最終更新日:2026年8月4日
再生可能エネルギーの導入で世界をリードし、国境を越えて電気を融通し合う欧州。フランスの原子力、北欧の水力、北海の洋上風力、南欧の太陽光——多様な電源を、統合された市場でつなぐのが欧州の電力の姿です。
この記事は、世界の電力事情を地域別にみるシリーズの第2回(欧州編)です。前回の北米の電力事情に続き、欧州の電源構成、ロシア危機を経たエネルギー転換、電力の自由取引(統合市場)、日本との制度の違い、課題、日本企業への示唆までを、詳しく整理します。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や市場制度・政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。
≡この記事の目次
欧州の電力事情とは|再エネ先進と統合市場
欧州(とくにEU)の電力は、二つの言葉で特徴づけられます。「再エネ先進」と「統合市場」です。風力・太陽光の比率が世界的に高く、その電気を国境を越えて売買する仕組みが、他地域にはない規模で発達しています。
さらに、2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、欧州のエネルギーを大きく揺さぶりました。ロシア産ガスへの依存から脱し、再エネと調達の多様化を加速させる——EUの2040年気候目標に象徴される脱炭素の流れとも重なり、欧州の電力はいま大きな転換期にあります。
電源構成|国ごとに大きく異なる多様性
欧州の電源構成は、国によって大きく異なります。大きく3つのタイプに整理すると、多様性がよくわかります。
フランスなど
電源に占める原子力の比率が高く、低炭素な電力を大量に供給。近隣国へ輸出も。
北欧・ドイツ・英国など
ノルウェー等は水力、デンマーク・独・英は風力の比率が高い。北海の洋上風力が拡大。
スペイン・イタリアなど
日射に恵まれた南欧で太陽光が拡大。昼間の余剰や価格低下も課題に。
フランスは原子力の比率が高く、低炭素な電力を大量に供給し、近隣国へ輸出もしています。ノルウェーなど北欧は水力、デンマーク・ドイツ・英国は風力の比率が高く、北海の洋上風力が拡大しています。スペインやイタリアなど南欧では太陽光が伸びています。この違いがあるからこそ、国境を越えて電気を融通する意味が大きくなります。
各国の電源構成を数値でみる|火力・原子力・風力・太陽光ほか
ここからは、各国の電源構成を数値で見てみましょう。下のグラフは、発電量に占める電源別のおおよその割合です。数値は年や統計により変わるため、あくまで概数としてご覧ください。
概数(年により変動)。「その他」はバイオマス等を含む。出典:Ember・IEA等の公開データをもとにgreenote作成
欧州(EU全体のイメージ)で、電源構成がどう推移してきたかを概観します。火力・原子力が比率を下げ、風力・太陽光が着実に拡大しています。
地域全体の概数(年・国により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成
こうして並べると、同じ欧州でも構成が大きく異なることがわかります。フランスは原子力が中心、ノルウェーは水力が大半、ドイツや英国は風力の比率が高く、スペインは太陽光と原子力・風力がバランスします。火力(石炭・ガス)への依存度も国によってさまざまです。
次に、時間の経過とともに構成がどう変わってきたかを見てみます。下のグラフは、EU全体の発電に占める「風力+太陽光」と「石炭」のおおよその割合の推移です。
概数(年により変動)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成
この10年ほどで、風力・太陽光の割合が大きく伸びる一方、石炭は減少してきました。おおむね2020年前後には、EU全体で風力・太陽光の合計が石炭を上回ったとされます。危機や政策を経て、欧州の電源構成が「化石燃料から再エネへ」と着実に移ってきたことが、数値からも読み取れます(いずれも概数)。
さらに、国ごとに推移を見ると、変化の速さや形はさまざまです。下のグラフは、主要国の発電に占める「風力+太陽光」の割合が、どう伸びてきたかを示したものです。
概数(年により変動)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成
英国やスペインは短期間で急速に伸び、ドイツも着実に拡大してきました。一方、原子力が中心のフランスは相対的に緩やかです。同じ欧州でも、出発点も伸び方も国ごとに異なることが読み取れます(いずれも概数)。
ロシア危機とエネルギー転換|REPowerEU
近年の欧州の電力を語るうえで欠かせないのが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻です。欧州はロシア産の天然ガスに大きく依存していたため、供給不安から電気・ガスの価格が急騰し、エネルギー危機と呼ばれる事態になりました。
