CATLがカーボンニュートラル達成|全20工場ゼロカーボン認証(ISO 14068-1)とESG経営を分析

2026.08.27
企業事例

2026年8月17日、世界最大の車載電池メーカーである中国のCATL(寧徳時代)が、中核事業(Scope1・2)のカーボンニュートラルを2025年に達成し、全20の電池工場でゼロカーボン認証を取得したと発表しました。TWh級の出荷規模を持つ電池企業として初とされ、電池産業の脱炭素競争が新しい段階に入ったことを示す発表です。

この記事では、CATLが何を達成したのか(そして何を達成していないのか)、鍵となる国際規格ISO 14068-1の意味、2035年のバリューチェーン目標と2027年からのサプライヤー開示義務化が日本企業に与える影響を、ESGの3視点(E・S・G)から整理します。

※本記事は2026年8月時点の公表情報にもとづく解説で、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。企業の公表値には第三者検証の範囲や算定前提の違いがあり、評価は分かれ得ます。

この記事の目次

2026年8月発表|CATLが達成したこと

数字で見る達成内容

発表内容を整理すると、次のとおりです。

20
全電池工場が
ゼロカーボン認証
100%
中核事業の電力を
ゼロカーボン電力に
▲77%
製品単位あたり
炭素排出原単位
(2022年比)
▲28%
製品単位あたり
エネルギー消費
(2022年比)

ゼロカーボン電力の累計使用量は2023年以降で180億kWh超とされます。重要なのは対象範囲がScope1・2(自社の燃料燃焼と購入電力)に限られる「中核事業」である点です。電池のライフサイクル排出のうち8割超はサプライチェーン(Scope3)とされ、バリューチェーン全体の排出量は中核事業の5倍以上と同社自身が説明しています。

ISO 14068-1という「ものさし」

今回の認証で使われたのがISO 14068-1です。2023年に発行された「カーボンニュートラリティ」の国際規格で、組織や製品が「カーボンニュートラル」を主張するための要件——算定範囲、削減の優先、残余排出のオフセットの質、第三者検証——を定めています。

これまで「カーボンニュートラル達成」の宣言は各社の自己定義に頼る部分が大きく、グリーンウォッシュ批判の温床でもありました。ISO 14068-1のような共通規格に基づく第三者認証は、主張の比較可能性を高める仕組みです。GHGプロトコルとISOが単一の共同標準へ統合する方針を示したこととも同じ潮流にあります。

CATLとはどんな会社か|世界シェアと事業の広がり

CATL(寧徳時代新能源科技)は2011年設立の中国・福建省寧徳市に本社を置く電池メーカーで、車載電池で世界シェア首位を長年維持しているとされます。TeslaやBMW、トヨタなど世界の主要自動車メーカーに供給し、車載に加えて定置用蓄電池(ESS)でも世界最大級の地位を占めます。2018年に深圳証券取引所に上場し、2025年には香港市場にも重複上場しました。

技術面では、資源制約の少ないLFP(リン酸鉄リチウム)電池を主力に、ナトリウムイオン電池や高エネルギー密度の新型パックなど、コストと性能の両にらみで製品群を広げているとされます。電池は「E(環境)の製品でありながら、製造時の排出とサプライチェーンのS(人権)が問われる」という二面性を持つ産業であり、CATLのカーボンニュートラル宣言はその文脈で読む必要があります。

環境(E)|ゼロカーボン工場をどう作ったか

省エネ・再エネ・オフセットの三層構造

CATLのゼロカーボン工場は、大きく3層で構成されるとされます。第一に徹底した省エネ——製造工程のデジタル管理と設備更新でエネルギー消費原単位を28%削減。第二に再エネ電力の確保——工場屋根の太陽光、水力が豊富な立地の選択(四川省宜賓など)、PPAや証書の調達。第三に、どうしても残る排出へのカーボンクレジットによるオフセットです。

