工場から出荷した製品が、トラックや船で全国の販売店やお客さまのもとへ運ばれていく——。その出荷したあとの物流にも、CO2は伴います。これを計上するのが、Scope3のカテゴリ9「輸送・配送(下流)」です。仕入れや出荷の物流を扱うScope3カテゴリ4(輸送・配送 上流)の姉妹カテゴリで、上流と下流をどこで線引きするかが最初の関門になる。本記事では、カテゴリ9の対象範囲と計算ステップを、環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォームやGHGプロトコルの一次情報をもとに、実務目線で解説します。
≡この記事の目次
- 1Scope3カテゴリ9(輸送・配送<下流>)とは
- ►販売した製品の出荷後の輸送・配送
- ►上流(カテゴリ4)との位置づけ
- 2カテゴリ4(上流)との違い――費用負担で線を引く
- ►費用負担で上流・下流を分ける
- ►「関連なし」と判断する場合もある
- 3カテゴリ9の対象範囲
- ►出荷後の輸送・配送
- ►倉庫保管・小売のエネルギー
- 4計算の考え方――トンキロ×モード別係数
- ►距離ベース法(トンキロ法)が中心
- ►燃料ベース法・支出ベース法
- 5データはどこから取るのか
- ►物流事業者・販売網からのデータ
- ►交通モード別の排出原単位
- 6CDP回答・開示での実務ポイント
- ►算定方法と対象範囲の記載
- ►実務で多い方法と現実的な進め方
- 7カテゴリ9の算定をどう進めるか
- 8出典・参考(一次情報)
Scope3カテゴリ9(輸送・配送<下流>)とは
まず、カテゴリ9が何を対象とするのかを整理します。「販売した製品を出荷したあとの物流」という視点から入りましょう。
販売した製品の出荷後の輸送・配送
カテゴリ9は、報告する企業が販売した製品を出荷したあとの、輸送・配送に伴う排出を対象にします。工場から出た製品が、物流センターや卸、小売店、そして最終的なお客さまへと届くまでの間に、トラックや鉄道、船舶が使われ、そこからCO2が出る。この「川下」の物流に紐づく排出を、サプライチェーンの一部として計上するわけです。
ポイントは、これらの物流が自社の管理外で起こることが多いという点にあります。自社の倉庫を出たあと、製品がどう運ばれるかは、販売店や物流事業者、ときにはお客さま自身が担う。Scope3とはの15カテゴリのなかでも、カテゴリ9は自社の手を離れた先の排出を扱う、下流側の代表格といえるだろう。
上流(カテゴリ4)との位置づけ
カテゴリ9を理解する近道は、上流のカテゴリ4とセットでとらえることです。カテゴリ4は「輸送・配送(上流)」、カテゴリ9は「輸送・配送(下流)」——名前もよく似ています。どちらもモノの輸送が対象で、計算の考え方も共通する。違うのは、その輸送が自社から見て上流か下流かという位置づけだけ、といってもよい。
だからこそ、この2つは線引きを間違えやすいカテゴリでもあります。同じ「製品を運ぶ」でも、あるものはカテゴリ4、あるものはカテゴリ9に入る。その分かれ目こそが、次に見る費用負担の考え方です。ここを押さえれば、カテゴリ9の半分は理解できたようなものでしょう。
カテゴリ4(上流)との違い――費用負担で線を引く
カテゴリ9の最大のつまずきどころが、上流のカテゴリ4との区別です。ここを先に押さえます。
費用負担で上流・下流を分ける
仕入れ・調達の物流
自社が輸送費用を負担する物流。原材料の仕入れや、自社が配送費を持つ出荷など。
工場・倉庫
販売後の物流
自社が輸送費用を負担しない物流。販売した製品を顧客や販売店が引き取って運ぶなど。
分かれ目=その輸送費用を自社が負担するか
線引きの基本は費用負担。区分の考え方は変わりうる。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
費用負担で上流・下流を分ける
上流と下流の分かれ目は、その輸送費用を自社が負担するかどうかです。GHGプロトコルの考え方では、自社が費用を負担する輸送・配送はカテゴリ4(上流)、自社が費用を負担しない輸送・配送はカテゴリ9(下流)、と整理する。誰がお金を払っているかで、上流か下流かを見分けるわけです。
具体例で考えてみましょう。自社が配送費を持って製品をお客さまに届けるなら、その出荷はお金を出す自社側、つまりカテゴリ4になる。逆に、販売した製品をお客さまや販売店が自分で引き取って運ぶなら、輸送費を自社は負担していないため、カテゴリ9に入る。同じ「出荷後の輸送」でも、費用負担者が誰かで振り分けが変わる点に注意が必要です。
