電力市場とは|JEPXのスポット市場・価格の決まり方と高騰の理由をわかりやすく解説

再生可能エネルギー

電気にも、株式や為替のように価格がつき、日々取引されている市場があります。それが電力市場です。ニュースで「卸電力価格が高騰」と聞いても、その中身まではイメージしにくいかもしれません。

電力市場とは、電気を売りたい事業者と買いたい事業者が取引を行う場のことを指します。その中心にあるのが、卸電力取引所JEPXが運営するスポット市場です。

本記事では、電力市場の全体像から、JEPXのスポット市場の仕組み、市場価格が決まる「メリットオーダー」、2021年以降の価格高騰の理由、そしてスポット市場以外の市場までを、わかりやすく解説します。電力・エネルギーを学ぶ特集の市場編として、お役に立てれば幸いです。

主な電力市場の種類

取引する時間軸と役割で6つに分かれる

スポット市場翌日分

翌日受け渡し分を前日に取引。取引の中心となる市場。

時間前市場当日・直前

実需給の1時間前まで取引でき、直前のずれを調整。

先渡市場数週間〜1年先

先の電気を取引し、価格変動リスクを抑える。

ベースロード市場年単位

安価で安定した電源を新電力も調達しやすくする。

容量市場将来

将来必要な「発電できる能力」をあらかじめ確保。

需給調整市場瞬時

瞬時の需給バランスを保つ「調整力」を取引。

本記事ではおもにスポット市場を解説します。容量市場・需給調整市場は特集の別記事で取り上げます。

目次

電力市場とは|卸電力取引の全体像

まずは、電力市場という言葉の意味と、市場が整備された背景を押さえましょう。ここを理解すると、電力にまつわる経済ニュースもぐっと読みやすくなるはずです。

電力市場とは

電力市場は、電気という商品を売買する取引の場です。発電事業者が電気を売り、小売電気事業者がそれを買って各家庭や企業に供給する。その間をつなぐのが、電力市場の役割といえます。

かつて電気は、地域ごとの電力会社が発電から小売までを一手に担っていました。そのため、電気を市場で取引するという発想自体が乏しかったといえます。状況を大きく変えたのが、電力の自由化でした。なお、電気が発電所から届くまでの仕組みは、関連記事の電力系統とは|発電から送配電・小売の仕組みと同時同量で解説しています。

電力自由化で生まれた卸電力市場

2016年4月、電力の小売が全面自由化されました。これにより、誰もが電気を販売する事業に参入できるようになったのです。新たに参入した小売電気事業者は、いわゆる「新電力」と呼ばれます。

ただ、発電所を持たない新電力も少なくありません。そうした事業者が電気を調達する手段として、卸電力市場の重要性が高まりました。売り手と買い手が一カ所に集まり、公正な価格で電気を取引する。その基盤として、市場の活性化が国の政策としても進められてきたのです。自由化の全体像は、関連記事の電力システム改革とは|3つの柱・小売自由化と発送電分離もあわせてご覧ください。

主な電力市場の種類

電力市場と一口にいっても、その中身はひとつではありません。取引する時間軸や目的に応じて、複数の市場が整備されています。

代表的なのが、翌日分の電気を取引するスポット市場です。さらに、当日の直前まで取引できる時間前市場、数週間から1年先を取引する先渡市場やベースロード市場も存在します。加えて、将来の供給力を確保する容量市場、瞬時の需給バランスを調整する需給調整市場も動いている状況です。それぞれの役割は、記事の後半で順に見ていきましょう。

JEPXとスポット市場|電気を取引する仕組み

電力取引の中心となるのが、JEPXのスポット市場です。どのように電気が売買されているのか、その仕組みを具体的に見ていきます。

JEPX(日本卸電力取引所)とは

JEPXとは、日本卸電力取引所の略称です。2003年に設立され、2005年から取引を開始した、日本で唯一の卸電力取引所です。

ここでは、発電事業者や小売電気事業者などが会員となり、電気を売買しています。株式における証券取引所のような存在をイメージすると、わかりやすいかもしれません。近年は、国内で販売される電力量のうち、相当な割合がこのJEPXを経由して取引されるようになりました。市場の役割は、年々大きくなっています。

スポット市場(一日前市場)の仕組み

JEPXで最も取引量が多いのが、スポット市場です。翌日に受け渡す電気を、前日のうちに取引することから、一日前市場とも呼ばれます。

特徴的なのは、その細かさです。1日を30分ごとに区切り、48個のコマに分けて、コマごとに電気を取引します。たとえば「明日の午後1時から1時半まで」といった単位で、売買が成立するわけです。事業者は前日の朝までに、各コマでいくらの電気を売りたいか、あるいは買いたいかを入札します。

