最終更新日:2026年8月4日
世界でいちばん原子力に頼る国——それがフランスです。発電の約7割を原子力がまかない、その結果、CO2排出のとても少ない電力を実現しています。さらに、あり余る電力を隣国へ大量に輸出する「欧州の電力ハブ」でもあります。脱炭素の観点では、フランスは早くからゴールに近い場所にいる国です。
この記事は、世界の電力事情シリーズの国別深掘り編(フランス)です。欧州の電力事情で見た欧州の中でも、原子力に振り切った点でフランスは際立っています。電源構成の推移、なぜ原子力大国になったのか、2022年の試練と再エネへの多様化、電力輸出、外資、そして日本への示唆までを、数値とともに整理します。対照的な脱原発のドイツの電力事情や風力のデンマークの電力事情とあわせてご覧ください。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。
この記事の目次
フランスの電力事情とは|原子力大国の低炭素電力
原子力7割の国
フランスの電力を理解する出発点は、原子力です。国内に多数の原子炉を持ち、発電の約7割を原子力でまかなっています。これは主要国の中で群を抜いて高い比率で、「原子力大国」と呼ばれるゆえんです。原子力は発電時にCO2をほとんど出さないため、フランスの電力は早くから低炭素でした。
3つの特徴
特徴は上図の3つです。原子力への高い依存、原子力と水力による世界屈指の低炭素電源、そして欧州最大級の電力輸出国であること。脱炭素を「原子力で先取りした国」でありながら、いまその原子力の維持・更新という新たな課題に直面しています(IEA「Electricity 2026」)。
電源構成の今と昔|原子力を軸に再エネへ
2010年と近年の比較
フランスの電源構成を、2010年ごろと近年で並べてみましょう(概数)。
概数(年により変動)。「火力」はガス中心。原子力+水力+風力・太陽光で低炭素電源が9割前後。出典:RTE・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
どちらの時点も、原子力(紫)が圧倒的な主役です。ただし近年は、その比率がやや下がり、代わりに風力(緑)と太陽光(黄)が伸びてきました。水力(青)は安定した脇役、火力(グレー・主にガス)は調整用として一定量が残ります。原子力を軸にしつつ、少しずつ再エネを加える——それが近年の方向です。
電源別シェアの推移
時系列で見ると、原子力と再エネの関係がよくわかります。まず、原子力と再エネの推移です。
概数(年により変動)。残りは主に天然ガス火力。出典:RTE・Ember等をもとにgreenote作成
原子力は依然として主力ですが、比率は緩やかに低下。入れ替わるように、水力・風力・太陽光を合わせた再エネが伸びています。次に、電源別に推移を重ねてみます。
概数(年により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:RTE・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
原子力が高い水準から少しずつ下がり、風力・太陽光が着実に立ち上がる様子がわかります。2022年前後に原子力が大きく落ち込んでいるのは、後述する点検・不具合の影響です(いずれも概数)。
なぜ原子力大国になったのか|石油危機からの選択
なぜフランスは、これほど原子力に頼るようになったのでしょうか。きっかけは、1970年代の石油危機でした。石油の価格高騰と供給不安に直面したフランスは、エネルギーを海外に依存しない体制をめざし、「メスメル計画」と呼ばれる大規模な原子力発電所の建設に国を挙げて乗り出しました。
資源に乏しいフランスにとって、原子力はエネルギー自給と価格の安定を実現する切り札でした。国営電力会社EDFが標準化された原子炉を次々と建設し、短期間で原子力大国をつくり上げたのです。この「国家主導・原子力集中」という選択が、今日までフランスの電力を特徴づけています。
2022年の試練と再エネ|原発の不調と電源の多様化
盤石に見えたフランスの原子力にも、弱点があります。それが2022年に表面化しました。多くの原子炉で配管の腐食などの不具合が見つかり、点検・補修のために一斉に停止。折からの猛暑もあって発電量が大きく落ち込み、いつもは輸出国のフランスが一時的に電力を輸入する事態にまでなりました。
この試練は、一つの電源に頼りすぎるリスクを浮き彫りにしました。フランスは、次世代炉(EPR2)の新設で原子力を維持・更新する一方、これまで出遅れていた洋上風力や太陽光の導入も加速し、電源の多様化を進めています。「原子力か再エネか」ではなく「原子力も再エネも」という、低炭素電源の二本柱をめざす方向です。
課題
原発の高経年化と稼働の変動。2022年には点検や不具合で多くの原発が停止し、発電が大きく落ち込んだ。
対応
保守・補修の強化に加え、次世代炉(EPR2)の新設計画で設備を更新していく。
課題
再エネの出遅れ。原子力に頼ってきた分、風力・太陽光の拡大は近隣国より遅れ気味。
対応
洋上風力や太陽光の導入を加速し、原子力と再エネの二本柱をめざす。
課題
熱波と冷却水。猛暑で河川の水温が上がると、原発の冷却に使えず出力を制限することがある。
対応
冷却方式の工夫や、水力・再エネを組み合わせて夏場の供給を補う。
電力市場と輸出|欧州最大級の電力輸出国
フランスは、平常時には欧州最大級の電力輸出国です。原子力による安定した電力を、ドイツ・イタリア・英国・スペインなど周辺国へ送っています。欧州の電力事情で見た統合市場の中で、フランスは重要な供給源の役割を担ってきました。強力な地域間連系線・系統増強が、この大量の電力輸出を支えています。
電力市場は自由化され、電力取引所を通じて価格が決まります。ただし、原子力を担うEDFは近年、国が完全に株式を握る「再国有化」が行われ、原子力は国家管理の色が濃くなっています。市場のルールづくりや電気料金のあり方をめぐる議論も続いています。日本の同時市場の検討と同じく、脱炭素電源をどう効率的に活用するかが問われています。
