SAF(持続可能な航空燃料)とは|仕組み・製造方法と各国の義務化・日本の目標を解説

2026.07.09
脱炭素技術

2026年、英国政府が持続可能な航空燃料の生産を後押しするため、総額約2億1,900万ポンドの基金を設立すると発表しました。空の脱炭素をめぐる各国の動きが加速するなかで、その中心にあるのがSAFです。SAF(持続可能な航空燃料)とは、廃食用油などを原料に製造され、化石由来のジェット燃料を代替する燃料のことで、既存の航空機にそのまま使えるうえ、CO2排出を大幅に削減できます。本記事では、SAFの仕組みと製造方法、世界と日本の義務化・目標、そして普及に向けた課題までを、公的機関の情報をもとに整理します。

この記事の目次

SAF(持続可能な航空燃料)とは(おさらい)

まず、SAFがどのような燃料で、なぜ注目されるのか、基本から整理しましょう。

SAFとは、飛行機の脱炭素燃料

廃食用油・動植物油脂

都市ごみ・農業残渣

木質バイオマス

SAF
持続可能な
航空燃料
既存の航空機に
そのまま使える
(ドロップイン燃料)
ライフサイクルCO2を
従来比 最大約80%削減

機体やインフラの改造が不要なため、今ある航空機で脱炭素を進められる

出典:資源エネルギー庁・IATA等の公開情報をもとにgreenote作成

廃食用油などからつくる「ドロップイン燃料」

SAF(Sustainable Aviation Fuel)とは、廃食用油・動植物油脂、都市ごみ、農業残渣・木質バイオマスなどを原料に製造され、化石由来のジェット燃料を代替する航空燃料です。最大の特徴は、既存の航空機・エンジン・空港の給油インフラをそのまま使える「ドロップイン燃料」である点にあります。

つまり、水素航空機や電動航空機のように新しい機体やインフラの開発を待つ必要がなく、今ある航空機に給油するだけで脱炭素を進められるのです。現状は安全基準上、従来のジェット燃料に一定割合まで混合して使うのが一般的ですが、この「すぐ使える」性質が、SAFが航空脱炭素の即戦力と位置づけられる理由です。

ライフサイクルでCO2を最大約8割削減

SAFの環境価値は、燃やしたときのCO2だけを見るのではなく、原料の収集・生産から燃焼までのライフサイクル全体で評価されます。資源エネルギー庁やIATA(国際航空運送協会)などの資料によれば、SAFは従来の化石ジェット燃料に比べて、ライフサイクルのCO2排出を最大約80%削減できるとされます。廃食用油を原料とする場合は80%を超えるケースもあります。

これは、原料となる植物の生育段階でのCO2吸収などを差し引いて計算されるためです。ただし削減率は原料・製法・算定方法によって変わるため、実際の値は個別の確認が必要です。この「燃やしても実質的な排出増を抑えられる」点が、SAFの本質的な価値になります。

なぜ航空分野でSAFが重要なのか

SAFが航空脱炭素の中核とされるのは、航空という分野の特殊性に理由があります。

電化が難しい航空だからSAF

航空はhard-to-abate(削減困難)

バッテリーは重く長距離大型機に不向き

水素航空機は実用化に時間

エネルギー密度の高い液体燃料が当面不可欠

約65% をSAFが担う

IATA試算=2050年ネットゼロの
緩和策に占めるSAFの割合

航空業界のCO2排出は世界全体の約2〜3%。既存機に使えるSAFが即戦力。

出典:IATA・資源エネルギー庁の公開情報をもとにgreenote作成

電化が難しい「hard-to-abate」セクター

自動車の分野ではEV(電気自動車)への転換が進みますが、航空はそう簡単にはいきません。航空は、電化による脱炭素が難しい「hard-to-abate(削減困難)」セクターの代表とされます。理由は、バッテリーの重量あたりエネルギー密度がジェット燃料の数十分の1しかなく、長距離・大型機を電力で飛ばすのは現実的でないためです。

