「カーボンニュートラルを宣言したいが、どこまでやれば言い切れるのか」「クレジットで相殺すれば達成と書いてよいのか」。宣言の文面を作る段階で必ず止まる問いです。
ISO14068とは、カーボンニュートラルの達成と主張のしかたを定めた国際規格です。正式にはISO 14068-1:2023で、ISOの規格情報によれば「Climate change management — Transition to net zero — Part 1: Carbon neutrality」という表題を持ちます。カーボンニュートラルという言葉の定義ではなく、それを名乗るための手続きを決めた規格だと理解すると位置づけが分かります。
最大のポイントは順序です。ISOは、この規格がバリューチェーン内での直接・間接の排出削減と除去の強化を、オフセットより優先する階層的なアプローチを用いると説明しています。つまりオフセットは最後に来ます。この記事では、規格の中身、算定規格との役割分担、日本の実務での使い方、そして注意点までを整理します。
※規格は改定されます。本記事は公表情報(2026年9月時点)に基づく解説です。ISO 14068-1は改訂段階に入っているため、実務判断の際は一次情報の最新版をご確認ください。
この記事の目次
ISO14068とは|カーボンニュートラルの主張に手続きを与えた規格
カーボンニュートラルという言葉は、長らく各社が自分の定義で使ってきました。どの範囲の排出を数えるか、どこまで減らしてから相殺するか、相殺に使うクレジットは何でもよいのか。判断がばらつけば、宣言そのものが比べられなくなります。
ISO14068は、そこに共通の手続きを与えた規格です。ISOの説明では、カーボンニュートラルの達成と実証のための原則・要求事項・指針を示し、カーボンフットプリントの算定、削減、オフセットに焦点を当てるとされています。
2023年11月発行、44ページの国際規格
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 規格番号 | ISO 14068-1:2023(第1版) |
| 表題 | Climate change management — Transition to net zero — Part 1: Carbon neutrality |
| 発行 | 2023年11月 |
| ページ数 | 44ページ |
| 担当委員会 | ISO/TC 207/SC 7(気候変動マネジメント) |
| 現在の段階 | 改訂予定(ISOの規格ページでは、ISO 14068に置き換えられる見込みと示されている) |
出典:ISOの規格情報ページ(2026年9月時点)
ISO/TC 207は環境マネジメントの技術委員会で、LCAやISO14001も同じ系列です。カーボンニュートラルが環境マネジメントの延長線上に置かれたことが、この所属から読み取れます。
なぜ規格が必要になったのか
ISOは、この規格の意義として、カーボンニュートラルの取り組みが真実であり、公正であり、科学的に妥当であり、透明に伝えられることを確保する点を挙げています。裏を返せば、そうでない宣言が存在したということです。
実際、表示の裏づけを問う動きは規制側でも強まっています。EUのグリーンクレーム指令の議論や、グリーンウォッシュへの批判はその流れです。ISO14068は、主張する側が自分で手続きを説明できるようにする道具として使えます。
中核は順序|削減が先、オフセットは後
この規格を一言で説明するなら、順序を決めた規格です。
対象の範囲を決めて測る
バリューチェーン内で減らす
残った分だけを相殺
バリューチェーン内の削減と除去を優先する
ISOの説明では、この規格はバリューチェーン内での直接・間接のGHG排出削減と、除去の強化を、オフセットより優先する階層的アプローチを用います。あわせて、科学に基づく野心的な削減戦略を促し、バリューチェーンとライフサイクルを包括的に捉える管理を促すとされています。
ここで言う「間接」には、Scope3にあたる範囲が入ってきます。自社の工場だけを見て中立を名乗る形は、この規格の考え方とは合いません。範囲の設定が最初の分岐点になります。
「まずクレジットで相殺」が通らない理由
実務でよくある発想は、排出量を算定したら同量のクレジットを買って相殺し、カーボンニュートラルと宣言する形です。手続きとしては速いのですが、規格の階層に照らすと順序が逆になります。
優先されるのは、まず自社と調達先で減らすこと、そして除去を増やすことです。オフセットはその後に残った分に充てるものとして位置づけられています。カーボンクレジットの質が問われるのも同じ理由です。減らす努力を置き換える手段として使えば、主張の説明が成り立たなくなります。
算定の規格との関係|14064-1と14067の役割分担
