再生可能エネルギーを大量に導入するうえで、意外なボトルネックになっているのが「送電網」です。風況の良い洋上や遠隔地でつくった電気を、どうやって需要地まで運ぶのか――。IEA(国際エネルギー機関)も、気候目標の達成には送電網の大幅な拡張が欠かせないと指摘しています。その切り札の一つがHVDCです。HVDC(高圧直流送電)とは、電力をいったん直流に変換して送り、受電側で再び交流に戻す送電方式のことで、長距離や海底の送電で交流より有利になります。本記事では、交流との違いや技術方式、再エネ時代に重要な理由、そして日本の動向を、公的機関の情報をもとに整理します。
≡この記事の目次
HVDC(高圧直流送電)とは(おさらい)
まず、HVDCがどのような送電方式なのか、基本の仕組みから整理しましょう。
交流を直流に変えて送り、また交流に戻す
(交流)
(AC→DC)
(長距離・海底に強い)
(DC→AC)→需要地へ
ふだんの送電網は交流(HVAC)が主流。HVDCは特定の条件で交流より有利になる送電方式。
出典:電気学会等の公開情報をもとにgreenote作成
HVDC(High Voltage Direct Current、高圧直流送電)とは、その名のとおり電力を「直流」で送る送電方式です。私たちがふだん使う送電網は「交流(HVAC=高圧交流送電)」が主流です。発電所でつくられる電気も、家庭やオフィスに届く電気も交流です。
ではなぜ、わざわざ直流にするのでしょうか。HVDCでは、発電した交流電力を「変換所」で直流に変換して送電し、受電側で再び交流に戻します。この変換の手間をかけてでも直流で送るほうが、長距離や海底の送電では有利になる場面があるのです。交流には送電線のリアクタンス(無効電力)に関する制約がありますが、直流にはそれがなく、電線の許容電流の限界まで大電力を送れるという特性があります。
交流(HVAC)との違いとHVDCのメリット
ふだんの送電網は交流が主流です。では、なぜ直流がわざわざ使われるのでしょうか。
HVDCが交流より有利になる条件
損益分岐(ブレークイーブン)距離
目安は架空線600〜800km・海底約50km(文献により幅あり)
変換所のコストが高いため、有利になるのは一定距離以上。
出典:電気学会・各種技術資料をもとにgreenote作成
長距離・海底送電で効く4つの強み
HVDCの強みは、大きく4つあります。第一に、長距離送電で送電損失が小さいことです。距離が延びるほど交流に対する優位が大きくなります。第二に、海底ケーブル・地中ケーブルに適することです。交流でケーブルを長距離敷設すると、ケーブルの静電容量による「充電電流」が問題になり長距離化が難しいのですが、直流にはこの問題がありません。
第三に、周波数の異なる系統や非同期の系統どうしを接続できることです。日本には50Hz(東日本)と60Hz(西日本)の地域があり、HVDCはこの橋渡しができます。第四に、必要な導体(電線)の本数が少ないことです。三相交流が3本の導体を要するのに対し、直流は2本で済みます。これらの特性が、後述する再エネ時代のニーズと合致しています。
変換所コストと「損益分岐距離」
ただし、HVDCがいつでも有利なわけではありません。交流と直流を変換する変換所のコストが高いため、送電損失の低減というメリットがそのコストを上回って初めて、直流が有利になります。この分かれ目が「損益分岐(ブレークイーブン)距離」です。
目安として、架空送電線でおおむね600〜800km、海底ケーブルで約50kmとされます(値は文献によって幅があります)。つまり、短距離の送電では変換所コストが重く交流が有利で、一定の距離を超えると直流が有利になる、という関係です。だからこそHVDCは、地域間連系線・系統増強とはで扱ったような長距離の大容量送電や、海を越える送電で選ばれるのです。
2つの技術方式――LCCとVSC
HVDCには、交流と直流を変換する方式が大きく2種類あり、近年は新しい方式が主流になっています。
HVDCの2つの方式
LCC(他励式・電流形)
サイリスタを使用
大電流・大容量・低損失に強い
転流に交流電源が必要・無効電力を消費し弱い系統に弱い
従来型
VSC(自励式・電圧形)
IGBT等を使用
有効・無効電力を独立制御できる
弱い系統にも接続可・多端子化や洋上風力連系に適する
近年主流・新北本連系(2019年)で国内初採用
洋上風力の連系など、柔軟性が求められる用途でVSCが主流に。
出典:三菱電機・電気学会等の公開情報をもとにgreenote作成
