「安い料金プランを提示してくれた新電力と契約したが、その会社が突然事業から撤退してしまった」――2022年、こうした事態が全国の法人需要家を襲いました。魅力的な料金の裏側で、新電力は市場価格の変動という構造的なリスクを抱えています。新電力の経営リスクとは、多くの事業者が自社発電所を持たず市場から電気を調達しているために、市場価格が高騰すると採算が急激に悪化する「逆ざや」の構造にあります。本記事では、このリスクの正体と、2022年に撤退・倒産が急増した実態、実際の経営破綻の事例、そして電気が止まらないための最終保障供給という制度までを、公的機関や調査会社の情報をもとに整理します。
≡この記事の目次
新電力の経営リスクとは(おさらい)
まず、なぜ新電力に固有の経営リスクがあるのか、その構造から整理しましょう。
市場高騰が経営を直撃する連鎖
調達先の経営リスクは、電力を調達する企業にとってもリスクになる。
出典:各種公開情報をもとにgreenote作成
新電力とは、新電力(PPS)とはで解説したとおり、2016年の電力小売全面自由化以降に参入した登録小売電気事業者の通称です。多様な料金プランや再エネメニューを打ち出し、電力調達の選択肢を大きく広げてきました。
しかし、その事業モデルには市場価格の変動に弱いという構造的な弱点があります。調達先の新電力が経営難に陥れば、電気を調達する企業側にとっても供給の継続が不安になります。調達先の経営リスクは、調達する側のリスクでもある――この視点が、本記事の出発点です。
経営リスクの正体――市場高騰と「逆ざや」
多くの新電力が抱える経営リスクの核心は、電気の調達方法と価格の変動にあります。
1年で約6.3倍に急増
2022年3月末
31社
2023年3月
195社
登録706社の27.6%
195社の内訳
帝国データバンクの調査による。契約停止(57.4%)が最多を占める。
出典:帝国データバンク「新電力会社事業撤退動向調査」をもとにgreenote作成
自社電源を持たず市場に依存する調達構造
多くの新電力は、自社の発電所を持たず、JEPX(日本卸電力取引所)とはで解説した卸電力市場や、発電事業者との相対契約で電気を調達しています。これは身軽に事業を始められる利点がある一方、電気の仕入れ値が市場価格の変動に直接さらされることを意味します。
自社電源を持つ大手電力や一部の新電力に比べ、市場依存度の高い事業者ほど、市場価格が高騰したときの打撃が大きくなります。安価な料金を実現できていた事業者ほど、市場高騰時のダメージが深刻になりやすいという皮肉な構図があります。
固定単価で売り、高値で調達する「逆ざや」
経営を直撃する最大の要因が「逆ざや」です。需要家に固定単価で電気を売っていると、市場価格が高騰しても販売価格はすぐには上げられません。一方で、市場からの調達コストは跳ね上がります。この販売価格と調達コストの逆転が、そのまま損失になります。
電力調達の契約形態とはでも触れたとおり、2021年1月にはJEPXスポット価格が通常の約10円/kWhから一時250円/kWhまで高騰しました。この局面で、単月で数十億円規模の損失を出した新電力もあったと報じられています。2022年にも燃料価格高騰で市場価格が高止まりし、逆ざやが多くの新電力の経営を圧迫しました。
2022年に急増した撤退・倒産――件数で見る実態
市場高騰は、新電力の撤退や倒産という形で数字にも表れました。統計で実態を確認します。
市場高騰が招いた2つの経営破綻
F-Power(エフパワー)
2021年3月24日 会社更生法を申請
負債総額 約464億円
当時の新電力で過去最大規模
独立系新電力最大手・高圧特別高圧中心
ホープエナジー
2022年3月25日 破産開始決定
負債総額 約300億円
契約先の大半が自治体・公共施設
全国約5,000施設に供給
いずれも市場高騰による調達コストとインバランス負担の増大が背景。
出典:帝国データバンク・東京商工リサーチの公表情報をもとにgreenote作成
1年で契約停止・撤退・倒産が約6倍に
帝国データバンクの調査によれば、2021年度の新電力の倒産は過去最多の14件で、電力小売事業からの撤退を含めると31社でした(2022年3月末時点)。ところがその後わずか1年で状況は一変します。
