最終更新日:2026年8月4日
「自社のScope1〜3を減らすだけで、社会全体の脱炭素は進むのだろうか」——高効率な製品や再エネ設備を手がける企業ほど、こうした問いに直面します。そこで注目されているのが削減貢献量、いわゆる「Scope4」です。
削減貢献量とは、自社の製品やサービスが、それを使わなかった場合(ベースライン)と比べて、社会全体の温室効果ガス排出をどれだけ減らしたかを示す指標です。自社のバリューチェーン排出を測るScope3などのインベントリとは、別の考え方とされます。
本記事では、削減貢献量(Scope4)の意味、Scope1〜3との違い、算定の基本的な考え方、WBCSDや日本の標準化の動き、そしてグリーンウォッシュを避けるための注意点を、中立的に整理します。
※削減貢献量のルールは国際的に標準化が進行中で、内容は時点により変わります。本記事は公表情報(2026年時点)に基づく解説です。最新は各公式情報をご確認ください。
ベースライン排出量
その製品を
使わなかった場合
製品導入後の排出量
その製品を
使った場合
≡この記事の目次
Scope4(削減貢献量)とは|製品が社会全体の排出を減らした量
削減貢献量は、英語で avoided emissions(避けられた排出)と呼ばれます。ある製品やサービスが普及することで、社会の別の場所で生じるはずだった排出が「避けられた」分をとらえる考え方です。
「避けられた排出(avoided emissions)」の考え方
たとえば、高効率のエアコンやLED照明、再生可能エネルギーの発電設備などは、従来品や化石燃料由来の電力を使い続けた場合と比べて、使用段階のCO2を減らします。この「減らした分」が削減貢献量です。自社が出した排出ではなく、社会全体の排出を減らした「貢献」を測る点が特徴です。
なぜ「Scope4」と呼ばれるのか
Scope1〜3に続く4番目という語感から「Scope4」と通称されます。ただし、これはGHGプロトコルが定める正式なスコープではありません。WBCSDは、Scope1〜3のインベントリ(排出量の在庫)とは異なる概念であることを明確にするため、「Scope4」ではなく「削減貢献量(avoided emissions)」という用語を推奨しています。
Scope1〜3との違い|インベントリと貢献量は別物
最も重要なのは、削減貢献量とScope3などのScope1〜3を混同しないことです。両者は目的も測る対象も異なります。
| 観点 | Scope1〜3(インベントリ) | 削減貢献量(Scope4) |
|---|---|---|
| 測る対象 | 自社のバリューチェーンで実際に出した排出 | 製品の普及で社会全体が避けられた排出 |
| 基準 | 実際の排出量 | ベースライン(使わなかった場合)との比較 |
| 扱い | 削減目標・情報開示の対象 | 別建てで報告。Scope1〜3の相殺やネットゼロ主張には使わない |
WBCSDのガイダンスでも、削減貢献量はScope1〜3の排出量と相殺(ネッティング)してはならず、別々に報告することが求められています。「自社の排出は実質ゼロ」といった主張の材料に使うことは適切でないとされています。
削減貢献量の算定の考え方|ベースラインとの比較
削減貢献量は、基本的に「その製品を使わなかった場合の排出量(ベースライン)」から「その製品を使った場合の排出量」を差し引いた差分として算定します。前掲の図がその基本式です。算定では次の点が重要になります。
- ベースライン(反実仮想)の設定:比較対象となる「使わなかった場合」をどう置くかで、結果が大きく変わります。
- ライフサイクルでの評価:製造から使用・廃棄までを対象にするLCA(ライフサイクルアセスメント)の考え方を用いることが多いとされます。
- 帰属と二重計上への注意:貢献を誰の分とするか、複数の企業で重複して数えないかに配慮が必要です。
ベースラインの置き方しだいで貢献量は大きくも小さくもなります。そのため、前提条件(電力構成や製品寿命など)を透明に開示することが欠かせないとされます。カーボンフットプリントや温室効果ガス(GHG)の算定と同じく、根拠を示すことが信頼につながります。
ルールと標準化の動き|WBCSDガイダンスとGXリーグ
WBCSD「Guidance on Avoided Emissions」
