「当社のCO2排出量は前年から30%削減」。そう書かれていても、その数字が本当に正しいのか、読み手には確かめようがありません。財務諸表に監査があるように、サステナビリティ情報にも第三者のチェックを求める。それが、第三者保証の考え方です。
サステナビリティ情報の第三者保証とは、企業が開示するサステナビリティ情報の信頼性を、独立した第三者が検証し、意見を表明する仕組みを指します。開示の義務化が進むいま、その「質」を支える次のテーマとして、急速に注目を集めています。
本記事では、第三者保証の意味と必要性から、限定的保証と合理的保証の違い、国際基準ISSA5000、日本の制度動向、そして企業に求められる準備までを、わかりやすく解説します。サステナビリティ開示制度を学ぶ特集の保証編として、お役に立てれば幸いです。
開示と保証の関係|財務との対比
財務の監査と同じ役割を、サステナ情報にも
財務情報
公認会計士・監査法人→ 信頼性のある
財務開示
サステナビリティ情報
独立した第三者→ 信頼性のある
サステナ開示
財務の監査と同じく、サステナ情報も第三者が検証。グリーンウォッシュを防ぎ、投資家の信頼を支えます。
≡目次
- 1サステナビリティ情報の第三者保証とは
- ►第三者保証とは
- ►なぜ必要か(信頼性・グリーンウォッシュ防止)
- ►財務諸表監査との関係
- 2限定的保証と合理的保証
- ►限定的保証(リミテッド)
- ►合理的保証(リーズナブル)
- ►まずは限定的保証から段階的に
- 3保証の国際基準ISSA5000
- ►ISSA5000とは
- ►何を保証するのか
- ►誰が保証を担うのか
- 4日本の制度動向(最新)
- ►金融審WG報告(2026年1月)
- ►SSBJ保証基準を2027年3月までに策定
- ►義務化は開示に続いて段階的に
- 5企業に求められる準備
- ►保証に耐えるデータと証跡
- ►算定プロセスと内部統制の整備
- ►保証人との連携とスモールスタート
- 6まとめ|開示の「質」を保証で支える
サステナビリティ情報の第三者保証とは
まずは、第三者保証という言葉の意味と、なぜそれが求められるのかを押さえましょう。ここを理解すると、制度化の動きの意味も見えてきます。
第三者保証とは
第三者保証とは、企業が自ら開示したサステナビリティ情報について、その企業から独立した第三者が内容を検証し、意見を表明することです。英語ではアシュアランスと呼ばれます。
たとえば、温室効果ガス排出量の数値が、適切な基準にもとづいて正しく算定・開示されているか。記載された取組に、裏づけがあるか。こうした点を、専門知識を持つ第三者がチェックします。自己申告のままにせず、外部の目を通すことで、開示の確からしさが裏打ちされるのです。
なぜ必要か(信頼性・グリーンウォッシュ防止)
第三者保証が求められる最大の理由が、情報の信頼性です。サステナビリティ情報は、財務情報と違って算定方法に幅があり、企業の裁量が入りやすい面があります。
その結果、実態以上に環境への配慮を装う「グリーンウォッシュ」のリスクが生まれます。独立した第三者が検証すれば、こうした見せかけを防ぎ、投資家は安心して情報を使えます。開示の量が増えるほど、その一つひとつが信頼できるかどうかが問われるわけです。グリーンウォッシュの詳細は、関連記事のグリーンウォッシュとは|見せかけの環境配慮を見抜くポイントもあわせてご覧ください。
財務諸表監査との関係
第三者保証のイメージをつかむには、財務諸表の監査を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。上場企業の決算書は、公認会計士や監査法人による監査を受け、その信頼性が担保されています。
サステナビリティ情報の保証も、これと同じ発想です。財務情報に監査があるように、非財務情報にも保証を。両者がそろって初めて、企業の全体像を信頼できる形で示せます。財務とサステナビリティ、2つの情報の信頼性を支える仕組みが、いま整いつつあるのです。
限定的保証と合理的保証
保証には、求める水準の異なる2つのレベルがあります。限定的保証と合理的保証の違いを整理します。
限定的保証と合理的保証
求める水準が異なる2つのレベル
リミテッド
比較的簡易な手続き
消極的形式(誤りに気づかなかった)
企業の負担は相対的に小さい
リーズナブル
詳細で踏み込んだ手続き
積極的形式(適正に表示されている)
財務諸表監査と同等の高い水準
いきなり合理的保証は負担が大きいため、まず限定的保証から始め、段階的に水準を上げていく方向です。
限定的保証(リミテッド)