「関連なし」と判断する場合もある
もう一つ、カテゴリ9で知っておきたいのが、「関連なし」と判断されることが少なくないという実態です。製品の所有権が工場出荷の時点でお客さまに移り、その先の輸送費を自社が一切負担しないケースでは、カテゴリ9を「自社にとって重要でない(関連なし)」と判断し、理由を説明して算定を省く企業もある。
これは、手を抜いているわけではありません。GHGプロトコルは、関連性の低いカテゴリは理由を明示したうえで除外してよいとしており、下流物流はまさにその判断が分かれやすい領域なのです。大切なのは、含めるにせよ除くにせよ、その判断の根拠を説明できること。自社のビジネスにとってカテゴリ9がどれだけ重要かを、まず見極めることが出発点になるでしょう。
カテゴリ9の対象範囲
カテゴリ9が具体的に何を含むのかを整理します。輸送だけでなく、保管や小売も視野に入ります。
カテゴリ9に含まれるもの
出荷後の輸送
工場や倉庫を出た製品を、物流センターや販売店、顧客へ運ぶトラック・鉄道・船舶・航空機。
倉庫・物流拠点での保管
販売までの間、製品を保管する倉庫のエネルギー使用。
小売・販売店
製品を販売する小売店の運営に伴うエネルギー使用(含める場合)。
自社が費用を負担しない下流の物流が中心。どこまで含めるかは重要性で判断する。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
出荷後の輸送・配送
カテゴリ9の中心は、販売した製品を出荷したあとの輸送・配送です。工場や自社倉庫を出た製品が、物流センターや卸、小売店、最終的なお客さまへと運ばれる。この過程で使われるトラック・鉄道・船舶・航空機の燃料などから出る排出が、その本体になります。
ここで扱うのは、あくまで自社が費用を負担しない輸送です。たとえば、販売店が自社の車で製品を引き取りにくる、卸が自分たちの物流網で店舗へ配送する——こうした自社の手を離れた物流が、カテゴリ9の主役です。モノの流れをたどり、「出荷したあと、誰がどう運んでいるか」を描き出すことが、範囲を定める第一歩になる。
倉庫保管・小売のエネルギー
カテゴリ9は、輸送そのものだけにとどまりません。GHGプロトコルでは、販売までの間に製品を保管する倉庫や物流拠点でのエネルギー使用や、製品を販売する小売店の運営に伴うエネルギー使用も、カテゴリ9に含めうるとされています。運ぶだけでなく、「ためる」「売る」場面の排出も視野に入るわけです。
とはいえ、これらをどこまで含めるかは、重要性(マテリアリティ)で判断します。自社の製品にとって、下流の保管や小売の排出が大きいなら含める意義がある。小さいなら、まず主要な輸送分から着手し、範囲を段階的に広げるのが現実的でしょう。すべてを一度に完璧に、と気負わないことが、下流カテゴリと長く付き合うコツです。
計算の考え方――トンキロ×モード別係数
カテゴリ9の計算は、上流の輸送(カテゴリ4)と同じ考え方が使えます。輸送量と距離でとらえます。
輸送量と距離でとらえる
(貨物の重量トン) × 輸送距離
(キロメートル) × 交通モード別の
排出原単位 = 排出量
重量×距離=トンキロ(距離ベース法の土台)
同じトンキロでも、交通モードで排出量は大きく変わる(イメージ)
基本は距離ベース法(トンキロ法)。鉄道・船舶へのモーダルシフトが削減策になる。
出典:環境省・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成(棒の長さは大小関係のイメージ)
距離ベース法(トンキロ法)が中心
カテゴリ9の計算は、上流のカテゴリ4とまったく同じ骨格で考えられます。基本となるのが距離ベース法(トンキロ法)。輸送した貨物の重量(トン)と、輸送距離(キロメートル)を掛けた輸送量(トンキロ)に、交通モード別の排出原単位を掛けて、排出量を求めます。「どれだけの重さを、どれだけの距離、何で運んだか」を、排出量に換算する考え方です。
CDPに開示された算定方法を見ても、カテゴリ9では距離ベース法が最も多く使われています。上流のカテゴリ4と手法がそろっているため、カテゴリ4で組んだ算定の仕組みを、下流にも応用しやすいのが利点です。トラック・鉄道・船舶・航空機というモードごとに、輸送量を把握するのが計算の土台になる。
燃料ベース法・支出ベース法
距離ベース法のほかにも、算定の道はあります。一つが燃料ベース法。輸送に使った燃料の使用量が分かる場合に、それを排出量に換算する方法で、精度は高いものの、下流ではデータが得にくいことが多い。もう一つが支出ベース法で、物流にかかった費用に金額あたりの原単位を掛けて概算します。まずざっくりつかみたいときに使う方法です。
