バッテリーリサイクルとは|重要鉱物の回収・都市鉱山とEU電池規則を解説

2026.07.11
気候変動

EV(電気自動車)の普及とともに、その心臓部であるリチウムイオン電池を「使い終わったあと、どうするか」という問いが急速に重みを増しています。ある海外企業がバッテリーや電子廃棄物からの金属リサイクル事業を拡大するなど、この分野の動きは活発です。バッテリーリサイクルとは、使用済みのリチウムイオン電池などから、リチウム・コバルト・ニッケルといった重要鉱物を回収し、再び資源として活用する取り組みのことです。本記事では、その意義と技術、EU電池規則をはじめとする世界の規制、そして日本の動向を、国際機関や官庁の情報をもとに整理します。

この記事の目次

バッテリーリサイクルとは(おさらい)

まず、なぜいまバッテリーリサイクルが重要視されるのか、その背景から整理しましょう。

なぜバッテリーリサイクルなのか

重要鉱物の偏在・供給リスク

コバルト=コンゴが採掘の約70%
ニッケル=インドネシアが約40%
精製は中国が高シェア

リサイクルの3つの意義

資源確保
(都市鉱山)
供給網の強靭化
(特定国依存の低減)
環境負荷低減
(新規採掘比GHG約80%減)

EV普及でリチウム需要は2040年までに約5倍の見通し(IEA)。

出典:IEA Global Critical Minerals Outlook等をもとにgreenote作成

急増する重要鉱物の需要と供給リスク

EVや蓄電池の急拡大で、電池に使う鉱物の需要が急増しています。IEA(国際エネルギー機関)によれば、リチウムの需要は2024年に約30%増加し、今後の見通しではリチウム需要は2040年までに約5倍になるとされます。

問題は、これらの鉱物が産出・精製の地理的に偏った「重要鉱物(クリティカルミネラル)」である点です。コバルトはコンゴ民主共和国が採掘の約70%、ニッケルはインドネシアが約40%を占め、精製工程では中国が高いシェアを握ります。近年は輸出規制の導入など地政学リスクも顕在化しており、電池の原料を安定確保できるかは、経済安全保障の課題にもなっています。

資源確保・供給網強靭化・環境負荷低減の3つの意義

こうした背景から、バッテリーリサイクルには大きく3つの意義があります。第一に資源確保――国内にたまっていく使用済み電池を「都市鉱山」として活用できます。第二に供給網の強靭化――リサイクルで特定国への依存を減らせます。第三に環境負荷の低減です。

IEAは、リサイクル由来のニッケル・コバルト・リチウムは、新規に採掘した金属よりGHG(温室効果ガス)排出が平均約80%少ないと試算しています。バッテリーリサイクルは、単なる廃棄物処理ではなく、循環経済(サーキュラーエコノミー)と資源安全保障、脱炭素を同時に前進させる取り組みなのです。

どうリサイクルする?――技術プロセス

使用済み電池から金属を取り出す工程と、2つの主要な製錬方式を整理します。

使用済み電池から金属を取り出す

放電・解体
破砕
ブラックマス
(正負極材の粉体)を回収
金属を抽出

乾式製錬(火法)

高温で溶融。混合電池をまとめて処理できるが、リチウムが失われやすくエネルギー消費が大きい

湿式製錬(湿式)

酸などの水溶液で選択的に溶解・分離。回収率が高くエネルギーは比較的低いが、廃液処理が課題

結晶構造を保つダイレクトリサイクルは実証・パイロット段階。

出典:各種技術資料をもとにgreenote作成

解体・破砕して「ブラックマス」を回収

バッテリーリサイクルの基本工程は、放電・解体 → 破砕 → 金属抽出という流れです。使用済み電池を安全に放電・解体したあと破砕すると、正極材と負極材の粉体である「ブラックマス(black mass)」が得られます。このブラックマスに、リチウム・コバルト・ニッケルといった回収したい金属が凝縮されています。

