最終更新日:2026年8月4日
EUが、2040年までに温室効果ガスを1990年比で90%削減する——という新たな中間目標を、法的拘束力のある形で決めました。2026年に成立したこの「2040年気候目標」は、2050年のネットゼロに向けたEUの道筋を一段と具体化するもので、世界の気候政策や企業の脱炭素の前提にも影響します。
この記事では、目標の中身(国内削減と国際クレジットの内訳)、2026年の法制化の経緯、2030→2040→2050の位置づけ、導入された「柔軟性」、賛否の論点、そして日本や企業への影響までを、中立的に整理します。カーボンバジェットやパリ協定6条(国際炭素市場)とも関わる、いま押さえておきたいテーマです。
※本記事はEU(欧州委員会・EU理事会等)の公表情報(2026年時点)に基づく解説です。運用の細部は今後の実施法で具体化されます。最新は各公式情報をご確認ください。
国内での削減
少なくともEU域内で実現
国際クレジット
2036年以降・高品質な削減分を活用可
≡この記事の目次
EUの2040年気候目標とは|1990年比90%削減
EUの2040年気候目標とは、2040年までにEU全体のネット温室効果ガス排出量を、1990年と比べて90%削減するという目標です。「ネット」とは、排出量から森林などによる吸収・除去を差し引いた正味の量を指します。
この目標は、EUの気候政策の基本法である「欧州気候法(European Climate Law)」の改正によって、法的拘束力を持つ中間目標として位置づけられました。2050年にカーボンニュートラル(実質ゼロ)を達成するという最終ゴールへの、重要な通過点です。
いつ決まったのか|2026年に法制化された経緯
2040年目標は、2026年に一連の立法手続きを経て正式に決まりました。欧州議会が2026年2月に本文を承認し、EU理事会が3月に最終的に採択、その後EUの官報に掲載されて発効しています。
もともと欧州委員会は、2040年に90%削減という水準を科学的助言もふまえて提案していました。交渉の過程では、産業界の競争力への配慮や、加盟国ごとの事情から柔軟性を求める声もあり、最終的に後述する「柔軟性」を組み込む形で合意に至りました。
目標の中身|国内85%+国際クレジット最大5%
90%という数字の内訳が、今回の重要なポイントです。上図のとおり、少なくとも85%はEU域内での削減で達成し、残る最大5%分は、2036年以降に高品質な国際クレジットで補えるとされています。
この「最大5%の国際クレジット」は、パリ協定6条(国際炭素市場)(国際的な炭素市場のルール)にもとづく高品質なクレジットを想定しています。ただし、環境十全性(本当に削減されているか)や人権への配慮を、その活用に先立って考慮することが条件とされています。国内削減を主としつつ、一部を国際協力で補う設計です。
2030→2040→2050の位置づけ
2040年目標は、単独で存在するのではなく、EUの長期的な道筋のなかの「中間点」です。すでにある2030年目標と、2050年の最終ゴールをつなぐ役割を担います。
| 年 | 目標(1990年比) | 位置づけ |
|---|---|---|
| 2030年 | 55%削減 | 「Fit for 55」の中核目標 |
| 2040年 | 90%削減(新設) | 2026年に法制化された中間目標 |
| 2050年 | 実質ゼロ(ネットゼロ) | 欧州気候法の最終ゴール |
2030年の「55%削減(Fit for 55)」から、2050年の実質ゼロへ。その中間に90%という高い水準を置くことで、削減のペースを緩めない狙いがあります。次の国連への約束(NDC)の土台にもなります。
導入された「柔軟性」|国際クレジット・除去・セクター間
今回の目標には、達成を現実的にするための「柔軟性(flexibility)」がいくつか組み込まれました。主なものは次のとおりです。
- 国際クレジットの限定活用:2036年以降、最大5%分をパリ協定6条(国際炭素市場)にもとづく高品質な国際クレジットで補える。
- 炭素除去の算入:森林や技術による炭素の除去を、目標達成の一部に見込む。
- セクター間の柔軟性:分野をまたいで削減を調整できる余地。排出量取引などの仕組みと連動。
これらは達成を後押しする一方で、「国内での実削減が緩むのではないか」という懸念とも表裏一体です。
賛否の論点|野心と現実のあいだ
2040年目標をめぐっては、評価が分かれています。どちらか一方に偏らず、両面を見ておきましょう。
- 評価する見方:90%という水準自体は野心的で、法的拘束力を持たせたことで政策の予見可能性が高まる。投資の方向性が明確になる。
- 懸念する見方:国際クレジットや柔軟性の容認によって、EU域内での実際の削減が先送りされるおそれがある、と一部の環境団体が指摘する。
