最終更新日:2026年8月4日
「今日は何時から停電か」——南アフリカでは、多くの家庭や企業がそれを気にしながら一日を過ごしてきました。アフリカ最大級の電力大国でありながら、慢性的な計画停電(ロードシェディング)に苦しむ。その根っこには、発電の約8割を占める石炭火力への依存があります。
この記事は、世界の電力事情シリーズの国別深掘り編(南アフリカ)です。中東・アフリカの電力事情で見たアフリカの中核として、南アフリカの電源構成の推移、ロードシェディングの理由、石炭依存とJETP、再エネIPP、外資、そして日本への示唆までを、数値とともに整理します。国別編のドイツの電力事情・デンマークの電力事情・チリの電力事情・中国の電力事情ともあわせてご覧ください。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。
この記事の目次
南アフリカの電力事情とは|アフリカ最大の電力大国
ロードシェディングの国
南アフリカの電力を語るとき、避けて通れないのが「ロードシェディング」です。これは、電力不足を避けるために地域ごとに順番で電気を止める、計画停電のことです。発電が需要に追いつかず、深刻な時期には一日に何度も停電が起きました。経済活動や日常生活への打撃は大きく、国の成長を妨げる要因にもなっています。
3つの特徴
特徴は上図の3つです。アフリカ最大級の電力大国であること、その一方で慢性的な停電に苦しむこと、そして発電の約8割を占める石炭からの転換に挑んでいること。豊かな電源を持ちながら、その老朽化と偏りに苦しむ——南アフリカは、エネルギー転換の「難しさ」を映す国です(IEA「Electricity 2026」)。
電源構成の今と昔|石炭9割からの出発
2010年と近年の比較
南アフリカの電源構成は、依然として石炭が圧倒的です。下のグラフは、2010年ごろと近年を並べたものです(概数)。
概数(年により変動)。「その他」はガス・ディーゼル・揚水等を含む。出典:Eskom・CSIR・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
2010年ごろは、実に9割以上が石炭(濃いグレー)でした。近年は8割程度まで下がり、わずかにあった原子力(紫)に加えて、風力(緑)と太陽光(黄)が立ち上がってきています。変化は始まっていますが、そのスピードはまだ緩やかで、石炭の存在感は圧倒的です。
電源別シェアの推移
時系列で見ると、その変化の「遅さ」と「芽」の両方が見えてきます。まず、再エネ全体と化石燃料の推移です。
概数(年により変動)。再エネ=風力・太陽光・水力等の合計。出典:Eskom・CSIR・Ember等をもとにgreenote作成
化石燃料(ほぼ石炭)は徐々に比率を下げていますが、依然として8割前後。再エネは伸びているものの、まだ全体の一部にとどまります。次に、電源別に推移を重ねてみます。
概数(年により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:Eskom・CSIR・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
石炭が高い水準からゆっくりと下がり、その足元で風力・太陽光が立ち上がる様子がわかります。原子力(コーバーグ発電所)は横ばいで一定の役割を担います。転換は始まったばかり——それが南アフリカの現在地です(いずれも概数)。
ロードシェディング|なぜ停電が常態化したのか
なぜ、電力大国が慢性的な停電に陥ったのでしょうか。最大の理由は、発電の主力である石炭火力発電所の老朽化です。多くが数十年前に建てられ、十分な保守や更新が追いつかないまま酷使されてきました。その結果、故障や計画外の停止が相次ぎ、発電能力が需要を下回る事態が続いてきたのです。
背景には、国営電力会社エスコムの深刻な財務難や、新規電源の建設の遅れもあります。停電を減らすには、既存火力の保守を進めつつ、新しい電源——とくに建設が速い再エネ——を急いで増やす必要があります。停電の常態化は、皮肉にも屋根置き太陽光の爆発的な普及を後押しし、企業や家庭が自衛的に発電する動きを生みました。
課題
ロードシェディング。老朽化した石炭火力の故障が相次ぎ、計画停電が常態化している。
対応
既存火力の保守に加え、再エネIPPと屋根置き太陽光を急ぎ増やして供給を底上げする。
課題
強い石炭依存。発電の約8割が石炭で、CO2排出が多く、国際的な圧力も強い。
対応
JETP(公正なエネルギー移行支援)や再エネ入札で、雇用に配慮しつつ石炭を減らす。
課題
系統の制約。風・日射の好適地(ケープ地方)の送電容量が足りない。
対応
送電網の増強と、エスコムの発電・送電・配電の分社化(アンバンドリング)を進める。
石炭依存とJETP|公正な移行への挑戦
南アフリカは、世界でも屈指の石炭依存国です。国内に豊富な石炭を産し、それを燃やして安価な電力と雇用を生んできました。石炭は、多くの労働者とその地域社会の暮らしを支える存在でもあります。だからこそ、脱石炭は「雇用や地域をどう守るか」という難題と切り離せません。
そこで注目されるのが、JETP(公正なエネルギー移行パートナーシップ)です。これは、先進国などが資金を拠出し、南アフリカの石炭からの移行を支援する国際的な枠組みで、約85億ドル規模で始まりました。単に石炭を止めるのではなく、労働者の再教育や地域経済への配慮を伴う「公正な移行(Just Transition)」を目指す点が特徴です。排出量取引制度やCBAM(炭素国境調整措置)など、炭素をめぐる国際的な圧力も、転換を促しています。
再エネIPPと市場|REIPPPPとエスコム改革
南アフリカの電力は長く、国営エスコムが発電・送電・配電をほぼ独占してきました。近年はこの構造を見直し、発電・送電・配電を分ける「アンバンドリング(分社化)」が進められています。独占から、より多くの担い手が参加できる仕組みへの転換です。
