南米の電力事情とは|ブラジル・チリの水力・再エネと電力取引を解説

再生可能エネルギー

最終更新日:2026年8月4日

豊かな水資源による水力を軸に、もともとクリーンな電力を持つ南米。そこへ、チリのアタカマ砂漠の太陽光やパタゴニアの風といった世界最高水準の再エネが加わり、いま大きな注目を集めています。欧州の電力大手や中国勢、日本の商社も、活発に投資してきました。

この記事は、世界の電力事情を地域別にみるシリーズの一編(南米編)です。北米の電力事情欧州の電力事情東アジア・オーストラリアの電力事情南アジア・東南アジアの電力事情に続き、ブラジル・チリ・アルゼンチンなどの電源構成、各国の数値、電力の自由取引、外資の参入、日本との制度の違いまでを、詳しく整理します。

※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や市場制度・政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。

南米の電力事情|3つの特徴
世界有数のクリーン電力水力が電源の柱で、もともと低炭素な国が多い(ブラジル・コロンビア等)
太陽光・風力ブームチリのアタカマ砂漠など、世界最高水準の日射・風況で再エネが急拡大
活発な外資欧州の電力大手・中国勢・日本の商社が、発電や送配電に大規模投資

この記事の目次

南米の電力事情とは|水力を軸にしたクリーンな地域

世界有数のクリーンな電力

南米の電力の最大の特徴は、水力を軸にしたクリーンさです。ブラジル・コロンビア・ペルーなど、電源の多くを水力でまかなう国が多く、もともと低炭素な電力を持っています。豊かな河川と地形が、この地域の強みです。

太陽光・風力ブームと外資

そこへ近年加わったのが、太陽光・風力のブームです。とくにチリのアタカマ砂漠は世界最高水準の日射に恵まれ、世界最安級の太陽光を生み出しています。こうした潜在力に、欧州の電力大手や中国勢、日本の商社が大規模に投資してきました(IEA「Electricity 2026」)。

電源構成|水力中心と再エネの拡大

国ごとの3つのタイプ

南米の電源構成は、国によって大きく異なります。大きく3つのタイプに整理できます。

南米の電源|3つのタイプ
水力大国

ブラジル・コロンビア・ペルー

水力が電源の柱で、もともとクリーン。近年は風力・太陽光も加わる。渇水リスクが弱点。

太陽光・風力

チリ

アタカマ砂漠の日射やパタゴニアの風で、世界最安級の再エネが急拡大。脱石炭も進む。

ガス中心

アルゼンチン

シェールガス(バカムエルタ)を背景にガス火力が中心。水力もあり、再エネは拡大途上。

ブラジル・コロンビア・ペルーは水力が柱、チリは太陽光・風力が急拡大、アルゼンチンはガス中心——といった違いがあります。同じ南米でも、資源と地形が電源構成を分けています。

各国の電源構成を数値でみる|水力・太陽光・風力ほか

主要国の電源構成

各国の電源構成を、数値で見てみましょう。下のグラフは、発電量に占める電源別のおおよその割合です。数値は年や統計により変わるため、あくまで概数としてご覧ください。

主要国の電源構成(発電量に占める割合・概数)
火力原子力風力太陽光水力その他
ブラジル
チリ
アルゼンチン
コロンビア
ペルー

概数(年により変動)。「その他」はバイオマス等を含む。出典:Ember・IEA等の公開データをもとにgreenote作成

南米全体(ブラジル・チリなどの合計イメージ)で、電源構成の推移を概観します。もともと水力が主役で、近年は風力・太陽光が伸び、水力の比率は干ばつ等で緩やかに低下しています。

南米全体の電源別シェアの推移(概数)
発電量に占めるおおよその割合(%)|地域全体のイメージ(凡例の%は近年の値)
0%20%40%60%80%201020152020近年
火力 25%原子力 2%風力 9%太陽光 7%水力 53%その他 4%

地域全体の概数(年・国により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成

ブラジル・コロンビア・ペルーで水力が大きな比率を占めるのが目を引きます。チリは太陽光・風力・水力・火力がバランスし、アルゼンチンはガスを含む火力が中心です。水力が多い国は、もともとクリーンな一方、渇水の影響を受けやすい弱点も抱えます。

チリの推移

次に、時間の経過とともに構成がどう変わってきたかを見てみます。ここでは、変化が最も劇的なチリについて、石炭と風力・太陽光の推移を示します。

チリの発電:石炭と風力・太陽光の推移(概数)
発電量に占めるおおよその割合(%)の変化
5%40%
18%30%
35%17%
2015年ごろ2020年ごろ近年
風力+太陽光石炭

概数(年により変動)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成

チリは、かつて石炭火力に依存していましたが、その割合が大きく低下し、風力・太陽光が急速に伸びました。おおむね近年には、風力・太陽光が石炭を上回ったとされます。世界最高水準の日射・風況を生かした、劇的な転換です(いずれも概数)。

