電力の小売が自由化され、私たちは電力会社を選べるようになりました。けれど、新規参入の「新電力」には、ひとつ大きなハンデがありました。安く発電できる電源を持っていないのです。地熱や水力、原子力、石炭——こうした安価な電源の多くは、大手電力が握っている。この不公平を正し、新電力も安価な電気を調達できるようにするのが、ベースロード市場です。本記事では、その仕組みと狙いを、資源エネルギー庁・JEPXの一次情報をもとに、わかりやすく解説します。
電力市場の全体像は電力市場とは、取引所そのものはJEPX(日本卸電力取引所)とはもあわせてご覧ください。
≡この記事の目次
- 1ベースロード市場とは
- ►ベースロード市場をひとことで言うと
- ►なぜ生まれたのか――大手と新電力の非対称
- 2前提――ベースロード電源とは
- ►24時間一定で、安く発電できる電源
- ►ベース・ミドル・ピークの3つの役割
- 3なぜ市場が必要なのか――競争の不公平を正す
- ►大手は持ち、新電力は持たないという非対称
- ►競争を促し、電気料金を抑える
- 4仕組み――供出とオークション
- ►大手電力が供出し、JEPXがオークションを開く
- ►年間商品・3エリア・シングルプライス
- 5他の市場との違い――スポットや先物との位置づけ
- ►スポット・容量・需給調整との違い
- ►電力先物との違い――現物か、ヘッジか
- 6課題と展望
- ►供出量・流動性という課題
- ►脱炭素との関係とこれから
- 7ベースロード市場をどう捉えるか
- 8出典・参考(一次情報)
ベースロード市場とは
まず、ベースロード市場をひとことで整理します。「安く発電できるベースロード電源の電気を、年間でまとめて取引する市場」という発想から入りましょう。
ベースロード市場をひとことで言うと
ベースロード市場とは、地熱・一般水力・原子力・石炭火力といった「ベースロード電源」で発電された電気を、年間で取引する市場です。ベースロード電源とは、発電コストが低く、24時間ほぼ一定の出力で動かせる電源のこと。運営しているのは、卸電力市場でおなじみのJEPX(日本卸電力取引所)で、2019年度に開設されました。
ポイントは、安価な電源の電気を、新電力でも調達できるようにすることにあります。電気を1年分まとめて、一定量・一定価格で確保できる。新電力にとっては、安定した仕入れの土台になる仕組みです。
なぜ生まれたのか――大手と新電力の非対称
なぜ、こんな市場が必要なのか。背景にあるのが、大手電力と新電力のあいだの「非対称」です。地熱・水力・原子力・石炭といった安価なベースロード電源は、もともと大手電力(旧一般電気事業者)が多くを保有しています。一方、自由化で新規参入した新電力は、これらをほとんど持っていません。
すると、価格競争で新電力は不利になりがちです。安い電源を持つ大手に、コストで太刀打ちしづらい。これでは、せっかく自由化しても公正な競争になりません。そこで、大手が持つ安価な電源の電気を市場に出し、新電力も買えるようにする——。競争の土俵をならすために、ベースロード市場が生まれたのです。電力システム改革の全体像は電力システム改革とはもご覧ください。
前提――ベースロード電源とは
ベースロード市場を理解するには、まず「ベースロード電源」とは何かを押さえる必要があります。電源の役割分担から見ていきましょう。
電源には、3つの役割がある
ピーク電源
需要が多い時間だけ動かす。石油火力・揚水など
ミドル電源
需要に応じて出力を調整。LNG火力など
ベースロード電源
24時間一定で安く発電。地熱・一般水力・原子力・石炭火力
下=つねに必要な土台の需要/上=変動する需要
ベースロード電源は、発電コストが低く一定運転する電源。その電気を取引するのがベースロード市場。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
24時間一定で、安く発電できる電源
ベースロード電源の特徴は、「安く・一定に」発電できることです。一度動かせば、昼も夜も、ほぼ一定の出力で運転を続けられる。代表的なのが、地熱・一般水力(大型水力)・原子力・石炭火力です。これらは、燃料費などの発電コストが比較的低いため、24時間動かし続けるのに向いています。