その象徴が、再エネの競争入札制度「REIPPPP(再生可能エネルギー独立発電事業者調達プログラム)」です。民間・海外の発電事業者が入札で参加し、太陽光・風力の発電所を建設・運営します。これにより、世界の開発事業者や投資家が南アフリカの再エネに参入してきました。日射・風況に恵まれたケープ地方が有望ですが、そこへ電気を送る地域間連系線・系統増強の増強が追いついていない点が課題です。
外資の参入状況|再エネIPPと系統制約
開かれた再エネ調達
REIPPPPを通じて、南アフリカの再エネ発電は外資に開かれてきました。欧州・中国・中東などの大手開発事業者や投資ファンドが、太陽光・風力のプロジェクトに参画しています。停電対策として企業が自家発電・自家消費を進める動きも活発で、民間主導の電源開発が広がっています。
参入機会
- 再エネ入札(REIPPPP)で発電事業に参入できる
- 太陽光・風力の好適地が広がる
- アフリカ市場・グリーン水素への足がかり
留意点
- ロードシェディングなど系統・供給の不安定さ
- 通貨(ランド)・政策・治安のリスク
- エスコムの財務難と独占構造の影響
制度や開放度は年により変わります。最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
日本企業の動き
日本の商社・メーカーも、南アフリカを含むアフリカの電力・再エネ事業や、将来のグリーン水素(豊富な太陽光・風力を活かした水素・アンモニア)に関心を寄せてきました。アフリカ最大級の経済圏の電力インフラは、長期の事業機会として注目されます。RE100やコーポレートPPAを進めるグローバル企業にとっても、現地の電力事情は重要な前提です。各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。
日本との比較|違いと示唆
南アフリカと日本を、電力の面で並べてみましょう。石炭への依存度と、供給の安定性が、大きく異なります。
| 観点 | 南アフリカ | 日本 |
|---|---|---|
| 石炭比率 | 発電の約8割(世界屈指) | 3割前後 |
| 供給の安定 | 計画停電(ロードシェディング)が常態 | 高い安定供給 |
| 市場構造 | 国営エスコムがほぼ独占(分社化を進行中) | 自由化・JEPX+OCCTO |
| 再エネ | 入札(REIPPPP)で拡大の初期 | 拡大途上(2割強) |
| 国際支援 | JETP(約85億ドルの移行支援)を受ける側 | 支援を提供する側 |
最大の違いは、石炭比率(南ア=約8割/日=3割前後)と、供給の安定性(南ア=停電が常態/日=高い安定)です。南アフリカは、脱炭素だけでなく「まず安定して電気を届ける」という基本的な課題と、同時に向き合わなければなりません。とはいえ、停電を機に再エネと分散型電源が一気に広がった経験は、これから変動する再エネと付き合う日本にとっても示唆に富みます。ネットゼロに向けては、「公正な移行」という視点も欠かせません。
まとめ|停電の国から再エネの国へ
南アフリカは、アフリカ最大級の電力大国でありながら、石炭依存と老朽化がもたらす慢性的な停電に苦しんできました。その克服の鍵が、再エネの拡大です。JETPという国際支援や、REIPPPPという入札制度、そして停電を機に広がった屋根置き太陽光が、「停電の国」を少しずつ「再エネの国」へと変えつつあります。
雇用や地域に配慮した「公正な移行」をどう実現するか——南アフリカの挑戦は、化石燃料に依存する多くの国にとっての試金石です。アフリカ全体の文脈は中東・アフリカの電力事情、国別編のドイツの電力事情・デンマークの電力事情・チリの電力事情・中国の電力事情ともあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 南アフリカの電力の特徴は何ですか?
アフリカ最大級の電力大国でありながら、発電の約8割を石炭に依存し、慢性的な計画停電(ロードシェディング)に苦しんでいることです。国営エスコムが発電・送電をほぼ独占してきました。
Q. ロードシェディングとは何ですか?
電力不足を避けるため、地域ごとに順番で電気を止める計画停電のことです。主力の石炭火力の老朽化と故障で発電が需要に追いつかず、南アフリカでは常態化してきました。
Q. なぜ南アフリカで停電が多いのですか?
発電の主力である石炭火力発電所の多くが老朽化し、十分な保守や更新が追いつかないまま故障や計画外停止が相次いだためです。国営エスコムの財務難や新規電源建設の遅れも背景にあります。
Q. 南アフリカの石炭比率はどのくらいですか?
発電量の約8割を石炭が占めます。2010年ごろの9割以上からは低下しましたが、依然として世界でも屈指の石炭依存国です(概数・年により変動)。
Q. JETPとは何ですか?
公正なエネルギー移行パートナーシップ(Just Energy Transition Partnership)のことです。先進国などが資金を拠出し、南アフリカの石炭からの移行を約85億ドル規模で支援する国際枠組みで、労働者や地域に配慮した「公正な移行」を目指します。
Q. REIPPPPとは何ですか?
再生可能エネルギー独立発電事業者調達プログラムの略で、太陽光・風力の発電所を競争入札で調達する制度です。民間・海外の事業者が参加し、南アフリカの再エネ拡大と外資参入の柱になっています。
Q. 南アフリカと日本の電力の違いは何ですか?
石炭比率(南アフリカは約8割、日本は3割前後)と供給の安定性(南アフリカは停電が常態、日本は高い安定)が対照的です。市場も南アフリカは国営エスコムがほぼ独占してきました。
Q. 南アフリカから日本が学べることは何ですか?
停電を機に屋根置き太陽光や分散型電源が一気に広がった経験や、雇用・地域に配慮した「公正な移行」の考え方が参考になります。安定供給と脱炭素を同時に進める難しさも示唆的です。
出典・参考資料(一次情報)
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
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最終更新日:2026年8月14日