ISO14068は算定方法そのものを定めた規格ではありません。数字を作る部分は、同じISOの算定規格が担います。ISO 14064-1を含むシリーズ全体の構成はISO14064とはで解説しました。こちらは2025年にPart 4、2026年にPart 5が加わっています。
| 規格 | 対象 | 内容 | 現況 |
|---|---|---|---|
| ISO 14064-1:2018 | 組織 | 組織レベルでのGHG排出量と除去量の算定・報告の仕様と指針(第2版・2018年12月) | 2024年の見直しで現行版として確認済み |
| ISO 14067:2018 | 製品 | 製品のカーボンフットプリント(CFP)の算定と報告。LCAの規格(ISO 14040・14044)と整合(第1版・2018年8月) | 2024年の見直しで現行版として確認済み |
| ISO 14068-1:2023 | 組織・製品など | カーボンニュートラルの達成と実証の原則・要求事項・指針(第1版・2023年11月) | 改訂予定の段階 |
出典:ISOの各規格情報ページ(2026年9月時点)
整理すると、14064-1と14067で数字を作り、14068-1でその数字をどう扱えば中立と言えるかを決めるという分担です。GHGプロトコルで算定している会社であれば、数字の作り方はすでに手元にあります。追加で必要になるのは、削減と相殺の順序、そして主張の書き方の部分です。
主張を裏づける4つの性質
ISOが挙げる、この規格が確保しようとする性質は4つです。宣言文を作るときの自己点検にそのまま使えます。
| 性質 | 問い | 書類で示すもの |
|---|---|---|
| 真実である | 書いたことが実際に行われているか | 算定の根拠、削減施策の実施記録 |
| 公正である | 都合のよい範囲だけを切り出していないか | 対象範囲の定義と、除外した項目の理由 |
| 科学的に妥当 | 算定方法と削減計画に根拠があるか | 採用した係数、方法論、目標の設定根拠 |
| 透明に伝える | 第三者が追えるように開示しているか | 公表文書、使用クレジットの種類と数量 |
出典:ISOの規格情報ページの記載をもとにgreenote作成
4つ目の透明性は、日本企業がいちばん手を抜きやすい部分です。クレジットの種類と数量を書かずに「相殺しました」だけを書く形が典型です。第三者による検証を受ける場合の考え方は第三者保証の記事で扱っています。
日本の実務でどう使うか
日本ではISO14068の認証取得が広く行われている段階ではありません。ただし、規格の考え方は宣言文の設計にそのまま使えます。
PAS 2060からの流れ
この領域では、英国規格協会(BSI)のPAS 2060という仕様が先行して使われてきました。BSIの規格情報では、PAS 2060は「カーボンニュートラルの実証に関する仕様」と説明されており、2010年版は2010年4月15日に発行、2014年4月29日に廃止という履歴が示されています。
つまり、カーボンニュートラルの実証を手続き化する試みは民間規格として先にあり、それが国際規格として整備されたという流れです。PAS 2060を参照して社内ルールを作った会社は、ISO14068に移す際の差分が小さくなります。
J-クレジットなどの位置づけ
相殺に使うクレジットの選択では、国内制度が出発点になります。J-クレジット制度は、環境省の説明のとおり温室効果ガスの排出削減量や吸収量を国が認証する制度です。森林由来のクレジットのように、除去に近い性質のものも含まれます。
規格の階層では除去の強化が削減と並んで優先されるため、削減系のクレジットと除去系のクレジットを区別して管理しておくほうが、後から説明しやすくなります。カーボンフットプリントの算定と合わせて、台帳の形で残すのが現実的です。
使う場合の進め方|5つのステップ
宣言を作る側の手順に落とすと、次の順になります。
| ステップ | やること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| ① 対象を決める | 組織全体か、事業所か、製品か。範囲と期間を定義する | 都合のよい範囲だけを切り出してしまう |
| ② 算定する | 14064-1や14067の考え方でフットプリントを出す | 間接排出を落として過少に出す |
| ③ 削減計画を作る | バリューチェーン内の削減と除去を先に置く | 初年度からオフセット前提で組む |
| ④ 残余を相殺する | 残った分にクレジットを充て、種類と数量を記録する | クレジットの質と種類を記録に残さない |
| ⑤ 主張を書く | 範囲・方法・使用クレジットを開示できる形で書く | 「カーボンニュートラル達成」だけを書く |
⑤で書くべき内容が①〜④の記録から機械的に出てくる状態が、規格の求める形に近いものです。脱炭素の取り組み全体では、この記録づくりが最も後回しにされます。
注意点|認証マークではなく、改訂も予定されている
2点、注意しておくべきことがあります。