「まず減らし、残りをオフセットする」という順序はISO 14068-1の考え方と整合的で、カーボンオフセットを使う場合の作法としても参考になります。

「達成」の範囲と留意点

一方で、評価にあたっては次の点を押さえる必要があります。

  • Scope3は未達:今回の達成は中核事業(Scope1・2)に限られ、最大の排出源であるサプライチェーンは2035年目標として残されています。
  • 電力の質:ゼロカーボン電力の内訳(自家発電・PPA・証書・オフセットの比率)や、時間帯マッチング(アワリーマッチング)の適用状況によって、実質的な脱炭素効果は変わります。GHGプロトコルのScope2見直しはまさにこの点を厳しくする議論です。
  • オフセットの質:残余排出に用いるクレジットの種類(除去型か削減型か、追加性、永続性)は、主張の信頼性を左右します。

裏を返せば、これらを開示・検証できる企業が今後の「脱炭素の勝ち組」になります。CATLの発表は、電池というLCA(ライフサイクルアセスメント)が重視される製品において、環境性能が調達の選定基準になりつつあることを示しています。

2035年バリューチェーン目標と2027年サプライヤー開示義務

今回の発表でより実務インパクトが大きいのは、こちらです。CATLは2035年までにバリューチェーン全体のカーボンニュートラルを目指す行動ロードマップを示し、2027年からサプライヤーに製品カーボンフットプリント(CFP)の開示を義務づける方針とされます。

電池のライフサイクル排出の8割超が上流にあるため、これは「自社の宿題を取引先に配る」のではなく、サプライチェーン全体の再設計です。正極材・負極材・電解液・セパレーター・部材・物流——各段のサプライヤーは、カーボンフットプリントの算定と、削減計画の提示を求められる流れになります。

ポイント:これは欧州の電池規則(バッテリーパスポート・CFP申告)と同じ方向であり、「顧客要求」と「規制」の両側から同時に迫られるのが電池サプライチェーンの現実です。

人的資本とサプライチェーン人権(S)

CATLは10万人規模の従業員と、世界各地に展開する生産拠点を抱える巨大製造業です。Sの観点では、製造現場の労働安全と、上流の鉱物調達における人権リスクが中心論点になります。リチウム・コバルト・ニッケル・黒鉛といった重要鉱物の採掘には、児童労働や環境破壊のリスクが指摘される地域も含まれ、人権デューデリジェンスの実効性が問われます。

また、中国企業であることに伴う経済安全保障の論点——米国の規制動向や、欧米企業が中国系サプライヤーをどう扱うか——は、S・Gの評価と切り離せません。技術ライセンス供与(LRS方式)による海外展開は、こうした地政学リスクへの適応策とも読めます。

ガバナンス(G)|創業者主導と二重上場

CATLは創業者・曽毓群(ロビン・ゼン)氏の主導色が強い企業で、深圳市場に加えて2025年に香港市場へ上場し、国際的な開示規律とグローバル投資家の監視下に入りました。香港上場は資金調達だけでなく、開示水準の引き上げという意味を持ちます。

今回のようなサステナビリティ発表を国際基準(ISO 14068-1)にのせて行うのも、グローバル顧客と投資家を意識したガバナンスの一環と見られます。中国企業のガバナンスは共産党委員会の存在など西側と異なる構造を持つため、制度の違いを前提に開示の充実度と第三者検証の有無で評価する姿勢が実務的です。

リスクと論点|地政学・規制・検証可能性

  • 地政学リスク:米国ではインフレ削減法(IRA)の税額控除における懸念外国事業体(FEOC)ルールなど、中国系電池サプライチェーンを牽制する政策が続いています。調達先としてのCATL依存度は、経済安全保障の観点からポートフォリオ管理の対象になりつつあります。
  • 検証可能性:カーボンニュートラルの達成はISO 14068-1にもとづく第三者認証とされますが、オフセット(クレジット)依存度や、バリューチェーン(Scope3相当)が未達である点は、開示を読み解くうえで押さえるべき限界です。
  • 労働・人権のデューデリジェンス:鉱物調達(リチウム・コバルト等)の上流は、業界全体として人権リスクの監視対象です。欧州電池規則はデューデリジェンスとカーボンフットプリント開示を義務化しており、CATLの対応は日本の取引先にも波及します。
  • 競争環境:BYD(電池内製)、LGエナジーソリューション、パナソニックエナジーなどとの競争は激しく、価格低下圧力が続きます。脱炭素投資の回収は、この競争環境の中で行われます。

