チリの電力事情|アタカマの太陽・銅・グリーン水素を数値で解説

2026.08.14
再生可能エネルギー

最終更新日:2026年8月4日

世界で最も太陽が強い場所——チリ北部のアタカマ砂漠です。この圧倒的な自然の恵みを武器に、チリは「水力の国」から「太陽の国」へと、電力システムを急速に塗り替えています。

この記事は、世界の電力事情シリーズの国別深掘り編(チリ)です。南米の電力事情で見た南米の中でも、チリは再エネ拡大のトップランナー。太陽光の急伸、銅・鉱業との深い関係、脱石炭とグリーン水素戦略、そして日本への示唆までを、数値とともに整理します。同じ国別編のドイツの電力事情とあわせてご覧ください。

※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。

チリの電力|3つの特徴
世界最高クラスの太陽アタカマ砂漠は世界一級の日射量。太陽光発電の絶好の適地
銅と鉱業の国電力需要の多くを鉱業が占め、その脱炭素が銅の競争力を左右する
グリーン水素の未来安価な再エネを武器に、水素の「輸出国」になることを目指す

この記事の目次

チリの電力事情とは|世界の再エネフロンティア

アタカマ砂漠の太陽

チリを理解する出発点は、北部のアタカマ砂漠です。ここは世界でもっとも日射量が多い地域のひとつとされ、太陽光発電にとって理想的な条件がそろっています。晴天が多く乾燥しているため、同じ太陽光パネルでも、他国より多くの電気を生み出せます。この「自然の優位性」が、チリの電力戦略のすべての土台になっています。

3つの特徴

特徴は上図の3つです。世界最高クラスの太陽、電力を大量に使う銅・鉱業の存在、そして安い再エネを活かしたグリーン水素への挑戦。この3つが結びつき、チリは南米の再エネフロンティアとして注目されています(IEA「Electricity 2026」)。

電源構成の今と昔|水力の国から太陽の国へ

2010年と近年の比較

チリの電源構成は、この10数年で大きく姿を変えました。下のグラフは、2010年ごろと近年を並べたものです(概数)。

チリの電源構成|2010年ごろと近年(概数)
石炭ガス水力風力太陽光その他
2010年ごろ
近年

概数(年により変動)。「その他」はバイオマス・地熱等を含む。出典:Coordinador Eléctrico Nacional・Ember等の公開データをもとにgreenote作成

かつては水力(青)が最大の電源で、石炭(グレー)とガスがそれを支える構成でした。近年は、ほぼゼロだった太陽光(黄)が2割規模まで急伸し、風力(緑)も伸びています。一方で水力は、干ばつの影響もあって比率を下げました。「水力の国」から「太陽と風の国」への移行が進んでいます。

電源別シェアの推移

時系列で見ると、その変化のスピードがよくわかります。まず、再エネ全体と化石燃料の推移です。

チリの発電:再エネと化石燃料の推移(概数)
発電量に占めるおおよその割合(%)の変化
44%48%
45%47%
53%40%
62%33%
2010年2015年2020年近年
再生可能エネルギー化石燃料

概数(年により変動)。再エネ=水力・太陽光・風力・バイオ等の合計。出典:Ember・Coordinador等をもとにgreenote作成

再エネ(水力・太陽光・風力など)は緩やかに、そして近年は加速して拡大し、化石燃料を上回りました。次に、電源別に4つの推移を重ねてみます。

チリの電源別シェアの推移(概数)
発電量に占めるおおよその割合(%)|太陽光が急伸、水力は干ばつで変動(凡例の%は近年の値)
0%15%30%45%201020152020近年
石炭 18%ガス 15%水力 25%風力 12%太陽光 22%その他 8%

概数(年により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:Ember・Coordinador Eléctrico Nacional等の公開データをもとにgreenote作成

太陽光は2010年ごろのほぼゼロから急カーブを描いて拡大。石炭は頭打ちから減少に転じ、水力は長期的に比率を下げています。短期間でこれだけ電源構成が入れ替わった国は、世界でも多くありません(いずれも概数)。