限定的保証は、比較的簡易な手続きで行う保証です。結論は「消極的形式」と呼ばれる形で述べられます。
具体的には、「重要な点において、誤りがあると認められる事項は見当たらなかった」といった表現になります。問題が見つからなかった、という控えめな言い方です。手続きが軽いぶん企業の負担も小さく、保証の導入期には、まずこの限定的保証から始めるのが一般的です。
合理的保証(リーズナブル)
一方の合理的保証は、より詳細で踏み込んだ手続きを行う、高い水準の保証です。財務諸表の監査と、ほぼ同等のレベルにあたります。
結論は「積極的形式」で、「適正に表示されている」と明確に述べられます。それだけ検証は厳密で、保証する側の責任も重くなります。当然、企業に求められるデータや証跡の整備も、限定的保証より格段にハードルが上がります。
まずは限定的保証から段階的に
2つの保証は、どちらか一方を選ぶというより、段階を追って進むものとして捉えられています。いきなり合理的保証を求めれば、企業にも保証の担い手にも、過大な負担がかかるからです。
そこで、制度の導入にあたっては、まず限定的保証から始め、実務の習熟とともに合理的保証へと移行していく方向が描かれています。開示の義務化と同じく、保証もまた、無理のない段階的なアプローチがとられているのです。
保証の国際基準ISSA5000
保証の品質をそろえるため、国際的な基準が整備されました。それがISSA5000です。
ISSA5000とは
ISSA5000は、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が策定した、サステナビリティ情報の保証に関する包括的な国際基準です。保証業務を、世界共通のルールで行うための枠組みになります。
適用が始まるのは、2026年12月15日以後に開始する期間のサステナビリティ情報への保証業務などからです。限定的保証と合理的保証のどちらにも対応し、開示が準拠する基準を問わず使える、汎用性の高い設計が特徴です。開示の世界共通基準ISSBと同じく、保証にも国際的な「ものさし」が用意されたわけです。ISSBについては、関連記事のISSBとは|IFRS S1・S2の内容と国際基準もあわせてご覧ください。
何を保証するのか
保証の対象となるのは、企業が開示するサステナビリティ情報です。なかでも中心となるのが、温室効果ガス排出量などの定量的な指標です。
たとえば、Scope1・2・3の排出量が、適切な排出係数や算定方法にもとづいて計算されているか。その根拠となるデータは確かか。こうした点が検証されます。算定の土台となる枠組みは、関連記事のGHGプロトコルとは|Scope1・2・3と算定の基準で解説しています。記述的な情報も対象に含まれますが、まずは検証しやすい数値から保証が広がっていくとみられています。
誰が保証を担うのか
保証を担うのは誰か、という点も重要な論点です。財務諸表監査は公認会計士・監査法人の独占業務ですが、サステナビリティ保証では、必ずしもそうとは限りません。
監査法人に加え、サステナビリティの専門知識を持つ他の保証機関も担い手として議論されています。求められるのは、独立性と専門性の両立です。気候や人権、サプライチェーンといった幅広い分野を扱うため、多様な専門性をどう確保するかが、制度設計の鍵となっています。
日本の制度動向(最新)
日本でも、保証の制度化に向けた議論が大きく前進しています。最新の動きを確認します。
日本の開示と保証のスケジュール
開示の義務化に続いて、保証を段階的に
3兆円以上
以上
2026年1月に金融審WGが報告。金融庁はISSA5000と整合する保証基準を2027年3月までに策定。保証はまず限定的保証から。
金融審WG報告(2026年1月)
日本の議論が大きく動いたのが、2026年1月です。金融庁の金融審議会のワーキング・グループが、サステナビリティ情報の開示と保証のあり方について、報告を取りまとめました。
この報告では、開示の義務化と歩調を合わせ、保証をどう導入していくかの方向性が示されました。開示が義務になっても、その中身が信頼できなければ意味がない。だからこそ、開示と保証はセットで議論されているのです。有価証券報告書での開示は、関連記事の有価証券報告書のサステナビリティ開示とは|記載内容と義務化スケジュールもあわせてご覧ください。
SSBJ保証基準を2027年3月までに策定
具体的な動きも進んでいます。金融庁は、国際基準であるISSA5000と整合する形で、日本の保証基準を2027年3月までに策定する方針を示しました。
