インドネシアの電力事情|高まる石炭依存と地熱・JETPによる脱炭素を数値で解説

2026.08.15
再生可能エネルギー

最終更新日:2026年8月4日

約2億7千万人が暮らす、1万を超える島々の国インドネシア。急速な経済成長で電力需要が伸び続けるこの国の電気を支えているのは、安く豊富な国産の石炭です。多くの国が石炭を減らすなかで、インドネシアはむしろ石炭比率を高めてきた——世界でも珍しい「石炭大国」です。

この記事は、世界の電力事情シリーズの国別深掘り編(インドネシア)です。南アジア・東南アジアの電力事情で見た東南アジアの中核として、電源構成の推移、石炭が増えた理由、世界有数の地熱、JETPと2060年ネットゼロ、島国の系統、外資、そして日本への示唆までを、数値とともに整理します。同じ石炭依存からの移行に挑む南アフリカの電力事情や、隣の大国中国の電力事情ともあわせてご覧ください。

※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。

インドネシアの電力|3つの特徴
石炭に依存し、なお増加発電の約6割が石炭。世界でも珍しく石炭比率が高まってきた国
世界有数の地熱資源火山国で地熱のポテンシャルは世界2位級。ただし活用は途上
最大規模のJETP約200億ドルの国際支援で、2060年ネットゼロと脱石炭に挑む

この記事の目次

インドネシアの電力事情とは|石炭大国の岐路

石炭が支える島国

インドネシアは、世界有数の石炭の産地であり、輸出国です。国内で安く手に入る石炭を使って電気をつくるのは、経済的に自然な選択でした。その結果、発電の約6割を石炭が占め、しかもその比率は近年になっても高止まり、むしろ上昇してきました。多くの国が脱石炭へ動くなかで、これはきわめて対照的な姿です。

3つの特徴

特徴は上図の3つです。石炭に強く依存し、なお増えてきたこと。火山国として世界2位級の地熱資源を持ちながら活用が途上であること。そして、世界最大規模のJETP(約200億ドル)を受け、2060年ネットゼロと脱石炭に挑もうとしていること。「石炭大国」が転換できるかどうかは、世界の脱炭素にとっても重要な試金石です(IEA「Electricity 2026」)。

電源構成の今と昔|高まる石炭依存

2010年と近年の比較

インドネシアの電源構成を、2010年ごろと近年で並べてみましょう(概数)。

インドネシアの電源構成|2010年ごろと近年(概数)
石炭ガス石油水力地熱その他
2010年ごろ
近年

概数(年により変動)。「その他」は太陽光・バイオ・風力等。石炭比率が上昇したのが特徴。出典:ESDM・IESR・Ember等の公開データをもとにgreenote作成

最も目立つのは、石炭(濃いグレー)が45%程度から6割超へと「増えた」ことです。多くの国では石炭が減るなか、インドネシアは逆。代わりに大きく減ったのが石油(茶)で、かつて2割を占めた石油火力はほぼ姿を消しました。ガス(薄いグレー)も比率を下げ、水力(青)・地熱(緑)は横ばい、太陽光など「その他」(黄)がようやく立ち上がり始めた段階です。

電源別シェアの推移

時系列で見ると、その特徴がはっきりします。まず、石炭と再エネの推移です。

インドネシア:石炭と再エネの推移(概数)
発電量に占めるおおよその割合(%)|石炭が伸び、再エネは追いつけていない
45%11%
52%14%
60%17%
62%19%
2010年2015年2020年近年
石炭再生可能エネルギー(水力・地熱・太陽光等)

概数(年により変動)。残りはガス・石油。出典:ESDM・IESR・Ember等をもとにgreenote作成

石炭が右肩上がりに伸びる一方、再エネ(水力・地熱・太陽光など)はゆるやかにしか増えていません。「石炭の伸びに、再エネが追いつけていない」——これがインドネシアの直面する現実です。次に、電源別に推移を重ねてみます。

インドネシアの電源別シェアの推移(概数)
発電量に占めるおおよその割合(%)|石炭が上昇、石油が縮小(凡例の%は近年の値)
0%20%40%60%201020152020近年
石炭 62%ガス 16%石油 3%水力 7%地熱 5%その他 7%

概数(年により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:ESDM・IESR・Ember等の公開データをもとにgreenote作成

