気候移行計画(Transition Plan)とは|開示で問われる脱炭素の道筋と作り方

2026.06.16
サステナビリティ開示

「2050年カーボンニュートラル」——いまや多くの企業が、こうした目標を掲げています。けれども、目標を掲げることと、そこへ実際に辿り着くことは別の話です。では、どうやって辿り着くのか。その道筋を描いたものが、気候移行計画(Transition Plan)です。

本記事では、気候移行計画とは何かを整理したうえで、TPT開示フレームワークの要素、作り方のステップ、開示制度との連携、そして企業に求められる視点までを解説します。脱炭素そのものの全体像は脱炭素・カーボンニュートラルとは?完全ガイドもあわせてご覧ください。

目次

気候移行計画(Transition Plan)とは

「2050年ネットゼロ」を掲げる企業は増えました。では、そこへどう辿り着くのか。その道筋を示すのが、気候移行計画です。

ネットゼロへの「道筋」を示す行動計画

気候移行計画とは、企業がネットゼロ・脱炭素へどう移行していくかを示す、行動計画です。最終的な目標だけでなく、それをいつ、何によって、どう実現するのか。削減の手段、必要な投資、責任を負う体制まで含めて描きます。

いわば、脱炭素の「設計図」です。目的地(ネットゼロ)への地図とルートを示すもの、と言い換えてもよいでしょう。目標が「どこへ行くか」なら、移行計画は「どうやって行くか」を語ります。

目標だけでは足りない時代に

なぜ、いま移行計画なのでしょうか。理由は、目標を掲げる企業が増えた一方で、その実現性が問われるようになったからです。立派なネットゼロ宣言も、達成の道筋がなければ、ただのスローガンに終わりかねません。

投資家や社会は、そこを見抜くようになりました。「目標は分かった。で、どうやって実現するのか」。この問いに具体的に答えるのが、移行計画です。目標の時代から、計画と実行の時代へ。潮目は変わりつつあります。

移行計画の要素|TPT開示フレームワーク

移行計画には、国際的な型があります。英国のTPTが示した開示フレームワークが、その代表です。

移行計画の型|TPT開示フレームワーク

3つの原則のもとで、5つの要素を埋めていく

■ 3つの原則

Ambition
野心

Action
行動

Accountability
説明責任

■ 5つの要素

1

基盤

2

実行戦略

3

エンゲージメント戦略

4

指標と目標

5

ガバナンス

英国TPTが2023年に公表。2024年にIFRS財団・ISSBへ引き継がれました。

出典:TPT開示フレームワーク・IFRS財団をもとにgreenote作成

3つの原則|野心・行動・説明責任

英国の移行計画タスクフォース(TPT:Transition Plan Taskforce)は、2023年10月にTPT開示フレームワークを公表しました。世界の移行計画づくりの、ひとつの基準になっています。

その土台にあるのが、3つの原則です。第一に「Ambition(野心)」。1.5℃目標と整合する、野心的な移行を目指すこと。第二に「Action(行動)」。短期・中期の具体的な行動を示すこと。第三に「Accountability(説明責任)」。進捗を測り、説明する仕組みを持つことです。

5つの要素で構成する

この3原則のもとで、TPTフレームワークは5つの要素を定めています。1つ目は「基盤」。移行計画全体の目的や戦略の前提です。2つ目は「実行戦略」。事業や製品、オペレーションをどう変えるか。3つ目は「エンゲージメント戦略」。サプライヤーや顧客、政策当局とどう関わるか。

4つ目は「指標と目標」。進捗を測る数値です。そして5つ目が「ガバナンス」。誰が監督し、責任を負うかを示します。これら5要素を埋めていくことで、移行計画の全体像が形になります。

TPTからIFRS財団・ISSBへ

TPTフレームワークには、その後の展開があります。2024年6月、IFRS財団がTPTの開示フレームワークなどの成果物を引き継ぎました。これにより、移行計画の考え方は、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の取り組みへと統合されています。

つまり、移行計画は一国の枠組みにとどまらず、世界の開示基準の一部になりつつあります。TPTが築いた型は、これからの国際的な土台として生き続けているのです。

移行計画の作り方(ステップ)

移行計画は、どう作ればよいのでしょうか。基本のステップを整理します。

移行計画の作り方(5ステップ)

目標だけでなく「実現の道筋」を描く

1

目標設定

ネットゼロと中間目標(SBT整合)

2

削減レバー

省エネ・再エネ・電化・事業転換

3

投資・財務計画

設備投資・社内炭素価格

4

ガバナンス・体制

経営の監督・エンゲージメント

5

開示・見直し

進捗を開示し定期的に更新

Scope1・2に加えScope3も視野に。目標→施策→投資→ガバナンスを結びつけます。

出典:TPT・GFANZ等のガイダンスをもとにgreenote作成

目標設定|ネットゼロと中間目標

すべての出発点は、目標の設定です。最終的なネットゼロの年と、そこへ至る途中の中間目標を定めます。重要なのは、これらが科学的根拠に基づいていることです。1.5℃目標と整合する、SBT(科学的根拠に基づく目標)との整合が望ましいとされます。SBTの基本はSBT(科学的根拠に基づく目標)とはもあわせてご覧ください。

中間目標が大切なのは、長期目標だけでは進捗が見えないからです。2030年、2035年といった節目の目標があってはじめて、計画は実行可能なものになります。

削減レバーと投資計画

次に、目標をどう達成するかです。ここで描くのが、削減レバー、つまり排出を減らす具体的な手段です。省エネ、再生可能エネルギーの調達、設備の電化、そして製品・事業ポートフォリオの転換など。自社にとって効果の大きい手段を見極めます。