国別の推移

国ごとに推移を見ると、伸び方は大きく異なります。下のグラフは、主要国の発電に占める「風力+太陽光」の割合の推移です。

主要国の「風力+太陽光」比率の推移(概数)
発電量に占めるおおよその割合(%)
0%10%20%30%40%201020152020近年35%20%13%3%
チリブラジルアルゼンチンコロンビア

概数(年により変動)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成

チリが突出して伸び、ブラジルも着実に拡大しています。アルゼンチンは緩やか、水力中心のコロンビアはなお低水準です。もともと水力でクリーンな国と、太陽光・風力で伸びる国の違いが表れています(いずれも概数)。

各国の特徴|ブラジル・チリ・アルゼンチンほか

ブラジル|水力大国

ブラジルは、電源の大半を水力でまかなう世界有数の水力大国です。もともと電力の低炭素度が高い一方、干ばつ(渇水)になると発電量が落ち込み、火力で補う必要が生じます。近年は北東部を中心に風力が拡大し、太陽光も急増。サトウキビ由来のバイオマス発電も特徴です。電力市場は、規制契約(ACR)と自由契約(ACL)が併存しています。

チリ|太陽光・風力の新星

チリは、南米の再エネ転換をリードする国です。アタカマ砂漠の圧倒的な日射と、パタゴニアの強い風を背景に、世界最安級の太陽光・風力が急拡大しました。かつて依存した石炭火力は段階的に閉鎖が進んでいます。豊富な再エネを使ったグリーン水素の輸出構想も、世界の注目を集めています。

アルゼンチン・アンデス諸国

アルゼンチンは、シェールガス田「バカムエルタ」を背景に、天然ガス火力が電源の中心です。水力や原子力もあり、再エネは拡大の途上。通貨安やインフレが、電力投資の環境を左右してきました。このほか、コロンビアやペルーは水力が中心で、アンデスの水資源を生かした低炭素な電力を持っています。

電力の自由取引|市場と長期契約

各国の市場のかたち

南米の電力取引は、市場と長期契約を組み合わせる国が多いのが特徴です。

  • ブラジル:卸電力市場に加え、規制市場(ACR)と自由市場(ACL)が併存。大口需要家は自由に契約先を選べる。
  • チリ:卸市場に加え、再エネの長期入札が活発で、価格低下を後押ししてきた。
  • アルゼンチン:卸電力機関CAMMESAが中心で、国の関与が大きい。
  • 日本JEPX(日本卸電力取引所)が卸取引を担い、広域機関(OCCTO)が全国の需給を調整する。

域内連系の動き

南米では、国境を越えた電力の融通も一部で行われています。アルゼンチン・ブラジル・チリ・ウルグアイなどが送電線で結ばれ、季節や渇水に応じて電気をやり取りしてきました。島国の日本にはない「域内連系」があり、水力と再エネを補い合う可能性を持っています。

外資の参入状況|市場の開放度と日本企業

発電・再エネは開放、中国・欧州勢も活発

南米は、発電や再エネへの外資参入が活発な地域です。欧州の電力大手(エネル、エンジー、イベルドローラなど)が発電・配電で大きな存在感を持つほか、近年は中国勢が、ブラジルやチリ、ペルーの送配電網や再エネに大規模な投資・買収を行ってきました。

発電・再エネは概ね開放的ですが、送配電のような基幹インフラの外資取得には、国による審査や政治的な議論が伴うこともあります。国ごとの制度と、通貨・政策リスクを見極めることが重要です。

外資にとっての参入機会と留意点

参入機会

  • クリーンな電力を求める需要(データセンター等)
  • 世界最安級の再エネ(チリの太陽光)
  • 水素・重要鉱物と結びつく成長分野

留意点

  • 通貨安・インフレ・政策変更のリスク(アルゼンチン等)
  • 渇水による水力の出力変動
  • 送電網の制約と許認可

開放度や規制は国・年により変わります。最新・確定の内容は各国の公式情報でご確認ください。

日本企業(商社・電力)の動き

日本の総合商社(三井物産・三菱商事・住友商事など)やJERA・電力会社も、南米の水力・ガス火力・再エネ・送電事業に出資してきました。クリーンな電力や重要鉱物、将来のグリーン水素とも結びつく地域として、南米への関心は高まっています。なお各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。

日本との制度比較|市場・自由化・国際連系の違い

南米の主要国と日本を、制度面で並べてみましょう。

南米の主要国と日本|電力制度の比較
観点ブラジルチリアルゼンチン日本
市場の形態卸市場+規制・自由契約(ACR/ACL)市場+長期入札(再エネで実績)卸機関CAMMESA中心・国の関与大
小売の自由化大口中心に拡大大口は自由限定的
主力電源水力(風力・太陽光も拡大)太陽光・水力・火力天然ガス
国際連系近隣国と一部連系アルゼンチン等と連系ブラジル・チリ等と連系
再エネの勢い風力・太陽光が拡大非常に速いこれから

市場の形態も主力電源も、国ごとに大きく異なります。共通するのは、水力を中心にもともとクリーンな電力を持つ国が多いことと、島国の日本と違って北米の電力事情欧州の電力事情のように域内で電力を融通できる点です。

