誤認対象になる前提で準備し、金融庁・SSBJの公表を定期的に確認する。
保証(アシュアランス)範囲の誤解保証の範囲と水準を早期に確認し、対象情報の根拠を整えておく。

まとめ|SSBJ基準は「日本版ISSB」として開示の新たな基準に

SSBJ基準とは、2025年3月にサステナビリティ基準委員会が公表した、ISSB(IFRS S1・S2)をベースとする日本版のサステナビリティ開示基準です。ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4要素に沿って、一般開示と気候関連開示を求める内容です。

適用は、時価総額3兆円以上のプライム上場企業について2027年3月期からの開始が見込まれ、その後段階的に対象が広がる方向です。ただし下位区分の時期は確定前であり、金融庁の制度整備を継続して確認する必要があります。

実務では、ギャップ分析から始め、Scope3を含むデータ整備、部門横断の体制構築、保証への備えへと、適用初年度から逆算して進めることが現実的です。ESG情報開示の基礎をあらためて確認したい場合は、関連記事のESG情報開示とは?基礎と企業が押さえるべきポイントもあわせてご覧ください。変化の速いテーマですが、早めの着手が開示の質と社内の余裕につながります。

よくある質問(FAQ)

Q. SSBJ基準への対応は義務ですか、それとも任意ですか?

SSBJ基準そのものは民間の基準設定主体が定めた基準ですが、金融庁が有価証券報告書での開示を制度として求める方向で整備を進める段階です。時価総額の大きいプライム上場企業から段階的に適用される見込みで、対象企業にとっては実質的に「義務」へ向かう基準と位置づけられます。

Q. SSBJ基準とISSB基準(IFRS S1・S2)は何が違いますか?

SSBJ基準はISSBのIFRS S1・S2をベースに開発された日本版の基準です。基本的な構造(4つのコア要素)や考え方は共通する一方、日本の制度に合わせた経過措置や選択肢が一部用意されました。国際的な整合を保ちつつ、日本企業が適用しやすいよう調整された点が特徴です。

Q. SSBJ基準の対象になるのはどんな企業ですか?

当面の対象として議論されているのは、東証プライム市場の上場企業です。時価総額3兆円以上の企業から先行して適用し、その後1兆円以上・5000億円以上へと段階的に拡大する案が示されています。ただし下位区分の時期は金融庁で検討中であり、最終的な適用範囲は今後の制度整備で確定します。

Q. 中小企業もSSBJ基準に対応する必要がありますか?

現時点で直接の対象は、プライム上場の大企業が中心です。ただし、上場企業のサプライチェーンに含まれる企業は、取引先からScope3算定のためのデータ提供を求められる場面も想定されます。まずは自社のGHG排出量の把握から始めておくと、将来の要請への備えが整います。

Q. SSBJ基準への対応は、いつから準備を始めるべきですか?

対象となる時価総額区分の適用開始から逆算し、できるだけ早く着手することをおすすめします。とりわけScope3を含むデータ整備や、部門横断の体制構築には時間がかかります。義務化の時期が確定する前から、ギャップ分析など着手できる準備を進めておくと安心です。

Q. SSBJ基準に対応すると、TCFDの開示はもう不要になりますか?

TCFDで開示してきた内容は、SSBJの気候関連開示基準にそのまま活かせます。TCFDは2023年に役割をISSBへ引き継いでおり、これまでのTCFD開示の経験は、SSBJ基準への移行の土台です。新たに置き換わるというより、開示の枠組みが国際基準へと整理されていくと捉えるのが実態に近いでしょう。

この記事の著者

greenote編集部

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