工場やオフィスビルの電気料金明細を見て、「基本料金」がなぜこの金額なのか、すぐに説明できる調達担当者は多くありません。家庭の電気契約と違い、中規模以上の事業者が結ぶ高圧・特別高圧の需要契約では、契約電力が使用実績から自動的に決まる独特の仕組みが使われています。その鍵を握るのが「デマンド」という考え方です。本記事では、電圧区分の基礎から、契約電力を決める実量制、基本料金と力率割引の仕組み、そして基本料金とCO2の両方を減らすデマンド管理の実務までを、公的機関や一般送配電事業者の情報をもとに整理します。
≡この記事の目次
- 1低圧・高圧・特別高圧の区分とは(おさらい)
- ►電圧区分は電技省令で定められている
- ►施設の規模で決まる高圧・特別高圧の目安
- 2契約電力の決め方――実量制(デマンド制)
- ►500kW未満は過去1年間の最大需要電力で決まる
- ►500kW以上は協議で決める
- 3最大需要電力(デマンド)とは何か
- ►30分ごとの平均電力で計測される
- ►一度のピークが1年間の基本料金を左右する
- 4基本料金と力率割引――請求書の構成を読み解く
- ►基本料金+電力量料金+再エネ賦課金という構成
- ►基準力率85%と力率割引の仕組み
- 5デマンド管理の実務――ピークカットとピークシフト
- ►デマンドコントローラーによる監視と制御
- ►ピークカットとピークシフトの違い
- 6調達担当者がデマンド管理で押さえておきたいこと
- 7出典・参考(一次情報)
低圧・高圧・特別高圧の区分とは(おさらい)
まず、事業者の電力契約が電圧によってどう区分されるのか、基準となる数値から整理しましょう。
電圧の3区分と施設の目安
| 低圧 | 交流600V以下 | 家庭・小規模店舗 |
| 高圧 | 600V超〜7,000V以下 | 中規模のビル・工場・学校・病院 |
| 特別高圧 | 7,000V超 | 大規模工場・大型商業施設 |
代表的な高圧の配電電圧は6,600V。区分は電技省令で定められている。
出典:電気設備技術基準(電技省令)をもとにgreenote作成
電圧区分は電技省令で定められている
電気の電圧区分は、電気設備に関する技術基準を定める省令(電技省令)に基づいて定められています。交流の場合、低圧は600V以下、高圧は600Vを超え7,000V以下、特別高圧は7,000Vを超えるものです。日本の高圧配電で代表的な電圧は6,600Vで、多くの中規模施設がこの電圧で受電しています。
なお直流では低圧の上限が750Vとなりますが、高圧の上限は交流・直流とも7,000Vで共通です。数値の境界は正確に押さえておきたいポイントです。
施設の規模で決まる高圧・特別高圧の目安
どの区分になるかは、施設で使う電力の規模でおおむね決まります。家庭や小規模店舗は低圧、中規模のオフィスビル・工場・学校・病院・マンションは高圧、大規模工場や大型商業施設など大量に電力を使う施設は特別高圧が一般的です。
事業者の電力調達で主に問題になるのは、この高圧と特別高圧の契約です。契約電力が大きくなるほど、後述するデマンドの管理が電気料金に与える影響も大きくなります。自社の施設がどの区分に該当するかは、電気料金明細や受電設備の仕様で確認できます。
契約電力の決め方――実量制(デマンド制)
高圧の契約電力は、申込みで自由に決めるのではなく、実際の使用実績から自動的に決まります。
契約電力は過去1年間の最大値で決まる
高圧500kW未満は実量制(デマンド制)で契約電力が自動的に決まる。
出典:一般送配電事業者・小売事業者の公開情報をもとにgreenote作成
500kW未満は過去1年間の最大需要電力で決まる
高圧の契約電力500kW未満では、原則として「実量制(デマンド制)」が使われます。出光興産の解説などによれば、実量制では当月を含む直近12か月(当月+前11か月)の最大需要電力のうち、最も大きい値がその時点の契約電力になります。
つまり、契約電力は申込みで任意に決めるものではなく、実際にどれだけ電気を使ったかという実績から自動的に決まるのが特徴です。家庭の低圧契約のように「◯◯アンペアで契約する」という感覚とは根本的に異なります。
500kW以上は協議で決める
一方、契約電力が500kW以上(高圧大口・特別高圧)の場合は「協議制」になります。中小企業向けの省エネ情報(J-Net21)によれば、直近の使用実績や負荷設備の容量を加味して、電力会社と需要家の協議によって契約電力を決定します。
大規模な施設では、需要のパターンや設備の増減を踏まえて契約電力を取り決めるため、実量制のように自動では決まりません。いずれの場合も、電力をどれだけ使うかの見通しが契約の土台になる点は共通しています。
