最終更新日:2026年8月4日
世界最大級の電力市場をもつ北米。同じ大陸でも、米国とカナダでは電源の構成が大きく異なり、いま両国とも大きな変化のただ中にあります。再エネの急拡大、AI・データセンターの電力需要の増加、そして政策の揺れ——北米の電力は、世界のエネルギー動向を映す鏡でもあります。
この記事は、世界の電力事情を地域別にみるシリーズの第1回(北米編)です。北米の電力の全体像から、米国・カナダそれぞれの特徴、電力の自由取引(卸電力市場)の仕組み、日本との制度の違い、共通する課題、そして日本企業への示唆までを、詳しく整理します。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や市場制度・政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。
≡この記事の目次
- 北米の電力事情とは|巨大で多様な市場
- 米国の電力|天然ガス中心、急拡大する再エネとAI需要
- 各国の電源構成を数値でみる|火力・原子力・風力ほか
- 主要国の電源構成
- 米国の推移
- 国別の推移
- カナダの電力|水力が支える低炭素電源
- 電力の自由取引|北米の卸電力市場とISO/RTO
- 米国|ISO/RTOが運営する卸電力市場
- カナダ|州ごとに異なる市場設計
- 日本との制度比較|自由化・給電・市場の違い
- 米国とカナダの比較|電源構成と特徴
- 外資の参入状況|開かれた市場と安全保障の審査
- 発電は開放、送電・原子力は審査
- 日本企業の動き
- 北米が抱える課題|送電網・需要急増・政策
- 日本企業への示唆|北米での電力調達
- まとめ|多様性と変化の大きい北米の電力
- よくある質問(FAQ)
北米の電力事情とは|巨大で多様な市場
北米は、米国とカナダを中心とする世界最大級の電力市場です。最大の特徴は、その「多様性」にあります。両国とも連邦制で、州(米国)や州(カナダ)ごとに、電源構成だけでなく、電力の売買を行う市場の仕組み(自由化の度合い)まで大きく異なるためです。
近年の共通の潮流は、再生可能エネルギーの拡大と、電力需要の再増加です。長らく横ばいだった需要が、AI・データセンターの拡大や電化を背景に、久々に伸びる局面に入ったとされます(IEA「Electricity 2026」)。この変化が、電源構成にも電力取引にも大きな影響を与えています。
米国の電力|天然ガス中心、急拡大する再エネとAI需要
米国の電力は、天然ガスが最大の柱です。シェールガスの普及で価格が下がり、石炭からの置き換えが進みました。石炭は長期的に減少し、代わって風力・太陽光が急拡大しています。原子力も、一定量の電力を安定的に支えています。
際立つのは、州による違いです。テキサスは風力発電が大量に導入され、カリフォルニアは太陽光と気候規制で先行します。中西部は風力、南西部は太陽光と、地理に応じて主力電源が異なります。IRA(インフレ削減法)(2022年)は税額控除で再エネ・EV・国内製造を強力に後押ししましたが、2025年にはその見直しが報じられ、先行きの不確実性が高まったとされます。
AI・データセンターの拡大は、米国の電力に新たな圧力を加えています。長らく横ばいだった電力需要が増加に転じ、供給力の確保が課題として浮上しました。脱炭素を進めつつ、増える需要をどう満たすか——ここが米国の電力の当面の焦点です。
各国の電源構成を数値でみる|火力・原子力・風力ほか
主要国の電源構成
北米の主要国(米国・カナダ・メキシコ)の電源構成を、数値で見てみましょう。数値は年や統計により変わるため、あくまで概数としてご覧ください。
概数(年により変動)。「その他」はバイオマス等を含む。出典:EIA・Ember・IEA等の公開データをもとにgreenote作成
北米全体(米国・カナダ・メキシコの合計イメージ)で、電源構成が過去からどう動いてきたかを概観します。天然ガス・石炭を含む火力が徐々に比率を下げ、風力・太陽光が伸びています。
地域全体の概数(年・国により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成
米国はガスを中心とする火力に原子力・再エネが続き、カナダは水力が大半、メキシコはガス火力が中心と、同じ北米でも構成が大きく異なります。
米国の推移
時間の経過とともに、米国の電源構成がどう変わってきたかを見てみます。石炭と風力・太陽光の推移です。
概数(年により変動)。出典:EIA・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
米国では、シェールガスの普及と再エネの拡大で石炭が大きく減少し、風力・太陽光が伸びてきました。おおむね近年には、風力・太陽光の合計が石炭を上回ったとされます(いずれも概数)。
国別の推移
国別に、発電に占める「風力+太陽光」の割合の推移を見てみましょう。
概数(年により変動)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成