このブラックマスから、いかに効率よく金属を取り出すか。ここで用いられるのが、次に述べる2つの製錬方式です。

乾式製錬と湿式製錬の違い

金属回収の主な方式は、乾式製錬(火法)と湿式製錬(湿式)の2つです。乾式製錬は、高温の炉でブラックマスを溶融する方式です。さまざまな化学組成の電池をまとめて処理でき、前処理が少ないのが利点ですが、リチウムがスラグ側に失われやすく、エネルギー消費とGHG排出が大きいという弱点があります。

一方の湿式製錬は、酸などの水溶液を使って、リチウム・コバルト・ニッケルなどを選択的に溶解・分離する方式です。回収率が高く(金属によっては最大約98%とされます)、消費エネルギーやGHGも比較的低く抑えられますが、廃液の処理が課題になります。近年は、正極材を元素まで分解せず結晶構造を保ったまま再生するダイレクトリサイクルという新方式の開発も進んでいますが、まだ実証・パイロット段階です。

リユース(セカンドライフ)とリサイクルの違い

使い終わった電池は、すぐに素材化するとは限りません。段階的なカスケード利用が基本です。

まず使い切り、最後に素材へ戻す

① EVで使用車載用
② リユース(セカンドライフ)容量6〜8割を保持→定置用蓄電池などに再利用
③ リサイクル(素材化)リチウム・コバルト等の金属を回収

使えるうちは使い切り、最後に素材へ戻すのが資源循環上の優先順位。日産・住友商事のフォーアールエナジー等が国内事例。

出典:各社公式情報をもとにgreenote作成

「リサイクル」と混同されがちですが、その前段に「リユース(セカンドライフ)」という段階があります。EV用として役目を終えた電池でも、容量の6〜8割程度を保持している場合が多く、いきなり素材に戻すのはもったいないのです。

そこで、まず定置用蓄電池などにリユース(セカンドライフ)し、性能が尽きた段階で最終的にリサイクル(素材化)する、という段階的なカスケード利用が、資源循環上は望ましいとされます。日本では、日産自動車と住友商事が2010年に設立したフォーアールエナジー(4R Energy)が、使用済みEV電池を性能で選別し、定置用蓄電池などにリユースする取り組みを行っています。「使えるうちは使い切り、最後に素材へ戻す」という発想が、資源を最大限に活かす鍵です。

世界をリードするEU電池規則

バッテリーリサイクルを法制度で強力に牽引しているのが、EUの電池規則です。

EU電池規則(2024年2月発効)の主な義務

材料回収率目標

2027年末:コバルト・ニッケル等90%/リチウム50% → 2031年末:95%/リチウム80%

リサイクル材の含有義務

2031年8月:コバルト16%・リチウム6%・ニッケル6% → 2036年:コバルト26%・リチウム12%・ニッケル15%

電池パスポート

ラベリング2026年 → QRコード2027年(来歴・含有・カーボンフットプリントを可視化)

EU市場で電池や電池搭載製品を扱う企業に広く影響。日本企業も対応が必要

出典:EUR-Lex「電池規則(2023/1542)」の公開情報をもとにgreenote作成

回収率目標とリサイクル材の含有義務

EUは2023年に新しい電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)を成立させ、2024年2月18日に発効しました。義務は段階的に適用されます。EUR-Lexの公式要約などによれば、廃電池からの材料回収率目標は、2027年末までにコバルト・銅・鉛・ニッケルで90%、リチウムで50%、さらに2031年末までにコバルト・ニッケル等で95%、リチウムで80%へと引き上げられます。

さらに画期的なのが、新品電池へのリサイクル材の含有義務です。2031年8月から、コバルト16%・リチウム6%・ニッケル6%(鉛85%)のリサイクル材使用が求められ、2036年からはコバルト26%・リチウム12%・ニッケル15%へと引き上げられます。「回収する」だけでなく「再び使う」ことまで義務づける点が、循環を強制する仕組みになっています。

