電気は、いまや「市場で売り買いされる商品」です。その取引の舞台となるのが、JEPX(日本卸電力取引所)。新電力が電気を仕入れ、価格高騰のニュースで話題になる「卸電力価格」も、ここで決まる。電力市場の全体像は電力市場とはで扱いましたが、本記事はその中心にある取引所そのものに焦点を当てます。運営する5つの市場、スポット価格の決まり方、2021年1月の価格高騰という実例までを、資源エネルギー庁・電力・ガス取引監視等委員会・JEPXの一次情報をもとに解説します。
≡この記事の目次
- 1JEPX(日本卸電力取引所)とは
- ►JEPXをひとことで言うと
- ►なぜ重要なのか――新電力の調達源・価格の指標
- 2JEPXが運営する5つの市場
- ►スポット・時間前・先渡市場
- ►ベースロード市場と非化石価値取引市場
- 3スポット市場の仕組み――シングルプライス
- ►48コマとブラインド入札
- ►全員が同じ約定価格(シングルプライス)
- 4システムプライスとエリアプライス(市場分断)
- ►全国のシステムプライス
- ►連系線がふさがると分かれるエリアプライス
- 5価格はなぜ乱高下するのか――2021年1月の高騰
- ►通常は10円台、しかし251円まで急騰した
- ►高騰の教訓と市場連動型料金のリスク
- 6JEPXの役割と他市場との違い
- ►新電力の調達源と価格の指標
- ►容量市場・需給調整市場との違い(運営はOCCTO)
- 7JEPXをどう捉えるか
- 8出典・参考(一次情報)
JEPX(日本卸電力取引所)とは
まず、JEPXをひとことで整理します。「日本で唯一、電気を売り買いする取引所」という発想から入りましょう。
JEPXをひとことで言うと
JEPX(日本卸電力取引所)とは、2003年に設立された、日本で唯一の卸電力取引所です。株式を売買する証券取引所の「電力版」をイメージするとわかりやすいでしょう。発電事業者などが電気を売り、小売電気事業者(新電力)などが電気を買う——。その売買を成立させる場が、JEPXです(日本卸電力取引所(JEPX))。
かつて電気は、大手電力会社が発電から販売まで一手に担っていました。しかし電力システム改革とはで発電と小売が自由化され、市場を通じて電気を取引する仕組みが整えられました。その中核を担うのが、JEPXなのです。
なぜ重要なのか――新電力の調達源・価格の指標
JEPXが重要なのは、二つの理由からです。一つは、新電力にとっての電気の調達源であること。自前の発電所を持たない多くの新電力は、JEPXで電気を仕入れて消費者に届けています。JEPXが機能してはじめて、電力の小売自由化は成り立ちます。
もう一つが、価格の指標になることです。JEPXで決まる卸電力価格は、電気の「いまの値段」を映す物差し。後で見る2021年1月のように価格が高騰すれば、新電力の経営やダイナミックプライシングとはの電気料金にも響く。JEPXは、日本の電気の値段を映す鏡なのです。
JEPXが運営する5つの市場
JEPXは、目的の異なる複数の市場を運営しています。代表的な5つを見ていきましょう。
JEPXが運営する主な5つの市場
スポット市場(一日前市場)
翌日分を前日に取引。1日48コマ。取引の大半を占める。
時間前市場(当日市場)
受け渡し直前まで取引し、需給のずれを調整。
先渡市場
先の期間の電気を確保し、価格変動リスクを抑える。
ベースロード市場
原子力・石炭火力・水力など常時安定電源。2019年開設。
非化石価値取引市場
非化石証書(環境価値)を取引。2018年開設。
取引の中心はスポット市場。目的に応じて市場が分かれる。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
スポット・時間前・先渡市場
JEPXの取引の柱が、スポット市場(一日前市場)です。翌日に受け渡す電気を、前日に取引します。1日を30分ごとに区切った48コマに分け、コマ単位で売買する仕組み。JEPXの取引の大半は、このスポット市場が占めます。
