SBTi「企業ネットゼロ基準」改定(V2)の最新|Scope3の柔軟化とバリューチェーン外への責任を解説

2026.08.12
サステナビリティ開示

最終更新日:2026年8月4日

企業のネットゼロ目標づくりの世界標準であるSBTi(Science Based Targets initiative)の「企業ネットゼロ基準」が、大きな改定(バージョン2、V2)に向けて動いています。Scope3の扱いやカーボンクレジットの位置づけなど、実務に直結する見直しが含まれ、目標を持つ企業の関心を集めています。

この記事では、改定の位置づけとスケジュール、V2の主な変更点(3つの方向性)、そして企業への影響と備えを、SBT(科学的根拠に基づく目標)の基礎をふまえて中立的に整理します。

※本基準は改定中で、内容・日程は今後変わります。本記事はSBTi等の公表情報(2026年時点)に基づく解説です。確定情報ではないため、必ず最新の公式情報をご確認ください。

Corporate Net-Zero Standard V2 の3つの方向性(案)
① Scope別の目標設定Scope1・2・3を分けて扱う
② Scope3の柔軟化重要な排出に焦点を絞る
③ VC外への責任残余排出にクレジット等で対応
「削減の厳格化」と「実務の柔軟化」を両立させる見直し

この記事の目次

SBTi「企業ネットゼロ基準」とは|V2改定の位置づけ

SBTiは、企業の温室効果ガス削減目標が科学的根拠(パリ協定の1.5℃目標など)と整合しているかを認定する国際イニシアチブです(SBT(科学的根拠に基づく目標))。そのなかで「企業ネットゼロ基準(Corporate Net-Zero Standard)」は、企業がネットゼロ目標を掲げる際の要件を定める中核的な基準です。

現行はバージョン1系(V1.x)ですが、より実効性と信頼性を高めるための全面改定として、バージョン2(V2)の策定が進んでいます。GHGプロトコルの見直しとも時期が重なり、目標設定と算定の前提が同時に動く局面にあります。

なぜ今、改定されるのか|見直しの背景

V1系は多くの企業に普及した一方で、いくつかの課題も指摘されてきました。第一に、ネットゼロ主張の信頼性や企業間の比較可能性への懸念です。第二に、サプライチェーン全体を網羅するScope3算定の実務負担の大きさです。第三に、カーボンクレジットの扱いをめぐる議論で、2024年には自社の排出削減にクレジットを充当できるかが大きな論争になりました。

V2は、こうした声を受けて、科学的な厳格さを保ちながら企業が現実的に取り組めるようにする「実効性と実行可能性の両立」をねらう見直しとされます。単なる緩和でも一律の厳格化でもなく、削減の質を高めつつ運用しやすくする方向です。

改定のスケジュール|V1.3の併用と2028年の必須化

V2は、複数回の公開意見公募(パブリックコンサルテーション)を経て策定が進められています。2026年時点で示されているおおまかな流れは次のとおりです。

V2改定のスケジュール(2026年時点・変動あり)
SBTi 企業ネットゼロ基準V2のスケジュール
時期内容
2025年11月〜12月改定案(第2次ドラフト)の公開意見公募
2026年企業ネットゼロ基準 V2.0 の公表(予定)
〜2027年末現行のV1.3で新規目標の設定が可能(併用期間)
2028年1月〜新規目標の設定にV2.0の使用が必須になる見込み

つまり、いますぐ現行の目標が無効になるわけではなく、移行期間が設けられています。ただし、新しく目標を設定する企業ほど、早い段階でV2の方向性を意識しておく必要があります。日程は今後の議論で前後する可能性があります。

