脱炭素というと、CO2を「出さない」「地中に埋める」話が中心になりがちです。けれども、いま注目されるのが、やっかいもののCO2を資源として使い切るという、逆転の発想。それがカーボンリサイクル、CCUSの「U」にあたる取り組みです。
本記事では、カーボンリサイクルとは何かを、できるだけかみ砕いて解説します。CCUSの中での位置づけ、CO2の3つの利用先、注目される理由、そして「使えば減るとは限らない」という大切な注意点までを順に見ていきましょう。CO2を地中にためるCCS(CO2回収・貯留)とはや、大気から取り除く炭素除去(CDR)とはとあわせて読むと、CO2をめぐる技術の全体像が見えてきます。
≡この記事の目次
カーボンリサイクルとは(CCUSの「U」)
まず、カーボンリサイクルをひとことで整理します。「回収したCO2を、捨てずに資源として使う」という発想から入りましょう。
カーボンリサイクルをひとことで言うと
カーボンリサイクルとは、工場などから回収したCO2を、ゴミではなく「資源」として活用する取り組みです。CO2を燃料や材料の原料とみなし、再び役立つかたちに変えて使い回します。
これまでCO2は、減らすか、地中に埋めるかが主な対策でした。カーボンリサイクルは、そこに「使う」という第三の道を加えます。やっかいな排出物を、価値ある製品に変える——。経済産業省なども推進する、脱炭素の新しいアプローチなのです。
CCUSの中での位置づけ
この位置づけを理解する鍵が、CCUSという言葉です。CCUSは、CO2の回収(Capture)・利用(Utilization)・貯留(Storage)の頭文字をとった総称です。
このうち、カーボンリサイクルが担うのは、真ん中の「利用(U=Utilization)」の部分です。回収したCO2を地中に閉じ込める「貯留(S)」が中心のCCS(CO2回収・貯留)とはに対し、カーボンリサイクルはCO2を「使う」点が決定的に違います。同じ回収したCO2でも、埋めるか・使うかで、その後の道が分かれるわけです。
CCUSの全体像と、カーボンリサイクルの位置
CCUS=回収・利用・貯留
貯留(Storage)=CCS
CO2を地中に閉じ込める
利用(Utilization)=カーボンリサイクル
CO2を資源として使う
同じ回収したCO2でも、埋めるか・使うかで道が分かれます。本記事は「使う」が主役。
図:greenote作成(概念図。数値は含みません)
CO2を何に使うのか――3つの利用先
回収したCO2は、いったい何に使えるのでしょうか。利用先は、大きく3つの方向に整理できます。
回収したCO2は、何に使える?
3つの利用先
回収したCO2
▼
① 燃料・化学品にする
水素と反応させて、合成メタン・合成燃料(e-fuel)・メタノール、化学原料に。
② コンクリート・鉱物に固定する
炭酸塩としてコンクリートなどに固定。CO2を長く閉じ込める。
③ 直接利用する
ドライアイス、溶接、農業用ハウスへの供給など、従来からの使い道。
燃やせば再排出、固定すれば長期。用途で効果が変わります。
図:greenote作成(概念図。数値は含みません)
燃料・化学品にする
一つめが、CO2を燃料や化学品の原料に変える道です。CO2に水素を反応させると、都市ガスに近い合成メタン(メタネーション)や、合成燃料(e-fuel)、メタノールなどをつくれます。これらは、化学品の原料にもなる。
注目すべきは、これらが化石燃料の代わりになりうる点です。石油や天然ガスを掘る代わりに、回収したCO2と水素から燃料をつくる。電気を別のかたちに変えるセクターカップリングとはとも重なる発想です。ただし、製造には大量の水素が要る点は、後で見る課題につながります。
コンクリート・鉱物に固定する
二つめが、CO2をコンクリートや鉱物に固定する道です。CO2は、特定の物質と反応すると、安定した炭酸塩という固体になります。この性質を使い、CO2を吸収・固定するコンクリートなどが開発されています。
この道の大きな利点は、CO2を長期間、しっかり閉じ込められること。燃料と違って燃やして再放出することがないため、脱炭素の効果が長く続きます。身近なインフラであるコンクリートがCO2の固定先になれば、その効果は決して小さくありません。
なお三つめとして、ドライアイスや溶接、農業用ハウスへの供給など、古くから行われてきた直接利用も。これらは従来からの使い道ですが、CO2を活かす点では同じ仲間だといえます。
なぜ注目されるのか
やっかいものだったCO2を資源に変える――。この発想が、脱炭素の新しい選択肢として注目されています。
排出をへらし、資源に変える
注目される第一の理由は、「減らす」と「活かす」を両立できる点。これまで、CO2は減らすべき厄介者でした。カーボンリサイクルは、その厄介者に経済的な価値を与えます。
CO2に値段がつき、製品の原料になれば、回収する動機が生まれます。排出を抑えるだけの「守り」の対策に、CO2を資源に変える「攻め」の発想が加わる。脱炭素を、コストではなく価値創造の機会として捉え直せる点に、大きな意義。
化石燃料を置き換える
