電力の調達先を見直すとき、つい「一番安い単価の会社」を探しがちです。しかし、これまでの連載で見てきたように、電力調達には料金の変動リスク、脱炭素、そして事業者の経営リスクといった、単価には表れない論点が数多くあります。電力調達先の選び方とは、価格・環境価値・信用力・BCPという複数の軸を、自社の優先順位に沿って総合的に比較することです。本記事では、これまでの連載を統合し、調達先を比較する4つの軸を整理します。最後の判断を誤らないための、実践的なチェックリストとして活用してください。
≡この記事の目次
電力調達先の選び方とは(おさらい)
まず、調達先選びが「価格の安さ比べ」ではないことを、比較の全体像から整理しましょう。
調達先を比べる4つの軸
価格の安さだけでなく、4つの軸を自社の優先順位で総合評価する。
出典:各種公開情報をもとにgreenote作成
電力の小売全面自由化以降、新電力(PPS)とはで見たとおり数百社の登録小売電気事業者が競争しており、調達の選択肢は大きく広がりました。しかし選択肢が多いということは、それだけ比較の目が求められるということでもあります。
調達先を選ぶ軸は、大きく価格・環境価値・信用力・BCP(事業継続計画)の4つに整理できます。どれか一つだけを見て決めるのではなく、この4つを自社の優先順位に沿ってバランスよく評価することが、後悔のない調達につながります。以下、それぞれの軸を順に見ていきましょう。
比較軸①価格――単価だけでなく変動リスクで比べる
価格は最も分かりやすい比較軸ですが、単価の安さだけを見ると落とし穴があります。
価格で見るべき3つのポイント
目先の単価だけでなく、価格が高騰したときの負担まで見て比較する。
出典:各種公開情報をもとにgreenote作成
基本料金・電力量料金の単価
まず確認するのは、電気料金の構成とはで解説した基本料金と電力量料金の単価です。基本料金は使用量に関係なくかかる固定費、電力量料金は使った分だけかかる従量部分です。自社の契約電力と過去12か月の使用量を踏まえて、各社の単価を比較します。
ただし、再エネ賦課金は全国一律で事業者による差はないため、比較の対象になるのは基本料金と電力量料金の単価です。この時点では、単純な単価比較で十分に見えます。
燃料費調整の上限と市場連動の有無
しかし、価格比較で本当に重要なのは変動リスクです。電気料金の構成とはで見たとおり、燃料費調整には上限のあるプランと上限のないプランがあり、上限のないプランは燃料価格が高騰したときの負担が青天井になり得ます。
さらに、電力調達の契約形態とはで解説したように、市場連動型か固定単価型かによって、価格変動リスクを需要家と事業者のどちらが負うかが変わります。目先の単価が安くても、価格高騰時に負担が跳ね上がるプランは、トータルで割高になり得ます。単価の安さと変動リスクをセットで比較することが、価格軸の要点です。
比較軸②環境価値――再エネ比率とCO2排出係数
脱炭素経営の観点では、その電気がどれだけクリーンかも重要な比較軸になります。
排出係数の低い電力を選べばScope2が減る
(環境省・経産省が毎年公表)
(購入電力由来のCO2)
電源構成の開示は指針で「望ましい行為」とされ、開示の有無も比較材料になる。
出典:環境省 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度をもとにgreenote作成
電源構成の開示は「望ましい行為」
その電気がどのような電源(火力・水力・再エネ・原子力など)から調達されているかを示すのが電源構成です。資源エネルギー庁・経済産業省の「電力の小売営業に関する指針」では、小売電気事業者が電源構成やCO2排出係数を開示することを扱っていますが、これは法的義務ではなく「望ましい行為(推奨事項)」として位置づけられています。
そのため、開示している事業者と開示していない事業者が混在します。裏を返せば、開示の有無そのものが、事業者の透明性を測る比較材料になります。電源構成を開示している事業者であれば、再エネ比率を確認して各社を比較できます。
CO2排出係数はScope2排出量に直結する
