「カーボンニュートラル」「環境にやさしい」「エコ」——商品やサービスにあふれるこうした環境表示に、EUが”証拠”の提出を義務づけようとしています。根拠のあいまいな環境アピール、いわゆるグリーンウォッシュを取り締まる「グリーンクレーム指令(Green Claims Directive)」です。
対象はEU域内だけの話ではありません。EU市場で製品を売り、環境性能をうたう日本企業にも直接かかわります。この記事では、グリーンクレーム指令とは何か、なぜ今必要とされているのか、何が規制され、違反するとどうなるのか、そして日本企業がとるべき対応までを、世界の潮流も交えてわかりやすく整理します。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。EUの立法手続きは審議・交渉により内容や時期が変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。
この記事の目次
- 1グリーンクレーム指令とは|EUの「グリーンウォッシュ」対策
- 2なぜ今、規制が必要なのか|広がるグリーンウォッシュ
- 3何が規制されるのか|5つの論点
- 規制の対象となる5つの論点
- 比較主張・将来目標・オフセット表示の扱い
- 4「消費者エンパワーメント指令」との2本立て
- 消費者エンパワーメント指令が定める禁止事項
- グリーンクレーム指令が担う「実証」の手順
- 5違反するとどうなるのか|想定される制裁
- 6EUだけではない|世界で進む環境表示の規制
- 主要国の枠組み(EU・英国・米国)
- 日本の景品表示法(優良誤認表示)
- 7日本企業への影響|EUで売るなら”証拠”が要る
- 影響が大きい業種
- 求められる備えの流れ
- 8企業がとるべき対応|5つのステップ
- 9まとめ
- 10よくある質問(FAQ)
グリーンクレーム指令とは|EUの「グリーンウォッシュ」対策
グリーンクレーム指令は、企業が自主的に行う環境主張(グリーンクレーム)に、科学的な根拠と第三者による事前検証を義務づけることをめざすEUの指令案です。欧州委員会が2023年3月に提案し、その後もEU内で審議・交渉が続いているとされます。
ここでいう「環境主張」とは、法律で義務づけられていないのに企業が任意で掲げる、環境に関するアピール全般を指すとされます。たとえば「この製品はカーボンニュートラルです」「再生素材50%使用」「海にやさしい」といった表現です。こうした任意の主張ほど根拠があいまいになりやすい——という問題意識が、指令案の出発点にあります。
ねらいは大きく二つと説明されています。ひとつは、あいまい・誇大な表示から消費者を守ること。もうひとつは、まじめに環境対応へ投資する企業が、口先だけの競合に埋もれないようにする公正な競争の確保です。環境配慮をうたえば売れる時代だからこそ、「言ったもの勝ち」を防ぐルールが求められている、という位置づけです。
なぜ今、規制が必要なのか|広がるグリーンウォッシュ
背景にあるのは、市場にあふれる環境表示の多くが、あいまい・誇大・裏付け不足だという実態です。欧州委員会が公表した調査では、環境主張の半数以上があいまいで誤解を招くおそれがあり、約4割は裏付けが確認できなかったとされています。「なんとなく環境によさそう」で選ばれてしまう状況が、広く残っているというわけです。
もうひとつの問題が、環境ラベルの乱立です。EU域内では230を超える環境ラベルが使われているとされ、認証の基準や信頼性はまちまちだと指摘されています。ラベルが多すぎて、どれが本当に信頼できるのか消費者にわからない——これでは、ラベル本来の「選ぶ手がかり」という役割が薄れてしまいます。
グリーンウォッシュが放置されると
① 消費者が正しく選べない → ② 誠実な企業が価格競争で不利になる → ③ 「環境訴求」全体が信用されなくなる、という悪循環につながりかねません。ルール整備は、この循環を断ち切る狙いがあるとされます。
こうした問題は、投資家向けの情報開示でも同じ構図で起きています。企業の環境アピールと実態のギャップは、グリーンウォッシュとして世界的に監視が強まっている分野です。消費者向けの表示にも同じ「根拠を示せ」という流れが及んできた、と捉えると理解しやすくなります。
何が規制されるのか|5つの論点
規制の対象となる5つの論点
指令案で論点となっているポイントは、主に次の5つと報じられています。いずれも「表示するなら根拠を示す」という考え方が共通しています。
| 論点 | 求められること(とされる内容) |
|---|---|
| あいまいな包括表現 | 「エコ」「グリーン」等の漠然とした主張は、根拠がなければ使えない方向。 |
| 主張の実証 | ライフサイクル(LCA)の視点を含む科学的根拠・データの提示。 |
| 第三者検証 | 表示の前に、独立した機関による確認(事前検証)を求める案。 |
| オフセット依存の表示 | クレジット購入だけを根拠にした「カーボンニュートラル」表示への慎重な扱い。 |
| 環境ラベルの乱立 | 信頼性の低い自主ラベルの新設を制限し、透明性の要件を課す方向。 |
