再生可能エネルギーをどれだけ増やしても、それを「使う場所まで送れない」と意味がありません。北海道や東北で風力がたっぷり発電しても、電気の多くは都市で使われます。この「送る力」を担うのが、地域間連系線であり、その増強です。
本記事では、地域間連系線と系統増強とは何かを、できるだけかみ砕いて解説します。再エネの偏在という課題、東日本50Hz・西日本60Hzという「周波数の壁」、9エリアを結ぶ連系線と周波数変換設備、そして長期計画である広域連系系統のマスタープランまでを順に見ていきましょう。余った電気を止める出力制御(カーテイルメント)とは、電力系統の基礎である電力系統とはとあわせて読むと、つながりが見えてきます。
≡この記事の目次
地域間連系線・系統増強とは
まず、地域間連系線と系統増強をひとことで整理します。「電気を地域から地域へ送る高速道路を太くする」という発想から入りましょう。
地域間連系線をひとことで言うと
地域間連系線とは、北海道・東北・東京・中部・関西・九州といった電力のエリアどうしを結ぶ、いわば「電気の幹線道路」です。あるエリアで電気が余り、別のエリアで足りないとき、この連系線を通じて電気を融通する仕組みです。
系統増強とは、この幹線道路や周辺の送電網を太くしたり、新しく敷いたりすることです。道路が細ければ、いくら良い車(再エネ)が増えても渋滞して運べません。再エネを全国で活かすには、送電網という土台そのものを広げる必要があるわけです。
なぜいま増強が必要なのか
増強が急がれる最大の理由は、再生可能エネルギーの拡大です。太陽光や風力は、需要の大きい都市部よりも、土地や風況に恵まれた地方に多く立地します。
つくる場所と使う場所が離れているため、両者を結ぶ送電網が細いと、せっかくの再エネを送りきれません。その結果、発電できるのに止める「出力制御」が増えてしまいます。再エネを主力電源にするうえで、送電網の細さがボトルネックになりつつある——だからこそ、いま系統増強は国家的な課題です。
日本の電力網がぶつかる「壁」
再エネを全国で活かそうとすると、日本特有の二つの壁にぶつかります。「偏在」と「周波数」です。
日本の電力網がぶつかる二つの壁
再エネを全国で活かすうえでの課題
課題1:再エネの偏在
太陽光・風力の適地は北海道・東北・九州に多い一方、電気を多く使うのは東京・大阪などの都市。結ぶ連系線が細いと送りきれず、余った電気は出力制御で止められる。
課題2:周波数の壁
東日本は50Hz、西日本は60Hz。周波数が違うと直接つなげないため、東西の間は周波数変換設備(FC)を介して融通する。FCの容量が東西で送れる電力の上限になる。
「偏在」と「周波数」。日本ならではの二つの壁を、連系線とFCの増強で越えます。
出典:各種公開情報をもとにgreenote作成
再エネは北に多く、需要は都市に多い
一つめの壁が「偏在」です。日本では、太陽光や風力の適地が北海道・東北・九州などに偏っています。一方で、電気を多く使うのは東京や大阪といった大都市圏です。
このミスマッチが、送電網に大きな負担をかけます。地方でつくった再エネを都市へ運ぼうにも、結ぶ連系線の容量が足りなければ、運べる量はそこで頭打ちです。とくに北海道は、風力の潜在量が大きい一方で本州との連系が細く、再エネのポテンシャルを活かしきれない状況が続いてきました。
東日本50Hz・西日本60Hzの周波数の壁
二つめの壁が「周波数」です。日本の電気は、東日本が50ヘルツ、西日本が60ヘルツと、地域によって周波数が違います。明治時代に東がドイツ製、西がアメリカ製の発電機を導入した名残です。
周波数が異なると、電気をそのままつなぐことはできません。そのため東西の間では、「周波数変換設備(FC)」という装置で変換してから電気をやり取りする形です。世界でも珍しいこの二つの周波数が、東西の電力融通を難しくしてきました。災害で片方の地域が電力不足になっても、送れる量がFCの容量に縛られてしまうのです。
連系線と周波数変換設備(FC)