ここでも効いてくるのが、交通モードによる原単位の違いです。同じトンキロを運ぶのでも、航空機は、鉄道や船舶よりはるかに多くのCO2を出す。一般に、単位あたりの排出は「航空 > トラック > 鉄道・船舶」の順とされます。だから、輸送を鉄道や船舶に切り替えるモーダルシフトは、下流物流でも有効な削減策になるわけです。
データはどこから取るのか
自社の管理外で起きる物流だけに、データの取り方が難所です。入手先と代替策を整理します。
使うデータはどこから
まずは実データを求める
主要な販売網や委託先の物流事業者から、輸送量・輸送モード・輸送距離のデータ提供を受けられないか確認する。
得られなければ推計する
販売量と標準的な輸送距離から推計する、または物流費用から概算する。段階的に精度を高める。
交通モード別の排出原単位(公的)
トラック・鉄道・船舶・航空などモード別の係数。環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームの排出原単位データベースなど。
下流は自社の管理外でデータが得にくい。使った前提と係数を記録する。
出典:環境省・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
物流事業者・販売網からのデータ
カテゴリ9でいちばん悩ましいのが、活動量データの入手です。下流の物流は自社の管理外で起こるため、「どれだけの量が、どこまで、何で運ばれたか」を、自社は直接には把握していないことが多い。そこでまず試したいのが、主要な販売網や、委託先の物流事業者からのデータ提供です。取引の大きい相手から順に、輸送量やモードのデータを求めていく。
すべての実データをそろえるのは、現実には難しいものです。得られない部分は、販売量と標準的な輸送距離から推計する、あるいは物流費用から概算する、といった代替策で埋めます。取引量の大きいところから精度を上げ、小さいところは概算で押さえる——このメリハリが、下流カテゴリを回すうえで欠かせません。
交通モード別の排出原単位
活動量(トンキロや費用)に掛ける、交通モード別の排出原単位は、公的なデータベースから入手します。日本では、環境省がグリーン・バリューチェーンプラットフォームで公開する排出原単位データベースに、貨物の輸送モード別の原単位などが示されています。カテゴリ4と同じ原単位を使えるため、上流と下流で係数の考え方をそろえられるのも利点です。
ここでも、どの原単位を、いつの版で使い、どんな前提で推計したかを記録することが欠かせません。方法論はGHGプロトコルのScope 3 Standardに沿って進めます。活動量は事業者・販売網から、原単位は公的な根拠、と使い分けるのが基本です。下流は推計が多く入るぶん、前提の記録がとりわけ重要になる。
CDP回答・開示での実務ポイント
算定結果を、CDPなどでどう開示するか。カテゴリ9の押さえどころを整理します。
カテゴリ9の開示で押さえること
関連性を判断し明示する
自社にとってカテゴリ9が重要か(関連ありか関連なしか)を判断し、その理由を説明する
算定方法と対象範囲を記す
距離ベース法・燃料ベース法・支出ベース法などから使った方法を選び、輸送のどこまでを含めたかを示す
活動量と原単位・前提を記載する
輸送量や推計の前提と、使ったモード別原単位の出典・版を記す
関連なしと判断する場合も、理由を説明できることが信頼性につながる。
出典:CDP・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
算定方法と対象範囲の記載
カテゴリ9をCDPとはなどで開示する際は、他のカテゴリと同様に、評価ステータス・排出量・算定方法(距離ベース法・燃料ベース法・支出ベース法など)を記します。カテゴリ9でとくに問われるのが、関連性の判断と対象範囲です。関連なしと判断したなら、その理由を説明する。関連ありなら、輸送のどこまでを含めたか(倉庫保管や小売を含めたかなど)を明示することが求められる。
活動量(輸送量や推計の前提)と、使ったモード別原単位の出典・版も記載します。下流は推計が入りやすいため、どんな前提で全体を見積もったかを説明できるようにしておくと、開示の信頼性が高まるだろう。
実務で多い方法と現実的な進め方
CDPに開示された算定方法を見ると、カテゴリ9では距離ベース法(トンキロ法)が中心で、ハイブリッド法や平均データ法、サプライヤー別の方法がこれに続きます。上流のカテゴリ4と手法がそろっているのが特徴です。一方で、「関連なし」として理由を説明し、算定しない企業も一定数あり、下流物流の重要性が事業によって大きく異なることをうかがわせます。