電池パスポートによるトレーサビリティ

もう一つの柱が、電池のトレーサビリティ(来歴の追跡)です。EU電池規則は、電池のカーボンフットプリント宣言の義務化に加え、産業用・EV電池などに電子的な「電池パスポート(Battery Passport)」を義務づけます。電池パスポートには、材料の由来やリサイクル材の含有、カーボンフットプリントなどの情報が記録されます。

ラベリングは2026年から、QRコードは2027年から適用される予定です。これは、EPR(拡大生産者責任)の考え方を電池に徹底し、生産から廃棄・リサイクルまでの情報を可視化する試みだといえます。EU市場で電池や電池を搭載した製品を扱う企業には広く影響するため、日本企業にとっても他人事ではありません。

日本の動向と国内の取り組み

日本も蓄電池戦略のなかでリサイクルを重視し、国内の体制づくりが進んでいます。

日本の動向と国内の取り組み

経済産業省「蓄電池・電源産業戦略」(2026年6月改訂):国内製造基盤150GWh/年・リサイクル・供給網強靭化を位置づけ。EU電池規則の2031年義務に備え、2028〜2030年に国内リサイクル体制の整備が必要。
住友金属鉱山東予にリサイクルプラント・2026年中頃完成・年約1万トン計画
JX金属敦賀・リチウム回収率90%超・CFP約40%減・2026年度下期稼働へ
フォーアールエナジー日産・住友商事。使用済みEV電池のセカンドライフ

企業の計画値には計画段階のものを含む

出典:経済産業省・各社公式発表をもとにgreenote作成

日本でも、経済産業省が蓄電池産業戦略を2026年6月に「蓄電池・電源産業戦略」へ改訂し、国内製造基盤150GWh/年(2030年代半ば)などの目標とともに、リサイクル・カーボンフットプリント対応・供給網の強靭化を明確に位置づけました。前述のEU電池規則の2031年のリサイクル材使用義務に備え、2028〜2030年に国内のリサイクル体制を整備する必要があるとされています。

国内企業の取り組みも動き出しています。住友金属鉱山は、使用済み電池からニッケル・コバルト・リチウム・銅を回収する新プロセスを確立し、東予地区にリサイクルプラントを建設して2026年中頃の完成・処理能力年約1万トン(電池セル換算)を計画しています。JX金属は福井県敦賀市で、廃車載電池からリチウム回収率90%以上・カーボンフットプリント約40%削減を実現する新プロセスを開発し、2026年度下期の稼働を目指しています。なお、これらには計画段階のものも含むため、今後の進捗を見ていく必要があります。

バッテリーリサイクルの課題

普及に向けては、技術・経済の両面で越えるべき課題も残っています。

普及に向けた5つの課題

1
回収ネットワーク使用済み電池をどう集めるか・制度と費用
2
安全性残電荷による発火・熱暴走のリスク
3
経済性新規採掘の金属価格が下がるとリサイクル材が競争力を失う
4
多様な電池化学NMC・LFPなど正極材の多様化への対応
5
タイムラグEV普及と廃棄発生に約15年の差があり、当面は原料(回収電池)が不足しがち

量産によるコスト低減と、回収・トレーサビリティの制度整備が普及の鍵。

出典:各種公開情報・学術資料をもとにgreenote作成

期待の大きいバッテリーリサイクルですが、課題も残ります。第一に回収ネットワークです。使用済み電池をいかに集めるか、回収・選別の制度や費用が課題になります。第二に安全性――残った電荷による短絡や熱暴走、発火のリスクがあり、安全な解体・分離が技術的なボトルネックです。