水素航空機の開発も進みますが、実用化と普及には時間がかかります。当面は、エネルギー密度の高い液体燃料が航空には不可欠です。だからこそ、既存の航空機にそのまま使えるSAFが、航空脱炭素の中核手段として期待されているのです。

2050年ネットゼロの主役という位置づけ

航空業界のCO2排出は、世界全体の約2〜3%を占めるとされます。決して小さくない排出源であり、国際的な削減が求められています。IATA(国際航空運送協会)は、2050年のネットゼロ達成に必要な緩和策のうち、SAFが約65%を担うと位置づけています。

運航効率の改善や新技術も貢献しますが、その効果には限界があります。排出削減の最も大きな担い手がSAFだという業界の見立てが、各国の政策や企業の投資を強力に後押ししています。次に、そのSAFがどうつくられるのかを見ていきましょう。

SAFはどうつくる?――4つの製造経路

SAFは原料と製法によっていくつかの技術経路に分かれます。主要な4つを整理します。

SAFの主な製造経路

HEFA 廃食用油・油脂を水素化処理/現状の主流・最も成熟(削減率約80%)
FT合成 都市ごみ・木質バイオマスをガス化して合成
ATJ アルコール(エタノール等)から合成
eSAF CO2と水素から合成する合成燃料(PtL)

現状はHEFAが供給の大半。ICAOのCORSIAで認証された経路が用いられる。

出典:ICAO CORSIA・IATAの公開情報をもとにgreenote作成

主流はHEFA(廃食用油の水素化処理)

現在、世界のSAF供給の大半を占めるのがHEFAという製造経路です。これは、廃食用油や動植物油脂を水素化処理してジェット燃料に変える方式で、商業的に最も成熟しています。原料が身近で技術も確立しているため、まず立ち上がったのがこのHEFAです。CO2削減率も約80%と高く、当面のSAF供給の主役といえます。

一方で、後述するとおり原料の廃食用油には供給量の限界があり、HEFAだけで需要をまかなうことはできません。そこで、他の原料・製法を使う経路の開発も並行して進んでいます。

FT合成・ATJ・eSAF(合成燃料)

HEFA以外の主な経路は3つあります。1つ目はガス化・FT合成で、都市ごみや木質バイオマスをいったんガス化し、フィッシャー・トロプシュ法で合成する方式です。廃食用油以外の多様な原料を使えるのが強みです。2つ目はATJ(アルコール・トゥ・ジェット)で、エタノールなどのアルコールから合成します。

3つ目が、合成燃料(e-fuel)とはで解説した技術を航空燃料に応用したeSAF(PtL)です。回収したCO2と再生可能エネルギー由来の水素から合成するもので、原料制約が小さく将来性が期待されますが、製造コストは現状で最も高い部類です。これらの経路は、国際民間航空機関(ICAO)のCORSIAで認証されたものが用いられます。

世界で進むSAFの義務化と目標

SAFの普及は、各国・国際機関の義務化や目標によって強力に後押しされています。

世界で進むSAFの義務化・目標

EUReFuelEU航空・義務2025年2% → 2030年6% → 2050年70%
英国義務2025年2% → 2030年10% → 2040年22%
米国グランドチャレンジ・目標2030年に年間30億ガロン
日本目標2030年に本邦エアライン燃料の10%

EUと英国は法的な混合義務、米国と日本は供給目標。ICAO CORSIAでもSAF利用が認められる。

出典:欧州委員会・英国政府・米DOE・資源エネルギー庁の公開情報をもとにgreenote作成

EUのReFuelEU航空と英国のSAF義務

SAF普及を最も強く牽引しているのがヨーロッパです。EUの「ReFuelEU Aviation」は法的拘束力を持つ規則で、EU域内の空港で供給される航空燃料へのSAF混合を義務づけています。混合比率は2025年の2%から、2030年6%、2040年34%、2050年70%へと段階的に引き上げられます。うち合成燃料(e-SAF)には2030年1.2%から2050年35%という別枠のサブ目標も設けられています。