環境価値の比較で決定的に重要なのがCO2排出係数です。環境省の温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)に基づき、電気事業者別のCO2排出係数(基礎排出係数と調整後排出係数の2種類)が、環境大臣・経済産業大臣によって毎年度公表されています。
企業が自社の温室効果ガス排出量のうち、購入電力由来の排出(Scope2)を算定する際に、契約している電力会社の排出係数を使います。つまり、排出係数の低い(再エネ比率の高い)事業者や、実質再エネ100%メニューを選べば、Scope2排出量を直接削減できるわけです。脱炭素目標を掲げる企業にとって、調達先の排出係数は価格と並ぶ重要な選定基準です。再エネメニューやトラッキング付き非化石証書の活用は、次回のRE100達成のための調達戦略で詳しく解説します。
比較軸③信用力――事業継続性を見極める
前回見たように、調達先の経営リスクは調達する側のリスクでもあります。信用力の見極め方を整理します。
新電力の経営リスクと事業撤退問題とはで解説したとおり、2022年には多くの新電力が市場高騰の影響で撤退・倒産しました。調達先が事業を続けられなくなれば、調達する側も次の調達先を探す負担を負います。だからこそ、選定時に信用力・事業継続性を確認することが欠かせません。
具体的な確認ポイントは、直近の財務基盤、設立年数や供給実績、親会社・資本背景(大手電力・金融・不動産・通信系など資本力のある母体か)、そして自社電源の有無です。特に、仕入れ体制を伴わずに安価な料金で急拡大している事業者は、市場価格が高騰したときのリスクが相対的に高いとされます。安さの裏にある調達構造まで見ることが、信用力評価の要点です。「安さ」と「事業を続けられる力」は必ずしも両立しないという視点を持っておきましょう。
比較軸④BCP――供給の安定性とリスク分散
電力は事業の生命線です。万一に備えるBCP(事業継続計画)の観点も欠かせません。
信用力とBCPで見るべき視点
③ 信用力(事業継続性)
財務基盤・直近決算
設立年数・供給実績
親会社・資本背景
自社電源の有無
④ BCP(供給の安定性)
災害・停電時の対応
供給停止時の予告条件
複数調達によるリスク分散
最終保障供給という受け皿の理解
安さだけでなく、続けられる力と止まらない備えを確認する。
出典:内閣府事業継続ガイドライン等をもとにgreenote作成
BCPの観点では、電力供給の安定性が中核になります。実務上のチェックポイントは、災害・停電時の対応、契約条件(供給停止時の予告条件)、そして複数の事業者からの調達によるリスク分散です。内閣府の事業継続ガイドラインや中小企業庁のBCP資料も、供給の安定性を事業継続の要素として位置づけています。
一社に全量を依存すると、その事業者が撤退したときの影響が大きくなります。複数事業者への分割調達や、大手電力との併用は、こうしたリスクを分散する有効な手段です。加えて、新電力の経営リスクと事業撤退問題とはで解説した最終保障供給という受け皿があることを理解しておけば、万一調達先が撤退しても電気が止まらないという前提で、冷静に備えられます。
比較を効率化する方法と総合的な判断
4つの軸を一社ずつ調べるのは負担が大きいものです。効率化の方法と、最終的な判断の考え方を整理します。
自社の優先順位で軸に重みをつける
コスト重視の企業
価格の比重を大きく
脱炭素目標のある企業
環境価値(再エネ・排出係数)の比重を大きく
供給安定を最優先する企業
信用力・BCPの比重を大きく
4つの軸は共通だが、どれを重視するかは企業ごとに異なる。
出典:各種公開情報をもとにgreenote作成
法人向けの電力比較・切替支援サービス
4つの軸で複数の事業者を一社ずつ比較するのは、担当者にとって大きな負担です。これを効率化する手段として、法人(特に高圧)向けの電力比較・切替支援サービスや一括見積もりサービスが存在します。提携する複数の電力会社から一括で見積もりを取得し、切替手続きを支援するモデルです。
こうしたサービスは、複数社の条件を横並びで比較する手間を大きく減らせます。ただし、提示される選択肢や比較軸はサービスによって異なるため、あくまで比較の出発点として活用し、最終的な判断(特に環境価値や信用力の評価)は自社の基準で行うことが望まれます。
自社の優先順位で軸に重みをつける
