自然資本とは|自然資本会計・TNFDとの関係とネイチャーポジティブ経営をわかりやすく解説

2026.06.20
生物多様性

気候変動と並んで、いま企業経営の重要テーマとなっているのが「自然」です。森林や水、土壌、生物多様性——こうした自然を、経済を支える「資本」として捉える考え方が、自然資本(ネイチャーキャピタル)です。

本記事では、自然資本とは何かという基本から、自然が生み出す「生態系サービス」、自然資本を見える化する自然資本会計、そしてTNFD開示やネイチャーポジティブ経営とのつながり、日本の政策動向までを、できるだけわかりやすく整理します。

目次

自然資本とは

自然資本とは、森林・水・土壌・大気・生物多様性など、人間の暮らしや経済活動に価値を生み出す自然のストック(蓄え)を指す概念です。お金や設備といった人工資本、人材という人的資本と並ぶ「第4の資本」として位置づけられます。

自然資本の定義(ストックとフロー)

自然資本を理解する鍵は、「ストック」と「フロー」の区別です。ストックとは、森林や河川、土壌といった自然そのものの蓄えのことです。そして、そのストックから継続的に生み出される恵みが「フロー」、すなわち生態系サービスにあたります。

たとえるなら、自然資本は「元本」、生態系サービスは「そこから得られる利子」のような関係です。元本である自然を守り育てれば、恵みは持続的に得られます。逆に自然資本を切り崩せば、一時的な利益と引き換えに、将来の恵みを失いかねません。この資本の発想は、自然を「守るコスト」から「活かす資産」へと見方を変えてくれるはずです。

なぜいま自然資本が重要なのか

背景にあるのは、自然の急速な劣化への危機感です。生物多様性の損失や森林減少、水資源の枯渇は、もはや環境問題にとどまりません。原材料の調達難、サプライチェーンの寸断、規制強化といった形で、企業経営を直接おびやかすリスクとなってきました。

世界経済フォーラムなどは、世界のGDPの過半が自然に依存しているとも指摘しているほどです。気候変動(カーボン)に続き、自然・生物多様性(ネイチャー)が経営の主要議題に浮上したのは、こうした認識の広がりゆえなのです。脱炭素の全体像はカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。

生態系サービス|自然資本が生む「恵み」

自然資本を語るうえで欠かせないのが、生態系サービスという考え方です。これは、自然資本が私たちにもたらす便益を整理した概念にほかなりません。

4種類の生態系サービス

自然資本が生み出す「恵み」

供給

食料・木材・水・繊維など、自然から得られる資源

調整

気候の調整・洪水防止・水質浄化・受粉など、環境を整える働き

文化的

観光・レクリエーション・癒やし・景観などの非物質的な恵み

基盤

土壌形成・光合成・栄養循環など、他のサービスを下支え

農業から製造業・金融まで、あらゆる産業がこれらの恵みに依存しています。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

4種類の生態系サービス

生態系サービスは、一般に4つのタイプに分類されます。第一が「供給サービス」で、食料・木材・水・繊維など、自然から得られる資源そのものを指します。第二が「調整サービス」です。気候の調整、洪水の防止、水質の浄化、受粉など、自然が環境を整えてくれる働きを意味します。

第三は「文化的サービス」で、レクリエーションや観光、精神的な癒やし、景観といった非物質的な恵みです。そして第四が、これら全体を下支えする「基盤サービス」です。土壌形成や光合成、栄養循環など、ほかのサービスの前提となる働きです。私たちは日々、この4つの恵みを無意識のうちに享受しているわけです。

経済は自然資本に「依存」している

重要なのは、あらゆる産業がこの生態系サービスに依存しているという事実です。農業や食品が自然の恵みに支えられているのは明らかでしょう。しかし、一見自然と無関係に見える製造業や金融業も、水や原材料、安定した気候を通じて、間接的に自然資本に依存しているのが実態です。

つまり自然の劣化は、特定産業だけの問題ではありません。経済全体のリスクなのです。この「依存」を直視することこそ、自然資本に向き合う第一歩です。

自然資本会計(NCA)とは

自然資本の重要性はわかっても、目に見えなければ意思決定には活かせません。そこで登場するのが、自然資本を「測り、価値づける」自然資本会計です。

自然資本の基本構造

ストックが恵みを生み、会計で見える化する

ストック

自然資本

森林・水・土壌・生物多様性などの自然の蓄え

フロー

生態系サービス

供給・調整・文化的・基盤の4種類の恵み

自然資本会計(NCA)=このストックとフローを測定・価値づけし、経営や政策の意思決定に活かす

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

自然資本を測り、価値づけする

自然資本会計(Natural Capital Accounting、NCA)とは、自然資本のストックと、そこから生まれる生態系サービスのフローを、会計的な枠組みで体系的に測定・報告する手法です。どれだけの自然資本があり、どれだけの恵みを生み、それがどれほどの価値を持つのか。これらを定量的に把握しようとする試みです。

ねらいは、自然を経営や政策の「数字」として扱えるようにすることにあります。これまで「ただ」と見なされてきた自然の恵みに価値を与えれば、自然への依存や影響を、コストやリスクとして意思決定に組み込めます。自然を「経営の言葉」に翻訳する作業ともいえるでしょう。

国際的な枠組み(SEEA・自然資本プロトコル)

自然資本会計には、国際的な枠組みも整いつつあります。国レベルでは、国連が定める「環境経済勘定体系(SEEA)」が国際標準です。GDPのような経済統計に環境の勘定を組み込むもので、生態系を扱うSEEA-EAも整備されました(国連 SEEA)。