電気は、貯めておくのが難しい。だからこそ、つねに必要となる一定の需要(ベース)を、安く安定して賄う電源が欠かせません。その土台を担うのが、ベースロード電源なのです。なお、地熱発電のように、再エネのなかにもベースロード電源として期待されるものがあります。
ベース・ミドル・ピークの3つの役割
電源には、需要の変化に応じた、3つの役割だ。まず、ベースロード電源。24時間一定で動く、土台の電源です。次に、ミドル電源。日中など需要の増減に合わせて出力を調整する電源で、LNG(天然ガス)火力などが担います。
そして、ピーク電源。需要が最も多い時間帯だけ動かす電源で、石油火力や揚水発電などです。安い電源(ベース)で土台を支え、変動する分を機動的な電源(ミドル・ピーク)で補う——。この組み合わせで、刻々と変わる需要に合わせています。ベースロード市場が扱うのは、このうち最も安い土台の部分なのです。
なぜ市場が必要なのか――競争の不公平を正す
ベースロード市場の核心は、大手電力と新電力のあいだにある「不公平」を正すことにあります。その構造を見ていきます。
持つ大手、持たない新電力。市場が橋渡し
大手電力(旧一般電気事業者)
地熱・水力・原子力・石炭など安価なベースロード電源を多く保有
電気を供出
→
ベースロード市場
年間で調達
→
新電力(新規の小売事業者)
ベースロード電源をほとんど持たず、価格競争で不利になりがち
大手が供出した安価な電気を新電力も買えるようにし、競争を公正に近づける。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
大手は持ち、新電力は持たないという非対称
くり返しになりますが、問題の根っこは保有の偏りだ。長年、発電を担ってきた大手電力は、安価なベースロード電源を数多く保有しています。発電所をいちからつくるには莫大な時間とお金がかかるため、後発の新電力が、同じような電源を自前でそろえるのは現実的ではありません。
結果として、新電力は安い電気を仕入れる手段が限られ、価格競争でハンデを負います。卸電力市場(スポット)で調達することもできますが、スポット価格は変動が激しく、安定した安い仕入れにはなりにくい。この構造的な不利が、自由化後の競争を妨げる一因になっていました。
競争を促し、電気料金を抑える
そこでベースロード市場は、大手が持つ安価な電源の電気を、新電力にも行き渡らせることをめざします。新電力が、安定した価格で安価な電気を確保できれば、大手とより対等に競争できる。競争が活発になれば、電気料金の抑制にもつながる。
ねらいは、特定の事業者を優遇することではありません。競争の土俵をならし、市場全体を健全にすること。自由化の効果を、料金という形で消費者に届ける——。その実効性を高めるための、制度的な工夫がベースロード市場なのです。
仕組み――供出とオークション
では、ベースロード市場はどのように動いているのでしょうか。供出から取引までの流れを見ていきます。
供出し、オークションで取引する
1 大手電力が供出
ベースロード電源を多く持つ大手電力が、保有電源に相当する電気を市場へ供出することが求められる。
2 JEPXがオークション
スポット市場と同じシングルプライスオークションで取引。年に複数回開かれる。
3 新電力が調達
新電力が、1年間にわたって受け渡される年間商品を落札して調達する。
入札のエリアは北海道・東日本・西日本の3つ。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
大手電力が供出し、JEPXがオークションを開く
ベースロード市場の出発点は、大手電力(旧一般電気事業者)による供出です。ベースロード電源を多く保有する大手電力に対し、その電源に相当する電気を市場へ供出することが求められます。自分たちだけで安い電気を抱え込むのではなく、一定量を市場に出して、新電力も買えるようにするという考え方です。
供出された電気は、JEPXが開くオークションで取引されます。方式は、卸電力市場のスポット市場と同じシングルプライスオークション。約定したすべての参加者が、同じ約定価格で取引する仕組みです。透明で公正な価格形成がはかられます。