第二の理由が、化石燃料への依存を減らせる可能性です。CO2と水素からつくる合成燃料は、既存のエンジンや設備をそのまま使えるものも多く、化石燃料からの移行をなめらかにします。
とくに、電化が難しい航空機や船舶、高温の産業熱といった分野では、合成燃料への期待が高まっています。電気で直接動かしにくい領域を、CO2由来の燃料が担う。資源の乏しい日本にとって、輸入燃料を自前の技術で置き換えうる点も、見逃せない魅力です。
「使えば減る」とは限らない――脱炭素効果の見方
ここで、大切な注意点を一つ。CO2を使えば必ず脱炭素になる、というわけではありません。
使い方で、効果が変わる
再排出するものと、長期固定するもの
燃料にする場合
CO2 → 燃料 → 燃やす → CO2が大気へ戻る
燃やせば再排出。化石燃料の代わりにはなるが、長期の除去ではない。
コンクリート等に固定する場合
CO2 → 炭酸塩として固定 → 大気に戻らない
長期間しっかり閉じ込める。脱炭素の効果が長く続く。
正味の削減は、製造に使うエネルギーも含めライフサイクル全体で評価します。
図:greenote作成(概念図。数値は含みません)
再排出するものと、長期固定するもの
カギは、「そのCO2が、最終的にどこへ行くか」です。CO2を合成燃料に変えて燃やせば、CO2は再び大気へ戻ります。これは、化石燃料を掘って燃やす代わりにはなりますが、大気中のCO2を長期に減らすわけではありません。
一方、コンクリートや鉱物への固定は、CO2を長期間、大気から隔離できます。同じカーボンリサイクルでも、燃料は「循環させて化石燃料を置き換える」効果、固定は「長く閉じ込める」効果と、役割が異なるのです。この違いを理解せずに「CO2を使う=脱炭素」と単純化すると、効果を見誤ります。
この「見誤り」が実際に起きている例が、身近なところにあります。NEDOのグリーンイノベーション基金事業の事業説明によれば、廃プラスチックの約84%はリサイクルされています。数字だけ見れば優秀です。ところが、そのうち約57%はサーマルリサイクル——ごみ焼却発電などの熱源として燃やす形で、最終的にはCO2として大気に排出されています。同事業はこれを「抜本的な対策が必要」と書いています。
「リサイクルされている」と「炭素が大気に戻っていない」は、別のことです。カーボンリサイクルを評価するときに見るべきは、その炭素が最後にどこにあるか——燃えて大気に戻るのか、製品の中にとどまるのか。廃プラの84%と57%は、その区別がいかに実務的な問題かを示す数字だといえます。
ライフサイクルで正味を見る
もう一つ重要なのが、製造に使うエネルギーです。CO2から燃料や材料をつくるには、多くのエネルギーがかかります。もしそのエネルギーが化石燃料由来なら、つくる過程で出るCO2のほうが多くなり、かえって逆効果にもなりかねません。
だからこそ、正味でどれだけ削減になるかは、原料の調達から製造・利用までのライフサイクル全体で評価する必要があります。再エネ由来のクリーンなエネルギーで、効率よくつくれてこそ、はじめて脱炭素に貢献します。「使えば減る」と思い込まず、全体を冷静に見る目が欠かせません。
課題と政策
大きな可能性の一方で、カーボンリサイクルの本格普及には、解くべき課題も残る。
大量のエネルギーとコスト
最大の課題が、エネルギーとコストです。とくに合成燃料や合成メタンをつくるには、大量のクリーンな水素が要り、その水素をつくるにも多くの再エネ電力が必要です。再エネ由来のグリーン水素とはを安く大量に確保できるかが、普及の前提となるでしょう。
結果として、いまの段階では、CO2由来の製品は化石燃料からつくる製品より割高になりがちです。CO2を回収するコストもかかります。技術の改良と量産、そして安いクリーンエネルギーの確保によって、どこまでコストを下げられるか。ここが、本格普及への分かれ道。
ロードマップと支援
こうした課題に対し、国も後押しを進めています。日本では、経済産業省がカーボンリサイクル技術のロードマップを定め、どの技術を、いつごろ実用化していくかの道筋を描いてきました。
加えて、グリーンイノベーション基金を通じて、本記事で見てきた3つの利用先にそれぞれ事業が立っています。規模を並べると、力の入れどころが見えてきます。
- プラスチック原料——予算上限1,540.3億円。3事業で最大。ナフサ分解炉の熱源をアンモニアや水素に替える技術から、CO2からポリカーボネートやポリウレタンをつくる技術まで。目標は2030年までに既製品と同価格です。
- 燃料——予算上限1,027.8億円。液体は合成燃料とSAF(持続可能な航空燃料)、気体は合成メタンとグリーンLPGの4つ。合成燃料は2040年までの自立商用化、SAFは2030年までの航空機への燃料搭載と製造コスト100円台/L、合成メタンは2030年度までにエネルギー変換効率60%以上が目標です。
- コンクリート等——予算上限566.4億円。2030年までに既存製品と同等以下のコストを目指し、品質管理手法の国際標準化まで視野に入れています。
目標の立て方に共通点があります。どれも「既存品と同じ価格・同じ性能」を到達点に置いているのです。CO2を使うから高くても許される、という設計にはなっていません。ここがカーボンリサイクルの正念場でしょう。