銅と電力|鉱業大国のエネルギー需要

チリを語るうえで欠かせないのが、銅です。チリは世界最大級の銅生産国で、経済の柱となっています。そして銅の採掘・製錬には、膨大な電力が必要です。国全体の電力需要のかなりの部分を、鉱業が占めています。

この構造は、脱炭素と直結します。銅は電気自動車や再エネ設備に不可欠な金属であり、世界の脱炭素が進むほど需要が高まります。その銅を「クリーンな電力」で生産できれば、チリの銅は環境価値の高い製品として競争力を持ちます。だからこそチリは、鉱業向けの電力を再エネへ切り替え、コーポレートPPA(長期の電力購入契約)で安定調達する動きを強めています。

脱石炭とグリーン水素|次の主役へ

石炭火力の全廃へ

チリは、かつて電源の柱だった石炭火力を段階的に閉鎖し、全廃を目指しています。当初計画より前倒しの議論も進み、老朽化した石炭火力から順次停止されてきました。排出量取引制度のような炭素価格の仕組みや、安価になった太陽光・風力が、この動きを後押ししています。

グリーン水素の輸出国を目指す

チリの次の主役候補が、グリーン水素です。世界最安クラスの再エネで水を電気分解すれば、安いグリーン水素をつくれます。チリは国家戦略として、これをアンモニアなどの形で海外へ輸出する構想を掲げています。日本を含むアジアの需要国にとって、チリは将来の水素供給元の有力候補です。

電力市場と系統|スポット市場と南北送電

チリの電力市場は自由化されており、発電事業者が費用を提示し、安い電源から順に使われる「限界費用ベース」のスポット市場が中心です。安い太陽光・風力が増えるほど、市場価格は下がりやすくなります。

一方で、深刻な課題が送電網です。発電適地である北部の砂漠と、人口・産業が集まる中部の需要地は大きく離れています。送電線が足りないと、北部でつくった太陽光の電気を運びきれず、出力抑制(カーテイルメント)——つまり発電を止めて電気を捨てる事態が起きます。これを解消するため、南北を結ぶ大型送電線(HVDC)や地域間連系線・系統増強の整備、大規模な蓄電池の導入が急ピッチで進んでいます。日本の同時市場の検討と同じく、「作る」だけでなく「運ぶ・ためる」が鍵です。

チリの電力システムの課題と対応

課題

出力抑制(カーテイルメント)。北部で太陽光が余り、送電できずに捨てられる電気が生じる。

対応

南北をつなぐ大型送電線と、大規模な蓄電池の導入を進める。

課題

干ばつと水力の減少。長期的な乾燥で、かつての主力だった水力の発電量が不安定に。

対応

太陽光・風力と蓄電で、水力の変動を補う電源構成へ。

課題

南北の送電ボトルネック。発電適地(北の砂漠)と需要地(中部)が大きく離れている。

対応

キマル〜ロ・アギーレ間などの大型送電線(HVDC)を整備する。

外資の参入状況|世界に開かれた電力市場

開かれた発電市場

チリの電力市場は、世界でもっとも外資に開かれた市場のひとつです。発電では、イタリア系のエネル、フランス系のエンジー、米国系のAESなど、海外の大手電力会社が大規模に参入してきました。送電網の運営会社にも、中国系をはじめとする外国資本が入っています。透明なルールと長期PPAが、こうした投資を呼び込んできました。

チリの電力|外資の参入機会と留意点

参入機会

  • 世界最高クラスの日射・風況で発電コストが低い
  • 市場が開放的で長期PPAが結びやすい
  • グリーン水素・アンモニアの輸出拠点になりうる

留意点

  • 送電網の制約で出力抑制(カーテイルメント)が発生
  • 干ばつによる水力減など気候リスク
  • 為替・規制変更・社会的合意のリスク

開放度や規制は年により変わります。最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。

日本企業の動き

日本の商社や電力会社も、チリの太陽光・風力や、将来のグリーン水素・アンモニアのプロジェクトに関心を寄せてきました。銅の安定調達と脱炭素を両立させる観点からも、チリは重要な国です。各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。

