最終更新日:2026年8月4日
世界最大のCO2排出国であり、同時に世界最大の再生可能エネルギー大国——。この一見矛盾する「二つの顔」を持つのが中国です。石炭火力を大量に抱えながら、太陽光と風力を桁違いのスピードで増やす。その規模とスピードは、世界の脱炭素の行方を左右します。
この記事は、世界の電力事情シリーズの国別深掘り編(中国)です。東アジア・オセアニアの電力事情で見た東アジアの中でも、中国は別格のスケールを持ちます。電源構成の推移、双炭目標、世界一の再エネ製造、UHV送電と市場改革、外資、そして日本への示唆までを、数値とともに整理します。国別編のドイツの電力事情・チリの電力事情ともあわせてご覧ください。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。
この記事の目次
中国の電力事情とは|世界最大の「二つの顔」
二つの顔とは
中国の電力を理解する鍵は、「二つの顔」です。ひとつは、世界最大の石炭火力を抱え、CO2排出量が世界一という顔。もうひとつは、太陽光パネルも風力発電機も、導入量・製造量ともに世界一という顔です。この二つが同じ国に同居しているのが、中国の最大の特徴です。
3つの特徴
特徴は上図の3つに整理できます。世界最大の排出国であること、世界最大の再エネ大国であること、そしてその両方が猛烈なスピードで進むこと。中国一国の動きが、世界全体の排出量や再エネ価格を動かします(IEA「Electricity 2026」)。
電源構成の今と昔|石炭大国の変化
2010年と近年の比較
まず、中国の電源構成がこの10数年でどう変わったかを見てみましょう。下のグラフは、2010年ごろと近年を並べたものです(概数)。
概数(年により変動)。「その他」はガス・バイオ等を含む。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成
最大の変化は、石炭(グレー)が約8割から6割弱へと比率を下げ、ほぼゼロだった太陽光(黄)と風力(緑)が二桁の割合まで伸びたことです。ただし注意したいのは、これは「比率」の話だということ。中国全体の電力消費が急拡大しているため、石炭火力の「発電量そのもの」は必ずしも減っていません。ここに「二つの顔」の難しさがあります。
電源別シェアの推移
時系列で見ると、その変化がよくわかります。まず、再エネ全体と化石燃料の推移です。
概数(年により変動)。再エネ=水力・風力・太陽光・バイオ等の合計。化石は石炭・ガスが中心。出典:Ember等をもとにgreenote作成
再エネは着実に比率を伸ばしていますが、化石燃料(石炭中心)はまだ6割を占めます。次に、電源別に4つの推移を重ねてみます。
概数(年により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成
石炭は高い水準から緩やかに比率を下げ、風力・太陽光がそれを追い上げています。原子力・水力も一定の役割を担います。「石炭を減らしきる」のではなく「再エネで上回っていく」——それが中国の描く道筋です(いずれも概数)。
石炭と双炭目標|2030年ピーク・2060年中立
中国は、「双炭(ダブルカーボン)目標」を掲げています。CO2排出量を2030年までにピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラル(ネットゼロ)を実現するという国家目標です。世界最大の排出国の宣言だけに、その達成は地球全体の気候対策に直結します。
ただし現実は容易ではありません。経済成長と電力の安定供給を優先するなかで、新しい石炭火力の建設も続いてきました。エネルギー安全保障(停電の回避)と脱炭素の両立が、中国最大の綱引きです。中国国内の排出量取引制度(排出量取引)も電力部門から始まり、段階的に対象を広げています。
世界一の再エネ大国|製造とスケールの力
もうひとつの顔が、世界一の再エネ大国です。中国は太陽光・風力の新規導入量で他国を圧倒し、洋上風力でも世界最大級の規模を誇ります。さらに重要なのは、太陽光パネル・風車・蓄電池・EVといった機器の「製造」でも世界シェアの大半を握っていることです。
この製造力が、世界の再エネコストを大きく押し下げてきました。太陽光パネルの価格がここ10年で劇的に下がったのは、中国の量産が大きな要因です。世界のどの国が再エネを導入するにも、中国製のサプライチェーンと無縁ではいられない——それが今の現実です。
電力市場と系統|UHV送電と市場改革
中国の電力システムは、国有の巨大企業(国家電網など)が送電網を握り、長く計画的に運営されてきました。近年は市場改革が進み、電力現物(スポット)市場の試行が各省に広がっていますが、価格はまだ計画色が強いのが実情です。
系統面の最大の特徴が、UHV(超高圧)送電です。再エネや石炭の適地である西部・北部と、電力を大量に使う東部の沿海都市は、数千キロも離れています。中国はこの距離を、世界最長級のUHV直流送電線でつなぎ、西の電気を東へ送っています。日本の地域間連系線・系統増強や同時市場の議論をはるかに超える、大陸規模の送電網です。
課題
根強い石炭依存。発電の6割弱がまだ石炭で、CO2排出量は世界最大のまま。
対応
再エネと原子力を大量に導入し、石炭の「比率」を下げていく。
課題
需給の地域偏在。再エネの適地(西部・北部)と、電力を使う沿海部が遠く離れている。
対応
UHV(超高圧)送電線で、西の電気を東の需要地へ長距離で送る。
課題
市場改革の途上。計画色が強く、価格が需給を十分に反映しにくい。
対応
電力現物(スポット)市場の試行を各省で拡大し、価格の柔軟化を進める。
外資の参入状況|巨大市場とサプライチェーン
制限の残る発電・送電