近期目標と長期目標|ネットゼロの「2階建て」

SBTiのネットゼロは、期間の異なる2つの目標を組み合わせる「2階建て」が基本です。V2でもこの枠組みは維持される方向とされています。

  • 近期目標(near-term):今後5〜10年程度で大幅に削減する軌道を示す目標。まず足元の削減を確実に進めるためのもの。
  • 長期目標(long-term/ネットゼロ):2050年ごろに、Scope3を含むバリューチェーン全体で大幅(一般に約90%)に削減し、残る排出を除去などで「中和」する状態をめざす目標。

重要なのは、ネットゼロが「まず大幅削減、残りを中和」という順序で成り立つ点です。V2は、この到達点の定義や、そこに至る過程の要件をより精緻にする見込みです。

V2の主な変更点|3つの方向性

公表されている改定案からは、大きく3つの方向性が読み取れます。いずれも検討中の案であり、最終的な要件は公表される基準で確認が必要です。

Scope別の目標設定

これまで以上に、Scope1・Scope2・Scope3を分けて目標を設定する「Scope別」の考え方が強まる見込みです。自社の直接排出(Scope1)と電力等の間接排出(Scope2)、そしてサプライチェーン排出(Scope3)で、求められる対応を明確に分けて示す方向とされます。

Scope3の「焦点を絞り、柔軟に」

最も実務に影響するのがScope3です。改定案は「focused and flexible(焦点を絞り、柔軟に)」という考え方を掲げ、すべてを一律に扱うのではなく、重要度の高い排出に的を絞りつつ、企業の実情に応じた柔軟性を持たせる方向が議論されています。データの質やカバレッジの考え方も見直しの対象です。

バリューチェーン外の排出への責任(BVCM)

新たに注目されるのが、バリューチェーン「外」の排出への責任を認識する仕組みです。従来、SBTのネットゼロは削減を最優先し、カーボンクレジット(オフセット)を自社の削減の代わりに使うことは認めない原則でした。V2の案では、削減を進めたうえで、残る排出(残余排出)に対しクレジット等で責任を持つ取り組みを位置づける枠組みが議論されています。削減貢献量の扱いとあわせ、慎重な整理が求められる論点です。

V1とV2の主な違い|比較で押さえる

現行のV1系と改定案のV2で、実務に関わる主な違いを整理すると次のようになります(いずれも2026年時点の理解で、確定ではありません)。

V1(現行)とV2(改定案)の主な違い
V1とV2の比較
観点V1(現行)V2(改定案)
Scope3の扱い幅広い網羅性を重視重要な排出に焦点を絞り、柔軟に
目標の立て方全体的に設定Scope別(1・2・3を分けて)
VC外の排出自社の削減の代替には使えない責任を認識する枠組みを新設(クレジット等)
新規目標の必須化V1.3で2027年末まで設定可2028年から必須になる見込み

比較すると、V2は「削減の質と説明責任を高める(厳格化)」一方で「Scope3や企業規模に応じた現実的な運用を認める(柔軟化)」という、二方向の見直しであることが分かります。

セクター別・中小企業(SME)への配慮

SBTiは、すべての企業に一律の負担を求めるのではなく、業種や規模に応じた道筋も整えています。V2でもこの考え方は引き継がれる見込みです。

  • セクター別の基準:電力、FLAG(森林・土地・農業)、金融など、排出構造が特殊な業種向けに、専用の基準やガイダンスの整備・見直しが進んでいる。
  • 中小企業(SME)向けの経路:詳細な算定を求めず、簡便に目標を設定できる経路が用意されており、V2でも取り組みやすさへの配慮が検討されている。

企業への影響と今できる備え

改定は確定前ですが、方向性は「削減の厳格化」と「実務の柔軟化」の両立にあります。発効までは現行基準が有効ですが、次の備えが有効です。

  • Scope3データの整備:焦点を絞る前提として、どのカテゴリの排出が重要かを把握する。GHGプロトコル改定の動きとあわせて算定体制を点検する。
  • 移行計画との整合気候移行計画のなかで、V2を見据えた目標の立て方を検討しておく。
  • クレジット方針の準備:残余排出への対応方針(クレジットの質・使い方)を、削減を最優先とする原則のもとで整理する。
  • 意見公募・情報収集:公表される基準やFAQを継続的に確認し、必要に応じて意見を出す。

