「脱炭素を進めるほど、特定の国への依存が深まる」——サステナビリティ(ESG)と経済安全保障は、いま同じテーブルで語られるようになっています。EVや蓄電池、風力・太陽光に欠かせないリチウムやレアアースといった重要鉱物の供給が、地政学リスクと結びついているからです。
この記事では、経済安全保障とサステナビリティがなぜ交わるのか、日本の経済安全保障推進法やEUの重要原材料法といった枠組み、そして両立の論点と企業がとるべき対応を、わかりやすく整理します。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。制度・数値・国際情勢は時点により変わります。最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の投資を推奨するものではありません。
この記事の目次
経済安全保障とサステナビリティの関係とは|なぜ今、交わるのか
経済安全保障とは
経済安全保障とは、経済的な手段による国の安全への脅威に備え、重要な物資や技術、インフラを守る考え方です。半導体や医薬品、エネルギー、重要鉱物などが特定の国に偏って供給されていると、供給の停止や輸出規制が「武器」として使われかねません。こうしたリスクを減らし、経済の自律性と強靱性を高めることが目的とされます。
ESGに「経済安全保障」が組み込まれる流れ
従来のサステナビリティ(ESG)は、脱炭素や人権を軸に「地球や社会にとって良いか」を問うものでした。近年は、地政学的な緊張の高まりを背景に、ここに経済安全保障の視点が加わりつつあると指摘されています。サプライチェーンの強靱性や重要物資の安定確保が、企業の持続可能性そのものを左右する——という認識です。脱炭素(E)とサプライチェーン・人権(S)と経営の統治(G)が、安全保障というレンズで結び直されつつあります。
脱炭素が生む新たな依存|重要鉱物とサプライチェーン
脱炭素に不可欠な重要鉱物
脱炭素の技術は、実は「鉱物集約的」です。EVや蓄電池にはリチウム・コバルト・ニッケル・黒鉛が、風力発電やモーターの磁石にはレアアース(希土類)が欠かせません。国際エネルギー機関(IEA)などは、クリーンエネルギーへの移行が進むほど、これらの重要鉱物の需要が大きく増えていくと指摘しています。
供給の「偏り」という弱点
問題は、これらの鉱物の採掘や精錬(加工)が、一部の国に大きく偏っていることです。とくに精錬工程は特定国への集中が著しいとされ、供給網の一点に依存する状態は、価格の乱高下や輸出規制に対してもろくなります。「脱炭素を急ぐほど、新たな依存が生まれる」——ここに、サステナビリティと経済安全保障が交わる核心があります。
日本の枠組み|経済安全保障推進法
4本柱と特定重要物資
日本では、2022年に成立した経済安全保障推進法が中心的な枠組みです。大きく4つの柱——①重要物資の安定的な供給の確保(サプライチェーンの強靱化)、②基幹インフラの安全確保、③先端重要技術の官民協力、④特許出願の非公開——から成ります。
このうちサプライチェーン強靱化では、半導体・蓄電池・重要鉱物などが「特定重要物資」に指定され、備蓄や国内生産、調達先の多様化への支援が講じられています。脱炭素に必要な素材の多くが、この枠組みの対象と重なっています。
GX(脱炭素)政策との一体化
日本の脱炭素戦略であるGX2040ビジョンでも、エネルギーや産業立地とあわせて経済安全保障が重視されています。再エネや蓄電池のサプライチェーンを国内・同志国で確保することは、脱炭素と経済安保の「一石二鳥」を狙う動きといえます。グリーンスチールやバッテリーリサイクル(都市鉱山)も、その文脈で位置づけられます。
世界の動き|EU重要原材料法と同志国連携
EU重要原材料法(CRMA)
EUは2024年に重要原材料法(CRMA)を発効させたとされます。域内での採掘・加工・リサイクル能力の強化、調達先の多様化、市場監視、循環・持続可能性の向上を柱に、2030年に向けた目標(ベンチマーク)を掲げていると報じられています。特定の第三国への過度な依存を避けることが、明確な狙いとされます。
EUはあわせて、CBAM(炭素国境調整措置)、EUDR(森林破壊防止規則)、CSDDD(サステナビリティDD指令)など、環境・人権・供給網を横断する規制を整えており、経済安全保障とサステナビリティが一体で語られる典型例となっています。
日米欧など同志国の連携