現実的な進め方は、まずカテゴリ4(上流)の算定の仕組みを、下流にも応用することです。同じトンキロ法・同じ原単位が使えるため、上流で組んだ計算を横展開できる。そのうえで、取引量の大きい販売網から実データを集め、残りは推計で押さえる。カテゴリ9は完璧を目指すと止まってしまいがちなので、重要な部分から着実にを合言葉に進めるのがよいでしょう。
カテゴリ9の算定をどう進めるか
Scope3カテゴリ9(輸送・配送 下流)は、自社が販売した製品を出荷したあとの、自社が費用を負担しない輸送・配送に伴う排出を計上するものです。上流のカテゴリ4との線引きは費用負担で判断し、計算は「輸送量(トンキロ)× 交通モード別の排出原単位」という距離ベース法が中心になります。手法がカテゴリ4と共通するため、上流で組んだ算定の仕組みを応用できるのが強みです。
大切なのは、まず自社にとってカテゴリ9が重要かを見極め、含めるにせよ除くにせよ判断の根拠を説明できるようにすること。関連ありなら、取引量の大きい販売網から実データを集め、残りは推計で押さえていく。鉄道や船舶へのモーダルシフトは、そのまま削減にもつながります。Scope3の全体像はScope3とは、上流の輸送はカテゴリ4(輸送・配送 上流)もあわせてご覧ください。ESGの全体像はESG完全ガイドもどうぞ。
出荷したあとの、見えにくい物流。カテゴリ9の算定は、自社の手を離れた先まで排出をたどり、サプライチェーン全体を見渡す視点を育ててくれる。なお本記事は、環境省・GHGプロトコルなどの公開情報をもとに算定の考え方を整理したものであり、特定のツールや製品を推奨するものではありません。係数や制度は変わりうるため、算定時は最新の一次情報をご確認ください。
無料ダウンロード:Scope3 簡易算定テンプレート
カテゴリ別の算定を、手を動かして進めたい方へ。15カテゴリを一覧で整理し、「活動量 × 排出原単位」で排出量を自動計算できる入力シートを無料で配布しています(会員登録不要)。この記事で解説した算定手順を、そのままシートに落とし込めます。
よくある質問(FAQ)
Q. Scope3カテゴリ9とカテゴリ4は何が違いますか?
A. どちらも輸送・配送に伴う排出ですが、上流か下流かが違います。線引きの基本は『その輸送費用を自社が負担するかどうか』です。自社が費用を負担する輸送(原材料の仕入れ物流や、自社が配送費を持つ出荷など)はカテゴリ4(上流)、自社が費用を負担しない輸送(販売した製品を顧客や販売店が引き取って運ぶなど)はカテゴリ9(下流)に整理します。下流は自社の管理外で起こることが多く、費用負担がないために『関連なし』と判断して理由を説明する企業も少なくありません。
Q. カテゴリ9はどうやって計算しますか?
A. 基本は上流のカテゴリ4と同じで、距離ベース法(トンキロ法)が中心です。輸送した貨物の重量と輸送距離を掛けた輸送量(トンキロ)に、トラック・鉄道・船舶・航空機といった交通モード別の排出原単位を掛けます。ほかに、燃料使用量から求める燃料ベース法や、物流費用から概算する支出ベース法もあります。交通モードで排出係数が大きく変わり、一般に航空機が最も大きいため、鉄道や船舶へ切り替えるモーダルシフトが削減につながります。
Q. 下流の物流はデータが取りにくいのですが、どうすればよいですか?
A. カテゴリ9は自社の管理外で起こる物流が多く、活動量データの入手が難しいのが実情です。まずは主要な販売網や委託先の物流事業者から輸送量や輸送モードのデータ提供を受けられないか確認し、得られない部分は販売量や標準的な輸送距離から推計する、あるいは費用ベースで概算する、といった段階的な方法が現実的です。使った前提(想定した輸送距離やモード、原単位の出典・版)を記録しておくことが大切です。本記事は特定のツールや製品を推奨するものではありません。
出典・参考(一次情報)
- 環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(サプライチェーン排出量の算定・排出原単位データベース)」
- 環境省「サプライチェーン排出量の算定方法」
- GHG Protocol「Corporate Value Chain (Scope 3) Standard」
最終更新日:2026年7月3日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。