中国は世界最大の電力市場ですが、発電・送電への外資の直接参入は、他国に比べて制限的です。とくに送電網は国有企業が担い、外資が経営に関与する余地は限られます。発電分野でも、産業政策や許認可の影響が大きいのが特徴です。
参入機会
- 世界最大の電力・再エネ市場
- 太陽光パネル・蓄電池・EVのサプライチェーン中心地
- 製造・調達・実証の拠点として活用できる
留意点
- 発電・送電への外資の直接参入は制限的(送電網は国有)
- 規制・産業政策・データ規制の変更リスク
- 地政学・通商(関税・輸出管理)の影響
規制や開放度は年により変わります。最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
日本企業とサプライチェーン
一方で、中国は再エネ機器・蓄電池・EVのサプライチェーンの中心地です。日本企業にとっては、発電事業への参入というより、部材・素材の供給や、製造・調達の拠点として関わる意味が大きい市場です。RE100やコーポレートPPAを進めるグローバル企業も、中国製機器やコストの動向を無視できません。各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。
日本との比較|違いと示唆
中国と日本を、電力の面で並べてみましょう。規模も仕組みも、大きく異なります。
| 観点 | 中国 | 日本 |
|---|---|---|
| 発電規模 | 世界最大(日本の数倍規模) | 中国の数分の一 |
| 石炭 | 依然6割弱だが比率は低下中 | 依存が残る(3割前後) |
| 再エネ製造 | パネル・電池で世界シェア圧倒 | 一部の素材・部材に強み |
| 送電 | UHVで西→東の長距離送電 | 独立系統・連系は限定的 |
| 市場 | 計画色が強く改革の途上 | JEPX+広域機関(OCCTO) |
最大の違いは、圧倒的な規模(中国は世界最大の発電量)と、再エネ製造での存在感です。日本は中国製の機器やコスト動向に大きく左右される立場にあります。また、CBAM(炭素国境調整措置)のような炭素の国境調整が広がると、中国製品の「電力のクリーンさ」が通商上の論点になります。中国の電力の脱炭素は、日本企業のサプライチェーンにも直接はね返ってくるテーマです。
まとめ|規模とスピードの脱炭素
中国は、世界最大の排出国でありながら、世界最大の再エネ大国でもあります。石炭を使い続けながら、その何倍ものスピードで再エネを増やす——この「二つの顔」のせめぎ合いが、2030年のピークアウトと2060年の中立に向けて続いていきます。
中国一国の選択が、世界の排出量と再エネ価格を動かします。その動向は、日本の脱炭素やサプライチェーンにも直結します。東アジア全体の文脈は東アジア・オセアニアの電力事情、国別編のドイツの電力事情・チリの電力事情ともあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 中国の電力の特徴は何ですか?
世界最大のCO2排出国でありながら、世界最大の再生可能エネルギー大国でもある「二つの顔」が最大の特徴です。石炭火力を大量に抱えつつ、太陽光・風力を桁違いのスピードで増やしています。
Q. 中国の電源構成はどうなっていますか?
石炭が発電量の6割弱を占めて最大ですが、2010年ごろの約8割から比率は低下しています。水力・風力・太陽光・原子力が続き、風力と太陽光の比率が急速に伸びています(いずれも概数・年により変動)。
Q. 中国の石炭火力は減っていますか?
「比率」は下がっていますが、電力消費全体が急拡大しているため、石炭による「発電量そのもの」は必ずしも減っていません。新設も続いており、エネルギー安全保障と脱炭素の両立が課題です。
Q. 双炭(ダブルカーボン)目標とは何ですか?
中国が掲げる国家目標で、CO2排出量を2030年までにピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルを実現するというものです。世界最大の排出国の目標として、地球全体の気候対策に直結します。
Q. なぜ中国は再エネ大国なのですか?
太陽光・風力の新規導入量が世界最大であるうえ、パネル・風車・蓄電池・EVの「製造」でも世界シェアの大半を握っているためです。この量産力が、世界の再エネコストを大きく押し下げてきました。
Q. UHV送電とは何ですか?
超高圧(Ultra-High-Voltage)送電のことです。再エネや石炭の適地である西部・北部と、電力需要の大きい東部沿海を、数千キロにわたる世界最長級の送電線で結び、西の電気を東へ送る仕組みです。
Q. 中国の電力市場に外資は参入できますか?
世界最大の市場ですが、発電・送電への外資の直接参入は制限的で、とくに送電網は国有企業が担います。日本企業にとっては、発電事業よりも部材・素材の供給や製造・調達の拠点としての関わりが中心になります。
Q. 中国の電力は日本にどう影響しますか?
中国製の太陽光パネルや蓄電池のコスト・供給は、日本の再エネ導入に直接影響します。またCBAM(炭素国境調整)が広がると、中国製品の電力のクリーンさが通商上の論点となり、日本企業のサプライチェーンにもはね返ります。
出典・参考資料(一次情報)
- Ember|中国の電源構成データ・分析
- CREA(Centre for Research on Energy and Clean Air)|中国のエネルギー分析
- Climate Action Tracker|中国の気候目標・政策評価
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
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サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月14日