スポット市場(一日前市場)の流れ

翌日分の電気を、前日に30分単位で取引する

1

前日|入札

各事業者が、コマごとに「売りたい量・買いたい量」と価格を提出します。

2

前日|約定

売り入札と買い入札が交わる点で、コマごとに価格が一本に決まります。

3

翌日|受け渡し

約定したとおりに、実際の電気を受け渡します。

1日を30分ごとに区切った48コマを、コマ単位で取引します。たとえば「明日13:00〜13:30」のように細かく売買が成立します。

ブラインド・シングルプライスオークション

スポット市場の価格は、ブラインド・シングルプライスオークションという方式で決まります。少し難しい言葉ですが、仕組み自体はシンプルです。

「ブラインド」は、ほかの事業者の入札内容が見えない状態で入札することを意味します。「シングルプライス」は、約定価格をコマごとに一本に決めることを表しています。売り入札を安い順に、買い入札を高い順に並べ、両者が交わる点で価格が決まる。その価格で、取引が一斉に成立する仕組みです。だからこそ、入札のタイミングや量が、市場全体の価格を左右します。

市場価格はどう決まるのか|メリットオーダー

電力の市場価格は、どのような理屈で上下するのでしょうか。その鍵を握るのが、メリットオーダーという考え方です。

メリットオーダーとは

メリットオーダーとは、発電コストの安い電源から順に使っていくという原則を指します。経済性の高い電源を優先するため、経済負荷配分とも呼ばれます。

たとえば、燃料費がほとんどかからない太陽光や風力、水力は、真っ先に使われます。次いで原子力、石炭火力が続き、燃料費の高いLNG火力や石油火力は、需要が大きいときにだけ動かされる。こうして安い電源から積み上げていくことで、社会全体の発電コストを抑えているのです。

メリットオーダーと約定価格

発電コストの安い電源から順に使う

↑ 発電コスト(高い)

再エネ
原子力
石炭
LNG
石油
安い高い

← 安い電源から順に使って需要を満たす →

需要を満たす最後の電源の発電コスト(限界費用)で、その時間帯の約定価格が決まります。
図ではLNG火力が最後の1台にあたり、その水準が価格になります。

需要が増えるほどコストの高い電源まで動かすため、価格は上がります。電気の値段が時間帯で変わるのは、この仕組みによるものです。

限界費用で約定価格が決まる

メリットオーダーで電源を積み上げていくと、ちょうど需要を満たしたところで使われる、最後の1台の発電コストが見えてきます。この、需要を満たす最後の電源の発電コストを限界費用と呼びます。

スポット市場の約定価格は、おおむねこの限界費用の水準で決まります。需要が小さいうちは、安い電源だけで足りるため、価格は低く保たれます。一方、需要が増えるほど、コストの高い電源まで動かさざるを得ません。その結果、価格はじりじりと上がっていきます。電気の値段が時間帯によって変わるのは、この仕組みがあるからです。

エリアプライスと市場分断

電気は、全国どこでも同じ価格で取引されるとは限りません。地域ごとに分かれた価格を、エリアプライスといいます。

通常は、全国共通のシステムプライスという価格で取引されます。ところが、地域間をつなぐ送電線(連系線)には、送れる量に上限があります。連系線が混雑して電気を送りきれなくなると、市場が地域ごとに分かれてしまう。これが市場分断です。再生可能エネルギーが豊富な地域では価格が下がり、不足する地域では上がる、といった差が生じることもあります。

なぜ電力価格は高騰するのか

電力市場の価格は、燃料価格や需給の状況によって大きく動きます。2021年以降に相次いだ価格高騰と、その背景を見ていきましょう。

2021年・2022年の価格高騰

2021年1月、スポット市場の価格が記録的な水準まで跳ね上がりました。通常は10円/kWh前後で推移するところ、一時は200円/kWhを超えるコマも現れたのです。

続く2022年も、価格の高止まりが続きました。ロシアによるウクライナ侵攻を背景に、世界的に燃料価格が上昇したためです。電気料金の値上げが相次いだ時期と重なり、多くの家庭や企業がその影響を実感したのではないでしょうか。

2021年1月のスポット価格高騰

通常の20倍超まで跳ね上がった

約10円/kWh

200円/kWh超

通常時2021年1月(一時)