最大需要電力(デマンド)とは何か
契約電力の鍵を握る「デマンド」という考え方を、計測の仕組みから理解しましょう。
デマンドは30分ごとの平均電力
30分ごとに区切り
平均電力(kW)を算出
大きかった30分デマンド値
=月間最大需要電力
契約電力=基本料金
に反映
一度の大きなピークが最大12か月間の基本料金を左右する。
出典:一般送配電事業者・小売事業者の公開情報をもとにgreenote作成
30分ごとの平均電力で計測される
デマンド(最大需要電力)は、瞬間的な電力の大きさではなく、30分間の平均使用電力(kW)で計測されます。記録型の計量器が、毎正時0~30分・30~60分という30分単位で使用電力量を集計し、その平均を「30分デマンド値」として記録します。
そして、その月で最も大きかった30分デマンド値が、その月の「最大需要電力」になります。瞬間的にピークを迎えても、それが30分間続かなければデマンド値としては小さくなる一方、30分にわたって高い電力を使い続けると大きなデマンド値として記録される、という点が実務上の重要な性質です。
一度のピークが1年間の基本料金を左右する
実量制では、この月間最大デマンドが向こう1年間の契約電力に反映されます。東京電力エナジーパートナーの契約電力の決定方法でも、当月を含む過去1年間の最大需要電力が契約電力になると説明されています。
これが意味するのは、ある月に一度でも大きなデマンドを記録すると、その値が最大12か月間、基本料金に効き続けるということです。真夏や真冬に空調がフル稼働し、たまたま短時間だけ大きな需要が発生しただけでも、その後1年間の基本料金が上がってしまいます。デマンド管理が重要になる理由は、まさにここにあります。
基本料金と力率割引――請求書の構成を読み解く
高圧の電気料金がどう積み上がるのか、そして意外と知られていない力率割引の仕組みを解説します。
高圧電気料金の構成
契約電力×単価×力率係数
使用量×単価
力率=有効電力 ÷ 皮相電力
基準力率85%を1%上回るごとに基本料金1%割引/下回るごとに1%割増
基本料金は契約電力(デマンド)で決まる。力率改善で基本料金を下げられる。
出典:一般送配電事業者・小売事業者の約款をもとにgreenote作成
基本料金+電力量料金+再エネ賦課金という構成
高圧の電気料金は、大きく分けて「基本料金+電力量料金+再エネ賦課金(±燃料費調整額)」で構成されます。このうち基本料金は「基本料金単価×契約電力×力率割引・割増係数」で計算され、電力量料金は「使用量(kWh)×単価」で決まります。
ここで重要なのは、基本料金が契約電力=デマンドで決まる点です。使用量(kWh)をいくら節約しても電力量料金しか下がりませんが、ピーク(デマンド)を抑えれば基本料金そのものを下げられるため、削減インパクトが大きくなります。なお再エネ賦課金や燃料費調整の考え方は、本連載の次回「電気料金の構成」で詳しく解説します。
基準力率85%と力率割引の仕組み
高圧の電気料金には、多くの担当者が見落としがちな「力率割引」という制度があります。丸紅新電力の解説などによれば、力率とは有効電力÷皮相電力で、電気をどれだけ有効に使えているかを示す割合です。
高圧・特別高圧では、基準力率85%を基準に、85%を上回る1%ごとに基本料金を1%割引、下回る1%ごとに1%割増します。計算式は多くの約款で基本料金=単価×契約電力×(185-力率)÷100とされています。たとえば力率を100%まで改善すれば、基準の85%と比べて基本料金が約15%割引される計算です。力率の改善には進相コンデンサの設置などが用いられ、比較的取り組みやすい基本料金削減策として知られています。
デマンド管理の実務――ピークカットとピークシフト
デマンドを抑えることは、基本料金の削減とCO2削減の両方につながります。その実務手法を見ていきます。
ピークカットとピークシフト
ピークカット
ピーク時の使用量そのものを減らす
ピークシフト
使用する時間帯を負荷の少ない時間へ移す
デマンドコントローラーで最大需要電力を監視し、閾値接近で空調等を制御する。
出典:各種公開情報をもとにgreenote作成
デマンドコントローラーによる監視と制御
デマンド管理の中心となるのが、デマンドコントローラー(デマンド監視・制御装置)です。この装置は目標とするデマンド値を超えないよう最大需要電力を常時監視し、超過が予測されると管理者に警報を出したり、空調や照明などの機器を自動制御したりします。