そして、それを支えるのが投資・財務計画です。削減には、設備投資が要ります。社内でCO2に価格をつけるインターナルカーボンプライシングを使えば、投資判断に脱炭素を織り込めます。計画と資金を結びつけることが、実行の鍵です。

ガバナンスとエンゲージメント

最後に、計画を動かす仕組みです。経営層が移行計画を監督し、責任を持つガバナンスが欠かせません。誰が進捗を管理し、どう報酬と結びつけるか。こうした体制が、計画に実効性を与えます。

あわせて重要なのが、エンゲージメントです。排出の多くはサプライチェーンで生じます。サプライヤーや顧客、ときには政策当局とも連携しなければ、削減は進みません。Scope1・2だけでなく、Scope3まで視野に入れることが求められます。

開示制度との連携

移行計画は、いまや任意ではありません。世界の開示制度が、その開示を求め始めています。

移行計画と開示制度の連携

「任意の取り組み」から「制度的な開示・提出」へ

ISSB・SSBJ

開示

IFRS S2・SSBJ基準が、移行計画があれば開示を求める

CSRD(EU)

開示

ESRSのE1(気候変動)が移行計画の開示を求める

GX-ETS(日本)

提出

排出量取引制度が対象事業者に移行計画の提出を求める

世界でも日本でも、移行計画は求められるものへ。目標と実行を結びつけ、グリーンウォッシュを防ぎます。

出典:ISSB・SSBJ・欧州委員会(CSRD)・経済産業省(GX-ETS)をもとにgreenote作成

ISSB・SSBJ(IFRS S2)が開示を求める

開示制度の中心にあるのが、ISSBです。ISSBのIFRS S2(気候関連開示)は、企業に移行計画があれば、その開示を求めます。これを基礎とする日本のSSBJ気候関連開示基準も、同様です。SSBJ基準の詳細はSSBJ基準とはもあわせてご覧ください。

つまり、有価証券報告書などの法定開示のなかで、移行計画を語る場面が生まれます。移行計画は、開示の「戦略」を構成する重要な要素になりました。

CSRD・GX-ETSでも移行計画

求めるのは、ISSB・SSBJだけではありません。EUのCSRD(その開示基準ESRSのうち気候変動を扱うE1)も、気候変動緩和の移行計画の開示を求めます。さらに日本でも、排出量取引制度のGX-ETSが、対象事業者に移行計画の提出を求めています。GX-ETSの実務はGX-ETS本格化で企業は何をすべきかもあわせてご覧ください。

世界でも日本でも、開示でも規制でも。移行計画は、さまざまな制度に組み込まれつつあります。任意の取り組みから、求められるものへと、位置づけが変わってきました。

グリーンウォッシュを防ぐ

なぜ制度が移行計画を求めるのか。大きな理由が、グリーンウォッシュの防止です。立派な目標を掲げても、実行が伴わなければ、見せかけの環境配慮になりかねません。移行計画は、目標と実行を結びつけることで、その隙を埋めます。

具体的な道筋を開示すれば、進捗もチェックされます。言いっぱなしを許さない。この規律が、企業の脱炭素を本物に近づけます。

企業に求められる視点

移行計画を、形だけで終わらせないために。企業に求められる視点を整理します。

「絵に描いた餅」にしない

第一に、実現性です。移行計画は、作ること自体が目的ではありません。野心的すぎて実行できない計画も、保守的すぎて意味のない計画も、どちらも問題です。背伸びと現実のバランスを取り、本当に実行できる計画を描くことが大切です。

「絵に描いた餅」は、かえって信頼を損ないます。掲げた以上は、やり遂げる。その覚悟が伝わる計画こそ、評価されます。

投資計画と結びつける

第二に、お金との結びつきです。移行計画は、経営計画や投資計画と切り離しては機能しません。削減施策にいくら投じるのか。その投資を、いつ、どう回収するのか。財務の裏付けがあってはじめて、計画は動き出します。

脱炭素を、環境部門だけの話に閉じ込めない。経営の数字と結びつけることが、実行への近道です。

定期的に見直し更新する

第三に、見直しです。技術は進歩し、政策は変わり、市場も動きます。一度作った移行計画が、何年も最適であり続けるとは限りません。だからこそ、定期的に進捗を点検し、計画を更新していくことが重要です。

移行計画は、作って終わりの文書ではありません。状況にあわせて磨き続ける、生きた計画です。その姿勢が、長い脱炭素の道のりを支えます。

まとめ|移行計画は脱炭素の「設計図」

気候移行計画は、ネットゼロという目標を、実行可能な道筋へと落とし込む営みです。最後に、要点を振り返りましょう。

  • 気候移行計画とは、ネットゼロ・脱炭素への道筋を示す行動計画。目標だけでなく「どう実現するか」を語る
  • 英国のTPT開示フレームワークが型を示した(3原則=野心・行動・説明責任/5要素)。2024年にIFRS財団・ISSBへ引き継がれた
  • ISSB・SSBJ(IFRS S2)・CSRD・GX-ETSが移行計画の開示・提出を求める。任意から制度的なものへ
  • 作成の鍵は、目標→削減レバー→投資→ガバナンスを結びつけ、Scope3まで視野に入れること

目標を掲げる時代から、計画と実行で示す時代へ。移行計画は、その変化の象徴です。「絵に描いた餅」にせず、投資と結びつけ、磨き続ける。そうした移行計画こそが、企業の脱炭素を前へ進めます。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

参考(出典):移行計画タスクフォース(TPT)開示フレームワーク、IFRS財団・ISSB、SSBJ、欧州委員会(CSRD/ESRS)、経済産業省(GX-ETS)ほか

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

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サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年6月20日

この記事の著者

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