年間商品・3エリア・シングルプライス
取引される商品にも、特徴がある。まず、年間商品であること。1年間にわたって、一定量の電気が受け渡されるため、新電力は長期にわたる安定した調達を見込めます。スポット市場のような日々の変動に振り回されず、仕入れの土台を固められるわけです。
入札のエリアは、北海道・東日本(東京エリア)・西日本(関西エリア)の3つに分かれます。オークションは年に複数回行われ、新電力は必要なエリア・量に応じて落札します。なお、取引の透明性や上限価格などのルールについては、資源エネルギー庁がベースロード市場ガイドラインを整備し、市場が健全に機能するよう枠組みが定められています。
他の市場との違い――スポットや先物との位置づけ
電力にはいくつもの市場があります。ベースロード市場が、そのなかでどこに位置づくのかを整理します。
電力市場のなかのベースロード市場
スポット市場
電気そのものを翌日に受け渡す。短期・変動が大きい。
ベースロード市場
安価な電源の電気を年間で受け渡す。安定した仕入れの土台。
電力先物
電気は受け渡さず、価格変動リスクをヘッジする金融的な取引。
容量・需給調整市場
将来の供給力(kW)や調整力(ΔkW)を確保する。
ベースロード市場は、安い電源の現物を年間で確保する市場。価格ヘッジの電力先物とは役割が違う。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
スポット・容量・需給調整との違い
電力市場には、目的の異なる市場がいくつもあります。スポット市場は、電気そのもの(kWh)を翌日に受け渡す、短期の市場。ベースロード市場は、同じ電気の現物でも、安価な電源の電気を1年間で受け渡す点が違います。短期の変動に左右されない、長期・安定の調達なのです。
これに対し、容量市場は将来の供給力(kW)を、需給調整市場は周波数を保つ調整力(ΔkW)を確保する市場で、扱うものが異なります。ベースロード市場は、あくまで「安い電気そのもの」を年間で確保する市場、という位置づけです。
電力先物との違い――現物か、ヘッジか
混同しやすいのが、電力先物との違いです。どちらも「将来の電気」に関わりますが、中身はまったく違います。ベースロード市場は、電気そのもの(現物)を、実際に受け渡す市場。安い電源の電気を、年間で仕入れるためのものです。
一方、電力先物は、電気を受け渡さず、将来の価格変動リスクをヘッジする金融的な取引です。ベースロード市場が「安い電源を確保する」ためのものなのに対し、電力先物は「価格の振れに備える」ためのもの。現物の調達と価格のヘッジ——。両者は、補い合う関係にあります。
課題と展望
競争を促す狙いの一方で、ベースロード市場には課題も残る。現状とあわせて整理します。
ベースロード市場の課題
供出量と流動性
市場に出される電気の量が十分か、取引が活発かが、市場の実効性を左右する。
価格と実効性
新電力が本当に安く調達でき競争に役立っているか。上限価格などのルール整備が続く。
脱炭素との関係
ベースロード電源には石炭火力や原子力も含まれ、脱炭素の流れのなかで電源構成の見直しが進む。
競争の促進と脱炭素の両立をめぐり、制度の見直しが続いている。
出典:資源エネルギー庁・JEPXの公開情報をもとにgreenote作成
供出量・流動性という課題
ベースロード市場が機能するには、十分な量の電気が市場に出されることが前提です。供出される量が少なければ、新電力が買える電気も限られ、競争を促す効果も薄れてしまう。開設当初は、約定する量が想定より少ない時期もありました。どれだけの量を、どんな条件で供出するかは、市場の実効性を左右する重要な論点です。
あわせて、流動性も課題です。買いたい新電力が、必要なときに必要な量を、納得できる価格で調達できるか。取引が活発になるほど、市場は使いやすくなります。供出量を確保し、参加と取引を厚くする——。それが、ベースロード市場を実りあるものにする鍵です。
脱炭素との関係とこれから