- 産業界の視点:エネルギーコストや国際競争力への影響から、現実的な移行ペースを求める声もある。
どの立場にも根拠があり、実際の効果は、今後の具体的な実施法(セクター別の規制やETSの運用など)の設計に左右されます。
評価する見方
90%は野心的な水準。法的拘束力を持たせたことで政策の予見可能性が高まり、投資の方向性が明確になる。
懸念する見方
国際クレジットや柔軟性の容認で、EU域内での実際の削減が先送りされる恐れ、と一部の環境団体が指摘。
産業界の視点
エネルギーコストや国際競争力への影響から、現実的な移行ペースを求める声もある。
日本・企業への影響
EU域内の目標ですが、日本の企業・政策にとっても示唆があります。
- EUで事業する企業:排出量取引やCBAM(炭素国境調整措置)、CSRDなど、2040年目標に沿って強化される規制の影響を受ける。
- 世界の基準への波及:EUの高い目標は、国際的な議論や各国のNDCの水準に影響しうる。日本のGX2040ビジョンなど国内政策との比較の視点にもなる。
- 国際クレジットの需要:EUが高品質クレジットを一部使う方針は、パリ協定6条(国際炭素市場)にもとづく国際炭素市場の発展にも関わる。
まとめ|2050ネットゼロへの「中間点」
EUの2040年気候目標は、2040年までにネット温室効果ガスを1990年比90%削減する、法的拘束力のある中間目標です。2026年に欧州気候法の改正として成立し、国内で少なくとも85%、残り最大5%を2036年以降に高品質な国際クレジットで補える設計となっています。
2030年の55%から2050年のネットゼロへ——その中間に高い水準を置くことで、EUは削減のペースを維持しようとしています。柔軟性の容認には賛否がありますが、方向性は明確です。EUで事業する日本企業はもちろん、世界の気候政策の前提としても、この目標の行方を注視しておく価値があります。
よくある質問(FAQ)
Q. EUの2040年気候目標とは何ですか?
2040年までにEU全体のネット温室効果ガス排出量を、1990年比で90%削減する目標です。EUの基本法である欧州気候法の改正により、法的拘束力のある中間目標として位置づけられました。
Q. いつ決まりましたか?
2026年に立法手続きを経て成立しました。欧州議会が2026年2月に承認し、EU理事会が3月に最終採択、その後官報に掲載されて発効しています。
Q. 90%の内訳はどうなっていますか?
少なくとも85%はEU域内での削減で達成し、残る最大5%分を、2036年以降に高品質な国際クレジット(パリ協定6条にもとづくもの)で補える設計です。国際クレジットの活用には、環境十全性や人権への配慮が条件とされています。
Q. 2030年・2050年の目標との関係は?
2030年の「55%削減(Fit for 55)」と、2050年の実質ゼロ(ネットゼロ)をつなぐ中間点が2040年目標です。削減のペースを緩めないための通過点として設けられました。
Q. なぜ「柔軟性」が議論になったのですか?
国際クレジットの活用、炭素除去の算入、セクター間の調整といった柔軟性は達成を現実的にする一方、EU域内での実際の削減が緩むのではないかという懸念もあり、賛否が分かれました。
Q. 国際クレジットはどんなものが使えますか?
高品質な国際クレジットが想定されており、パリ協定6条にもとづく仕組みが念頭に置かれています。環境十全性(本当に削減されているか)や人権への配慮を、活用に先立って考慮することが求められます。
Q. 日本企業に影響はありますか?
EUで事業する企業は、2040年目標に沿って強化されるETS・CBAM・CSRDなどの影響を受けます。また、EUの高い目標は各国のNDCや国際的な議論にも波及し、国際クレジット市場の発展にも関わります。
Q. 目標は達成できるのですか?
達成の可否は、今後の具体的な実施法(セクター別の規制やETSの運用、除去の扱いなど)の設計に左右されます。法的拘束力があるため、EUはこれに沿った政策を進めることになりますが、実効性は継続的に検証されます。
出典・参考(一次情報)
- European Commission|2040 climate target
- European Commission|European Climate Law
- Council of the EU|2040 climate target 最終採択(2026年3月)
※ 本記事はEUの公表情報をもとにgreenote編集部が整理した解説です。実施の細部は今後具体化されるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
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最終更新日:2026年8月6日