RE100達成のための電力調達戦略とは|追加性と段階的ロードマップで考える

2026.07.09
再生可能エネルギー

「RE100を宣言したものの、どの再エネ調達手段から手をつければよいのか」――脱炭素経営を担う調達担当者にとって、これは切実な問いです。証書を買えば数字上は100%を達成できますが、それが本当に評価される調達なのかは別の問題です。RE100達成のための電力調達戦略とは、複数の調達手段を「追加性」という軸で捉え直し、自社の状況から逆算して段階的に組み合わせていくロードマップのことです。本記事は連載「電力調達実務ガイド」の最終回として、これまで見てきた調達の知識を、RE100という目標に向けて統合します。手段そのものの詳しい仕組みは各既存記事に譲り、ここでは「戦略」に焦点を当てます。

📘この記事は連載「電力調達実務ガイド」の一部です。新電力の選び方から料金・契約・RE100戦略まで、全8記事で体系的に解説しています。特集の全8記事を見る →

この記事の目次

RE100達成は「手段選び」ではなく「戦略」(おさらい)

まず、なぜRE100を目標から逆算した戦略として捉える必要があるのか、その理由から整理しましょう。

手段選びから戦略へ

悪い例
手近な手段(証書)だけで数字を埋める
良い例
目標から逆算し、追加性の高い手段を軸に組み合わせる

RE100達成は電力由来のScope2排出削減とほぼ同義。数字合わせでなく戦略として設計する。

出典:RE100技術要件・環境省の公開情報をもとにgreenote作成

RE100とは、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブです。その達成要件は、GHGプロトコルで定義される電力に関連するScope2排出(および発電に係るScope1)を再エネ化することであり、RE100の達成は電力由来のScope2排出量の削減とほぼ同義です。

だからこそ、RE100は「どの再エネメニューを契約するか」という単発の手段選びではなく、排出削減という目的に向けた経営戦略として設計する必要があります。SBT(科学的根拠に基づく目標)やGX戦略とも連動し、再エネ調達は環境対応とコスト戦略を兼ねた経営課題です。この最終回では、そのための戦略の組み立て方を整理します。

達成手段を「追加性」という軸で捉え直す

RE100が認める調達手段は複数ありますが、戦略の鍵は「追加性」という評価軸でそれらを見ることです。

調達手段を追加性で捉える

▲ 追加性が高い(新しい再エネを生む効果が大きい)

自家発電・自家消費/新規のPPA追加性が高い
再エネ電力メニュー追加性は中程度
証書(トラッキング付き非化石証書等)追加性が低い

▼ 追加性が低い

RE100は8手法すべてを認めるが、追加性の高い手段ほど戦略的価値が高い

出典:RE100技術要件・環境省の公開情報をもとにgreenote作成

RE100が認める調達手段の全体像

環境省の資料によれば、RE100が認める再エネ電力の調達手法は、公式の技術要件(Technical Criteria)に基づき5分類・8手法に整理されています。大きくは、(1)自家発電(自社所有の設備)、(2)直接調達(発電事業者とのフィジカルPPA・バーチャルPPA)、(3)電力小売との契約(再エネ電力メニューなど)、(4)再エネ電力証書(EAC)の調達(日本では非化石証書・グリーン電力証書・J-クレジット)、(5)受動的調達です。

これらの手段の詳しい仕組みは、再生可能エネルギー調達とPPAとはグリーン電力証書とは非化石価値取引市場とはで解説しています。戦略を考えるうえで重要なのは、これらを並列の選択肢としてではなく、次に述べる「追加性」という軸で捉え直すことです。

追加性――新しい再エネを生むかどうか

追加性(additionality)とは、その調達が新しい発電設備による電力供給の増加に貢献するかどうかを指す考え方です。既設の発電所からの電力を購入して帳簿上の排出をゼロにできても、それだけでは社会全体の再エネが増えず、追加的なCO2削減にはつながらない、という発想です。

自然エネルギー財団の解説によれば、RE100は近年この追加性を重視する方向を強めています。2025年3月の技術要件の改定(2026年1月以降の開示から適用)では、調達する再エネは原則として運転開始またはリパワリングから15年以内の設備由来であることを求めるようになりました(総電力消費量の15%までは対象外にできる緩和あり)。これは、投資回収の目安である約15年を超えた設備からの調達は、新規開発を後押しする効果が小さいとの判断に基づきます。RE100は8手法すべてを認めますが、追加性の高い手段ほど戦略的な価値が高いという視点が、調達設計の出発点になります。