壁を越えるための設備が、地域間連系線と周波数変換設備(FC)です。いまどこまで増強が進んでいるのかを見ていきます。
東西をつなぐFCの増強
融通できる電力の上限を120万→300万kWへ
新信濃・佐久間・東清水のFCで構成
新信濃の設備を90万kW増強
佐久間+30万kW・東清水+60万kWを増設
災害時の東西の助け合いと、再エネを全国へ届ける土台づくりが同時に進みます。
出典:電気学会・送配電事業者の公開情報をもとにgreenote作成
9エリアを結ぶ地域間連系線
日本の電力系統は、北海道から九州まで9つのエリアに分かれ、それぞれが地域間連系線で結ばれます。北海道と本州を結ぶ「北本連系」、中国と九州を結ぶ「関門連系線」などが代表例です。
これらの連系線は、平常時には電気の安い地域から高い地域へ電気を流して市場を効率化し、非常時には被災した地域を他地域が支える役割を果たします。ただし、各連系線の容量には、それぞれ上限があります。再エネが急増するなかで、この容量が足りなくなりつつあり、各地で増強や新設の計画が進みます。
東西をつなぐ周波数変換設備(FC)
東日本と西日本の間は、周波数変換設備(FC)を介してつながる構造です。このFCの容量が、東西で融通できる電力の上限です。
東西連系のFCの総容量は、もともと120万kW程度でした。それが2021年に新信濃の設備が増強されて210万kW規模となり、さらに佐久間で30万kW、東清水で60万kWを増設して、2027年度末をめどに総容量300万kWを目指しています(電気学会)。東日本大震災で東西の助け合いの細さが課題になったことが、増強を後押ししました。災害への備えと、再エネを全国へ届ける土台づくりが、同時に進んでいるところです。
広域連系系統のマスタープラン
これらの増強を、場当たりでなく長期計画でまとめたのが、OCCTOの「広域連系系統のマスタープラン」です。
2050年を見据えた総額6〜7兆円の計画
電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、2023年3月に「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」を策定しました。2050年のカーボンニュートラルを見据え、将来のエネルギー政策と整合するシナリオを、費用と便益の両面から分析した長期計画です。
そのなかで、全国の系統増強に必要な投資額は、概算で約6〜7兆円とされています(電力広域的運営推進機関)。これは、再エネを主力電源にするために必要な「送る力」への先行投資です。場当たり的な増強ではなく、全国を一枚の絵として描き、優先順位をつけて整備していく点に、このマスタープランの意義があります。
北海道〜本州を結ぶ海底直流送電
マスタープランの目玉のひとつが、再エネの宝庫である北海道と、大消費地の本州を結ぶ増強です。北海道〜東北〜東京を結ぶルートの新設には、約3兆円が見込まれています。
なかでも注目されるのが、海の下にケーブルを敷く海底直流送電(HVDC)です。北海道〜本州を結ぶ海底直流送電を含む東地域の系統整備は、概算で1.5兆〜1.8兆円程度、うち海底直流送電線の部分は0.9兆〜1.1兆円程度と試算されています(電力広域的運営推進機関)。北海道の豊富な風力を本州の需要地へ届ける、新しい大動脈になると期待されます。
費用と便益、そして課題
巨額の投資には、それを上回る便益が見込まれています。一方で、乗り越えるべき課題も小さくありません。
系統増強の便益と課題
先行投資としての「送る力」
便益
出力制御を減らし、再エネを捨てずに活かせる
安い電源を全国で使え、燃料費とCO2を削減
災害時の電力融通が強くなる
電力市場の活性化
課題
総額6〜7兆円規模の巨額投資
完成まで10年単位の長い工期
費用を誰がどう負担するか
海底・山間部の工事と環境への配慮
マスタープランの分析では便益が費用を上回ると試算。ただし長い工期と負担の議論を伴います。
出典:電力広域的運営推進機関等の公開情報をもとにgreenote作成
便益が費用を上回るという試算