高騰した3つの要因

  • 記録的な寒波で、暖房用の電力需要が急増した
  • 発電用LNG(液化天然ガス)の在庫が低下した
  • 電気は大量に貯められず、需給ひっ迫に弱い

需要と供給が常に釣り合う必要があるため、いったんひっ迫すると価格は一気に跳ね上がります。対策としてインバランス料金の上限などが導入されました。

燃料価格と需給ひっ迫が要因

価格高騰の引き金となったのは、需給のひっ迫です。2021年1月は記録的な寒波に見舞われ、暖房用の電力需要が急増しました。その一方で、発電に使うLNG(液化天然ガス)の在庫が低下し、供給が需要に追いつかなくなったのです。

ここで効いてくるのが、電気の性質です。電気は、大量に貯めておくことが難しい商品にあたります。需要と供給が常に釣り合っていなければならないため、いったん需給がひっ迫すると、価格は一気に跳ね上がります。燃料という土台が揺らげば、市場はさらに敏感に反応するわけです。

市場高騰への対策

度重なる価格高騰を受け、国はさまざまな対策を講じてきました。代表的なのが、インバランス料金の上限設定です。

インバランスとは、事業者が計画した需要と、実際の需要とのずれを指します。そのずれを精算する料金が市場価格に連動していたため、高騰時には事業者の負担が膨らみました。そこで、料金に上限を設ける仕組みが導入されたのです。あわせて、市場を監視する電力・ガス取引監視等委員会が、不当な価格つり上げがないかをチェックしています。市場の公正さを守る仕組みづくりも、着実に進行中です。

スポット市場以外の電力市場

電力市場は、スポット市場だけではありません。より直前の取引や、長期の取引を担う各市場の役割を押さえておきましょう。

時間前市場(当日市場)

スポット市場で取引したあとも、需給の見通しは変わります。天候の急変で太陽光の発電量がぶれることも、よくあるからです。そのずれを当日に調整するための市場が、時間前市場です。

時間前市場では、実際に電気を使う1時間前まで取引できます。スポット市場が価格を一本に決めるのに対し、時間前市場は買い手と売り手の条件が合うたびに約定する、ザラバ方式を採っています。直前の微調整を担う、いわば最後の調整弁です。

先渡市場とベースロード市場

逆に、もっと先の電気をあらかじめ取引する市場もあります。それが先渡市場です。数週間から1年先までの電気を取引でき、将来の価格変動リスクを抑えるヘッジの役割を果たします。

加えて、2019年に開設されたのがベースロード市場です。石炭火力や水力、原子力といった、安価で安定した電源をベースロード電源と呼びます。こうした電源は大手電力が多く保有してきました。新電力でも安価なベースロード電源を調達できるよう、競争条件を整える狙いで設けられた市場です。

需給調整市場・容量市場との関係

近年は、新しい市場の整備も進みました。瞬時の需給バランスを保つための調整力を取引するのが、需給調整市場です。2021年から段階的に始まり、全商品が出そろったのは2024年度のことでした。

一方、将来にわたって必要な発電設備を確保しておくための市場が、容量市場です。電気そのものではなく、「いざというときに発電できる能力」を取引する点に特徴があります。これらの市場については、特集の別記事でくわしく取り上げます。市場ごとの役割を押さえると、電力システム全体の姿が見えてきます。

まとめ|電力市場は脱炭素と安定供給をつなぐ

電力市場は、電力自由化を背景に整備されてきた、電気を取引する舞台です。最後に、要点を振り返りましょう。

  • 電力市場とは、電気を売り手と買い手が取引する場で、中心はJEPXのスポット市場である
  • スポット市場は翌日分を30分48コマで取引し、ブラインド・シングルプライスオークションで価格が決まる
  • 市場価格は、発電コストの安い順に使うメリットオーダーにもとづき、限界費用の水準で決まる
  • 2021年・2022年には、寒波や燃料高騰による需給ひっ迫で価格が高騰し、インバランス料金の上限などの対策がとられた
  • スポット市場のほかにも、時間前・先渡・ベースロード・容量・需給調整といった市場が、役割を分担している

再生可能エネルギーが増えるこれからの時代、発電量の変動をうまく吸収する市場の役割は、ますます重要になります。続く特集記事では、需給調整市場や容量市場、VPP・DRといった新しい仕組みを順に掘り下げていきます。再エネ電力の調達手段は再生可能エネルギー調達とPPAとは|調達手法の種類と企業の選び方、ESG・脱炭素の全体像はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。電力市場は、脱炭素と安定供給を両立させるための、見えない調整弁といえるでしょう。

この記事の著者

greenote編集部

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