HVDCで交流と直流を変換する方式には、大きくLCCとVSCの2種類があります。従来型のLCC(他励式、電流形)は、サイリスタという素子を使い、大電流・大容量の送電を低損失で行うのが得意です。ただし、変換の動作(転流)に交流電源が必要で、無効電力を消費するため、電力の弱い系統への接続には向きません。
一方、近年主流になっているのがVSC(自励式、電圧形)です。IGBTなどの素子とPWM制御を使い、有効電力と無効電力を独立して制御できるのが特徴です。交流電源のない弱い系統や無電源側にも接続でき、応答が速く、複数の地点をつなぐ多端子化や、洋上風力の連系に適します。日本では、後述する新北本連系(2019年)で国内初のVSC方式が採用されました。柔軟性が求められる再エネ時代の送電では、VSCが主役になりつつあります。
なぜ再エネ時代にHVDCが重要なのか
HVDCがいま改めて注目されるのは、再生可能エネルギーの拡大と深く関わっています。
再エネの適地と需要地をつなぐ
長距離・海底を
大容量送電
再エネの適地と需要地が離れているため、長距離送電に強いHVDCが要になる。
出典:各種公開情報をもとにgreenote作成
再エネ拡大の大きな壁は、発電に適した場所と、電気を使う場所が離れていることです。風況の良い洋上や、日照・風況に恵まれた遠隔地は、大都市の需要地から遠く離れています。この距離を大容量で結ぶのに、長距離・海底送電に強いHVDCが適しているのです。
とりわけ、洋上風力・浮体式風力とはで解説した遠隔・大規模な洋上風力の電力を陸上へ運ぶ用途で、HVDC(特にVSC)が力を発揮します。さらに、地域ごとに偏在する再エネを広域で融通し、需給をならす役割も担います。欧州では、広域を直流でつなぐ「スーパーグリッド」やメッシュ状のHVDC網の構想も進んでいます。再エネを「つくる」だけでなく「運ぶ」インフラとして、HVDCは脱炭素の土台になりつつあります。
日本のHVDCの動向
日本にもすでにHVDC設備があり、再エネ拡大に向けた大規模な計画も進んでいます。
日本のHVDC 既存設備と大型計画
既存の主な設備
マスタープラン(OCCTO・2023年3月)
計画段階の値は事業者選定・設計により変わりうる。
出典:OCCTO・資源エネルギー庁・各社公開情報をもとにgreenote作成
北本連系・紀伊水道・周波数変換設備
日本にも、すでにHVDC設備が稼働しています。代表例が、北海道と本州を結ぶ北本連系(北海道・本州間連系設備)です。旧設備は1979年運開でLCC方式・直流±250kV・容量60万kW、2019年3月運開の新北本連系は国内初の自励式VSC方式で±250kV・30万kWを追加し、連系容量は合計90万kWに拡大しました。
本州と四国を結ぶ紀伊水道直流連系は2000年運開で±250kV・容量140万kWです。また、50Hzと60Hzを変換する周波数変換設備(FC)が新信濃・佐久間・東清水にあり、2021年の新信濃増強で合計210万kWとなり、2027年度末を目標に300万kWへの増強が計画されています。これらは、電力系統とはで解説した日本の電力網の重要な結節点です。
マスタープランの海底直流送電
さらに大きな計画も進んでいます。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が2023年3月に策定した広域系統長期方針(マスタープラン)では、風力の適地である北海道から、東北・東京の需要地へ向かう海底直流送電(HVDC、日本海ルート)が計画されています。
その規模は±500kV級・容量200万kW(2GW)・亘長約800kmとされ、事業費は報道ベースで約1.5〜1.8兆円、運用開始は2030年代が見込まれています。ただし、これらはいずれも計画段階の数値で、事業者の選定や設計によって変わりえます。北海道の豊富な風力を本州へ送るこの大動脈は、日本の再エネ拡大を左右する重要インフラとして注目されています。
世界の潮流と課題
世界でもHVDCの整備が加速していますが、コストや技術面の課題も残ります。
世界で加速するHVDCと残る課題
世界の潮流
主な課題
送電網は再エネ拡大の要。整備の遅れがボトルネックになりうる。
出典:IEA・各種公開情報をもとにgreenote作成
世界に目を向けると、HVDCの整備は加速しています。欧州では北海の洋上風力を束ねるHVDCハブや国境をまたぐ連系、メッシュ状の洋上HVDC網が計画されています。中国では、昌吉と古泉を結ぶ±1100kVの超高圧直流送電(UHVDC)が2019年に運開し、亘長約3,324km・送電容量12,000MW(12GW)と世界最長・最大級です。IEAは2023年の報告書で、気候目標の達成には2040年までに世界で約8,000万kmの送電網の新設・更新が必要で、送電網投資を2030年までに年間6,000億ドル超へ倍増すべきだと指摘しています。