比較主張・将来目標・オフセット表示の扱い
ポイントは「比較主張」と「将来目標」にも及ぶとされる点です。「従来品よりCO2を30%削減」のような比較には、比較の前提や範囲を示す根拠が求められる方向とされます。また「2030年までにカーボンニュートラル達成」といった将来の目標も、具体的な計画や中間目標の裏付けがなければ問題視され得る、と報じられています。
とくに「カーボンニュートラル」の表示は注意が必要とされます。自社の削減努力ではなく、外部のカーボンクレジットの購入だけを根拠にしている場合、消費者に誤解を与えるとして問われる可能性が指摘されています。「まず自社で減らし、どうしても減らせない分をオフセットする」という順序と、その内訳の説明が重視される流れです。
「消費者エンパワーメント指令」との2本立て
グリーンクレーム指令は単独で動くものではなく、先に成立したとされる「消費者エンパワーメント指令(Empowering Consumers for the Green Transition/Directive (EU) 2024/825)」とセットで機能します。両者の関係は、次のように整理されています。
「してはいけない表示」の大枠を定める(禁止事項の枠組み)
主張の「実証・検証」の具体ルールを担う
消費者エンパワーメント指令が定める禁止事項
消費者エンパワーメント指令の側では、たとえば根拠のない一般的な環境主張の禁止、認証にもとづかないサステナビリティ・ラベルの使用禁止、そしてオフセット頼みの「気候中立」表示への制限などが定められたと説明されています。「何をしてはいけないか」を広く示すのがこちらの役割です。
グリーンクレーム指令が担う「実証」の手順
一方のグリーンクレーム指令は、「では、環境主張をするならどう実証し、どう検証するか」という具体的な手順を担います。つまり「大枠のルール」と「具体的な実証の手順」を二つの指令で組み合わせ、環境表示全体の信頼性を高めようとする設計と説明されています。日本企業としては、この2本立てを一体で押さえておくことが実務上のポイントになります。
違反するとどうなるのか|想定される制裁
指令案では、違反企業に対する制裁を各加盟国が整備することが想定されていると報じられています。実効性のある・比例的な・抑止力のある措置とすることが求められ、具体的には次のような内容が挙げられています。
- 罰金:違反の規模に応じた制裁金。国境をまたぐ大規模な違反では、関係国での年間売上高の一定割合を上限とする案が示されているとされます。
- 収益の没収:問題となった取引から得た利益を取り上げる措置。
- 公共調達・公的資金からの一時的な除外:一定期間、公共入札や補助の対象から外される可能性。
金銭的な負担だけでなく、ブランドの信用低下という影響も見過ごせません。「グリーンウォッシュを指摘された企業」として報道されれば、環境訴求そのものが逆効果になりかねません。制裁の有無にかかわらず、根拠のある表示に整えておくことが、結果的にリスクを小さくすると考えられます。
EUだけではない|世界で進む環境表示の規制
主要国の枠組み(EU・英国・米国)
環境表示への監視強化は、EUに限った動きではありません。主要国はそれぞれ、グリーンウォッシュを取り締まる枠組みを整えつつあります。EUで事業していなくても、これらの流れは日本企業の広告・表示にも参考になります。
| 国・地域 | 主な枠組み(とされる内容) |
|---|---|
| EU | グリーンクレーム指令+消費者エンパワーメント指令。事前検証と実証を重視。 |
| 英国 | 競争・市場庁(CMA)の「グリーン・クレーム・コード」で環境広告の原則を提示。 |
| 米国 | 連邦取引委員会(FTC)の「グリーン・ガイド」で環境マーケティングの指針を提示。 |
| 日本 | 景品表示法(優良誤認表示の禁止)が、根拠のない環境アピールにも適用され得るとされる。 |
日本の景品表示法(優良誤認表示)
日本国内でも、根拠を示せない環境アピールは景品表示法の「優良誤認表示」にあたる可能性があるとされます。「EUの話だから関係ない」ではなく、環境表示に根拠を求める流れは世界共通になりつつある、と捉えておくのが安全です。
日本企業への影響|EUで売るなら”証拠”が要る
EU市場で製品・サービスを提供し、環境性能をうたう日本企業は、これらのルールの影響を受け得ます。とくに「カーボンニュートラル」「CO2ゼロ」といったオフセット前提の表示や、自社独自の環境ラベルは、根拠と検証を問われる可能性が指摘されています。パッケージ・広告・自社サイトの表現まで、幅広く見直しの対象になり得ます。
影響が大きい業種
影響が大きいと見られるのは、消費者向けに環境価値を訴求してきた業種です。たとえば次のような分野では、表示の裏付けをあらためて整える必要が出てくると考えられます。
- アパレル・繊維:「サステナブル素材」「リサイクル○%」などの表示。
- 食品・日用品:「環境にやさしい」「カーボンニュートラル」パッケージ。
- 化粧品・容器包装:「生分解性」「海洋プラ削減」などの主張。
- 自動車・電機:ライフサイクルでのCO2削減や比較主張。