石炭が上昇し、石油が大きく縮小しているのが一目でわかります。水力・地熱は安定した脇役、太陽光などは近年ようやく増加。石炭をどう減らし、再エネをどう加速するかが、これからの最大の課題です(いずれも概数)。

なぜ石炭が増えたのか|安い国産石炭と急増する需要

なぜインドネシアでは石炭が増えたのでしょうか。第一に、安く豊富な国産石炭があること。輸入に頼らず、自国の資源で発電できるのは大きな強みでした。第二に、急速な経済成長と人口増で電力需要が伸び続け、それを手早く安く満たす手段として石炭火力が選ばれ続けたことです。

近年は、もう一つの要因が加わりました。EV用電池に欠かせないニッケルの製錬です。インドネシアは世界最大級のニッケル生産国で、その製錬には膨大な電力が要ります。この工業団地向けに、系統とは別の「専用(キャプティブ)石炭火力」が多く建てられました。皮肉にも、EVの普及がインドネシアの石炭需要を押し上げている面があるのです。

世界有数の地熱|眠る火山の力

一方で、インドネシアには大きな切り札があります。地熱です。「環太平洋火山帯」に位置し火山活動が活発なこの国は、地熱発電のポテンシャルが世界2位級とされます。天候に左右されず24時間発電できる地熱は、石炭を置き換える有力な候補です。

ところが、その活用は資源量に見合っていません。地熱は初期の探査リスクが高く、開発に時間と費用がかかるうえ、適地が国立公園などと重なることも多いためです。探査や許認可の迅速化、投資環境の整備が進めば、地熱はインドネシア脱炭素の主役になり得ます。同じ火山国で地熱を活かすアイスランドの電力事情は、その可能性を示す好例です。

JETPと2060年ネットゼロ|脱石炭への挑戦

この石炭大国の転換を後押しするのが、JETP(公正なエネルギー移行パートナーシップ)です。先進国などがインドネシアに約200億ドルという世界最大規模の資金を拠出し、石炭からの移行を支援する枠組みで、2060年のネットゼロ(ネットゼロ)に向けた重要な柱です。

ただし、道は平坦ではありません。石炭火力の多くは比較的新しく、早期に閉鎖すれば経済的な損失や雇用の問題が生じます。石炭産業は地域経済や政治にも深く根を張っています。だからこそJETPは、単なる脱石炭ではなく、雇用や地域に配慮した「公正な移行」をめざします。排出量取引制度のような炭素価格の仕組みづくりも始まっています。

インドネシアの電力システムの課題と対応

課題

根深い石炭依存。発電の6割が石炭で、比較的新しい石炭火力や、製錬向けの専用電源も多い。

対応

JETPの支援で石炭火力の早期退役と、再エネへの置き換えを進める。

課題

分断された島の系統。1万を超える島々に分かれ、電力網がつながっていない地域も多い。

対応

各島の再エネやマイクログリッド、島間の連系線で供給を整える。

課題

眠る地熱。世界2位級の地熱資源がありながら、開発が十分に進んでいない。

対応

探査や許認可の迅速化、投資環境の整備で地熱開発を後押しする。

島国の系統と外資|PLNと分断されたグリッド

分断された系統

インドネシアの電力には、地理ならではの難しさがあります。1万を超える島々に国土が分かれ、電力網が島ごとに分断されているのです。人口が集中するジャワ・バリの大きな系統がある一方、小さな島々では独立した小規模な電力網(多くはディーゼル発電)に頼っています。国全体を一つの系統でつなぐことが難しく、再エネの融通にも制約があります。

電力事業は、国営のPLNがほぼ独占しています。発電から送配電までを担い、電気料金も規制されています。再エネを増やすには、このPLNの計画や、独立発電事業者(IPP)からの買取ルールが鍵を握ります。

外資と日本企業

インドネシアの電力|外資の参入機会と留意点

参入機会

  • 巨大で伸び続ける電力市場
  • 地熱・太陽光の大きな開発余地
  • JETP関連の投資・技術支援の機会

留意点

  • PLNの独占と料金・買取の規制
  • 許認可・土地・系統の制約
  • 石炭の政治経済的な比重の大きさ

制度や開放度は年により変わります。最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。

巨大で伸び続ける電力市場は、外資にとって魅力的です。地熱・太陽光の開発余地は大きく、JETP関連の投資機会もあります。日本の商社・電力会社・メーカーは、インドネシアの発電事業や地熱、送電に長く関わってきました。近年は、脱炭素に向けた技術支援やグリーン水素・アンモニアの分野でも協力が模索されています。RE100コーポレートPPAを進める企業にとっても、現地の電源の脱炭素は重要な関心事です。各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。