米国が着実に伸び、メキシコも追い上げています。水力が豊富なカナダは、風力・太陽光の比率としては緩やかです(いずれも概数)。
カナダの電力|水力が支える低炭素電源
カナダの電力は、その大半を水力が占める点が最大の特徴です。豊かな水資源を背景に、世界有数の水力大国であり、電力の低炭素度(クリーンさ)が高い国として知られます。
ここでも州による違いは大きく、ケベック州やブリティッシュコロンビア州は水力が中心、オンタリオ州は原子力と水力が支えます。一方、アルバータ州やサスカチュワン州などは天然ガスが中心で、石炭からの脱却(脱石炭)が進められてきました。
カナダのもう一つの特徴が、米国との活発な電力のやり取りです。豊富な水力による電力を、送電線を通じて米国北部へ輸出しており、両国の系統は国境を越えて結ばれています。国際的な電力取引が日常的に行われている点は、島国の日本とは大きく異なります。
電力の自由取引|北米の卸電力市場とISO/RTO
北米の電力を理解するうえで欠かせないのが、「電力の自由取引」です。多くの地域で電力市場が自由化され、電気が市場で売買されています。ただし、その仕組みは地域によって大きく異なります。
米国|ISO/RTOが運営する卸電力市場
米国の多くの地域では、ISO(独立系統運用者)やRTO(地域送電機関)と呼ばれる中立的な組織が、卸電力市場を運営しています。代表的なのが、東部の広域市場PJM、中西部のMISOやSPP、カリフォルニアのCAISO、テキサスのERCOT、ニューヨークのNYISO、ニューイングランドのISO-NEです。
これらの市場では、前日市場(デイアヘッド)とリアルタイム市場で電力量が取引されます。特徴的なのが、系統運用者が全体最適にもとづいて各発電所の出力を一括指示する「中央給電(セントラルディスパッチ)」という方式です。発電コストの安い電源から順に動かすことで、効率的な需給調整をめざします。
将来の供給力を確保する仕組みも地域で異なります。PJMやISO-NEなどには容量市場があり、数年先の供給力をあらかじめ確保します。一方、テキサスのERCOTは容量市場を持たない「エネルギーオンリー市場」で、需給がひっ迫したときに価格が跳ね上がることで投資を促す設計です。なお、南東部や一部の西部では市場自由化が進んでおらず、発電から小売までを一体で担う垂直統合の電力会社が供給する地域も残っています。
カナダ|州ごとに異なる市場設計
カナダの電力取引は、州ごとに設計が大きく異なります。アルバータ州は、系統運用者AESOのもとでエネルギーオンリー型の市場が発達し、自由化が進んでいます。オンタリオ州は、IESOが市場を運営しています。
一方、ケベック州のHydro-Québecやブリティッシュコロンビア州のBC Hydroのように、州営の公益事業が発電から小売までを担い、自由化が限定的な州も少なくありません。同じカナダでも、市場で電気を売買する州と、州営会社が供給する州が併存しているのです。
日本との制度比較|自由化・給電・市場の違い
では、北米の電力取引は日本とどう違うのでしょうか。ここが、日本企業にとって最も理解しておきたいポイントです。下表に、米国・カナダ・日本の制度を並べて比較しました。
| 観点 | 米国 | カナダ | 日本 |
|---|---|---|---|
| 市場の形態 | 地域ごとにISO/RTOの卸電力市場。南東部などは規制が残る州も | 州ごと。自由化州(アルバータ等)と州営中心の州が混在 | 全国的な卸市場(JEPX)+広域機関(OCCTO) |
| 給電の方式 | 多くが中央給電(セントラルディスパッチ)で全体最適に出力指示 | 州により異なる | 各事業者が発電計画を立てる方式(同時市場を検討中) |
| 小売の自由化 | 州により全面/部分/未自由化と分かれる | 州により異なる | 2016年に全面自由化 |
| 容量市場 | PJMなどにあり。ERCOT(テキサス)はなし(エネルギーオンリー) | 州による | あり(2020年〜) |
| 系統運用者 | ISO/RTO または 電力会社 | 州の系統運用者 または 州営公益事業 | 一般送配電事業者+OCCTO |
| 国際連系 | カナダ・メキシコと送電線で連系し輸出入 | 米国と活発に電力を輸出入 | 島国で国際連系がなく、系統は独立 |
最大の違いは、「給電の方式」と「国際連系」の2点です。米国の多くの市場が、系統運用者が全体最適で出力を指示する中央給電なのに対し、日本は各発電事業者が自ら発電計画を立てる方式が基本でした。日本でも、電力量と調整力を一体で最適化する同時市場の導入が検討されている段階です。
もう一つが、国際連系の有無です。北米は米国・カナダ・メキシコが送電線で結ばれ、国境を越えて電力を輸出入しています。これに対し、島国の日本は他国と系統がつながっておらず、電力を国内で自給する必要があります。再エネが余っても他国へ送れず、出力制御(出力制御)で対応せざるを得ない場面がある——これは、国際連系を持つ北米と大きく異なる、日本固有の制約です。