近年は、ビル全体のエネルギーを管理するBEMS(Building Energy Management System)や、工場向けのFEMS(Factory Energy Management System)といった、より広範なエネルギー管理システムに組み込まれる形も増えています。電力の見える化とデマンド制御を組み合わせることで、一般に基本料金の5〜10%程度の削減が期待できるとされています。
ピークカットとピークシフトの違い
デマンドを抑える手法は、大きく「ピークカット」と「ピークシフト」に分けられます。ピークカットは、ピーク時の使用量そのものを減らす手法です。空調の設定温度の調整や、稼働機器の一時停止などで、需要の山の頂上を削ります。
一方のピークシフトは、電力を使う時間帯そのものを、負荷の少ない時間へ移す手法です。生産設備の稼働時間を昼間のピークから夜間へずらす、蓄電池に安い時間帯の電気をためて昼間に使う、といった方法があります。いずれも基本料金の削減と同時に、ピーク時の電力需要を抑えることでCO2削減にも寄与する点が、ESGの観点からも重要です。デマンドの抑制は、コストと環境負荷を同時に下げる数少ない打ち手といえます。
調達担当者がデマンド管理で押さえておきたいこと
高圧・特別高圧の需要契約は、家庭の電力契約とは根本的に異なり、契約電力が実際の使用実績(デマンド)から自動的に決まる実量制が基本です。500kW未満は直近12か月の最大需要電力で、500kW以上は協議で契約電力が決まります。デマンドは30分ごとの平均電力で計測され、一度大きなピークを記録すると最大12か月間、基本料金に影響し続けます。
調達担当者にとっての要点は、「使用量(kWh)の節約」と「デマンド(kW)の抑制」は別物であり、基本料金を下げるにはデマンド管理が欠かせないということです。加えて、力率割引という見落とされがちな制度を活用すれば、進相コンデンサの設置などで基本料金をさらに下げられます。ピークカット・ピークシフトによるデマンド管理は、電気料金の削減とCO2削減を同時に実現する、調達とサステナビリティの接点にある取り組みです。次回は、この料金を構成する燃料費調整額と再エネ賦課金の中身を詳しく見ていきます。
なお本記事は、経済産業省・一般送配電事業者・小売電気事業者などの公開情報をもとに整理したものです。契約電力の区分(500kWの境界)や力率割引の詳細、賦課金・燃料費調整の単価は年度や供給エリア、事業者によって異なるため、実際の契約にあたっては最新の約款・料金表をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 契約電力は自由に低く設定できないのですか?
A. 高圧500kW未満の場合、契約電力は申込みで自由に設定するものではなく、「実量制(デマンド制)」によって実際の使用実績から自動的に決まります。具体的には、当月を含む直近12か月の最大需要電力(30分デマンドの最大値)が契約電力になります。そのため、契約電力を下げたい場合は、実際のピーク電力(デマンド)を抑えることが必要になります。なお、契約電力500kW以上は電力会社との協議で決める協議制です。
Q. 一度大きなデマンドを出すと、どのくらい影響がありますか?
A. 実量制では、当月を含む直近12か月のうち最も大きかった30分デマンド値が契約電力になります。そのため、ある月に一度でも大きなデマンドを記録すると、その値が向こう最大12か月間の契約電力(=基本料金)に反映され続けます。真夏や真冬の空調ピークなど、短時間の大きな需要が1年間の基本料金を左右するため、ピークの発生を予測して抑えるデマンド管理が重要になります。
Q. 力率を改善すると、どのくらい電気料金が変わりますか?
A. 高圧・特別高圧では、基準力率85%を基準に、力率が1%良くなるごとに基本料金が1%割引され、1%悪くなるごとに1%割増されます。たとえば力率を100%まで改善すると、基準の85%と比べて基本料金が約15%割引される計算です(基本料金=単価×契約電力×(185-力率)÷100)。力率の改善には進相コンデンサの設置などが用いられます。ただし割引率の詳細は契約する一般送配電事業者・小売事業者の約款によるため、最新の料金表をご確認ください。
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出典・参考(一次情報)
- 経済産業省「電気設備に関する技術基準を定める省令」
- 中小企業基盤整備機構 J-Net21「契約電力の決め方(省エネQ&A)」
- 東京電力エナジーパートナー「契約電力の決定方法」
- 丸紅新電力「力率割引とは」
最終更新日:2026年7月8日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。