最終更新日:2026年8月4日
発電量の半分以上を、風の力だけでまかなう国——それがデンマークです。国土は九州ほど、人口は600万人に満たない小国が、世界の再エネの最前線を走り続けています。その秘密は、風車の技術と、隣国とつながる賢い電力システムにあります。
この記事は、世界の電力事情シリーズの国別深掘り編(デンマーク)です。欧州の電力事情で見た欧州の中でも、デンマークは風力の突出したパイオニア。電源構成の推移、原子力ゼロ・脱石炭、風の変動を乗りこなす仕組み、Nord Poolと国際連系、外資、そして日本への示唆までを、数値とともに整理します。国別編のドイツの電力事情・チリの電力事情・中国の電力事情ともあわせてご覧ください。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。
この記事の目次
デンマークの電力事情とは|世界一の風力大国
風力のパイオニア
デンマークは、風力発電の生みの親ともいえる国です。1970年代の石油危機をきっかけに風車の開発を国を挙げて進め、1991年には世界初の洋上風力発電所を建設しました。風車メーカーのヴェスタスや、洋上風力最大手のオーステッド(旧DONG)は、デンマーク発の世界的企業です。
3つの特徴
特徴は上図の3つです。発電の半分超を風力でまかなうこと、原子力を持たず石炭も終わらせつつあること、そして隣国と連系してその変動を吸収していること。小国ながら、再エネ主体の電力システムを最も先取りしてきた国です(IEA「Electricity 2026」)。
電源構成の今と昔|石炭から風へ
2010年と近年の比較
デンマークの電源構成は、この10数年で劇的に変わりました。下のグラフは、2010年ごろと近年を並べたものです(概数)。
概数(年により変動)。「バイオ・その他」は木質バイオマス等を含む。水力・原子力はほぼゼロ。出典:Danish Energy Agency・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
かつては石炭(グレー)が電源の半分近くを占めていました。それが近年は1割程度まで縮み、代わりに風力(緑)が半分以上に。木質バイオマスなど(薄緑)も増えています。石炭の国から、風の国へ——短期間での大転換です。なお、デンマークには水力や原子力はほとんどありません。
電源別シェアの推移
時系列で見ると、その入れ替わりがはっきりわかります。まず、再エネ全体と化石燃料の推移です。
概数(年により変動)。再エネ=風力・太陽光・バイオ等の合計。出典:Danish Energy Agency・Ember等をもとにgreenote作成
再エネと化石燃料の立場は、この間に完全に逆転しました。次に、電源別に推移を重ねてみます。
概数(年により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:Danish Energy Agency・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
石炭が右肩下がりに退場し、入れ替わるように風力が伸びていく様子が一目でわかります。太陽光やバイオも着実に比率を上げています。ひとつの電源(風力)がここまで主役になった国は、世界でも例がありません(いずれも概数)。
原子力ゼロ・脱石炭|デンマークの選択
デンマークは、原子力発電所を一基も持っていません。1985年に、原子力を電力計画に含めないことを議会が決定し、以来この方針を守り続けています。原発に頼らずに脱炭素を進めるという、明確な選択です。
同時に、かつて主役だった石炭火力も終わらせつつあります。炭素価格(欧州の電力事情で触れたEU-ETS)や再エネの拡大が、石炭の退場を後押ししてきました。原子力にも石炭にも頼らず、風を軸に据える——このシンプルで大胆な方針が、デンマークの電力を特徴づけています。原子力の再稼働を進める日本とは対照的です。
風の変動をどう乗りこなすか|連系と柔軟性
風力に大きく頼る電力システムには、宿命的な課題があります。風は、いつも同じ強さで吹いてくれるわけではないということです。風が強い日は電気が余り、凪の日は大きく不足します。この変動をどう乗りこなすかが、風力大国の腕の見せどころです。
デンマークの答えは、「隣国とつながること」でした。電気が余ればノルウェーやスウェーデン、ドイツへ輸出し、足りなければ輸入する。とくにノルウェーの豊富な水力は、水を貯めておける「巨大な電池」のような役割を果たします。さらに、木質バイオマスのグリーン水素やPower-to-X(電気を水素などに変える技術)、地域熱供給との組み合わせで、変動を吸収しています。
課題
風まかせの変動。風が吹かない時は発電が大きく落ち込み、供給が不安定になる。
対応
ノルウェーの水力などと連系し、足りない時は輸入。バイオや将来は水素で補う。
課題
電気が余る・マイナス価格。風が強すぎると発電が余り、市場価格がマイナスになることも。
対応
余った電気を隣国へ輸出し、蓄電やPower-to-X(水素等)、需要シフトで吸収する。
課題
熱と電力の統合。寒冷地で暖房需要が大きく、電力だけでは脱炭素しきれない。
対応
地域熱供給(CHP)やヒートポンプで、風の電気を暖房にも生かす。
電力市場と系統|Nord Poolと国際連系
デンマークの電力市場は、北欧を中心とした国際的な卸市場「Nord Pool」の一角を担います。市場は完全に自由化され、電気は国境を越えて最も安いところから融通されます。風が強く発電が多い時間帯は価格が下がり、時にはマイナス価格(お金を払って引き取ってもらう)になることもあります。