国際基準と整合させるのは、海外の投資家にも通用する保証とするためです。整合性が確保された基準にもとづく保証であれば、その保証報告書を有価証券報告書などに添付できるようにする方向で、制度の整備が進められています。
義務化は開示に続いて段階的に
気になるのが、保証がいつ義務になるかです。基本的な考え方は、開示の義務化に続く形で、保証も段階的に導入するというものです。
たとえば、ある企業群で開示が義務化されたあと、その翌年あたりから保証を求める、といった建て付けが想定されています。そして保証の水準も、まずは限定的保証から。開示と同様、対象企業と要求水準を、時間をかけて広げていく方針です。
企業に求められる準備
保証を見据え、企業は何を整えておくべきでしょうか。実務の備えのポイントを整理します。
保証への準備|3ステップ
第三者が検証できる状態を、段階的に整える
データと証跡を残す
排出量などの数値について、根拠資料・排出係数・計算過程を、後から検証できる形で保存する。
プロセスと内部統制を整える
誰がいつデータを集計し誰が確認するか、仕組みとして回る体制へ。属人的な作業から脱却する。
保証人と連携・スモールスタート
任意で限定的保証を受けるなど予行演習を。対話しながら不足を補い、義務化に備える。
保証対応は、開示の質そのものを底上げする取組です。早く始めるほど、義務化への備えが固まります。
保証に耐えるデータと証跡
保証の世界で、何より問われるのが証跡(エビデンス)です。「この数値は、どのデータから、どう計算したのか」を、第三者が後から検証できる形で残しておく必要があります。
たとえば温室効果ガス排出量なら、燃料や電気の使用量の根拠資料、用いた排出係数、計算の過程までをそろえます。担当者の頭の中にしかない、では保証は通りません。記録に残し、たどれるようにする。地道ですが、これが保証対応の土台になります。
算定プロセスと内部統制の整備
個々のデータだけでなく、それを集めるプロセスと内部統制も問われます。誰が、いつ、どのようにデータを集計し、誰がチェックするのか。その仕組みが整っているかどうかが、保証の通りやすさを左右します。
財務情報では当たり前のこうした統制を、サステナビリティ情報にも広げていく。属人的な作業から、仕組みとして回る体制へ。保証への対応は、開示の質そのものを底上げする取組でもあるのです。
保証人との連携とスモールスタート
義務化を待たず、早めに動く企業も増えています。任意で限定的保証を受けてみる、いわば「予行演習」です。実際に保証人とやり取りすれば、自社に足りない点が具体的に見えてきます。
最初から完璧を目指す必要はありません。保証人と対話しながら、できるところから証跡や体制を整えていく。そうしたスモールスタートの積み重ねが、いざ義務化を迎えたときの、確かな備えになります。
まとめ|開示の「質」を保証で支える
サステナビリティ情報の第三者保証は、開示の信頼性を担保する仕組みです。最後に、要点を振り返ります。
- 第三者保証とは、開示するサステナビリティ情報の信頼性を独立した第三者が検証する仕組みで、財務諸表監査に相当する
- 保証には限定的保証と合理的保証があり、まず負担の小さい限定的保証から段階的に進む
- 保証の国際基準ISSA5000が、2026年12月15日以後に開始する期間の保証業務などから適用される
- 日本では2026年1月に金融審WGが報告を取りまとめ、ISSA5000と整合する保証基準を2027年3月までに策定、開示に続いて段階的に義務化される見込みである
- 企業は、保証に耐えるデータ・証跡と内部統制の整備を、スモールスタートで進めることが現実的である
開示の「量」が義務として広がるいま、その「質」を支えるのが保証です。信頼できる開示は、投資家との対話を深め、企業価値の向上にもつながります。保証への備えは、単なる対応コストではなく、開示力そのものを鍛える投資といえるでしょう。サステナビリティ開示・ESG全体の地図はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。greenoteでは、サステナビリティ開示の実務情報を、これからもお届けしていきます。
出典・参考(一次情報)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
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greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年6月20日