コンクリート分野には、もう一つ見落としやすい論点があります。セメントは、原料である石灰石の脱炭酸反応そのものからCO2が出ます。燃料を替えても消えない排出なので、事業は石灰石由来のCO2を全量近く回収する製造プロセスの確立を目標に掲げています。「CO2を吸うコンクリート」の話と、「セメントをつくるときに出るCO2」の話は別物だということです。
研究室から社会実装へ——。技術・コスト・制度の三つを噛み合わせて、CO2を資源に変える産業を育てられるかが問われています。なお、各技術の実用化の時期は計画であり、変わりうる点には留意が必要です。
課題
大量のエネルギーとコスト。合成にはクリーン水素・再エネ電力が大量に要り、CO2由来品は割高になりがち。
対応・ポイント
安いグリーン水素の確保と、技術改良・量産でコストを下げられるかが分かれ道。
課題
研究段階から社会実装への道筋。
対応・ポイント
経産省のロードマップとGI基金で開発・実証を支援。技術・コスト・制度を噛み合わせる。
各技術の実用化の時期は計画であり、変わりうる点に留意が必要です。
カーボンリサイクルをどう捉えるか
カーボンリサイクルは、CO2を「減らす・埋める」だけでなく「使う」という選択肢を加える、脱炭素の新しい発想です。燃料や化学品、コンクリートへと姿を変え、化石資源の代わりや長期の固定先になりうる点に、大きな可能性。一方で、「使えば必ず減る」わけではなく、エネルギーやコスト、ライフサイクルでの正味削減という、冷静に見るべき論点も抱えています。
大切なのは、カーボンリサイクルを「CO2問題の万能薬」と期待しすぎず、「使い方しだいで効果が変わる、発展途上の有望な選択肢」として捉えることでしょう。排出を減らす努力を土台に、減らしきれないCO2を回収し、埋める(CCS)か、使う(カーボンリサイクル)か。これらを賢く組み合わせることが、現実的な道筋です。CO2をめぐる技術や、次世代の脱炭素技術の全体像は次世代エネルギー技術まるわかりガイドもご覧ください。
やっかいものを、資源に変える。カーボンリサイクルは、CO2との付き合い方を見つめ直す、これからの脱炭素の鍵を握る分野なのです。なお本記事は、特定の技術・事業・金融商品への投資を推奨するものではなく、技術の現在地と展望を中立に整理したものです。
よくある質問(FAQ)
Q. CCUSとカーボンリサイクルは、何が違うのですか?
A. CCUSは、CO2の回収(Capture)・利用(Utilization)・貯留(Storage)をまとめた総称です。カーボンリサイクルは、このうち『利用(U)』、つまり回収したCO2を資源として使う部分を指します。地中に閉じ込める『貯留(S)』が中心のCCSとは、CO2の行き先が異なります。CCSの仕組みについてはCCSの解説もあわせてご覧ください。
Q. CO2を燃料にすれば、脱炭素になるのですか?
A. 一概には言えません。回収したCO2を合成燃料に変えて燃やすと、CO2は再び大気に放出されます。そのため、化石燃料の代わりに使えば新たな化石由来のCO2を増やさない効果はありますが、大気からCO2を長期に取り除くわけではありません。一方、コンクリートや鉱物に固定する用途では、長期間CO2を閉じ込められます。どれだけ削減になるかは、製造に使うエネルギーも含めたライフサイクル全体で評価することが大切です。
Q. カーボンリサイクルは、もう実用化されているのですか?
A. 用途によって段階が異なります。ドライアイスや溶接、農業用ハウスへの供給といった直接利用は古くから行われ、CO2を吸収するコンクリートも実用化が進みつつあります。一方、合成燃料(e-fuel)や合成メタンなどは、大量のクリーンな水素やエネルギーを要し、コストの高さから本格普及はこれからです。本記事は特定の技術や事業の成否を断定するものではありません。
出典・参考(一次情報)
- NEDO グリーンイノベーション基金事業「CO2等を用いた燃料製造技術開発」(予算上限1,027.8億円・合成燃料/SAF/合成メタン/グリーンLPG)
- NEDO グリーンイノベーション基金事業「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発」(予算上限566.4億円)
- NEDO グリーンイノベーション基金事業「CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」(予算上限1,540.3億円・廃プラのリサイクル実態を含む)
※上記は本記事の予算規模・技術目標・廃プラスチックのリサイクル実態に関する記述の根拠です。本文中の図は説明用にgreenoteが作成した概念図で、数値は含みません。研究開発・社会実装計画は改定されるため、最新の目標と進捗は各プロジェクトページでご確認ください。本記事は2026年9月時点の公表情報に基づく解説です。
最終更新日:2026年6月27日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。