英国も足並みをそろえ、英国政府は2025年1月にSAF義務を施行しました。2025年2%、2030年10%、2040年22%という比率です。冒頭で触れた約2億1,900万ポンドの基金も、この義務達成に向けて国内のSAF生産を後押しするものです。義務化という「需要の確約」が、供給側の投資を呼び込む構図です。

米国のグランドチャレンジとICAO CORSIA

米国は、義務化ではなく供給目標というアプローチをとっています。「SAFグランドチャレンジ」として、2030年に年間30億ガロン、2050年に350億ガロン(国内需要の100%)の供給を目標に掲げ、税額控除などで生産を支援しています。

そして国際的な枠組みとして、国際民間航空機関(ICAO)のCORSIA(国際航空のカーボンオフセット・削減スキーム)があります。これは国際線の排出増分をオフセットさせる仕組みですが、認証されたSAFの利用も排出削減として認められます。こうした国際・各国の制度が重層的に、SAFの需要を生み出しています。

日本の目標と国産SAFの動き

日本も2030年に向けた目標を掲げ、国産SAFの製造が動き始めています。

日本の目標と国産SAF

2030年目標=本邦エアライン燃料使用量の10%国内ジェット燃料の約172万kL相当をSAFに置き換え

動き出した国産SAF

SAFFAIRE SKY ENERGY廃食用油100%・年約3万kL・2024年完工・2025年度供給開始(日本初の国産SAFサプライチェーン)
ENEOS和歌山・約40万kL/年を計画
出光興産山口・約25万kL/年を計画

供給構造高度化法に基づく供給義務も検討中。GX・カーボンニュートラル2050の一環。

出典:資源エネルギー庁・国土交通省・各社公表情報をもとにgreenote作成

2030年に燃料使用量の10%をSAFに

日本は、GXの基本方針やSAF官民協議会のもとで、2030年に本邦エアラインの燃料使用量の10%をSAFに置き換えるという目標を掲げています。これは国内ジェット燃料使用量の約172万kL相当にあたります。さらに、資源エネルギー庁によれば、エネルギー供給構造高度化法に基づき、燃料供給事業者にSAFの供給義務を課す方向でも検討が進んでいます。

これは、カーボンニュートラルとはで解説した2050年目標とGX(グリーントランスフォーメーション)の一環に位置づけられます。目標達成には、国産SAFの安定供給体制を築けるかが鍵になります。

動き出した国産SAFの製造

国内では、国産SAFの製造が具体的に動き始めています。コスモ石油・日揮ホールディングス・レボインターナショナルが設立したSAFFAIRE SKY ENERGYは、廃食用油を100%原料とする年間約3万kL規模の製造設備をコスモ石油堺製油所内に建設し、2024年12月に完工、2025年度から日本の航空会社への国産SAF供給を開始しました。これは日本初の国産SAFサプライチェーンとされます。

加えて、ENEOS(和歌山、約40万kL/年)や出光興産(山口、約25万kL/年)などが、より大規模な製造を計画しています。ただしこれらは計画段階のものも含むため、今後の進捗を見ていく必要があります。国産SAFの立ち上がりは、エネルギー安全保障の観点からも注目されています。

SAF普及に向けた課題

期待の大きいSAFですが、本格普及には超えるべき課題も残っています。

SAF普及に向けた3つの課題

1
価格製造コストが高く、従来ジェット燃料の2倍〜十数倍とされる
2
原料の制約主流のHEFAの原料である廃食用油は供給量に限りがあり、供給が需要に追いつかない
3
持続可能性食料生産との競合や間接的土地利用変化(ILUC)を招かないかが論点

