「森を守ることが、企業の脱炭素につながる」。そんな仕組みが、いま関心を集めています。それが、森林の吸収したCO2を価値に変える森林クレジットです。手入れの行き届いた森は、多くのCO2を吸収します。その吸収量を認証し、取引できるようにしたのが森林クレジットです。本記事では、日本のJ-クレジット制度における森林由来クレジットの仕組みと種類、企業の活用、そして永続性などの課題までを、林野庁など公的機関の情報をもとに整理します。
≡この記事の目次
森林クレジットとは(おさらい)
まず、森林クレジットがどのような仕組みで、カーボンクレジット全体のなかでどこに位置づけられるのかを整理しましょう。
森を守る取り組みが、価値になる
↩ 購入資金は、森林所有者や地域の整備へ還元される
出典:林野庁・J-クレジット制度の情報をもとにgreenote作成
森林のCO2吸収をクレジット化する仕組み
森林クレジットとは、適切な森林の管理や植林によって吸収されたCO2の量を、国などが認証し、取引できるようにしたカーボンクレジットです。木は成長する過程で、光合成によって大気中のCO2を取り込みます。その吸収量を、目に見える価値に変える。それが森林クレジットの考え方です。
日本では、政府が認証するJ-クレジット制度のなかで、この森林由来のクレジットが扱われます。省エネや再エネによる「排出削減」のクレジットと並び、森林などの「吸収」を対象とするのが特徴です。管理された森が生む恵みを、脱炭素の取り組みとして評価する仕組みだといえます。
カーボンクレジットのなかでの位置づけ
森林クレジットは、より大きなカーボンクレジットという枠組みの一部です。カーボンクレジットとは、CO2の削減量や吸収量を証書にして取引できるようにしたものを指します。その全体像は、関連記事のカーボンクレジットとはもあわせてご覧ください。
そのなかで森林クレジットは、「吸収系」に分類されます。工場の省エネのように排出そのものを減らすのではなく、森が大気からCO2を取り込む力を活かす点に独自性があります。国土の約7割を森林が占める日本にとって、大きな可能性を秘めたテーマなのです。
J-クレジットの森林クレジットの種類
日本の森林クレジットは、J-クレジット制度のもとで3つの方法論に分かれています。それぞれの対象を見ていきましょう。
森林クレジットの3つの方法論
出典:林野庁・J-クレジット制度の情報をもとにgreenote作成
森林経営活動(FO-001)
最も中心となるのが、森林経営活動(FO-001)です。間伐や下草刈りといった手入れを適切に行い、森林の健全な成長を保つことで、CO2の吸収量を増やす取り組みが対象になります。
日本には、手入れが行き届かずに放置された人工林が少なくありません。そうした森に手を入れ、吸収力を回復させる。その努力が、クレジットという形で報われる仕組みです。実際、これまで認証された森林由来クレジットの多くは、この森林経営活動によるもの。
植林活動・再造林活動(FO-002・FO-003)
もう2つの方法論が、木を新たに植える取り組みです。植林活動(FO-002)は、これまで森林でなかった土地に木を植えて、新たな吸収源をつくります。そして再造林活動(FO-003)は、木を伐採したあと立木がないままになっている林地に、植え直す活動が対象です。
再造林活動には、注目すべき特長があります。ほかの方法論と違い、森林経営計画の策定が不要なのです。伐採後の再造林が進まない「植えない伐採」が課題となるなか、その循環を後押しするねらいがある。自然を活用した解決策の考え方は、関連記事のNbS(自然を活用した解決策)とはもあわせてご覧ください。
どう生まれ、どう使われるのか
森林クレジットが認証され、企業に活用されるまでの流れと、そこで生まれるお金の循環を見ていきます。
認証から活用までの流れ
出典:J-クレジット制度の情報をもとにgreenote作成
認証されるまでの流れ
森林クレジットが生まれるまでには、いくつかの段階があります。まず、森林所有者や事業者がプロジェクトの計画を立て、国に申請します。次に、その計画が制度の要件を満たすかを審査され、登録されます。
そして、実際の吸収量を継続的に測定(モニタリング)し、第三者の検証を経て、はじめてクレジットとして認証・発行される。吸収量を科学的に裏づける手続きが、クレジットの信頼性を支えているのです。日本の森林クレジットは、林野庁が制度づくりに深く関わる。
企業の活用と地域へのお金の循環
発行されたクレジットは、企業などが購入します。企業は、削減しきれないCO2を相殺するオフセットに使ったり、カーボンニュートラルへの貢献を示したりします。そして、その購入代金が、クレジットを生んだ森林所有者や地域へと流れます。
ここに、森林クレジットの大きな意義があります。これまで収益に結びつきにくかった森林の手入れに、新たなお金の流れが生まれるのです。企業は脱炭素に貢献し、地域は森を守る資金を得る。都市と地方をつなぐ仕組みとしても期待されています。
なぜいま森林クレジットが注目されるのか