これを補うのが、時間前市場(当日市場)と先渡市場です。時間前市場は、受け渡しの直前(おおむね1時間前)まで取引でき、急な発電不調や需要変動による直前のずれを調整する。先渡市場は逆に、先の期間の電気をあらかじめ取引し、価格変動のリスクを抑える役割。時間軸の違いで、役割分担しているのです(資源エネルギー庁)。
ベースロード市場と非化石価値取引市場
少し性格の異なる市場もある。ベースロード市場は、原子力・石炭火力・一般水力・地熱など、常時安定して発電できる電源(ベースロード電源)を取引する市場で、2019年に開設されました。こうした安価で安定した電源を、新電力も調達しやすくするのが狙いです。
さらに、非化石価値取引市場もあります。これは、再エネや原子力など非化石電源の「環境価値」を証書(非化石証書)として取引する市場で、2018年に開設された。電気そのものとは別に、「CO2を出さない価値」を売買する——。脱炭素のニーズに応える、JEPXの新しい役割です。詳しくは非化石価値取引市場とはもご覧ください。
スポット市場の仕組み――シングルプライス
JEPXの中心は、翌日分を取引するスポット市場です。その価格がどう決まるのかを見ていきます。
全員が同じ価格で約定する
スポット市場のシングルプライス
交点で約定価格と量が決まり、約定者は入札額によらず同一価格で取引(48コマごとに算定)。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
48コマとブラインド入札
スポット市場では、1日を48コマ(30分単位)に分けて取引します。たとえば「明日の13:00〜13:30」のように、時間帯ごとに細かく売買が成立する仕組みです。
各参加者は、コマごとに「売りたい量・買いたい量と、その価格」を入札します。このとき、ほかの参加者の入札内容は見えないブラインド(目隠し)入札です。お互いの手の内が見えないなかで、市場全体の需要と供給が交わる点を探る——。こうして、コマごとの価格と取引量が決まっていきます。
全員が同じ約定価格(シングルプライス)
JEPXのスポット市場の大きな特徴が、シングルプライス(単一価格)方式です。売り入札を安い順に、買い入札を高い順に並べ、両者が交わる点で約定価格が決まる。
このとき、約定したすべての参加者は、自分の入札額にかかわらず同じ価格で取引します。安く売りたいと入札した発電事業者も、約定価格で売れる。これが「シングルプライス」です。背景には、発電コストの安い電源から順に使う「メリットオーダー」の考え方があり、需要を満たす最後の電源のコストが、その時間帯の価格になる。だからこそ、燃料費の高い電源まで動員する需給ひっ迫時には、価格が跳ね上がりやすいのです。
システムプライスとエリアプライス(市場分断)
JEPXのスポット価格には、全国の基準価格とエリアごとの価格がある。その違いを整理します。
全国の価格と、エリアごとの価格
システムプライス
地域間連系線の制約を考えず、全国を一つの市場とみなして算出する基準価格。報じられる卸電力価格の多くはこれ。
エリアプライス(市場分断)
連系線がふさがり全国で融通しきれないと、市場がエリアごとに分断され価格が分かれる。
連系線が混雑
送電網に空きがあれば価格は一つに近づく。連系線の増強で市場分断を減らせる。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
全国のシステムプライス
JEPXのスポット価格には、二つの種類がある。一つがシステムプライスです。これは、地域間をつなぐ送電線(連系線)の制約をいったん考えずに、全国を一つの市場とみなして算出する基準価格です。日本全体の電気の需給バランスを映す、いわば「代表値」。ニュースで報じられる卸電力価格は、多くがこのシステムプライスです(月平均の推移はJEPX「スポット市場取引結果」で公開)。
連系線がふさがると分かれるエリアプライス
しかし現実には、地域をつなぐ連系線の容量には限りがあります。送電が混雑して、電気を全国で融通しきれなくなると、市場はエリアごとに分断され、地域別の価格=エリアプライスが生まれます。