企業レベルでは、キャピタルズ・コアリションが策定した「自然資本プロトコル(Natural Capital Protocol)」が広く参照されています。近年は、TNFDやCSRD(企業サステナビリティ報告指令)への対応需要を背景に、自然への依存やリスクを評価・マッピングするツールが、会計ツールを上回るペースで広がってきました(TNFD)。自然を測る技術は、急速に進歩しているのです。

TNFD・ネイチャーポジティブとの関係

自然資本は、それ単体で完結する概念ではありません。近年の自然関連の開示や経営の枠組みを支える「土台」として機能しています。

自然資本が支える開示と経営

把握 → 開示 → 経営へと積み上がる

ネイチャーポジティブ経営

自然の損失を止め回復へ。2030年までに生物多様性の損失を反転させる国際目標に貢献

TNFD開示

ガバナンス・戦略・リスクと影響の管理・指標と目標の4本柱で自然関連情報を開示

自然資本/自然資本会計

自然への依存と影響を把握・測定する土台

すべての出発点は、自然への依存と影響の「見える化」です。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

TNFD開示を支える自然資本

その代表が、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)です。2023年9月に公表された最終提言は、企業に対し「ガバナンス」「戦略」「リスクと影響の管理」「指標と目標」の4本柱で、自然関連情報の開示を求めています。

このTNFD開示の出発点こそ、自社の事業が自然資本にどれだけ依存し、どれだけ影響を与えているかの把握です。つまり自然資本という概念と、それを測る自然資本会計が、TNFD開示を実務面から支えています。TNFDの詳細はTNFDとはで解説しています。

ネイチャーポジティブ経営への展開

自然資本の発想は、「ネイチャーポジティブ」というゴールにもつながります。ネイチャーポジティブとは、自然の損失を止め、回復へと転じさせる考え方です。2030年までに生物多様性の損失を反転させることが、国際的な目標に掲げられました。

自然資本を可視化できれば、自社がどこで自然を損ない、どこで回復に貢献できるかが見えてきます。それが、自然を守りながら価値を生む「ネイチャーポジティブ経営」の出発点となるのです。ネイチャーポジティブの全体像はネイチャーポジティブとは、国際目標の枠組みはGBF(生物多様性枠組)とはもあわせてご覧ください。

日本の動向|ネイチャーポジティブ経済への移行

日本でも、自然資本を経営に組み込む流れが、政策面から強く後押しされています。中心にあるのが、環境省の戦略です。

環境省のネイチャーポジティブ経済移行戦略

環境省は「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を策定し、2025年には実装に向けたロードマップを公表しました。この戦略は、大企業や先行企業に対し、2027年度までに自然資本の保全・再興の視点を事業活動に組み込んだ「ネイチャーポジティブ経営」へ移行するよう促しています(環境省)。

具体的には、TNFD提言を踏まえたリスク・機会の分析と情報開示、バリューチェーン全体での環境負荷の把握と削減などが求められています。自然への配慮は、もはや一部の先進企業だけのものではなくなりつつあります。

企業に求められる対応

では、企業は何から始めればよいのでしょうか。第一歩は、自社の事業が自然にどう依存し、どう影響しているかを把握することです。原材料の調達先や生産拠点が、どの地域のどんな自然資本に頼っているのかを洗い出す作業から始まります。

そのうえで、TNFDの枠組みに沿ってリスクと機会を分析し、開示へとつなげていく流れになります。最初から完璧をめざす必要はありません。まずは依存と影響の「見える化」に着手することが、ネイチャーポジティブ経営への確かな一歩です。

自然資本に取り組む際の課題

期待が高まる自然資本ですが、実務には難しさも伴います。冷静に課題も押さえておきましょう。

測定・評価の難しさ

最大の課題は、測定と評価の難しさです。CO2排出量がトンという単一の指標で表せるのに対し、自然や生物多様性は地域ごとに多様で、共通のものさしをつくりにくいという特性があります。森林や水、種の豊かさを、どう一貫した尺度で測り、価値づけるか。ここに大きな技術的ハードルが横たわっています。

さらに、自然資本の価値を金額に換算する手法も、まだ発展の途上です。評価の前提しだいで結果が大きく変わるため、比較可能性をどう確保するかが今後の論点です。

気候(炭素)との統合

もう一つの論点が、気候との統合です。これまで脱炭素(カーボン)と自然(ネイチャー)は、別々に語られがちでした。しかし両者は深く結びついています。森林や土壌、海洋は、CO2を吸収する重要な自然資本でもあるからです。

気候対策と自然保全を切り離して進めると、一方を立てて他方を損なう事態も起こりえます。たとえば、再エネ施設の建設が生態系を傷つける場合などです。カーボンとネイチャーを一体で捉える視点が、これからますます求められるでしょう。

まとめ|自然資本は「自然を経営に組み込む」起点

自然資本は、森林や水、生物多様性などの自然を、経済を支える資本として捉える概念です。そこから生まれる生態系サービスに私たちは依存しており、その依存と影響を見える化する手法が自然資本会計です。

自然資本は、TNFD開示やネイチャーポジティブ経営を支える土台であり、日本でも環境省の戦略を通じて企業への要請が強まりつつあります。測定の難しさや気候との統合といった課題は残るものの、自然資本は「自然を経営の言葉に翻訳し、意思決定に組み込む」ための共通の起点です。気候の次の経営テーマとして、自然への向き合い方がいま問われているのです。

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ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年6月20日

この記事の著者

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