第三に経済性です。新規採掘(バージン)金属の価格が下落すると、リサイクル材が価格競争力を失います。近年のリチウム市況は、この経済的な脆弱性を露呈しました。第四に、NMCやLFPなど多様な電池化学への対応。そして第五に、EV普及と使用済み電池の発生には約15年のタイムラグがあり、まとまった量の電池が回収可能になるのは2030年代後半以降とされる点です。当面は原料となる使用済み電池がむしろ不足しがちで、量産によるコスト低減と制度整備が普及の鍵になります。

バッテリーリサイクルをどう捉えるか

バッテリーリサイクルは、使用済みリチウムイオン電池から重要鉱物を回収し、資源確保・供給網の強靭化・環境負荷低減を同時に実現する取り組みです。技術的にはブラックマスの回収を経て乾式・湿式製錬で金属を取り出し、その前段にはセカンドライフというリユースの段階があります。EUは電池規則で回収率やリサイクル材含有、電池パスポートを段階的に義務づけ、世界の潮流を主導しています。日本も蓄電池戦略のなかでリサイクルを重視し、国内の体制整備が動き始めました。

企業にとっての要点は、バッテリーリサイクルが廃棄物処理ではなく、資源安全保障と脱炭素、循環経済が交差する戦略領域になっているということです。とりわけEU電池規則は、EU市場で電池や電池搭載製品を扱う日本企業にも対応を迫ります。回収・安全性・経済性といった課題は残るものの、EV時代の資源循環をどう設計するかは、これからのサステナビリティ経営の重要なテーマになっていくでしょう。

なお本記事は、IEA・経済産業省・欧州委員会(EUR-Lex)などの公開情報および各社の公式発表をもとに整理したものです。各種の数値や目標、企業の計画には見通しや計画段階のものが含まれ、変更されることがあります。特定の企業・技術・投資を推奨するものではありません。最新の状況は一次情報をご確認ください。

あわせて読みたい:脱炭素と重要鉱物・供給網の地政学リスクの交差点 → 経済安全保障とサステナビリティ(ESG)とは|重要鉱物・サプライチェーンと脱炭素

よくある質問(FAQ)

Q. なぜバッテリーリサイクルが重要なのですか?

A. EV(電気自動車)や蓄電池の急拡大で、電池に使うリチウム・コバルト・ニッケルなどの重要鉱物(クリティカルミネラル)の需要が急増しているためです。これらの鉱物は産出国や精製が特定の国に偏っており、供給リスク・地政学リスクを抱えています。使用済み電池を「都市鉱山」としてリサイクルすれば、国内での資源確保、特定国依存を減らす供給網の強靭化、そして新規採掘に比べた環境負荷の低減という3つの意義があります。IEAは、リサイクル由来の金属は新規採掘品よりGHG排出が平均約80%少ないと試算しています。

Q. 使い終わった電池はすぐにリサイクルされるのですか?

A. 必ずしもそうではありません。EV用として役目を終えた電池でも、容量の6〜8割程度を保持している場合が多く、まず定置用蓄電池などに「リユース(セカンドライフ)」として再利用し、最終的に素材まで戻す「リサイクル」を行う、という段階的なカスケード利用が資源循環上は望ましいとされます。日本でも、日産自動車と住友商事が設立したフォーアールエナジーが、使用済みEV電池を性能で選別してリユースする取り組みを行っています。

Q. EUの電池規則ではどんなことが義務づけられますか?

A. 2024年2月に発効したEU電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)では、廃電池からの材料回収率目標(2031年末までにコバルト・ニッケル等95%、リチウム80%)や、新品電池へのリサイクル材の含有義務(2031年8月からコバルト16%・リチウム6%など、2036年から引き上げ)が段階的に課されます。加えて、電池のカーボンフットプリント宣言や、来歴・含有情報を電子化する「電池パスポート」も導入され、QRコードは2027年から適用されます。EU市場で電池や電池搭載製品を扱う企業に広く影響するため、日本企業も対応が求められます。

出典・参考(一次情報)

最終更新日:2026年7月11日

この記事の著者

greenote編集部

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サステナビリティ実務・編集統括

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