これに対しEUは、REPowerEU(リパワーEU)という計画を打ち出しました。ロシア産化石燃料への依存からの脱却を目標に、再エネの導入加速、省エネ、調達先の多様化(LNG輸入など)を進めるものです。危機がむしろ、再エネ転換を後押しした面もあるとされます。排出量取引制度(EU-ETS)やCBAM(炭素国境調整措置)といった仕組みも、脱炭素を価格面から支えています。
電力の自由取引|EUの統合市場とマーケットカップリング
欧州の電力取引の最大の特徴は、国境を越えた「統合市場」です。EUは域内を一つの電力市場にしていくことをめざし、各国の卸電力市場を結びつけてきました。
その中核が、前日市場(デイアヘッド)の「マーケットカップリング(市場結合)」です。複数国の売り注文と買い注文を、単一のアルゴリズムでまとめて処理し、連系線の容量が許すかぎり、価格の安い国から高い国へと電気が流れるように約定します。これにより、欧州全体で効率的に電気を融通できる仕組みになっています。日中市場での越境取引も行われています。
系統面では、各国の送電系統運用者(TSO)が、ENTSO-E(欧州送電系統運用者ネットワーク)を通じて協調しています。陸続きで多数の国が連系しているため、ある国の再エネが余れば隣国へ送る、といった融通が日常的に可能です。一方、ガス価格が電気代を大きく左右する市場設計(限界費用にもとづく価格形成)が危機時に問題となり、2024年には長期契約(CfDや長期PPA)を後押しする電力市場設計の改革が進められました。
日本との制度比較|統合市場・国際連系の違い
欧州の電力取引は、日本とどう違うのでしょうか。下表に、欧州(EU)と日本の制度を並べました。
| 観点 | 欧州(EU) | 日本 |
|---|---|---|
| 市場の統合 | 国境を越えて複数国の市場を結合(域内単一市場をめざす) | 国内のみ。国際連系がなく系統は独立 |
| 卸市場の結合 | 前日市場を単一アルゴリズムで価格結合(マーケットカップリング) | JEPXで取引。地域はエリアプライスで区分 |
| 系統運用 | 各国TSOがENTSO-Eで協調。多数国と連系 | 一般送配電事業者+広域機関(OCCTO) |
| 再エネ比率 | 世界的に高水準(国ごとの差は大きい) | 拡大途上 |
| 長期契約の後押し | 市場改革でCfD・長期PPAを推進 | FIT/FIP・相対契約が中心 |
| 近年の転機 | ロシア危機を受けREPowerEUで脱ロシアガス・再エネ加速 | LNG輸入に依存(事情は異なる) |
最大の違いは、やはり「国境を越えた統合」です。欧州は多数の国が送電線で結ばれ、卸市場も価格結合されているため、電気を国際的に融通できます。これに対し、島国の日本は他国と系統がつながっておらず、電力を国内で自給しなければなりません。北米の電力事情で見た北米と同じく、国際連系の有無が、日本との大きな違いです。
また、欧州の統合市場は、電力量と系統運用を広域で最適化する発想に立っています。日本でも、電力量と調整力を一体で最適化する同時市場の検討が進むなど、広域で効率化をめざす方向は共通しつつあります。卸取引を担うJEPX(日本卸電力取引所)や広域機関の役割も、その一環といえます。
外資の参入状況|開かれた市場と重要インフラ規制
発電は開放、送電・原子力は各国規制
欧州の電力市場は自由化が進み、発電への外資参入は活発です。域内外の企業や投資ファンドが、再エネや洋上風力に大規模に投資してきました。統合市場のため、複数国にまたがる展開もしやすい環境です。
一方、送電網(TSO)や原子力といった重要インフラは、各国が外資を審査・規制する傾向があります。EUは近年、経済安全保障の観点から対内投資審査(FDIスクリーニング)を強化してきました。
参入機会
- 再エネ比率が高く案件が豊富
- PPA・CfDなど長期契約の後押し
- 統合市場で広域に展開しやすい
留意点
- 送電・原子力など重要インフラは各国審査
- エネルギー価格の変動リスク
- 国ごとに制度が異なる
開放度や規制は国・年により変わります。最新・確定の内容は各国の公式情報でご確認ください。
日本企業の動き
日本の商社・電力会社は、欧州の洋上風力などに出資してきました。技術・運営ノウハウの獲得と、脱炭素事業の展開先として欧州を位置づける動きが見られます。
欧州が抱える課題|系統・価格・加盟国の調整
先進的に見える欧州の電力にも、いくつかの課題があります。上表とあわせて、課題と論点を押さえておきましょう。
課題
系統の増強。北海の洋上風力など適地と需要地を結ぶ送電網の整備が追いつかない。
論点
国境を越える連系線と国内系統の増強を、加盟国が協調して進める必要がある。
課題