最終的な判断で大切なのは、4つの軸すべてで満点の事業者を探すのではなく、自社の優先順位に沿って軸に重みをつけることです。コストを最優先する企業なら価格の比重を、脱炭素目標を掲げる企業なら環境価値(再エネ比率・排出係数)の比重を、供給の安定性を最優先する企業なら信用力とBCPの比重を大きくする、といった具合です。
比較軸は共通でも、どれを重視するかは企業の事業内容や経営方針によって異なります。自社にとって何が譲れない条件かをあらかじめ整理しておくと、多数の選択肢の中でも判断がぶれにくくなります。
調達先選びを実務でどう進めるか
電力調達先の選び方は、価格・環境価値・信用力・BCPという4つの軸を、自社の優先順位に沿って総合的に比較することに尽きます。価格では単価だけでなく燃料費調整の上限や市場連動の有無といった変動リスクを、環境価値では電源構成の開示状況とCO2排出係数(Scope2に直結)を、信用力では財務基盤や調達構造を、BCPでは供給停止時の対応と複数調達によるリスク分散を確認します。
調達担当者にとっての要点は、「安さ」という一つの軸に引きずられず、複数の軸で立体的に評価することです。比較支援サービスで効率化しつつ、最終判断は自社の優先順位で行う。この進め方が、コスト・脱炭素・安定供給のバランスがとれた調達につながります。次回は本連載の最終回として、環境価値の軸をさらに深掘りし、RE100達成のための電力調達戦略を解説します。
なお本記事は、資源エネルギー庁・環境省・内閣府などの公開情報をもとに整理したものです。特定の事業者や比較サービスを推奨するものではありません。制度の詳細や各社の条件は、最新の一次情報と料金表をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 電力調達先は、結局どの基準で選べばよいのですか?
A. 価格・環境価値(再エネ比率とCO2排出係数)・信用力(事業継続性)・BCP(供給の安定性)という4つの軸で総合的に比較するのが基本です。どの軸を重視するかは企業によって異なります。コストを最優先するのか、脱炭素目標の達成を重視するのか、供給の安定性を最優先するのかを自社で整理し、それぞれの軸に重みをつけて評価すると、判断がぶれにくくなります。価格の安さだけで選ぶと、経営リスクや供給停止のリスクを見落とすおそれがあるため注意が必要です。
Q. 電力会社のCO2排出係数はどこで確認できますか?
A. 電気事業者別のCO2排出係数(基礎排出係数・調整後排出係数)は、環境省と経済産業省が共同で毎年度公表しており、環境省の温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)のウェブサイトで一覧を確認できます。企業が自社の温室効果ガス排出量のうち購入電力由来の排出(Scope2)を算定する際に、契約している電力会社の排出係数を用います。したがって、排出係数の低い事業者や実質再エネ100%メニューを選ぶことは、Scope2排出量の削減に直結します。
Q. 電源構成を開示していない電力会社は避けるべきですか?
A. 電源構成の開示は法的義務ではなく、「電力の小売営業に関する指針」で『望ましい行為』として推奨されているものです。そのため、開示していない事業者が直ちに問題というわけではありません。ただし、電源構成やCO2排出係数を開示している事業者は、再エネ比率やクリーンさを比較しやすく、脱炭素経営の観点で評価しやすいという利点があります。開示の有無そのものも、事業者の透明性を測る一つの比較材料として捉えるとよいでしょう。
→ 電気代は今後どうなる?|確定している値上げ要因と中小企業の電力調達の考え方
出典・参考(一次情報)
- 経済産業省「電力の小売営業に関する指針」
- 環境省「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度(電気事業者別排出係数)」
- 環境省「公的機関のための再生可能エネルギー調達実践ガイド」
- 内閣府「事業継続ガイドライン(令和5年3月)」
最終更新日:2026年7月8日
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サステナビリティ実務・編集統括
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