もう一つ、見過ごせないのが脱炭素との関係です。ベースロード電源には、石炭火力や原子力も含まれます。安価で一定運転に向く一方、石炭火力はCO2排出の課題を、原子力は安全性や廃棄物の課題を抱える。脱炭素が世界的な潮流となるなか、ベースロード電源の中身そのものが、問い直されつつあります。
将来は、地熱のような再エネ由来のベースロード電源や、CO2を出さない電源の比重が高まっていくとみられます。ベースロード市場も、こうした電源構成の変化に合わせて、役割や設計が見直されていくでしょう。競争の促進と脱炭素の両立——。その難しいバランスのなかで、制度は進化を続けています。電力システムの全体像は電力システムまるわかりガイドもご覧ください。
ベースロード市場をどう捉えるか
ベースロード市場は、地熱・一般水力・原子力・石炭火力といった安価なベースロード電源の電気を、年間で取引する市場です。安い電源の多くを大手電力が保有し、新電力は持たないという非対称を埋め、新電力も安定した価格で調達できるようにして、小売の競争を公正に促すことを目的としています。大手電力が供出し、JEPXがシングルプライスのオークションで取引する。電力先物のような価格ヘッジではなく、電気そのものを年間で確保する現物の市場である点が特徴です。
大切なのは、ベースロード市場を「大手から新電力への単なる電気の移転」と捉えるのではなく、「自由化した電力市場で、公正な競争を成り立たせるための土台」として理解することでしょう。供出量や流動性、そして脱炭素との関係といった課題はあるものの、競争を通じて電気料金を抑えるという狙いは、消費者にとっても意味を持ちます。再エネが主役になる時代に、ベースロード電源そのものが変わっていくなかで、この市場の役割も変わっていくはずです。
安い電源を、みんなが使える土俵に乗せる。ベースロード市場は、電力自由化の実効性を陰で支える、競争の基盤づくりの仕組みなのです。なお本記事は制度を中立に整理したものであり、最新の内容は資源エネルギー庁やJEPXの公表資料でご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. ベースロード市場とは何ですか?
A. 地熱・一般水力・原子力・石炭火力など、発電コストが低く24時間一定で運転される『ベースロード電源』の電気を、1年単位で取引する市場です。2019年度に日本卸電力取引所(JEPX)に開設されました。安価なベースロード電源の多くを大手電力が持つ一方、新電力はほとんど持たないため、新電力も安価な電気を調達できるようにして、小売の競争を公正に促すことを目的としています。
Q. なぜベースロード市場がつくられたのですか?
A. 大手電力(旧一般電気事業者)と新電力のあいだの『不公平』を正すためです。地熱・水力・原子力・石炭といった安く発電できる電源の多くは、もともと大手電力が保有しています。新電力はこれらを持たないため、価格競争で不利になりがちでした。そこで、大手電力がベースロード電源相当の電気を供出し、新電力も市場で調達できるようにすることで、競争を促し電気料金の抑制につなげる狙いがあります。
Q. ベースロード市場と電力先物は何が違うのですか?
A. ベースロード市場は、安価なベースロード電源の『電気そのもの(現物)』を年間で受け渡す市場です。一方、電力先物は電気を受け渡さず、将来の価格変動リスクをヘッジするための金融的な取引です。ベースロード市場が『安い電源を確保する』ためのものなのに対し、電力先物は『価格の振れに備える』ためのもの、という違いがあります。本記事は仕組みを中立に整理したものです。
ベースロード市場の周辺
- 取引所の全体像は?
→ JEPXとは|5つの市場とスポット価格の決まり方 - 将来の供給力の市場は?
→ 容量市場とは|4年前のオークションと容量拠出金 - 調達の実務をまとめて読む
→ 電力調達実務ガイド
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出典・参考(一次情報)
- 日本卸電力取引所(JEPX)「電力取引 取引概要」
- 資源エネルギー庁「電力・ガス(電力市場・制度)」
最終更新日:2026年6月28日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。