日本企業への影響|サプライヤーとして何を求められるか

  • ①製品単位のCFP算定を用意する:企業全体のScope1・2だけでなく、納入製品1個あたりの排出量を出せる体制が必要になります。Scope3算定の延長線上の作業です。
  • ②電力の脱炭素を前倒しする:CFPの多くは電力由来です。証書・PPA・自家消費太陽光の組み合わせを、時間帯マッチングの議論も見据えて設計しておくと、後の要求水準引き上げに耐えられます。
  • ③削減計画をセットで示す:数値だけでなく「いつ・どこまで減らすか」の計画が取引継続の条件になっていきます。
  • ④第三者検証を検討する:顧客が国際規格ベースの主張をする以上、上流の数字にも検証可能性が求められます。

電池以外の業界でも構図は同じです。BYDTeslaを含むEVバリューチェーン、そしてGAFAMのサプライチェーン要求と同様に、「顧客からの脱炭素要求」は今後さらに具体化・数値化していきます。

まとめ

  • CATLは2026年8月17日、中核事業(Scope1・2)のカーボンニュートラルを2025年に達成し、全20工場がISO 14068-1にもとづくゼロカーボン認証を取得したと発表。
  • 中核事業の電力は100%ゼロカーボン電力、製品単位の炭素原単位は2022年比約77%減、エネルギー消費は28%減とされる。
  • ただしライフサイクル排出の8割超はサプライチェーン。バリューチェーン全体は2035年目標で、2027年からサプライヤーにCFP開示を義務化する方針。
  • 評価の勘所は電力の質(時間帯マッチング)とオフセットの質、そして第三者検証の範囲。
  • 日本のサプライヤーは製品単位のCFP算定・電力の脱炭素・削減計画・第三者検証の4点を前倒しで準備するのが実務的。

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出典・参考資料(一次情報)

CATL|News(公式発表)共同通信PR|CATL、2025年のコア事業におけるカーボンニュートラル目標を達成(2026年8月18日)

よくある質問(FAQ)

Q. CATLは「カーボンニュートラルを達成した」と言えるのですか?

A. 達成したのは中核事業(Scope1・2)の範囲で、全20工場がISO 14068-1にもとづく認証を取得したとされます。一方、電池のライフサイクル排出の8割超を占めるサプライチェーン(Scope3)は未達で、2035年の目標として残されています。「どの範囲の達成か」を確認することが重要です。

Q. ISO 14068-1とは何ですか?

A. 2023年に発行された「カーボンニュートラリティ」に関する国際規格です。算定範囲の設定、削減の優先、残余排出のオフセットの質、第三者検証といった要件を定めており、自己流の「カーボンニュートラル宣言」と一線を画す共通のものさしとして使われ始めています。

Q. 日本のサプライヤーは何を準備すべきですか?

A. CATLは2027年からサプライヤーに製品カーボンフットプリント(CFP)の開示を求める方針とされます。企業全体のScope1・2だけでなく納入製品1個あたりの排出量を算定できる体制、電力の脱炭素(証書・PPA・自家消費)、削減計画の提示、そして第三者検証の準備が実務的な備えになります。

Q. CATLはどんな会社ですか?

A. 2011年設立の中国の電池メーカーで、車載電池の世界シェア首位を維持しているとされます。Tesla・BMW・トヨタなど世界の主要メーカーに供給し、定置用蓄電池でも世界最大級です。LFP電池を主力に、ナトリウムイオン電池などの次世代技術も展開しています。深圳と香港に上場しています。

Q. 「カーボンニュートラル達成」はどこまで信頼できますか?

A. 全工場のゼロカーボン認証はISO 14068-1にもとづく第三者検証を経ているとされ、一定の信頼性があります。ただし対象は自社操業(Scope1・2相当)が中心で、鉱物調達や輸送を含むバリューチェーン全体の目標は2035年とまだ道半ばです。またオフセットへの依存度など、達成の中身を吟味する視点も必要です。開示を読むときは「範囲・方法・第三者検証の有無」の3点を確認するのが実務的です。

最終更新日:2026年8月27日

この記事の著者

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