この仕組みを支えるのが、隣国との強力な地域間連系線・系統増強です。デンマークはノルウェー・スウェーデン・ドイツ・オランダなどと海底ケーブルで結ばれ、風の変動を欧州大の市場で吸収します。日本の同時市場の検討が目指す「広域で効率的に電気を動かす」姿を、デンマークは国境を越えて実現しているといえます。
外資の参入状況|開かれた洋上風力市場
開かれた市場
デンマークの電力市場、とくに洋上風力は、外資に広く開かれています。世界各国の企業や投資ファンドが、デンマーク沖の洋上風力プロジェクトに参加してきました。オーステッドやヴェスタスといった世界的企業を擁し、洋上風力とPower-to-Xの最先端の実証が集まる場でもあります。
参入機会
- 世界最先端の洋上風力・Power-to-Xの実証拠点
- Nord Poolを通じて北欧・欧州へ展開できる
- ØrstedやVestasなど有力パートナーと連携
留意点
- 市場が成熟し、競争が激しい
- 風の余剰時にはマイナス価格など価格変動
- 系統接続・許認可・環境アセスの手続き
開放度や規制は年により変わります。最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
日本企業の動き
日本の商社・電力会社・メーカーも、デンマーク企業との協業や、同国を含む欧州の洋上風力案件への参画を通じて、技術と運営ノウハウを学んできました。日本の洋上風力の拡大を見据えると、デンマークは重要な学びの場です。RE100やコーポレートPPAを進めるうえでの先行事例としても参考になります。各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。
日本との比較|違いと示唆
デンマークと日本を、電力の面で並べてみましょう。風力への振り切り方と、隣国とのつながりが、大きく異なります。
| 観点 | デンマーク | 日本 |
|---|---|---|
| 風力比率 | 発電の5割超(世界最高水準) | 数%程度 |
| 原子力 | ゼロ(法律で持たない) | 再稼働を進める方針 |
| 洋上風力 | 世界の先駆者(Ørsted等) | 導入初期・拡大中 |
| 国際連系 | ノルウェー・ドイツ等と広く連系 | なし(系統は独立) |
| 市場 | Nord Pool(北欧統合市場) | JEPX+広域機関(OCCTO) |
最大の違いは、風力比率(丹=5割超/日=数%)と、国際連系の有無(丹=欧州と連系/日=独立系統)です。デンマークは隣国という「巨大な電池」があるからこそ、風力に大胆に振り切れます。独立系統の日本がそのまま真似するのは難しく、その分、蓄電や需要側の調整、そして洋上風力の着実な拡大が鍵になります。デンマークの経験は、日本の洋上風力政策に多くの示唆を与えてくれます。
まとめ|風がつくる電力システム
デンマークは、風という気まぐれな資源を、電力システムの主役に押し上げました。原子力にも石炭にも頼らず、風車の技術と、隣国とつながる柔軟な仕組みで、再エネ主体の電力を現実のものにしています。
小国だからこそできた面もありますが、「変動する再エネをどう使いこなすか」という問いに対する最先端の答えが、ここにあります。欧州全体の文脈は欧州の電力事情、国別編のドイツの電力事情・チリの電力事情・中国の電力事情ともあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. デンマークの電力の特徴は何ですか?
発電量の半分以上を風力でまかなう、世界最高水準の風力大国であることです。原子力を持たず、石炭も終わらせつつあり、隣国との連系で風の変動を吸収する柔軟な電力システムを築いています。
Q. デンマークの風力比率はどのくらいですか?
近年は発電量の5割超を風力が占めます。2010年ごろの2割程度から大きく伸び、石炭に代わって最大の電源になりました(いずれも概数・年により変動)。
Q. デンマークに原子力発電はありますか?
ありません。1985年に原子力を電力計画に含めないことを議会が決定し、以来一基も建設していません。原発に頼らず再エネで脱炭素を進める方針を続けています。
Q. 風が吹かない時はどうするのですか?
ノルウェーやスウェーデン、ドイツなどと送電線で結ばれており、電気が足りない時は輸入します。とくにノルウェーの水力は「巨大な電池」の役割を果たします。加えてバイオマスや、将来はPower-to-X(水素等)で補います。
Q. マイナス電力価格とは何ですか?
風が強すぎて電気が余ると、市場価格がマイナス(お金を払って引き取ってもらう)になる現象です。デンマークでは、余剰を隣国へ輸出したり、蓄電・水素・需要シフトで吸収したりして対応しています。
Q. Nord Poolとは何ですか?
北欧を中心とした国際的な電力卸市場です。デンマークもこの市場の一角を担い、電気は国境を越えて最も安いところから融通されます。風の変動を欧州大の市場で吸収する仕組みの基盤です。
Q. デンマークと日本の電力の違いは何ですか?
風力比率(デンマークは5割超、日本は数%)と、国際連系の有無(デンマークは欧州と連系、日本は独立系統)が対照的です。デンマークは隣国という「電池」があるため、風力に大胆に振り切れます。
Q. デンマークから日本が学べることは何ですか?
変動する再エネを使いこなすための連系・蓄電・需要側の工夫や、洋上風力の産業育成が参考になります。独立系統の日本は隣国連系に頼れない分、蓄電や需要調整、洋上風力の着実な拡大がより重要になります。
出典・参考資料(一次情報)
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
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最終更新日:2026年8月14日