森林由来のクレジットには、ほかの手段にはない魅力があります。一方で、供給の少なさという事情も抱えています。
人気は高い、けれど供給は限られる
国は認証対象期間を最大16年へ延長するなど活用を後押ししている。
出典:J-クレジット制度の情報をもとにgreenote作成
森林クレジットが注目される理由は、その「物語性」にあります。国産で、地域の森林保全に直接つながり、生き物のすみかも守る。単なる数字のオフセットではなく、共感を呼ぶ脱炭素の取り組みとして、企業のニーズが高まっている。
しかし、供給は追いついていません。吸収量を正確に測り、認証を受けるには時間と手間がかかるためです。J-クレジットの累計認証量のうち、森林経営活動が占める割合は1割ほどにとどまります。需要が高い一方で供給が限られるため、排出削減系のクレジットより価格が高くなる傾向があるのです。こうした状況をふまえ、国は認証対象期間を最大16年間に延長するなど、活用しやすくする制度改正を進めている。
森林クレジットの課題
吸収系のクレジットには、排出削減系とは異なる、固有の難しさがあります。冷静に押さえておきましょう。
吸収系ならではの難しさ
信頼できる測定と透明性が、クレジットの価値を支える。
出典:各種公開情報をもとにgreenote作成
永続性――蓄えた炭素が放出されるリスク
最大の課題が、永続性です。森林が蓄えた炭素は、永遠にそこにとどまるとは限りません。山火事や病虫害、あるいは無計画な伐採によって、蓄えたCO2が再び大気へ放出されてしまう恐れがあります。
いったんクレジットとして認めた吸収が、あとで失われてしまえば、脱炭素の効果は帳消しです。だからこそ、森林を長期にわたって守り続ける保証をどうつくるかが問われます。この永続性の難しさは、森林クレジットの信頼性を左右する、根本的な論点なのです。
追加性・リーケージ・モニタリング
ほかにも、注意すべき論点があります。一つが追加性です。クレジットの取り組みがなくても、もともと得られていた吸収ではないか。それを問う考え方。追加性がなければ、クレジットは「水増し」になりかねません。
さらに、ある場所の森林を守った結果、別の場所で伐採が増えてしまうリーケージ(漏れ)の問題もあります。そして、吸収量を正確に測り続けるモニタリングの難しさも欠かせない論点です。これらが不十分だと、見せかけの吸収でクレジットの価値を主張する、グリーンウォッシュとの批判を招きかねません。見せかけを見抜く視点は、関連記事のグリーンウォッシュとはもあわせてご覧ください。
世界の動向とブルーカーボンとの違い
森林由来のクレジットは、世界でも脱炭素の重要な手段です。近い仕組みであるブルーカーボンとも比べてみましょう。
陸の森か、海の生態系か
共通する課題=永続性・測定の難しさ
世界には、森林減少を防ぐREDDプラスや、民間のボランタリークレジットもある。
出典:各種公開情報をもとにgreenote作成
森林クレジットは、日本だけの仕組みではありません。世界では、途上国の森林減少や劣化を防ぐ取り組みを評価するREDD+(レッドプラス)などの枠組みがあります。また、国の制度とは別に、民間の認証機関が運営するボランタリークレジットの市場でも、森林由来のクレジットは大きな存在感を持つ。
近い仕組みとして、ブルーカーボンのクレジットがあります。こちらは、マングローブや藻場など沿岸・海洋の生態系が吸収する炭素を対象とし、日本ではJブルークレジットとして運営されています。陸の森林(グリーンカーボン)と海の生態系(ブルーカーボン)。舞台は違えど、自然の吸収力を活かす発想は共通。そして、永続性や測定の難しさという課題もまた、両者に共通する。ブルーカーボンの詳細は、関連記事のブルーカーボンとはもあわせてご覧ください。
まとめ|森林クレジットは「守り育てる」を価値に変える
森林クレジットは、森を守り育てる営みを、脱炭素の価値に変える仕組みです。最後に、要点を振り返りましょう。
- 森林クレジットとは、森林の管理や植林によるCO2吸収量を認証し取引できるようにしたカーボンクレジット。日本ではJ-クレジット制度の吸収系にあたる
- 方法論は、森林経営活動(FO-001)・植林活動(FO-002)・再造林活動(FO-003)の3つ。再造林活動は森林経営計画が不要
- 企業はオフセットに活用し、その資金が森林所有者や地域へ還元される。国産で共感を呼ぶ一方、供給は限られ価格は高め
- 課題は、永続性・追加性・リーケージ・モニタリング。信頼できる測定と透明性が価値を支える
- 世界にはREDD+やボランタリー市場があり、海のブルーカーボンとは対象が異なるが課題は共通
森林クレジットは、これまで価値になりにくかった森の手入れに、新たな光を当てる仕組みです。企業の脱炭素と、地域の森林保全。その両方を同時に前へ進める可能性を秘めています。ただし、その価値は、永続性や測定の信頼性があってこそのものです。仕組みを正しく理解し、質の高いクレジットを見極める。その目が、森と脱炭素の未来を支えていきます。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
よくある質問(FAQ)