なお、日本の卸取引はJEPX(日本卸電力取引所)が担い、全国大の需給は広域機関(OCCTO)が調整します。小売は2016年に全面自由化され、容量市場も2020年に始まりました。制度の形は異なっても、「市場を通じて効率的に電気を融通する」という方向性は、世界で共通しつつあります。
米国とカナダの比較|電源構成と特徴
電源構成の面でも、米国とカナダを並べると、同じ北米でも構成の違いがよくわかります。
米国
ガス中心+再エネ急拡大
- 最大の柱は天然ガス。石炭は長期的に減少
- 風力・太陽光が急拡大、原子力も一定量
- 州ごとに大きな差(テキサス=風力、カリフォルニア=太陽光・規制先進)
- AI・データセンターで需要増
カナダ
水力が支える低炭素
- 電源の大半が水力で、低炭素度が高い
- 州ごとに差(ケベック=水力、オンタリオ=原子力+水力)
- アルバータなどはガス中心で脱石炭が進行
- 米国への電力輸出も
同じ北米でも、米国とカナダでは電源構成が大きく異なります。数値は年や統計で変わるため、最新は各公式データをご確認ください。
米国が「ガス+急拡大する再エネ」であるのに対し、カナダは「水力中心の低炭素」です。この違いは、両国の資源や地理、政策の歴史を反映しています。電力取引の面でも、米国はISO/RTO中心、カナダは州営と市場が併存と、対照的です。
外資の参入状況|開かれた市場と安全保障の審査
発電は開放、送電・原子力は審査
北米の発電事業は外資に広く開かれ、カナダ・欧州・日本などの企業や投資ファンドが、再エネIPPやガス火力に出資してきました。市場が発達しているため、発電への参入の選択肢は豊富です。
一方、米国では送電網や原子力など安全保障に関わる分野は、対米外国投資委員会(CFIUS)の審査対象となり、規制が働きます。カナダも重要インフラの外資買収を審査します。「発電は開放、基幹インフラは審査」という切り分けが基本です。
参入機会
- 世界最大級の市場で案件が豊富
- IRA等の政策支援(見直しの動きはある)
- 再エネ・洋上風力・蓄電の大型案件
留意点
- 送電・原子力はCFIUS等の安全保障審査
- 政権交代による政策の不確実性
- 州ごとの制度差
開放度や規制は国・年により変わります。最新・確定の内容は各国の公式情報でご確認ください。
日本企業の動き
日本のJERAや電力会社、総合商社は、米国のガス火力・再エネ・洋上風力に相次いで出資してきました。北米は日本勢にとって重要な投資先の一つで、脱炭素シフトに合わせ、再エネや蓄電へ比重を移す動きが見られます。なお各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。
北米が抱える課題|送電網・需要急増・政策
変化の大きい北米の電力には、いくつかの共通した課題があります。上表のように、課題と論点をセットで押さえると、全体像がつかみやすくなります。
課題
送電網(系統)の制約。再エネの適地と需要地が離れ、接続待ちや増強の遅れが生じる。
論点
大規模な送電網の増強と、接続手続きの迅速化が急がれる。
課題
需要の急増。AI・データセンターや電化で、久々に電力需要が伸びる。
論点
供給力の確保と脱炭素の両立。再エネ・原子力・ガスのバランスが問われる。
課題
政策の不確実性。米国はIRAの見直しなど、政権交代で方向性が揺れやすい。
論点
制度変更を見越したリスク管理と、州レベルの動きの把握が重要になる。
とくに送電網の制約は深刻で、再エネを増やしても送れなければ意味がありません。地域間連系線・系統増強のような大規模な系統増強が、北米でも重要なテーマになっています。AI・データセンターの電力需要の急増は、この課題をいっそう際立たせています。
日本企業への示唆|北米での電力調達
北米で事業を行う日本企業にとって、電力事情の理解は経営に直結します。再エネ電力の調達では、コーポレートPPA(電力購入契約)や証書の活用が一般的で、RE100の達成やScope2排出の削減につながります。とくに卸電力市場が発達した地域では、市場価格に連動した多様な調達手段が選べます。
大切なのは、州ごとの制度差を前提に計画を立てることです。再エネが豊富で市場も発達した地域もあれば、州営会社中心で選択肢が限られる地域もあります。電力コストや安定供給、政策の変化を見据えながら、拠点ごとに最適な電力戦略を描くことが求められます。
まとめ|多様性と変化の大きい北米の電力
北米の電力は、「多様性」と「変化の大きさ」に特徴づけられます。米国はガスと急拡大する再エネ、カナダは水力を軸とする低炭素電源。電力取引も、ISO/RTOによる自由な卸市場から州営の供給まで幅広く、国境を越えた輸出入も日常的です。
日本と比べると、中央給電や国際連系といった点で制度が大きく異なります。だからこそ、北米の動向は、日本の電力システム改革(同時市場の検討など)を考えるうえでも参考になります。次回以降、欧州やアジアなど他地域の電力事情も、電力取引を世界に広げる視点で見ていきます(World Energy Outlook 2025)。
よくある質問(FAQ)