外資の参入状況|EDFと統合市場
開かれた市場と国家管理
フランスの電力市場は、欧州の統合市場の一部として外資に開かれています。とくに洋上風力や太陽光の新規案件には、欧州内外の開発事業者や投資家が参加しています。一方で、原子力は国家管理の色が濃く、EDFを通じて政府が強く関与します。「再エネは開かれ、原子力は国家が握る」という二面性が特徴です。
参入機会
- 欧州の統合市場を通じて広域に展開できる
- 洋上風力・太陽光など再エネの新規案件
- 低炭素電力・グリーン水素の調達拠点
留意点
- EDFは国有化され、原子力は国家管理の色が濃い
- 規制・許認可・電力市場改革の議論
- 熱波時の出力制限など供給の変動
制度や開放度は年により変わります。最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
日本企業の動き
日本の企業も、フランスを含む欧州の洋上風力案件への参画や、原子力関連の機器・技術、グリーン水素などの分野で関わってきました。低炭素電力の先進国であるフランスは、脱炭素の技術や制度を学ぶ相手でもあります。RE100やコーポレートPPAを進めるグローバル企業にとっても、フランスの低炭素な電力は魅力的です。各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。
日本との比較|違いと示唆
フランスと日本を、電力の面で並べてみましょう。ともに資源に乏しい国ですが、たどった道は対照的です。
| 観点 | フランス | 日本 |
|---|---|---|
| 原子力 | 発電の約7割(主力) | 再稼働を進める(2割未満) |
| 低炭素電源比率 | 9割前後(原子力+水力+再エネ) | 拡大途上 |
| 再エネ | 拡大途上(原子力偏重で出遅れ) | 拡大途上 |
| 国際連系 | 欧州へ大量に輸出(欧州最大級) | なし(系統は独立) |
| 市場 | 欧州の統合市場(電力取引所) | JEPX+広域機関(OCCTO) |
最大の違いは、原子力への依存度(仏=約7割/日=2割未満)と、国際連系の有無(仏=欧州へ大量輸出/日=独立系統)です。ともに資源が乏しいなかで、フランスは原子力で、日本は多様な火力で電力を支えてきました。原子力を低炭素の主力に位置づけるフランスの経験は、原発の再稼働を進める日本にとって、成功も課題も含めて参考になります。ネットゼロに向けた電源の組み合わせを考えるうえで示唆に富みます。
まとめ|低炭素の先行者が抱える課題
フランスは、原子力に振り切ることで、早くから低炭素で自給的な電力を実現してきました。その先進性は際立っていますが、2022年の一斉停止が示したように、一つの電源に頼りすぎるもろさも抱えています。
次世代炉での原子力の維持・更新と、出遅れていた再エネの拡大——この二本柱をどう両立させるかが、これからのフランスの課題です。低炭素の「先行者」が次の段階でどう動くかは、世界の脱炭素の参考になります。欧州全体の文脈は欧州の電力事情、対照的な選択をしたドイツの電力事情・デンマークの電力事情ともあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. フランスの電力の特徴は何ですか?
発電の約7割を原子力がまかなう、世界で最も原子力に頼る国であることです。原子力と水力により低炭素電源が9割前後を占め、あり余る電力を隣国へ輸出する欧州最大級の電力輸出国でもあります。
Q. フランスの原子力比率はどのくらいですか?
近年は発電量の約65%前後を原子力が占めます。2010年ごろの約76%からはやや低下していますが、依然として主要国の中で群を抜いて高い比率です(いずれも概数・年により変動)。
Q. なぜフランスは原子力大国になったのですか?
1970年代の石油危機がきっかけです。石油依存からの脱却とエネルギー自給をめざし、「メスメル計画」のもとで国を挙げて原子力発電所を大量に建設しました。資源に乏しいフランスにとって、原子力は価格の安定と自給の切り札でした。
Q. 2022年にフランスで何が起きたのですか?
多くの原子炉で配管の腐食などの不具合が見つかり、点検・補修のため一斉に停止しました。猛暑も重なって発電量が大きく落ち込み、いつもは輸出国のフランスが一時的に電力を輸入する事態になりました。
Q. フランスは再エネが遅れているのですか?
原子力に頼ってきた分、風力・太陽光の拡大は近隣国よりやや遅れ気味でした。近年は洋上風力や太陽光の導入を加速し、原子力と再エネの二本柱をめざして電源の多様化を進めています。
Q. フランスは電力を輸出しているのですか?
はい。平常時には欧州最大級の電力輸出国で、原子力による安定した電力をドイツ・イタリア・英国・スペインなど周辺国へ送っています。強力な国際連系線がこれを支えています。
Q. フランスと日本の電力の違いは何ですか?
原子力への依存度(フランスは約7割、日本は2割未満)と国際連系の有無(フランスは欧州へ大量輸出、日本は独立系統)が対照的です。ともに資源に乏しいなかで、フランスは原子力、日本は多様な火力で電力を支えてきました。
Q. フランスから日本が学べることは何ですか?
原子力を低炭素の主力に位置づけた経験は、再稼働を進める日本の参考になります。同時に、2022年の一斉停止が示した「一つの電源に頼りすぎるリスク」や、再エネとの二本柱づくりも、電源の組み合わせを考えるうえで重要な教訓です。
出典・参考資料(一次情報)
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
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最終更新日:2026年8月14日