証書は「要件は満たすが追加性は持たない」

戦略上、最も誤解されやすいのが証書の位置づけです。要件充足と追加性は別物であることを押さえます。

要件充足と追加性は別物

RE100の要件を満たす

トラッキング(属性情報)付きなら、発電所の種類・所在地・運転開始日を証明できる

追加性は持たない

それ自体は新しい再エネ電源を生まない

証書は不足分の補完に有効だが、追加性の面では自家発電・新規PPAに劣る

出典:資源エネルギー庁・CDP等の公開情報をもとにgreenote作成

日本で一般的に使われる再エネ電力証書のうち、非化石証書がRE100の要件を満たすには、発電所の種類・所在地・運転開始日などの属性情報が付随する「トラッキング付き」であることが条件です。資源エネルギー庁は2021年度からFIT非化石証書を全量トラッキングの対象とし、これによりRE100やSBT、CDPといった国際イニシアティブへの対応が可能になると説明しています。

ここで戦略上決定的に重要なのが、トラッキング付き非化石証書は「RE100の要件は満たすが、それ自体は追加性を持つ環境価値ではない」と整理されている点です。つまり、要件充足と追加性は別の概念です。証書は低コストで柔軟に調達でき、不足分の補完には有効ですが、追加性の面では自家発電や新規のPPAに劣ります。証書だけで100%を埋める戦略は、数字上は達成でも、実質的な脱炭素インパクトや対外的な評価の面では弱いものになりかねません。

組み合わせ戦略――ポートフォリオで100%を目指す

単一の手段ではなく、複数の手段を組み合わせるのが実務の定石です。それぞれのトレードオフを整理します。

調達手段のトレードオフ

手段コスト追加性安定性
自家消費(オンサイト)初期投資要高い容量に上限
オフサイトPPA中〜長期高い価格・量が安定
再エネメニュー中程度確実(橋渡し)
証書低い低い補完向き

単一手段でなく、自家消費+PPA+証書のポートフォリオで100%を目指す。

出典:環境省・各種公開情報をもとにgreenote作成

自家消費・PPA・メニュー・証書の使い分け

RE100達成は、単一の手段ではなく複数の手段を組み合わせたポートフォリオで目指すのが実務の一般解です。それぞれの手段には得意・不得意があります。自家消費(オンサイト)は追加性が高い一方、設置できる容量に上限があり需要の全量は賄えません。オフサイトPPAは追加性が高く長期契約で価格と調達量が安定しますが、契約規模とリードタイムが必要です。

再エネ電力メニューは確実に調達できますが受け身で追加性は中程度、比率を早期に引き上げる「橋渡し(ブリッジ)」として有効です。そして証書は低コストで柔軟なため、不足分の補完に向いています。これらを自社の拠点構成や予算に応じて使い分けます。

コスト・追加性・安定性のトレードオフ

手段選びの本質は、コスト・追加性・調達の安定性という3つのトレードオフのバランスです。追加性の高い自家消費やPPAは、脱炭素インパクトも対外評価も高い一方で、初期投資や契約交渉の負担があります。逆に証書は手軽ですが追加性が低い。

戦略としては、追加性の高い自家消費・PPAを長期的な軸に据え、当面の不足分をメニューや証書で補いながら、徐々に追加性の高い手段の比率を高めていくのが定石です。まず1拠点で小規模なPPAを試行してノウハウを蓄積し、その後に大規模展開する、という進め方も現実的です。

段階的ロードマップ――現状把握から始める

RE100は一足飛びには達成できません。段階を踏んだロードマップと中間目標の考え方を整理します。

需要から供給へ、4つのステップ

1現状把握電力使用量とScope2排出量を網羅的に把握
2省エネ・需要削減需要そのものを減らす(最優先)
3自家消費自前の再エネを確保
4PPA・証書で補完不足分を追加性の高い順に埋める
2030年 70%2035年 90%2040年 100% RE100公式の中間目標

まず需要を減らすと、必要な再エネ調達量そのものを縮小できる

出典:RE100 Joining Criteria・環境省の公開情報をもとにgreenote作成

4つのステップで需要から供給へ

RE100達成に向けた推奨アプローチは、①現状把握 → ②省エネ・需要削減 → ③自家消費 → ④不足分の補完という段階を踏みます。まず①として、電力使用量と本連載で繰り返し触れたScope2排出量を網羅的に把握します。次に②として、デマンドレスポンスを含む省エネで需要そのものを減らします。

需要削減を先に行うのは、必要な再エネ調達量そのものを縮小できるからです。需要を減らしてから、③自家消費で自前の再エネを確保し、④それでも足りない分をPPAや証書で、追加性の高い順に補完していきます。この順序を踏むことで、無理なくコスト効率よくRE100に近づけます。

中間目標は2030年70%・2035年90%・2040年100%

戦略には具体的なマイルストーンが欠かせません。RE100公式のJoining Criteria(2025年版)が定める中間目標は、2030年までに70%、2035年までに90%、2040年までに100%です。加盟企業はこの中間目標を踏まえて、自社のロードマップを策定します。

多くの企業では、5年間隔でマイルストーンを置き、その時点で追加性の高い手段の比率をどこまで引き上げるかを計画します。目標年から逆算して、いつまでにどの拠点で自家消費を導入し、いつPPAを契約するかを具体化することが、達成への確度を高めます。