国際的には、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が2023年に「Guidance on Avoided Emissions」を公表し、2025年に改訂しました。算定の考え方、ベースラインの設定、Scope1〜3とは別建てで報告する原則などを示しています。
日本の動き(GXリーグ・経済産業省)
日本でも、経済産業省が主導するGXリーグが、気候関連の機会における削減貢献量の開示・評価の基本方針や、事業会社向けの推奨開示の事例集を公表しています。2024年のCOP29では、経済産業省とWBCSDが標準化に向けたイベントを共催しました。国内外ともに標準化はなお発展途上とされます。国内ではパナソニックなど、削減貢献量を開示する企業も出てきています。
削減貢献量のメリットと注意点
期待されるメリット
- 排出「削減」だけでなく、社会全体の脱炭素への「貢献」を示せるため、環境性能の高い製品の価値を伝えやすい。
- 脱炭素に資する製品・技術への投資や研究開発を後押しし、カーボンニュートラルに向けたイノベーションを促す効果が期待される。
- 投資家に対し、気候変動を「リスク」だけでなく「機会」として説明する材料になる。
注意点|グリーンウォッシュを避けるために
- Scope1〜3の削減の代わりにはならない。自社の排出量と相殺したり、ネットゼロ達成の根拠に用いたりしない。
- ベースラインの設定しだいで数値が大きく変わるため、前提条件を透明に開示する。
- 「貢献量が大きい」ことだけを強調すると、誇張・グリーンウォッシュと受け取られるおそれがある。
メリット
- 社会全体の脱炭素への「貢献」を示せ、環境性能の高い製品の価値を伝えやすい
- 脱炭素に資する製品・技術への投資やR&Dを後押しし、イノベーションを促す
- 投資家に、気候変動を「リスク」だけでなく「機会」として説明できる
注意点
- Scope1〜3の削減の代わりにはならない(相殺やネットゼロ根拠に使わない)
- ベースライン設定しだいで数値が大きく変わる→前提を透明に開示
- 「貢献量が大きい」ことだけの強調は誇張・グリーンウォッシュの恐れ
削減貢献量(Scope4)は自社削減の代替ではありません。ベースラインなど前提の透明性が、信頼の条件になります。
まとめ|「貢献」を正しく測り、正しく伝える
削減貢献量(Scope4)は、自社の製品やサービスが社会全体の排出をどれだけ減らしたかを、ベースラインとの比較で示す指標です。Scope1〜3のインベントリとは別物で、相殺やネットゼロ主張には使えません。WBCSDや日本のGXリーグが算定・開示の考え方を示していますが、標準化はなお進行中です。
環境性能の高い製品を持つ企業にとって、削減貢献量は自社の価値を伝える有力な手段です。同時に、ベースラインや前提を透明に示し、Scope1〜3の削減と混同させないことが、信頼される開示の条件になります。「貢献」を正しく測り、正しく伝える姿勢が求められます。
よくある質問(FAQ)
Q. Scope4と削減貢献量は同じですか?
ほぼ同じ意味で使われます。「Scope4」は俗称で、正式にはGHGプロトコルのスコープではありません。WBCSDは混同を避けるため「削減貢献量(avoided emissions)」という用語を推奨しています。
Q. 削減貢献量はScope1〜3の削減の代わりになりますか?
なりません。両者は別物で、削減貢献量を自社の排出量と相殺したり、ネットゼロ達成の根拠に使ったりすることは適切でないとされています。Scope1〜3の削減とは別に報告します。
Q. どんな企業が削減貢献量を算定していますか?
高効率機器、再生可能エネルギー設備、断熱材、EVや電池など、社会の排出削減に寄与する製品・サービスを手がける企業が中心です。日本でも複数の企業が開示を始めています。
Q. 算定で最も難しい点は何ですか?
「その製品を使わなかった場合」というベースライン(反実仮想)の設定です。置き方しだいで結果が大きく変わるため、前提条件を透明に開示することが重要とされます。
Q. 削減貢献量に公式なルールはありますか?
WBCSDのガイダンスや、日本のGXリーグ・経済産業省による基本方針・事例集があります。ただし国際的な標準化は現在も進行中で、確定した唯一のルールがあるわけではありません。
出典・参考(一次情報)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月6日