2023年3月24日時点では、2021年4月までに登録された706社のうち195社(27.6%)が「契約停止・撤退・倒産・廃業」に至りました。これは前年同期の31社から約6.3倍への急増です。登録事業者の4社に1社以上が、電気を売る事業から実質的に退出した計算になります。市場高騰がいかに新電力の経営を追い込んだかを示す数字です。
「契約停止」が最多という内訳
195社の内訳を見ると、その性格が見えてきます。最も多かったのは契約停止(新規申込停止を含む)で112社(57.4%)、次いで撤退が57社、倒産・廃業が26社でした。
つまり、法的な倒産に至ったのは一部で、多くは「新規の受付を止める」「事業から手を引く」という形で市場から退出しています。調達する企業にとって重要なのは、倒産という劇的な形だけでなく、契約更新の停止や供給条件の悪化といった「静かな撤退」も起こりうるという点です。既存の契約が突然切られなくても、更新時に調達先を失うリスクは現実に存在します。
代表的な経営破綻の事例
市場高騰が事業に与えた影響を、実際に経営破綻に至った事例で確認します。
電気が止まらないための受け皿
(高圧・特別高圧)
=最終保障供給
電気事業法第17条に基づき、正当な理由なく供給を拒否できない。
出典:資源エネルギー庁・一般送配電事業者の公開情報をもとにgreenote作成
F-Power――当時最大規模の会社更生法申請
F-Power(エフパワー)は2009年設立の独立系新電力最大手で、自社発電所を持たず高圧・特別高圧を中心に電力を小売していました。帝国データバンクの倒産速報によれば、同社は2021年3月24日に東京地裁へ会社更生法の適用を申請し、負債総額は約464億円と、当時の新電力では過去最大規模の経営破綻とされました。
背景には、競合激化による売上減に加えて、2020〜2021年冬の市場高騰による調達コストとインバランス料金負担の増大があったとされます。業界最大手クラスの事業者でさえ、市場変動の前には無縁ではいられなかったことを示す事例です。
ホープエナジー――公共施設向けの破産
もう一つの象徴的な事例がホープエナジーです。同社は株式会社ホープの電力小売子会社で、契約先は全国約5,000施設に及び、その大半が自治体・公共施設でした。東京商工リサーチの分析によれば、2020年12月〜2021年1月のJEPX高騰による不足インバランスと、その後の調達価格の高値推移で逆ざやが継続し、2022年3月25日に東京地裁へ破産を申請、同日破産開始決定を受けました。負債総額は約300億円です。
この事例は、公共性の高い需要家であっても、契約先の経営破綻という事態に直面しうることを示しました。なお、こうした事例を挙げるのは特定の事業者を批判する意図ではなく、市場環境の変化が事業の継続性に与える影響を、事実として理解するためです。
最終保障供給というセーフティネット
調達先が撤退しても電気が止まらないよう、制度上の受け皿が用意されています。
調達先の経営リスクへの備え
「安さ」だけでなく「事業継続性」の視点で調達先を選ぶ。
出典:各種公開情報をもとにgreenote作成
一般送配電事業者が担う一時的な供給
最終保障供給とは、契約先の小売電気事業者が撤退・倒産などでどの事業者からも電気の供給を受けられなくなった需要家に対し、一般送配電事業者が一時的に電気を供給する制度です。電気事業法第17条で、正当な理由なく供給を拒否してはならないと規定されています。
対象は高圧・特別高圧で、低圧(家庭)は対象外です。あくまで一時的なセーフティネットで、契約期間は原則1年以内とされています。料金は、2022年8月までは標準的な料金メニューの2割増でしたが、2022年9月以降は燃料費調整額に加えて市場価格を反映する仕組みに変更され、市場高騰時には標準料金より割高になる場合があります。
2022年に利用が急増した「電力難民」
新電力の撤退・供給停止が相次いだ2022年、この最終保障供給の利用が急増しました。2022年2月までは契約件数が毎月1,000件以下で推移していましたが、2022年10月時点では約45,000件に達したとされます。行き場を失った高圧・特別高圧の需要家、いわゆる「電力難民」が大量に発生したのです。