日本との比較|違いと示唆

インドネシアと日本を、電力の面で並べてみましょう。意外な共通点もあります。

インドネシアと日本|電力の比較
観点インドネシア日本
石炭比率約6割(なお高い水準)
地熱世界2位級の資源(活用は途上)
系統島ごとに分断(1万超の島々)
市場PLNがほぼ独占
国際支援JETP(約200億ドル)を受ける側

注目したいのは地熱です。インドネシア(世界2位級)も日本(世界3位級)も豊富な地熱資源を持ちながら、ともに活用が十分に進んでいません。両国が地熱をどう開発するかは、共通の課題であり協力の余地でもあります。一方、石炭比率(尼=約6割/日=3割前後)やJETPの受け手か出し手かという違いもあります。石炭からの「公正な移行」をどう実現するかは、支援する側の日本にとっても他人事ではありません。

まとめ|石炭大国の分かれ道

インドネシアは、安く豊富な国産石炭を土台に電力需要の急増を支えてきた、世界でも珍しい「石炭比率が高まった国」です。ニッケル製錬などの新たな需要も、石炭依存を深めてきました。

しかしいま、世界最大規模のJETPと2060年ネットゼロを掲げ、眠る地熱や太陽光を活かして脱石炭へ舵を切ろうとしています。「石炭大国は転換できるのか」——その答えは、東南アジアや世界の脱炭素の行方を大きく左右します。東南アジア全体の文脈は南アジア・東南アジアの電力事情、同じ挑戦に立つ南アフリカの電力事情ともあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q. インドネシアの電力の特徴は何ですか?

発電の約6割を石炭が占め、多くの国が脱石炭へ動くなかで石炭比率がむしろ高まってきた、世界でも珍しい国であることです。世界2位級の地熱資源を持ちながら活用は途上で、いまは世界最大規模のJETPで脱石炭に挑もうとしています。

Q. インドネシアの石炭比率はどのくらいですか?

近年は発電量の約60%超を石炭が占めます。2010年ごろの45%程度から上昇しました。安く豊富な国産石炭と、急増する電力需要が背景です(いずれも概数・年により変動)。

Q. なぜインドネシアは石炭が増えたのですか?

安く豊富な国産石炭があり、急速な経済成長で電力需要が伸び続けたためです。近年はEV用電池に使うニッケルの製錬向けに、系統と別の専用(キャプティブ)石炭火力が多く建てられたことも石炭需要を押し上げています。

Q. インドネシアの地熱ポテンシャルは?

火山活動が活発で、地熱資源のポテンシャルは世界2位級とされます。天候に左右されず24時間発電できる有力な脱炭素電源ですが、探査リスクや許認可、立地の制約から、開発は資源量に見合っていないのが現状です。

Q. JETPとは何ですか?

公正なエネルギー移行パートナーシップのことです。先進国などがインドネシアに約200億ドルという世界最大規模の資金を拠出し、石炭からの移行を支援する枠組みで、2060年ネットゼロに向けた重要な柱です。雇用や地域に配慮した「公正な移行」をめざします。

Q. インドネシアの電力の課題は何ですか?

根深い石炭依存(比較的新しい石炭火力や製錬向けの専用電源が多い)、1万を超える島々に分断された系統、そして世界2位級ながら活用が進まない地熱です。JETPや再エネ・系統整備で対応が進められています。

Q. インドネシアと日本の電力の違いは何ですか?

石炭比率(インドネシアは約6割、日本は3割前後)や、JETPの受け手か出し手かという違いがあります。一方で、両国とも豊富な地熱資源を持ちながら活用が途上という共通点もあります。

Q. インドネシアから日本が学べることは何ですか?

石炭からの「公正な移行」の進め方や、火山国としての地熱開発は、支援する側の日本にとっても共通の関心事です。とくに地熱は、両国が協力しながら活用を広げられる分野として注目されます。

出典・参考資料(一次情報)

※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年8月15日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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