世界のSAF供給はジェット燃料全体のごく一部。コスト低減と原料多様化が普及の鍵

出典:資源エネルギー庁・JOGMEC等の公開情報をもとにgreenote作成

SAFの本格普及を阻む最大の課題は、価格です。SAFは製造コストが高く、従来のジェット燃料の2倍から十数倍とされます。この価格差をどう埋めるかが、普及の最大の焦点です。各国の義務化や基金による支援は、この価格差を乗り越えるための後押しでもあります。

第二に、原料の制約です。現在主流のHEFA方式の原料である廃食用油は供給量に限りがあり、世界の製造能力・供給量も需要に追いついていません。現状、世界のSAF供給はジェット燃料全体のごく一部にとどまります。だからこそ、FT合成やeSAFといった原料制約の小さい経路の開発が急がれています。第三に、原料調達の持続可能性です。原料が食料生産と競合しないか、間接的土地利用変化(ILUC)を招かないかといった点も、SAFの環境価値を左右する重要な論点になっています。

SAFをどう捉えるか

SAFは、廃食用油などを原料に製造され、既存の航空機にそのまま使えるドロップイン燃料で、ライフサイクルでCO2を従来比最大約80%削減できます。電化が難しい航空という分野で、SAFは2050年ネットゼロの主役と位置づけられています。製造はHEFAが主流で、FT合成・ATJ・eSAFといった経路の開発も進みます。EUのReFuelEU航空や英国のSAF義務、米国のグランドチャレンジ、そして日本の2030年10%目標と、世界的に普及が後押しされています。

一方で、価格の高さ・原料の制約・持続可能性という課題が残ります。SAFは「今すぐ使える即戦力」でありながら、本格普及には量産によるコスト低減と原料の多様化が欠かせません。冒頭の英国の基金のように、各国が生産支援に乗り出しているのは、この課題を政策で乗り越えようとする動きです。企業のESG・脱炭素の観点でも、出張などに伴う航空の排出をどう扱うかは今後の論点であり、SAFの動向は引き続き注視すべきテーマだといえます。

なお本記事は、資源エネルギー庁・国土交通省・欧州委員会・IATA・ICAO・英国政府などの公開情報をもとに整理したものです。各国の目標値や国内の製造計画は変更・変動があり、企業の製造計画には計画段階のものも含まれます。特定の企業・技術・投資を推奨するものではありません。最新の状況は一次情報をご確認ください。

よくある質問(FAQ)

Q. SAFを使うと、飛行機を改造する必要がありますか?

A. いいえ、原則として改造は不要です。SAFは既存のジェット燃料と混ぜてそのまま使える「ドロップイン燃料」で、航空機・エンジン・空港の給油インフラをそのまま利用できます。これがSAFの最大の利点で、水素航空機や電動航空機のように新しい機体やインフラの開発を待たずに、今ある航空機で脱炭素を進められます。ただし現状は安全基準上、従来のジェット燃料に一定割合まで混合して使うのが一般的です。

Q. SAFはどのくらいCO2を減らせるのですか?

A. 原料や製造方法によりますが、収集・生産から燃焼までのライフサイクル全体で、従来の化石ジェット燃料に比べてCO2排出を最大約80%削減できるとされています。廃食用油を原料とする場合は80%を超えるケースもあります。これは、原料となる植物の生育段階でのCO2吸収などを差し引いて計算されるためです。ただし削減率は原料や製法、算定方法によって変わるため、実際の値は個別に確認する必要があります。

Q. SAFの普及にはどんな課題がありますか?

A. 最大の課題は価格です。SAFは製造コストが高く、従来のジェット燃料の2倍から十数倍とされます。また、現在主流のHEFA方式の原料である廃食用油は供給量に限りがあり、世界の製造能力・供給量も需要に追いついていません(世界のSAF供給はジェット燃料全体のごく一部にとどまります)。さらに、原料が食料生産と競合しないか、間接的土地利用変化(ILUC)を招かないかといった、原料調達の持続可能性も論点になっています。

出典・参考(一次情報)

最終更新日:2026年7月9日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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