南米が抱える課題|渇水・通貨・系統

クリーンな電力を持つ南米にも、固有の課題があります。

南米の電力が抱える課題

課題

渇水と水力への依存。水力比率が高い国では、干ばつで発電量が落ち込むリスク。

論点

風力・太陽光や蓄電で電源を多様化し、渇水への耐性を高める。

課題

通貨・政策の不確実性。インフレや通貨安、政権交代で事業環境が揺れる国もある。

論点

長期契約や制度の安定が、投資を呼び込む鍵になる。

課題

送電網の制約。再エネ適地(砂漠・山岳)と需要地が離れ、送電が追いつかない。

論点

長距離送電の増強と、出力制御を減らす運用が求められる。

最大の弱点は、水力への依存ゆえの渇水リスクです。干ばつの年には発電量が落ち込み、火力での穴埋めや電力価格の上昇につながります。だからこそ、風力・太陽光や蓄電による電源の多様化が進められています。通貨・政策の不確実性や、送電網の制約も、投資を左右する要因です。

日本企業への示唆|南米での電力事業と調達

南米は、日本企業にとって、クリーンな電力と成長機会が交わる地域です。再エネ事業への出資に加え、将来はグリーン水素やアンモニア、重要鉱物の供給元としても重要性が高まると見込まれます。

再エネ電力の調達では、コーポレートPPAが活用され、RE100ネットゼロに向けた取り組みを進めやすい国もあります。一方で、通貨・政策リスクや渇水リスクを踏まえた、長期の視点が欠かせません。拠点や事業の性格に応じて、機会とリスクを見極めることが求められます。

まとめ|クリーンな電力と成長機会が交わる南米

南米は、水力を軸にしたクリーンな電力に、チリの太陽光・風力ブームが加わった、脱炭素の潜在力の大きい地域です。欧州・中国・日本の外資が活発に投資し、電力取引も市場と長期契約を組み合わせて発展してきました。

渇水や通貨・政策のリスクはあるものの、クリーンな電力と成長機会が交わる南米は、世界の脱炭素とサプライチェーンにとって重要性を増しています。世界の電力事情シリーズは、北米の電力事情欧州の電力事情東アジア・オーストラリアの電力事情南アジア・東南アジアの電力事情とあわせてご覧ください(World Energy Outlook 2025)。

よくある質問(FAQ)

Q. 南米の電力事情の特徴は何ですか?

水力を軸にした、もともとクリーンな電力が最大の特徴です。ブラジル・コロンビア・ペルーなど水力中心の国が多く、そこへチリの太陽光・風力ブームが加わりました。欧州・中国・日本の外資が活発に投資している点も特徴です。

Q. ブラジルの電源構成はどうなっていますか?

水力が電源の大半を占める世界有数の水力大国です。もともと低炭素ですが、干ばつ時には発電量が落ち込む弱点があります。近年は風力が拡大し、太陽光も急増、サトウキビ由来のバイオマスも特徴です(いずれも概数)。

Q. なぜチリで再エネが急拡大したのですか?

アタカマ砂漠の世界最高水準の日射と、パタゴニアの強い風という、恵まれた自然条件が背景です。世界最安級の太陽光・風力が実現し、かつて依存した石炭火力の閉鎖が進みました。グリーン水素の輸出構想も注目されています。

Q. アルゼンチンの電力の特徴は?

シェールガス田「バカムエルタ」を背景に、天然ガス火力が電源の中心です。水力や原子力もありますが、再エネは拡大の途上です。通貨安やインフレが電力投資の環境を左右してきました。

Q. 南米の電力取引は日本とどう違いますか?

市場と長期契約を組み合わせる国が多く、ブラジルは規制市場(ACR)と自由市場(ACL)が併存、チリは再エネの長期入札が活発です。アルゼンチンは国の関与が大きい卸機関CAMMESAが中心です。また島国の日本と違い、南米は国境を越えた域内連系があります。

Q. 南米の電力に外資はどのくらい入っていますか?

発電・再エネへの外資参入が活発です。欧州の電力大手(エネル・エンジー・イベルドローラ等)が大きな存在感を持ち、近年は中国勢がブラジル・チリ・ペルーの送配電網や再エネに大規模投資してきました。日本の商社・電力会社も水力・ガス・再エネ・送電に出資しています。

Q. 南米の電力が抱える課題は何ですか?

水力への依存ゆえの渇水リスク、インフレや通貨安・政策の不確実性、再エネ適地と需要地を結ぶ送電網の制約が主な課題です。電源の多様化や制度の安定が鍵になります。

Q. 日本企業は南米とどう関わっていますか?

日本の商社やJERA・電力会社が、水力・ガス火力・再エネ・送電事業に出資してきました。クリーンな電力や重要鉱物、将来のグリーン水素とも結びつく地域として関心が高まっています。通貨・政策・渇水リスクを踏まえた長期の視点が重要です。

出典・参考資料(一次情報)

※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・市場制度・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年8月14日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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