日本企業の現状と課題

日本企業のRE100の取り組みは世界でも進んでいますが、固有の課題も抱えています。

環境省の資料によれば、RE100加盟企業は世界全体で444社(2025年3月末時点)で、日本は米国と並んで加盟企業数が世界トップクラスです。脱炭素経営への関心の高さがうかがえます。

一方で、日本企業には固有の課題があります。日本の再エネ調達コストは減少傾向にあるものの依然として世界水準に比べ高いこと、RE100の要件を満たすトラッキング付き非化石証書は流通量が限られ他のクレジットに比べ価格が高いこと、そして前述のとおり証書は要件を満たしても追加性を持たないため、証書依存では追加性の確保が難しいことです。なお、RE100の参加要件(年間電力消費量など)を満たさない中小企業向けには、国内独自の枠組みとして「再エネ100宣言 RE Action」が用意されており、企業規模を問わず再エネ調達に取り組める環境が整いつつあります。

電力調達実務ガイド――連載のまとめ

RE100達成のための電力調達戦略は、複数の調達手段を「追加性」という軸で捉え直し、現状把握から始めて段階的にポートフォリオを組んでいくことに尽きます。証書は要件を満たしても追加性を持たないため、自家消費やPPAといった追加性の高い手段を軸に据え、証書は補完に使う。そして中間目標(2030年70%・2035年90%・2040年100%)から逆算して、需要削減・自家消費・PPA・証書を計画的に組み合わせる――これがRE100を実質的に達成する戦略です。

電力調達実務ガイド 全8回のまとめ

基礎を知る

① 新電力(PPS)とは ② 電力の切替え(スイッチング)とは

料金と契約を理解する

③ 高圧・特別高圧の需要契約とデマンド管理 ④ 電気料金の構成 ⑤ 電力調達の契約形態

選び、戦略を立てる

⑥ 新電力の経営リスクと事業撤退 ⑦ 電力調達先の選び方・比較ポイント ⑧ RE100達成のための電力調達戦略

基礎から戦略まで、企業の電力調達を体系的に理解する8記事

出典:greenote「電力調達実務ガイド」連載

本連載「電力調達実務ガイド」では、新電力(PPS)とはから始め、切替えの仕組み高圧・特別高圧の需要契約とデマンド管理電気料金の構成契約形態経営リスクと事業撤退調達先の選び方、そして本記事のRE100戦略まで、企業の電力調達を基礎から戦略まで体系的に解説してきました。電力調達は、コスト管理と脱炭素という2つの経営課題が交差する領域です。この連載が、担当者の実務の羅針盤となれば幸いです。

なお本記事は、RE100公式の技術要件、環境省・資源エネルギー庁・自然エネルギー財団などの公開情報をもとに整理したものです。RE100の要件や加盟企業数、証書制度は変更・変動があるため、実際の取り組みにあたっては最新の一次情報をご確認ください。特定の調達手段や事業者を推奨するものではありません。

よくある質問(FAQ)

Q. RE100は証書を買えば達成できるのですか?

A. 証書の購入だけでも数字上のRE100達成は可能ですが、戦略としては証書への過度な依存は推奨されません。日本で使われるトラッキング付き非化石証書はRE100の技術要件を満たしますが、それ自体は『追加性』(新しい再エネ電源を生み出す効果)を持たないと整理されています。RE100は近年、追加性を重視する方向にあり、2025年の技術要件改定では原則として運転開始から15年以内の設備由来であることを求めるようになりました。自家消費やPPAといった追加性の高い手段を軸に、証書は不足分の補完に使うという組み合わせが、戦略として望ましいとされます。

Q. RE100の中間目標はどのくらいですか?

A. RE100公式のJoining Criteria(2025年版)が定める中間目標は、2030年までに再エネ比率70%、2035年までに90%、2040年までに100%です。RE100は最終的に事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目標とする国際イニシアティブで、加盟企業はこの中間目標を踏まえて自社のロードマップを策定します。達成に向けては、まず電力使用量とScope2排出量を把握し、省エネで需要を減らしたうえで、自家消費やPPA、証書を段階的に組み合わせていくアプローチが推奨されます。

Q. RE100とScope2排出量はどう関係しますか?

A. RE100の達成は、電力由来のScope2排出量の削減とほぼ同義です。RE100の認定要件は、GHGプロトコルで定義される電力に関連するScope2排出(および発電に係るScope1)を再生可能エネルギーに切り替えることだからです。つまり、再エネ電力の調達を進めることが、そのまま自社のScope2排出量の削減になります。このため、RE100はSBT(科学的根拠に基づく目標)やGX戦略とも連動し、再エネ調達は単なる環境対応ではなく、排出削減とコスト戦略を兼ねた経営課題として位置づけられています。

出典・参考(一次情報)

最終更新日:2026年7月8日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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