価格の変動。ガス価格に電気代が左右され、危機時に高騰した。
論点
市場設計改革でCfD・長期PPAを後押しし、価格を安定させる方向。
課題
加盟国間の調整。電源構成も事情も異なる国々の足並みをそろえる難しさ。
論点
EU全体のルールと各国の裁量のバランスをとりながら統合を深める。
とくに系統の増強は急務です。北海の洋上風力のような適地と、需要の大きい都市部を結ぶ送電網が追いつかなければ、再エネを増やしても活かしきれません。地域間連系線・系統増強は、欧州でも最重要のテーマの一つです。加盟国ごとに事情が異なるなかで、EU全体の足並みをどうそろえるかも、統合を深めるうえでの課題です。
日本企業への示唆|欧州での電力調達
欧州で事業を行う日本企業にとって、電力の理解は競争力に直結します。再エネ比率が高く、コーポレートPPAや証書による調達の選択肢も豊富で、RE100の達成やネットゼロに向けた取り組みを進めやすい環境があります。
一方で、価格の変動やエネルギー安全保障のリスクも意識する必要があります。国ごとに電源構成も市場も異なるため、拠点のある国の制度を理解し、長期契約なども活用しながら、安定的でクリーンな電力を確保する戦略が求められます。
まとめ|国境を越えて電気を融通する欧州
欧州の電力は、多様な電源を、国境を越えた統合市場でつなぐのが最大の特徴です。ロシア危機を経て、脱ロシアガスと再エネ加速へと大きく舵を切り、市場設計の改革も進めてきました。
国際連系を前提とする欧州の姿は、島国の日本とは対照的です。だからこそ、広域で効率化をめざす欧州の取り組みは、日本の電力システム改革を考えるうえでも示唆に富みます。次回以降は、アジア(東アジア・オーストラリア)の電力事情を、同じく電力取引の視点から見ていきます(IEA「Electricity 2026」)。
よくある質問(FAQ)
Q. 欧州の電力事情の特徴は何ですか?
「再エネ先進」と「統合市場」の二つが特徴です。風力・太陽光の比率が世界的に高く、国境を越えて複数国の卸市場を結びつけ、電気を融通し合う仕組みが発達しています。
Q. 欧州の電源構成は国ごとにどう違いますか?
大きく3タイプに分かれます。フランスなどは原子力の比率が高く、ノルウェーは水力、デンマーク・ドイツ・英国は風力、スペイン・イタリアなど南欧は太陽光が中心です。この多様性が、越境取引の意義を高めています。
Q. REPowerEUとは何ですか?
2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受け、EUが打ち出した計画です。ロシア産化石燃料への依存からの脱却を目標に、再エネの導入加速、省エネ、調達先の多様化(LNG輸入など)を進めるものです。
Q. 欧州の「マーケットカップリング」とは何ですか?
複数国の前日市場(デイアヘッド)を、単一のアルゴリズムでまとめて処理する仕組みです。連系線の容量が許すかぎり、価格の安い国から高い国へ電気が流れるよう約定し、欧州全体で効率的に電気を融通できるようにします。
Q. ENTSO-Eとは何ですか?
欧州送電系統運用者ネットワーク(European Network of Transmission System Operators for Electricity)です。各国の送電系統運用者(TSO)が協調し、国境を越えた系統運用や計画を担う組織です。
Q. 欧州と日本の電力制度の違いは何ですか?
最大の違いは「国境を越えた統合」です。欧州は多数の国が送電線で結ばれ卸市場も価格結合されていますが、島国の日本は国際連系がなく電力を国内で自給します。欧州は長期契約(CfD・PPA)の後押しも進めています。
Q. なぜ欧州で電気代が高騰したのですか?
欧州はロシア産ガスに大きく依存しており、2022年の供給不安でガス価格が急騰したためです。ガス価格が電気代を左右する市場設計だったことも影響し、これを受けて2024年に長期契約を後押しする市場設計改革が進められました。
Q. 日本企業は欧州でどう電力を調達すればよいですか?
再エネ比率が高く、コーポレートPPAや証書による調達の選択肢が豊富です。RE100の達成やScope2削減を進めやすい一方、価格変動やエネルギー安全保障のリスクもあるため、拠点国の制度を理解し長期契約も活用することが重要です。
出典・参考資料(一次情報)
- European Commission|Electricity market design
- ENTSO-E(欧州送電系統運用者ネットワーク)
- Ember|European Electricity Data・分析
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・市場制度・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月14日