特定国への依存を減らすため、価値観を共有する国々(同志国)で供給網を築く動きも進んでいます。2026年には、日米欧を中心とした重要鉱物のサプライチェーン強靱性に関する連携枠組みが立ち上がったと報じられました。「フレンド・ショアリング(友好国での調達)」と呼ばれる考え方が、代替供給網づくりの軸になっています。
緊張と補完|サステナビリティと両立できるのか
経済安全保障とサステナビリティは、補完し合う面と、緊張する面の両方があります。論点を整理すると、次のように見えてきます。
| 論点 | 補完する面/緊張する面 |
|---|---|
| 資源循環 | リサイクル(都市鉱山)は、脱炭素にも供給の安定にも効く=補完的。 |
| 人権・環境DD | 鉱物の採掘現場の人権・環境配慮は、両者に共通する要請。 |
| 調達コスト | 国内回帰・同志国調達は安全だが、コスト増・脱炭素の遅れを招く恐れ=緊張。 |
| 分断リスク | 過度な囲い込みは、世界全体の脱炭素の効率を下げる懸念も指摘される。 |
鉱物の採掘は、環境破壊や労働問題と隣り合わせでもあります。安全保障を理由に調達を急ぐあまり、人権・環境への配慮がおろそかになれば、それはサプライチェーン・デューデリジェンスや公正な移行の観点から問われます。安全保障と持続可能性は、どちらか一方ではなく、両立させる設計が求められています。
企業がとるべき対応
個々の制度は動いている最中ですが、企業として進めておくと有効な準備は共通しています。
- サプライチェーンの可視化:自社の製品が、どの鉱物・部材を、どの国・企業に依存しているかを把握する(Scope3算定とも重なる)。
- 調達先の多様化と代替:単一国・単一企業への依存を減らし、代替材料や複数調達を検討する。
- 資源循環の組み込み:リサイクル材の活用や設計段階での回収しやすさ(サーキュラー設計)を進める。
- 人権・環境DDの徹底:調達先の人権・環境リスクを確認し、規制と評価の両面に備える。
- 開示と対話:地政学リスクや重要鉱物への依存を、投資家にわかりやすく説明できるよう整える。
まとめ
経済安全保障とサステナビリティは、いまや切り離せないテーマになりました。要点は次のとおりです。
- 脱炭素は重要鉱物に依存し、その供給は特定国に偏っている。
- 日本は経済安全保障推進法、EUは重要原材料法(CRMA)で、供給網の強靱化を進める。
- 同志国連携(フレンド・ショアリング)で、代替供給網づくりが加速している。
- 安全保障と持続可能性は、資源循環・人権配慮で補完し合う一方、コストや分断で緊張する。
- 企業は可視化・多様化・循環・DD・開示を軸に、両立の備えを進めることが有効。
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出典・参考資料(一次情報)
リンク先は2026年時点で確認した各機関の公開情報です。制度・数値は更新されるため、最新は各公式情報をご確認ください。
日本(内閣府・経産省): 内閣府|経済安全保障/ 内閣府|サプライチェーン強靱化(重要物資の安定供給)/ 経済産業省|経済安全保障
EU・国際機関: European Commission|Critical Raw Materials Act/ IEA|Critical Minerals
よくある質問(FAQ)
Q. 経済安全保障とサステナビリティはなぜ関係するのですか?
A. 脱炭素に不可欠な重要鉱物(リチウム・コバルト・レアアース等)の供給が特定の国に偏っているためです。脱炭素(サステナビリティ)を進めるほど新たな依存が生まれるため、供給網の強靱化という経済安全保障の課題と交わります。
Q. 経済安全保障推進法とは何ですか?
A. 2022年に成立した日本の法律で、①重要物資の安定供給(サプライチェーン強靱化)、②基幹インフラの安全確保、③先端重要技術の官民協力、④特許出願の非公開、の4本柱から成ります。半導体・蓄電池・重要鉱物などが特定重要物資に指定されています。
Q. 企業はまず何から始めればよいですか?
A. 自社の製品がどの鉱物・部材を、どの国・企業に依存しているかを可視化することが出発点です。そのうえで、調達先の多様化、リサイクル材の活用、人権・環境デューデリジェンス、投資家への開示を進めることが有効とされます。
最終更新日:2026年8月27日
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