- ISOは認証機関ではありません。規格に適合しているかの検証は、第三者機関が行います。ISOのロゴを自社の宣言に使えるようになる制度ではない点は押さえておく必要があります。
- ISO 14068-1は改訂段階に入っています。ISOの規格ページでは段階が改訂予定とされ、ISO 14068に置き換えられる見込みだと示されています。ISOの規格は5年ごとに見直される仕組みです。社内文書に規格番号を書き込む場合は、版数を明記して更新できる形にしておくのが安全です。
なお、カーボンニュートラルとネットゼロは同じ意味ではありません。用語の違いは別記事で整理していますが、規格を持ち出す場面では、自社がどちらを主張しているのかを先に確定させることが前提になります。
まとめ
ISO14068は、カーボンニュートラルという言葉に手続きを与えた規格です。ISO 14068-1:2023として2023年11月に発行され、算定、削減、オフセットの3段を扱います。
実務で持ち帰るべき点は3つです。削減と除去がオフセットより先に来ること、数字は14064-1や14067で作ること、そして範囲と使用クレジットを開示できる形で残すこと。認証を取るかどうかとは別に、この3点を満たしておけば、宣言の説明を求められたときに答えられます。
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お問い合わせはこちら出典・参考(一次情報)
- ISO「ISO 14068-1:2023 Climate change management — Transition to net zero — Part 1: Carbon neutrality」(第1版・2023年11月発行・44ページ・ISO/TC 207/SC 7、オフセットよりバリューチェーン内の削減と除去を優先する階層的アプローチ、改訂予定の段階)
- ISO「ISO 14064-1:2018 Greenhouse gases — Part 1」(組織レベルのGHG排出量・除去量の算定と報告、第2版・2018年12月、2024年の見直しで現行版)
- ISO「ISO 14067:2018 Greenhouse gases — Carbon footprint of products」(製品CFPの算定、LCA規格ISO 14040・14044と整合、第1版・2018年8月、2024年の見直しで現行版)
- BSI Knowledge「PAS 2060:2010 Specification for the demonstration of carbon neutrality」(2010年4月15日発行・2014年4月29日廃止の履歴)
- 環境省「J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて」
- J-クレジット制度(温室効果ガスの排出削減量・吸収量を国が認証する制度)
※規格・制度は改定されます。本記事は2026年9月時点の公表情報に基づく解説です。ISOの規格情報ページは英語です。
よくある質問(FAQ)
Q. ISO14068の認証を取れば「カーボンニュートラル認証企業」と名乗れますか?
A. そういう制度ではありません。ISOは規格を作る組織で、認証機関ではありません。規格への適合は第三者機関の検証を通じて示すもので、ISOが企業を認定してマークを与える仕組みではない点に注意が必要です。名乗り方そのものが規格の対象なので、表現は慎重に設計してください。
Q. クレジットを買って全量相殺すれば、カーボンニュートラルと言えますか?
A. 規格の考え方には合いません。ISOはこの規格がバリューチェーン内の削減と除去の強化をオフセットより優先する階層的アプローチを用いると説明しています。オフセットは残余に充てるものとして位置づけられており、削減の代わりに使う設計は主張の裏づけになりません。
Q. GHGプロトコルで算定していれば、ISO14068にも使えますか?
A. 数字を作る部分は流用できます。ISO14068は算定方法そのものの規格ではなく、組織の算定はISO 14064-1、製品はISO 14067が担う構成です。追加で必要になるのは、削減と相殺の順序、および主張の記載方法の部分です。
Q. いま社内規程に規格番号を書いても大丈夫ですか?
A. 版数を明記しておくことをおすすめします。ISOの規格ページでは、ISO 14068-1:2023は改訂予定の段階とされ、ISO 14068に置き換えられる見込みだと示されています。ISO規格は5年ごとに見直される仕組みなので、番号だけを書かず「2023年版」と併記して更新できる形にしておくと手戻りが減ります。
最終更新日:2026年9月5日
編集責任
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サステナビリティ実務・編集統括
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