日本との比較|違いと示唆

チリと日本を、電力の面で並べてみましょう。太陽光の条件も、目指す方向も、対照的です。

チリと日本|電力の比較
観点チリ日本
太陽光の適地アタカマ砂漠は世界最高クラスの日射量
再エネ比率急拡大(6割に接近)
石炭全廃へ前倒しを進める
グリーン水素安い再エネで「輸出国」を目指す
市場限界費用ベースのスポット市場

最大の違いは、太陽光の適地(チリ=世界最高クラス/日本=限られる)と、水素での立ち位置(チリ=輸出国/日本=輸入国)です。チリは恵まれた自然を最大限に使い、日本は限られた条件のなかで蓄電や需要側の工夫を重ねる——同じ脱炭素でも、アプローチは国の条件で変わります。それでも、鉱業という大口需要を再エネ化する発想や、送電・蓄電への投資は、日本にも通じる教訓です。ネットゼロに向けた戦略の参考になります。

まとめ|太陽と銅と水素の国

チリは、アタカマの太陽という圧倒的な資源を武器に、水力の国から太陽の国へと電力を塗り替えてきました。銅という大口需要を抱え、その脱炭素が国の競争力に直結する点も、チリならではの特徴です。

課題は、送電と貯蔵。北の砂漠でつくった電気をどう運び、どうためるか。この壁を越えた先に、チリはグリーン水素の輸出国という未来像を描いています。南米全体の文脈は南米の電力事情、国別編のドイツの電力事情ともあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q. チリの電力の特徴は何ですか?

世界最高クラスの日射量を誇るアタカマ砂漠を活かした太陽光発電の急拡大が最大の特徴です。かつては水力が中心でしたが、近年は太陽光・風力が急伸し、「水力の国」から「太陽の国」へと電源構成が変わっています。

Q. チリの再エネ比率はどのくらいですか?

水力を含む再生可能エネルギーが発電量の6割に接近しています。とくに太陽光は2010年ごろのほぼゼロから2割規模へと急拡大しました(いずれも概数・年により変動)。

Q. なぜチリは太陽光に強いのですか?

北部のアタカマ砂漠が、世界でもっとも日射量が多い地域のひとつだからです。晴天が多く乾燥しているため、同じパネルでも他国より多くの電気を生み出せ、発電コストが世界最安クラスになります。

Q. チリの電力と銅はどう関係しますか?

チリは世界最大級の銅生産国で、採掘・製錬に膨大な電力を使います。国全体の電力需要のかなりを鉱業が占めるため、この電力を再エネへ切り替えることが、銅の環境価値と競争力に直結します。

Q. チリのグリーン水素戦略とは?

世界最安クラスの再エネで水を電気分解し、安いグリーン水素を生産、アンモニアなどの形で海外へ輸出する国家構想です。日本を含むアジアの需要国にとって、将来の有力な水素供給元とされています。

Q. チリの電力の課題は何ですか?

発電適地の北部と需要地の中部が離れているため、送電網が不足し、太陽光の電気を運びきれずに捨てる出力抑制(カーテイルメント)が課題です。干ばつによる水力の減少もあり、大型送電線と蓄電池の整備が急がれています。

Q. チリと日本の電力の違いは何ですか?

太陽光の適地(チリは世界最高クラス、日本は限られる)と、水素での立ち位置(チリは輸出国、日本は輸入国)が対照的です。市場もチリは限界費用ベースのスポット市場が中心です。

Q. チリから日本が学べることは何ですか?

鉱業のような大口需要を再エネ化する発想や、送電・蓄電への大規模投資が参考になります。自然条件は違っても、「作る」だけでなく「運ぶ・ためる」を重視する姿勢は、日本の脱炭素にも通じます。

出典・参考資料(一次情報)

※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年8月14日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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