求められる備えの流れ
EUはCBAM(炭素国境調整措置)、EUDR(森林破壊防止規則)、CSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)など、企業のサプライチェーンと環境情報に関する規制を相次いで強化しています。グリーンクレーム指令も、その一連の流れの中に位置づけられます。求められる備えの流れは、次のように整理できます。
何をうたうか
データ・LCA等
独立機関の確認
安心して訴求
企業がとるべき対応|5つのステップ
確定前の段階でも、次のような準備は無駄になりにくいと考えられます。順番に進めると、環境コミュニケーション全体を「根拠にもとづくもの」へ整えていけます。
- 環境表示の棚卸し:自社サイト・パッケージ・広告・カタログに使っている環境表現をすべて洗い出し、リスト化する。
- 根拠の文書化:各主張について、データやライフサイクル評価(LCA)の裏付けを整理・保管する。「どの範囲を・どう測ったか」を説明できる状態にする。
- あいまい表現の是正:根拠を示せない包括的な表現は、具体的で検証可能な表現へ言い換える(例:「エコ」→「再生素材○%使用」)。
- ラベルの見直し:自社独自ラベルの根拠と透明性を点検し、必要に応じて第三者認証への切り替えを検討する。
- 第三者検証の体制づくり:重要な主張は、独立機関による事前検証を受けられる社内フローを整える。
これらは、ESRSにもとづくサステナビリティ開示や、サーキュラーエコノミーへの対応とも重なります。開示・広告・製品設計を別々に考えるのではなく、「環境に関する情報の信頼性」という一本の軸でそろえていくと、規制対応の重複を減らせます。
まとめ
グリーンクレーム指令は、環境表示に”証拠”を求めることでグリーンウォッシュを防ぎ、まじめに取り組む企業が正しく評価される市場をめざす規制です。ポイントを整理すると次のとおりです。
- 自主的な環境主張に、科学的根拠と第三者による事前検証を求める方向。
- 消費者エンパワーメント指令と2本立てで、環境表示の信頼性を高める設計。
- 違反には罰金・収益没収・公共調達からの除外などの制裁が想定されるとされる。
- 英・米・日でも同様の規制・指針が進み、「根拠を示す」流れは世界共通に。
- EUで売る日本企業は、環境主張の根拠と検証の整備が課題になる。
EUの規制簡素化の動き(EUオムニバス)とあわせて内容・時期が変わり得るため、公式情報を確認しつつ、早めに社内の環境表示を点検しておくことが有効とされます。
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出典・参考資料(一次情報)
リンク先は2026年時点で確認した各国の公開情報です。立法手続きの進行で内容・時期が変わるため、最新は各公式情報をご確認ください。
EU(欧州委員会・法令): European Commission|Green Claims/ EUR-Lex|グリーンクレーム指令 提案(COM/2023/166)/ EUR-Lex|消費者エンパワーメント指令(Directive (EU) 2024/825)
各国の枠組み: UK CMA|Green Claims Code/ US FTC|Green Guides/ 消費者庁|景品表示法
よくある質問(FAQ)
Q. グリーンクレーム指令とは何ですか?
A. 企業が自主的に行う環境主張(グリーンクレーム)に、科学的な根拠と第三者による事前検証を義務づけることをめざすEUの指令案です。あいまい・誇大な環境表示(グリーンウォッシュ)から消費者を守り、公正な競争を確保することが狙いとされます。
Q. 日本企業も対象になりますか?
A. EU市場で製品・サービスを提供し、環境性能をうたう日本企業は影響を受け得ます。とくにオフセット前提の「カーボンニュートラル」表示や、自社独自の環境ラベルは、根拠と検証を問われる可能性が指摘されています。
Q. 「消費者エンパワーメント指令」とどう違うのですか?
A. 消費者エンパワーメント指令が「してはいけない表示」の大枠(禁止事項)を定めるのに対し、グリーンクレーム指令は「環境主張をするなら、どう実証・検証するか」という具体的な手順を担うとされます。二つはセットで機能する設計です。
Q. 違反するとどうなりますか?
A. 指令案では、罰金や問題取引の収益没収、一定期間の公共調達からの除外などの制裁を各加盟国が整備することが想定されていると報じられています。あわせて、ブランドの信用低下という影響も見過ごせません。
Q. いつから適用されますか?
A. 2023年の提案後もEU内で審議・交渉が続いているとされ、適用時期は流動的です。関連する消費者エンパワーメント指令は先行して成立したとされます。確定した時期・内容は、各公式情報でご確認ください。
最終更新日:2026年8月27日
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greenote編集責任者
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