マスタープランの分析では、増強にかかる費用に対して、得られる便益のほうが大きいと見込まれます。便益とは、出力制御を減らして再エネを活かせること、安い電源を全国で使えて燃料費やCO2が減ること、災害時の融通が強くなることなどです。
つまり、巨額の投資は「コスト」であると同時に、再エネ社会への「先行投資」でもあります。送電網は全国共通のインフラなので、その費用は最終的に、電気を使う私たちが託送料金などを通じて広く負担します。広域的な増強については、便益が全国に及ぶことから、全国で広く負担する仕組みづくりが進行中です。
工期・費用負担・環境という課題
とはいえ、課題は小さくありません。まず、送電網の整備には、完成まで10年単位の長い時間がかかります。再エネの導入スピードに、送電網の整備が追いつけるかが問われます。
加えて、誰がどれだけ費用を負担するのかという議論や、海底ケーブルや山間部の工事に伴う環境への配慮も欠かせません。「送る力」は一朝一夕には太くできない——だからこそ、マスタープランのような長期の視点で、計画的に進めることが肝心です。系統を支える技術としてはグリッドフォーミングインバータ(GFM)とはもあわせてご覧ください。
系統増強をどう捉えるか
地域間連系線の増強は、再エネを「つくる」段階から「使う」段階へと、確実につなぐための土台づくりです。発電設備をいくら増やしても、送る力が細ければ、再エネは主力になりきれません。偏在と周波数という日本特有の壁を越えるために、連系線とFCの増強、そして海底直流送電が進められています。
大切なのは、系統増強を「地味なインフラ投資」ではなく、「再エネ社会を実現する血管づくり」として捉えることでしょう。余った電気をためる蓄電池やLDES、需要を動かすVPPやDR、そして電気を送る連系線。これらが組み合わさって初めて、再エネは全国であまさず使えるようになります。電力システム全体の地図は電力システムまるわかりガイドもご覧ください。
時間も費用もかかる事業ですが、2050年のカーボンニュートラルへ向けて、いま敷く一本一本の送電線が、未来の電気を支えていくはずです。なお本記事は、特定の事業や費用負担を断定するものではなく、仕組みと計画を中立に整理したものです。
よくある質問(FAQ)
Q. なぜ東日本と西日本で周波数(50Hzと60Hz)が違うのですか?
A. 明治時代に、電力設備を東日本はドイツ製(50Hz)、西日本はアメリカ製(60Hz)で導入した歴史的な経緯が、いまも残っているためです。周波数が違うと電気をそのままつなげないため、東西の間では「周波数変換設備(FC)」という装置を介して電気をやり取りします。このFCの容量が、東西で融通できる電力の上限になります。全国を一つの周波数に統一するには莫大な費用がかかるため、現実的にはFCの増強で対応しているのが現状です。
Q. 送電線の増強は、出力制御を減らすことにつながりますか?
A. はい、つながります。出力制御は、ある地域で再エネが余っても、その電気を需要のある他地域へ送りきれないために起きる面があります。地域間連系線を太くすれば、余った電気を需要地へ送れる量が増え、捨てずに活かせる場面が広がります。蓄電池やデマンドレスポンスが「ためる・ずらす」で対応するのに対し、連系線の増強は「送る」で対応する、いわば再エネ活用のもう一つの柱です。詳しくは出力制御の解説もあわせてご覧ください。
Q. 巨額の費用は誰が負担するのですか?
A. 送電網は全国の電気の流れを支える共通インフラであるため、その増強費用は、最終的に電気を使う私たち需要家が、託送料金などを通じて広く負担する形になります。とくにマスタープランに基づく広域的な増強については、便益が全国に及ぶことから、特定の地域だけでなく全国で広く負担する仕組みづくりが進められています。本記事は特定の負担額や料金を断定するものではなく、制度の考え方を整理したものです。
最終更新日:2026年6月27日
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