Q. 森林クレジットとは何ですか?
A. 森林クレジットとは、適切な森林の管理や植林によって森林が吸収したCO2の量を、国などが認証し、取引できるようにしたカーボンクレジットです。日本では、政府が認証するJ-クレジット制度のなかの「森林由来クレジット(吸収系)」がこれにあたります。企業などがこのクレジットを購入すると、その資金が森林の整備を担う林業者や地域に流れ、森林の保全と脱炭素を同時に後押しする仕組みになっています。
Q. J-クレジットの森林クレジットにはどんな種類がありますか?
A. 3つの方法論があります。手入れの行き届いた森林管理でCO2吸収量を増やす「森林経営活動(FO-001)」、新たに木を植える「植林活動(FO-002)」、そして立木がないままの林地に第三者が植え直す「再造林活動(FO-003)」です。とくに再造林活動は、ほかと違い森林経営計画の策定が不要で、取り組みやすいよう設計されています。
Q. 森林クレジットはどのように使われますか?
A. 認証された森林クレジットは、企業がCO2排出量のオフセット(相殺)に使ったり、カーボンニュートラルの取り組みをアピールしたりするために購入します。国産で、地域の森林保全や林業の活性化に直接つながる点が特徴です。購入する企業にとっては、脱炭素への貢献と地域貢献を両立できる手段として関心が高まっています。
Q. なぜ森林クレジットは供給が少ないのですか?
A. 森林の吸収量を正確に測り、認証を受けるまでには、時間と手間がかかるためです。J-クレジットの累計認証量のうち森林由来(森林経営活動)の割合は1割ほどにとどまります。需要が高い一方で供給が限られるため、排出削減系のクレジットより価格が高くなる傾向があります。国は、認証対象期間を最大16年間に延長するなど、活用しやすくする制度改正を進めています。
Q. 森林クレジットにはどんな課題がありますか?
A. 最大の課題は「永続性」です。森林に蓄えた炭素は、火災や病虫害、伐採などで再び大気に放出されるおそれがあります。加えて、その取り組みがなくても得られた吸収ではないかという「追加性」、ある場所の保全が別の場所の伐採を招く「リーケージ(漏れ)」、そして吸収量を正確に測り続ける「モニタリング」の難しさも指摘されています。信頼できる測定と透明性が、クレジットの価値を支えます。
Q. 森林クレジットとブルーカーボンのクレジットは何が違いますか?
A. どちらも自然の炭素吸収をクレジット化する点は同じですが、対象とする生態系が異なります。森林クレジットは陸上の森林(グリーンカーボン)が対象で、日本ではJ-クレジット制度が扱います。一方、ブルーカーボンのクレジット(Jブルークレジット)は、マングローブや藻場など沿岸・海洋の生態系が対象で、別の枠組みで運営されています。永続性や測定の難しさといった課題は、両者に共通します。
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出典・参考(一次情報)
- 林野庁「森林・林業・木材産業と地球温暖化対策(J-クレジット制度)」
- J-クレジット制度事務局「J-クレジット制度 森林管理プロジェクト」
- 環境省「J-クレジット制度について」
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
最終更新日:2026年7月12日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。