まとめ|「厳格化と柔軟化」の両立を読む

SBTiの企業ネットゼロ基準V2は、2025年の意見公募を経て2026年に公表される見込みで、V1.3は2027年末まで併用でき、2028年から新規目標に必須となる見通しです。主な変更は、Scope別の目標設定、Scope3の「焦点を絞り柔軟に」、そしてバリューチェーン外の排出への責任の3点です。

全体として、削減の実効性を高めつつ、企業が現実的に取り組めるよう柔軟性を持たせる——その両立をめざす見直しといえます。GHGプロトコルの改定とも連動するため、算定・目標設定の前提が動くことを見据え、Scope3データや移行計画を早めに点検しておくことが、これからのカーボンニュートラル経営の備えになります。

よくある質問(FAQ)

Q. SBTiの企業ネットゼロ基準V2はいつ発効しますか?

2026年時点では、2025年の第2次意見公募を経て2026年にV2.0が公表される見込みです。現行のV1.3では2027年末まで新規目標を設定でき、2028年1月からは新規目標にV2.0の使用が必須になる見込みとされています。日程は変わりうるため、最新情報の確認が必要です。

Q. V2で何が変わりますか?

主な方向性は3つです。①Scope1・2・3を分けて扱う「Scope別の目標設定」、②重要度の高い排出に焦点を絞り柔軟性を持たせるScope3の枠組み、③バリューチェーン外の排出への責任を認識する新たな仕組み(カーボンクレジットの位置づけを含む)です。いずれも検討中の案です。

Q. カーボンクレジットは使えるようになりますか?

V2の案では、バリューチェーン外の排出に責任を持つ手段としてクレジット等を位置づける枠組みが議論されています。ただしこれは自社のScope削減の代替ではなく、削減を最優先したうえでの追加的な取り組みとして扱う考え方が基本です。最終的な要件は公表される基準で確認が必要です。

Q. 既にSBT認定を受けた企業はどうなりますか?

現行基準で設定した目標がすぐ無効になるわけではありません。移行期間が設けられ、V1.3での新規設定は2027年末まで可能とされています。既存目標の扱いや再設定の要否は、公表されるV2.0の移行ルールで確認することになります。

Q. 日本企業への影響は?

SBTは日本でも多くの企業が取得しており、V2の変更はScope3の算定や目標の立て方、クレジットの扱いに影響します。GHGプロトコルの改定とも重なるため、算定・目標設定の前提が動く可能性を見据え、早めに情報を確認し体制を点検することが重要です。

Q. 近期目標と長期目標の違いは?

近期目標は今後5〜10年程度で大幅に削減する軌道を示すもの、長期目標(ネットゼロ)は2050年ごろにバリューチェーン全体で大幅(一般に約90%)に削減し、残る排出を中和する状態をめざすものです。V2でもこの2階建ての枠組みは基本的に維持される方向とされています。

Q. BVCM(バリューチェーン外の緩和)とは何ですか?

自社のバリューチェーンの外で行う排出削減・除去への貢献(カーボンクレジットの購入など)を指します。V2では、自社の削減を最優先したうえで、残る排出への責任を果たす手段として位置づける枠組みが議論されています。自社削減の代替ではない点が重要です。

Q. 中小企業も対象になりますか?

SBTには中小企業(SME)向けの簡便な経路があり、V2でも規模や業種に応じた配慮が検討されています。大企業と同じ負担を一律に求めるのではなく、取り組みやすい道筋を用意する方向とされます。

出典・参考(一次情報)

※ 本記事はSBTiの公表情報をもとにgreenote編集部が整理した解説です。改定は検討中のため、最新・確定の内容は各公式サイトでご確認ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年8月6日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

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