このとき、電気の足りないエリアの価格は高く、余っているエリアの価格は低くなる。たとえば、ある地域で再エネが大量に余っても、連系線がふさがっていれば他地域へ送れず、その地域だけ価格が下がる——。連系線の増強(地域間連系線・系統増強とは)が重要とされるのは、こうした市場分断を減らし、全国で電気を有効活用するためでもあるのです。
価格はなぜ乱高下するのか――2021年1月の高騰
JEPXの価格は、需給の状況しだいで大きく振れます。実際に起きた2021年1月の高騰を、具体的な数値で見ていきます。
通常の10円台から、251円へ
(ふだんの目安)
システムプライス日平均
コマ最高値
寒波による暖房需要の増加、LNG在庫の逼迫、供給力不足などが重なった。政府は2021年1月17日以降、インバランス料金の上限を200円/kWhとする措置を導入した。
出典:電力・ガス取引監視等委員会「2020年度冬期スポット市場価格の高騰について」をもとにgreenote作成
通常は10円台、しかし251円まで急騰した
JEPXのスポット価格は、ふだんは1kWhあたり数円から10円台で推移します。ところが、この価格は需給しだいで大きく跳ね上がる。それを象徴するのが、2020年度冬期(2021年1月)の価格高騰でした。電力・ガス取引監視等委員会の資料によれば、2021年1月13日にはシステムプライスの日平均が約154.6円/kWhと過去最高を記録し、1月15日の16時30分〜17時のコマでは、最高値の251.00円/kWhを付けています(電力・ガス取引監視等委員会「2020年度冬期スポット市場価格の高騰について」)。
通常のおよそ十数倍から二十数倍という、異常な水準です。要因として指摘されたのが、寒波による暖房需要の急増、発電燃料であるLNG(液化天然ガス)の在庫逼迫、供給力の不足などの重なりでした。前述のメリットオーダーとシングルプライスの仕組みのもとで、高い電源まで動員された結果、価格が急騰したのです。
高騰の教訓と市場連動型料金のリスク
この高騰は、市場の危うさも浮き彫りにしました。JEPXで電気を調達する新電力のなかには、仕入れ値が跳ね上がって経営が悪化した事業者もあります。また、市場価格に連動する市場連動型の電気料金を契約していた需要家は、電気料金が急騰する事態に直面しました。
事態を受け、政府は2021年1月17日以降、インバランス料金の上限を200円/kWhとする措置を導入するなど、対応に動きました(同委員会資料)。この経験は、市場価格の乱高下にどう備えるかという課題を、事業者・需要家の双方に突きつけた。市場連動型の料金には、安いときの恩恵と同時に、高騰時のリスクもあることを理解しておく必要があります。なお本記事は、特定の料金プランや取引を推奨するものではありません。
JEPXの役割と他市場との違い
JEPXは電力システムのなかでどんな役割を担い、容量市場などとどう違うのかを整理します。
新電力の調達源と価格の指標
あらためて、JEPXの役割は大きく二つです。第一に、新電力の電気の調達源。自前の電源を持たない事業者でも、JEPXで仕入れれば小売事業ができます。市場があるからこそ、多様なプレーヤーが電力事業に参入でき、競争が生まれます。
第二に、日本の電気の値段の指標を示すこと。JEPX価格は、電気が安いとき・高いときを映し、事業者の経営判断や、消費者向けの市場連動型料金にも影響する。出力制御で再エネが余れば価格は下がり、需給がひっ迫すれば跳ね上がる。JEPXは、電力システムの状態を価格という形で可視化しているのです。
容量市場・需給調整市場との違い(運営はOCCTO)
ここで注意したいのが、JEPXが運営しない市場もあることです。よく混同されますが、将来の供給力を確保する容量市場とはや、瞬時の需給を保つ調整力を取引する需給調整市場とはは、JEPXではなくOCCTO(電力広域的運営推進機関)などが運営する、別の仕組みです。
ざっくり整理すると、JEPXは「電力量(kWh)そのもの」を売買する卸電力の市場。一方、容量市場は「将来発電できる能力(kW)」を、需給調整市場は「瞬時に調整する力(ΔkW)」を扱います。何を取引する市場なのかで、運営主体も役割も分かれているのです。