この急増は、最終保障供給が確かにセーフティネットとして機能したことを示す一方、それだけ多くの企業が調達先の喪失に直面したことも物語っています。重要なのは、最終保障供給は割高になり得る一時的な措置であり、恒久的な調達手段ではないという点です。万一の受け皿として理解しつつ、早めに次の調達先を確保する姿勢が求められます。
調達担当者が取るべきリスク管理
新電力の経営リスクは、自社発電所を持たず市場に依存する調達構造と、固定単価で売りながら高値で調達する「逆ざや」に根ざしています。2021年1月・2022年の市場高騰でこのリスクが顕在化し、帝国データバンクの調査では2021年4月までに登録された706社のうち195社が2023年3月時点で契約停止・撤退・倒産・廃業に至りました。F-Powerの会社更生法申請やホープエナジーの破産は、その象徴的な事例です。
調達担当者にとっての要点は、「安さ」だけで調達先を選ばず、事業継続性というリスクの視点を持つことです。具体的には、調達先の調達構造(市場依存度)や財務基盤の確認、契約条件(解約・供給停止時の予告や料金改定条項)の確認、複数事業者への分割調達や大手電力との併用によるリスク分散が有効です。加えて、高圧・特別高圧であれば最終保障供給という受け皿があることを知っておけば、過度に不安になることなく備えられます。次回は、こうしたリスクも踏まえた「調達先の選び方・比較ポイント」を具体的に整理します。
なお本記事は、帝国データバンク・東京商工リサーチの調査、資源エネルギー庁・電力広域的運営推進機関などの公開情報および報道をもとに整理したものです。個別事業者の事例は、市場環境が事業に与える影響を示す目的で、公表された事実に基づいて記載しています。最新の状況や制度の詳細は一次情報をご確認ください。
あわせて読みたい:「売る側」に回る選択肢——参入の理由と始め方 → 電力小売り事業への参入とは|理由・6ステップ・留意点
よくある質問(FAQ)
Q. 契約している新電力が倒産したら、電気は止まってしまうのですか?
A. すぐに電気が止まることは基本的にありません。高圧・特別高圧の需要家であれば、契約先の小売電気事業者が撤退・倒産してどこからも供給を受けられなくなった場合に備えて、一般送配電事業者が一時的に電気を供給する「最終保障供給」という制度があります(電気事業法第17条)。ただしこれはあくまで一時的なセーフティネットで、契約期間は原則1年以内です。また、2022年9月以降は市場価格を反映する仕組みに変わり、市場高騰時には標準的な料金より割高になる場合があるため、早めに次の調達先を確保することが望まれます。
Q. なぜ2022年に新電力の撤退・倒産が急増したのですか?
A. 主な原因は、燃料価格の高騰による電力卸売市場(JEPX)の価格上昇です。多くの新電力は自社発電所を持たず市場から電気を調達しているため、市場価格が高騰すると調達コストが跳ね上がります。特に、需要家に固定単価で電気を売りながら市場から高値で調達する「逆ざや」が経営を直撃しました。帝国データバンクの調査では、2021年4月までに登録された新電力706社のうち、2023年3月時点で195社(27.6%)が契約停止・撤退・倒産・廃業に至り、前年から約6.3倍に急増しています。
Q. 調達先の新電力の経営リスクは、どう見極めればよいですか?
A. 完全に見通すことは難しいものの、いくつかの確認ポイントがあります。第一に、その事業者の調達構造(自社電源を持つか、市場依存度が高くないか)と財務基盤・資本背景です。市場依存度が高く財務基盤が脆弱な事業者ほど、市場高騰時のリスクが大きくなります。第二に、契約条件(解約や供給停止時の予告条件、料金改定条項)の確認です。第三に、複数の事業者への分割調達や大手電力との併用によるリスク分散です。加えて、万一の際に最終保障供給という受け皿があることを理解しておくと、過度に不安になることなく冷静に備えられます。
出典・参考(一次情報)
- 帝国データバンク「新電力会社事業撤退動向調査(2023年3月)」
- 帝国データバンク「F-Power 倒産速報」
- 東京商工リサーチ「ホープエナジーに関する分析記事」
- 電力・ガス取引監視等委員会「最終保障供給契約件数について」
最終更新日:2026年7月8日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。