一方で課題も残ります。変換所の高コストに加え、直流は交流のような電流のゼロ点がないため事故電流の遮断が難しく、直流遮断器や多端子化の技術的難易度が高いこと。さらに、大規模プロジェクトの長いリードタイムとコスト(兆円規模)、そしてHVDCケーブルや変換設備のサプライチェーン逼迫も指摘されています。送電網は再エネ拡大の要であり、その整備の遅れがボトルネックになりかねません。
HVDCをどう捉えるか
HVDCは、電力を直流に変換して送る送電方式で、長距離・海底の送電や、異なる周波数の系統どうしの接続に強みを持ちます。変換所コストがあるため有利になるのは損益分岐距離以上ですが、その条件は再エネ時代のニーズと合致します。遠隔・大規模な洋上風力の電力を運び、地域間の再エネの偏在をならす――HVDCは、再エネを「運ぶ」ためのインフラとして重要性を増しています。近年はVSC方式の登場で、洋上風力連系など柔軟な用途にも対応できるようになりました。
日本でも、北本連系や周波数変換設備といった既存設備に加え、北海道から本州への大規模な海底直流送電がマスタープランで計画されています。ESG・エネルギーの観点での要点は、再エネの導入拡大は「発電」だけでは完結せず、それを運ぶ送電網(とりわけHVDC)の整備が不可欠だということです。発電容量の議論に隠れがちですが、送電インフラの進展は、脱炭素の実現速度を左右する重要な鍵になります。
なお本記事は、資源エネルギー庁・電力広域的運営推進機関(OCCTO)・IEA・電気学会などの公開情報および報道をもとに整理したものです。マスタープランのHVDC計画などは計画段階のもので、規模・時期・事業費は変わりえます。損益分岐距離などの数値は目安で幅があります。特定の企業・技術・投資を推奨するものではありません。最新の状況は一次情報をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. HVDCとふつうの送電(交流)は何が違うのですか?
A. ふだんの送電網は交流(HVAC)ですが、HVDC(高圧直流送電)は電力をいったん直流に変換して送り、受電側で再び交流に戻す方式です。直流は長距離送電で損失が小さく、海底・地中ケーブルにも適し、周波数の異なる系統(日本の50Hzと60Hz)や非同期の系統どうしを接続できるという強みがあります。ただし、交流と直流を変換する変換所のコストが高いため、有利になるのは一定の距離以上です。この分かれ目は「損益分岐距離」と呼ばれ、目安として架空送電線で600〜800km、海底ケーブルで約50kmとされます(文献により幅があります)。
Q. なぜ再生可能エネルギーの拡大にHVDCが必要なのですか?
A. 再エネの適地(風況の良い洋上や、日照・風況に恵まれた遠隔地)と、電力を多く使う需要地が離れているためです。遠隔・大規模な洋上風力の電力を陸上へ運んだり、地域ごとに偏在する再エネを広域で融通したりするのに、長距離・海底送電に強いHVDCが適しています。広域を直流でつなぐ「スーパーグリッド」やメッシュ状のHVDC網の構想も進んでいます。日本でも、風力の適地である北海道から需要地の本州へ再エネを送るために、大規模な海底直流送電が計画されています。
Q. 日本にHVDCの設備はありますか?
A. あります。代表例が、北海道と本州をつなぐ「北本連系(北海道・本州間連系設備)」で、2019年に運開した新北本連系は国内で初めて自励式(VSC)方式を採用し、連系容量は合計90万kWに拡大しました。ほかに本州と四国を結ぶ紀伊水道直流連系や、50Hzと60Hzを変換する周波数変換設備(新信濃・佐久間・東清水)があります。さらに、電力広域的運営推進機関(OCCTO)のマスタープランでは、北海道から東京へ向かう大規模な海底直流送電(日本海ルート)が計画されています(計画段階で内容は変わりえます)。
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出典・参考(一次情報)
- 電力広域的運営推進機関(OCCTO)「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」
- 電気学会「でんきの礎/用語解説 直流送電」
- IEA「Electricity Grids and Secure Energy Transitions(送電網に関する報告)」
- 三菱電機「自励式直流送電システム HVDC-Diamond」
最終更新日:2026年7月11日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。