JEPX(卸電力市場)
「電力量(kWh)そのもの」を売買。新電力の調達源&価格の指標。運営=JEPX。
容量市場
「将来発電できる能力(kW)」を確保。運営=OCCTO。
需給調整市場
「瞬時に調整する力(ΔkW)」を取引。運営=OCCTO。
何を取引する市場なのかで、運営主体も役割も分かれています(容量市場・需給調整市場はJEPXではなくOCCTOなどが運営)。
JEPXをどう捉えるか
JEPX(日本卸電力取引所)は、日本で唯一、電気を売買する卸電力取引所です。スポット市場を中心に、時間前・先渡・ベースロード・非化石価値の5つの市場を運営し、シングルプライス方式でスポット価格を決めます。価格には全国のシステムプライスと、連系線の混雑で分かれるエリアプライスがあり、2021年1月には日平均154.6円・コマ最高251円という高騰も経験しました。新電力の調達源として、また電気の値段の指標として、電力システムの土台を支えています。
大切なのは、JEPXを単なる「電気の取引所」としてではなく、「電力自由化と脱炭素を、価格を通じて動かす中核インフラ」として捉えることでしょう。再エネの増加、需給のひっ迫、連系線の制約——。電力システムで起きるあらゆる変化は、JEPXの価格に映し出されます。電力市場の全体像は電力市場とは、電力システム全体は電力システムまるわかりガイドもあわせてご覧ください。
電気の値段は、どこで、どう決まっているのか。その答えの中心にあるのがJEPXです。なお本記事は、資源エネルギー庁・電力・ガス取引監視等委員会・JEPXなどの公開情報をもとに編集部が整理したものであり、特定の電力取引や投資を推奨するものではありません。市場の制度や数値は変わりうるため、最新の内容は各一次情報でご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. JEPXと「電力市場」は何が違うのですか?
A. JEPXは、電力市場の中心にある『取引所』そのものを指します。日本で唯一、電気を売買できる場で、スポット市場・時間前市場・先渡市場・ベースロード市場・非化石価値取引市場という複数の市場を運営しています。『電力市場とは』の解説が市場全体の仕組みを扱うのに対し、本記事はその舞台であるJEPXに焦点を当てています。あわせて読むと、卸電力取引の全体像がつかめます。
Q. JEPXのスポット価格は、どうやって決まるのですか?
A. 売りたい人と買いたい人の入札を価格順に並べ、両者が釣り合う点で価格と量が決まります。特徴は『シングルプライス』方式で、約定した参加者は入札額にかかわらず全員が同じ価格で取引します。さらに、全国を一つとみなすシステムプライスと、送電網(連系線)が混雑したときにエリアごとに分かれるエリアプライスがあり、混雑時には地域差が生まれます。
Q. 容量市場や需給調整市場もJEPXが運営しているのですか?
A. いいえ。JEPXが運営するのは、スポット・時間前・先渡・ベースロード・非化石価値の各市場です。将来の供給力を確保する容量市場や、瞬時の需給を保つ調整力を取引する需給調整市場は、JEPXではなくOCCTO(電力広域的運営推進機関)などが運営する別の仕組みです。役割が分かれている点に注意が必要です。本記事は特定の取引や投資を推奨するものではありません。
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出典・参考(一次情報)
- 資源エネルギー庁「電力・ガス(電力システム改革・電力市場)」
- 電力・ガス取引監視等委員会 制度設計専門会合「2020年度冬期スポット市場価格の高騰について(2021年4月28日・6月14日改訂)」
- 日本卸電力取引所(JEPX)「取引所ウェブサイト」「スポット市場取引結果」
最終更新日:2026年7月1日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。