Q. 北米の電力事情の特徴は何ですか?
世界最大級の市場で、連邦制のため州・州ごとに電源構成や市場制度が大きく異なる「多様性」が最大の特徴です。近年は再エネの拡大と、AI・データセンターや電化による電力需要の再増加が共通の潮流になっています。
Q. 米国の電源構成はどうなっていますか?
天然ガスが最大の柱で、石炭は長期的に減少し、風力・太陽光が急拡大しています。原子力も一定量を支えます。テキサスは風力、カリフォルニアは太陽光と規制先行など、州による違いが大きいのが特徴です。
Q. カナダの電力はなぜ低炭素なのですか?
電源の大半を水力が占めるためです。豊かな水資源を背景に世界有数の水力大国であり、電力の低炭素度が高い国として知られます。州により原子力やガスの比重も異なります。
Q. 北米の「電力の自由取引」とはどういう仕組みですか?
米国の多くの地域では、ISO(独立系統運用者)やRTO(地域送電機関)が卸電力市場を運営し、前日市場やリアルタイム市場で電力が売買されています。代表例はPJM・CAISO・ERCOTなどです。多くは中央給電(セントラルディスパッチ)で全体最適に出力を指示します。
Q. ISO/RTOとは何ですか?
ISO(Independent System Operator=独立系統運用者)やRTO(Regional Transmission Organization=地域送電機関)は、送電網の運用と卸電力市場の運営を担う中立的な組織です。特定の発電事業者に偏らず、地域全体の需給を効率的に調整します。
Q. 北米と日本の電力制度の違いは何ですか?
大きな違いは「給電の方式」と「国際連系」です。米国の多くの市場は系統運用者が全体最適で出力を指示する中央給電ですが、日本は各事業者が発電計画を立てる方式が基本です(同時市場を検討中)。また北米は国境を越えて電力を輸出入しますが、島国の日本は国際連系がなく系統が独立しています。
Q. なぜ北米の電力需要が増えているのですか?
長らく横ばいだった需要が、AI・データセンターの拡大や、暖房・自動車などの電化を背景に、久々に伸びる局面に入ったためとされます。供給力の確保と脱炭素の両立が課題になっています。
Q. IRA(インフレ削減法)は電力にどう影響しましたか?
2022年のIRAは、税額控除で再エネ・EV・国内製造を強力に後押ししました。ただし2025年にはその見直しが報じられ、先行きの不確実性が高まったとされます。制度は変わりうるため最新情報の確認が必要です。
Q. 日本企業は北米でどう電力を調達すればよいですか?
コーポレートPPA(電力購入契約)や証書の活用が一般的で、RE100の達成やScope2削減につながります。卸市場が発達した地域では市場連動の調達も選べます。州ごとに再エネの調達しやすさや制度が異なるため、拠点ごとに最適な戦略を描くことが重要です。
Q. 電源構成や市場のデータはどこで確認できますか?
米国はEIA(エネルギー情報局)、カナダはカナダ・エネルギー規制庁(CER)や天然資源省(NRCan)などが公式データを公表しています。数値や制度は年・情勢で変わるため、最新の一次情報での確認をおすすめします。
出典・参考資料(一次情報)
- U.S. Energy Information Administration(EIA)|Electricity
- Canada Energy Regulator(カナダ・エネルギー規制庁)
- Natural Resources Canada(カナダ天然資源省)|Energy Sources
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・市場制度・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月14日